2018年9月17日月曜日

事例学習 木戸作貝塚

村田川河口低地付近縄文集落の消長分析 16

村田川河口低地付近縄文集落の消長分析の一環として「千葉県の歴史 資料編」掲載事例の学習を遺跡別にしています。この記事では小金沢貝塚のすぐそばに立地する木戸作貝塚を学習をします。

1 木戸作貝塚の位置

木戸作貝塚の位置
右が六通貝塚、真ん中が小金沢貝塚、上が木戸作貝塚です。六通貝塚と小金沢貝塚の中央部間距離は530m、小金沢貝塚と木戸作貝塚の距離は480mです。

2 貝塚の概要
調査の結果,後期の堀之内1式期を主体とする7か所の斜面貝層と, 10軒の住居跡が検出された。貝塚を構成する貝は,イボキサゴが圧倒的に多く,ハマグリ・シオフキなどがこれにつぐ。魚類として主要なものは,イワシ類・サヨリ・マハゼなどの湾奥の沿岸部にみられる小型のものである。

貝層と遺構配置 「千葉県の歴史 資料編 考古1(旧石器・縄文時代)」から引用

斜面貝層 「千葉県の歴史 資料編 考古1(旧石器・縄文時代)」から引用

検出された住居跡は壁柱穴や入口の柱穴が明瞭な柄鏡形住居跡が主体であるが,壁や床面などが崩壊・流出したものが多く.本来の姿をとどめているものは多くない。

柄鏡型住居 「千葉県の歴史 資料編 考古1(旧石器・縄文時代)」から引用

出土した土器は,下総台地に一般的な堀之内式土器が主体である。注目される土器としては.県内での類例に乏しかった古段階の堀之内1式土器がある。報告書では2個体の土器として報告されているが,接合することが判明した。

堀之内1式土器 「千葉県の歴史 資料編 考古1(旧石器・縄文時代)」から引用

3 感想・考察
小金沢貝塚と480mしか離れていない同じ尾根に木戸作貝塚が立地する意味について次のように仮説しましたのでメモします。

仮説 貝塚集落分立は漁場区域区分に対応する 資源乱獲下における分配争いの回避策
木戸作貝塚と小金沢貝塚は同じ尾根でたった480mしか離れていない場所に立地しますが、谷津を通って海岸平野に出るルートが異なります。木戸作貝塚は泉支谷を経由して、小金沢貝塚は金沢支谷を経由して海に出ることになります。海に出るために尾根筋を通ることは狭い、水平的・垂直的に屈曲が多いことから利用されていなかったと考えられます。従って海岸平野に出るルートが異なり、出た場所が異なります。つまり生業としての採貝や魚漁の場所が異なることが推定できます。
この推定から次の仮説を設定して、当面の学習促進に使うことにします。

仮説
・資源乱獲が激しく(データから事実として判明している)、大集団のなかで美味しいハマグリ等漁獲物分配に争いが絶えない。
・採貝や沿岸魚漁などは大集団で共同作業する必要がないので、小集団毎に漁業権区域を設定して、そこでの漁業しか認めない仕組みをつくり、枯渇する資源の分配争いを避けた。
・この社会的仕組みに対応して六通貝塚大集団が木戸貝塚、小金沢貝塚および上赤塚遺跡、大膳野南貝塚の4つの小集団に分かれそれぞれ別の場所に集落を構え、占有できる漁場で採貝と沿岸魚漁を行った。
・この社会的仕組みは一時的に成功した(堀之内1式期における4つの小集団の人口急増)。
・堀之内2式期頃になるとこの仕組みがほころびだし(資源の本格的枯渇?、食性の変化?、栽培や狩猟における技術開発?)、加曽利B式期になると4つの小集団が分散居住を止めて再び六通貝塚に集まった。
・六通貝塚に人口が集中し、陸獣骨出土が増えていることから、大集団が共同することによってはじめて実現できる効率的大規模追い込み猟等が行われていた(と推定可能である)。※
・堅果類の一斉採集や莫大な量のアク抜き処理・食品化も大集団の組織力により効率を重視して実施された。

※大集団が共同することによってはじめて実現できる効率的大規模追い込み猟の一つの事例として、内野第1遺跡の大規模落とし穴列による大規模追い込み猟が念頭にあります。ブログ花見川流域を歩く番外編2015.04.20記事「千葉市内野第1遺跡 縄文時代大規模落し穴シカ猟」参照

この仮説を文字にして眺めると六通貝塚から上赤塚遺跡・木戸作貝塚・小金沢貝塚・大膳野南貝塚の4つの小集団に分かれた(堀之内1式期頃)のは採貝と沿岸魚漁を最大限効率化する社会システムを採用したためであると「感じ」ます。
再び大集団に戻った(加曽利B式期以降)のは狩や堅果類採集を最大限効率化するための社会システムを採用したためであると「感じ」ます。
いずれの時期でも採貝・沿岸魚漁、狩、堅果類採集は生活必須項目として行っているのですが、時代時代によって社会が要請する効率化圧力の下で、発明される最新社会システム・最新技術システムが順次採用され、それによって集落の分散・集中の様相が異なってくると「感じ」ます。

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