2018年9月24日月曜日

千葉=チパ説の根拠 知里真志保の網走語源解説

地名「千葉」は縄文語起源 梅原猛仮説 その3

梅原猛が地名「千葉」はアイヌ語「チパ」(ヌササンのある場所)を起源とするという仮説を述べています。そのなかで「チパ」がヌササンのある場所という記述の出典や情報源は述べていません。(注 ヌササンとはイナウの集まりでつくった棚、つまり木製祭壇。ヌサを日本語表記すれば幣)

ただ、厳密な証拠はありませんがアイヌ語学者知里真志保の著書「アイヌ語入門 -とくに地名研究者のために-」(初版1956、北海道出版企画センター)に記述されている網走語源情報を梅原猛が利用していると推定しますので、その情報を引用紹介します。

知里真志保は著書「アイヌ語入門 -とくに地名研究者のために-」のなかで永田方正氏の蝦夷語地名解のChipashiri説明(下に引用)を批判して次のような記述をしています。
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「チパシリ」はchipa-sirで、「幣場〔の〕・島」の意であるらしい。*)
*)アバシリ(網走市)は、アイヌ語「ア・パ・シㇽ」(a-pa-sir「われらが・見つけた・土地」)から出たとも、「アパ・シㇽ」(apa-sir「入ロの・土地」)から出たとも云われ、或はアパシリは古くチパシリと云ったが、それも「チ・パ・シㇽ」(chi-pa-sir「われらが・見つけた・土地」)の意であるとか、或いは神鳥が’チパシリ!チパシリ!'と鳴いたという伝説から名つげられたとか、諸説紛々としている。しかし,「チパ」は実は「イなウサン」(inàw-san「幣場」)の古語で、「チぱシㇽ」(chipà-sir「幣場のある・島」)の意に解すべきものであるらしい。アバシリ川の川口に近い海中に帽子岩というのがあって、古くは「ヵむイ・ワタラ」(kamùy-watara「神・岩」)と云った。土地のアイヌは非常にこれを崇拝し、アザラシ狩に出る時は、かならずここに幣を捧げて祈った。そこに捧げた幣が倒れているのを見た場合は、不吉だとして出漁を見合わせて戻った。漁季にはじめてアザラシを捕った時は、ここでイよマンテ(iyómante 魂送の儀式)をとり行つた。この岩が、実は「チぱシル」(幣場のある島)だったらしい。ただ、「チパ」が古語になって、その意が解し難くなるに及んで、民衆はこれを「チ・パ・シル」(われらが・発見した・土地)の意に俗解し、さらに「チ」(chi- われら)を同意の「ア」(a-)に代えて、「ア・パ・シㇽ」(われらが・発見した・土地)としたのであろうと思われる。
知里真志保著「アイヌ語入門 -とくに地名研究者のために-」(初版1956、北海道出版企画センター)から引用
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参考●永田方正氏の蝦夷語地名解のChipashiri説明
Chipashiri;我等ガ見付タル岩[昔シ,アバシリ沼ノ岸ニ白キ立岩アリ,笠ヲ蒙ブリテ立チタル「アイヌ」ノ如シ,「アイヌ」等之ヲ発見シテ「チパシリ」ト改称スト云フ,此白石崩壊シテ今ハナシ,名義国郡ノ部二詳ニス,参照スベシ,或云フ,此ノ岩,神自ラ「チパシリ」「チパシリ」卜歌ヒテ舞ヒタリ,故二地二名クト,或ハ云フ,一鳥アリ,「チパシリ」「チパシリ」ト鳴キテ飛ブヲ以テ地二名クト,「アイヌ」口碑相伝フル処大同小異アリ](地名解475)。
知里真志保著「アイヌ語入門 -とくに地名研究者のために-」(初版1956、北海道出版企画センター)から引用

知里真志保著「アイヌ語入門 -とくに地名研究者のために-」(初版1956、北海道出版企画センター) 写真は2004年発行七刷
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「「チパシリ」はchipa-sirで、「幣場〔の〕・島」の意であるらしい。」と記述していて、「あるらしい」という普通使わないあくまで推定であるとする記述になっています。その理由は現在使われているアイヌ語ではなく、アイヌ古語を推定復元しているのでこのような表現になったと考えます。

梅原猛が使った情報源が判明したと考えます。
同時に、チパのイメージの例がアザラシ猟に出る時の祈願の場であることがわかりました。この情報は千葉地名が発生した時の様子を検討する材料の一つに使えると考えます。
チパ(ヌササン)の最大の役割は、危険や苦労をともなう生業の成功を祈願する場であったのかもしれません。
千葉地方の縄文後期晩期の主要生業は漁労ではなく狩猟であるようですから、千葉地方では狩猟祈願でチパが盛んに利用されたということかもしれません。
全国で同じようにチパが狩猟祈願で使われていたなら、千葉地方だけで地名チパ=千葉が生れる説明は出来ません。従って、千葉地方でだけ狩猟祈願でチパが盛んにつかわれる(東京や茨城では狩猟祈願に別の祭具が使われる)などといったチパに関わる何らかの地域独自性が証明できれば地名「千葉」=チパ起源説の蓋然性が高まると考えます。
この梅原猛仮説を追うことによって自分の縄文時代学習問題意識が研がれると想定できますから、今後の縄文時代学習が楽しみになりました。

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