2020年11月1日日曜日

アリソガイ製ヘラ状貝製品等観察の中間総括

 縄文貝製品学習 25

アリソガイ製ヘラ状貝製品がどのような道具であるのか究明することを目的に、有吉北貝塚出土製品8点(うち2点はハマグリ製)を3Dモデル観察しました。この記事ではその中間総括をします。

1 観察対象、方法、結果

アリソガイ製ヘラ状貝製品6点、ハマグリ製ヘラ状貝製品2点を3Dモデル観察しました。

観察は対象物の肉眼観察(一部は拡大鏡と手持ちライト照射利用)及び周回撮影(ライト使用)→3Dモデル作成→3Dモデル観察です。

観察結果は画像にメモ書きしました。


ヘラ状貝製品の観察画像メモ

2 考察

2-1 使用痕

ア 擦痕のない削剥

肉眼及び3Dモデルでは擦痕が見つからない削剥部(貝殻成長線が形成する表面の微細な凹凸が平滑化された平面)は全対象で観察できました。相手が柔らかいモノを擦ったため(顕著な)擦痕が付かなかったと考えられます。

なお、顕微鏡的に観察すれば、何らかの擦痕が観察できる可能性は濃厚です。

イ 擦痕のある削剥

肉眼及び3Dモデルで擦痕が見つかる削剥部はアリソガイ製ヘラ状貝製品全てで観察できます。ハマグリ製では観察できません。

肉眼で擦痕が観察できるほどですから、擦った相手は硬い微細な凹凸が存在していたことになります。

擦痕の方向や粗密、幅から擦った方向や擦り方の強さ、相手(表面)の微細形状が想定できます。

削剥が顕著な部分では貝殻成長線の分布が異常になります。

削剥が顕著な部位は貝殻左右端に局在する傾向があります。

なお、擦痕のある削剥が顕著なため貝殻が損耗して、それが主因で貝殻形状が変化するという事実は観察できませんでした。(擦痕のある削剥部と貝殻形状が損耗で凹んだ場所が一致しません。)

ウ 貝殻表面が凹むほどの削剥

ア1に貝殻表面が凹むほどの削剥が観察できます。細長い硬いモノを継続的に擦り続けた跡のようです。

エ 腹縁部の削り跡

全ての対象で腹縁部が削られている部分があります。腹縁部がエッジになっていて、その断面はギザギザになっています。

腹縁部が削られたために全ての対象で貝殻形状が変形しています。

貝殻形状の変化は1腹縁部がそのまま後退したもの(ア1、ア15、ア18、ハ10)、2腹縁部中央が尖って残るようなもの(ア2、ア5、ア13)、3局部だけ凹んだもの(ハ11)の3つに分類できます。この分類は使い方の違いを表現していて、使う個人のクセとか対象物の置き方の違い(作業環境の違い)などに関わっている可能性があります。

腹縁部が削られその断面がギザギザになっているということは擦った相手が硬いモノであることを示しています。貝殻表面で擦る場合と比べて腹縁部で擦れば相手と接する面積は極めて小さくなりますから、相手には大きな力が加わります。擦った相手は皮というよりも骨とか石とか土器のイメージになります。

オ 色素沈着

色素沈着がア13に顕著に観察できます。なめし液や染色液の塗布に使われた跡かもしれません。

2-2 5種使用痕の相互関係

上記のア~オ5種使用痕の相互関係があるのか、ないのか考えることがこの製品の使い方を考える上で重要です。

ア 5種使用痕に相互関係があると考えた場合

5種使用痕に相互関係があると考えた場合とは、1つの作業(例 皮なめし)で生じるさまざまな場面で生まれる個別動作が多数あり、そのうち5つの動作がアリソガイ製ヘラ状貝製品で賄われたと考える思考です。

皮なめしという作業のなかで、ア柔らかいモノを擦る、イ擦痕ができるほどのモノを強く擦る、ウ細長いモノを強く擦る、エ硬いモノを腹縁部で強く擦る、オ色素のある液体を塗布する。

このような作業が果たして皮なめしであったかどうか、別の作業ではどうであるのか、考察する必要があります。

イ 5種使用痕に相互関係がないと考えた場合

アリソガイ製ヘラ状貝製品は万能工具であり、いろいろな作業のいろいろな場面で使われたと考えることが可能であるか、検討しておく必要があります。思考を深めれば、この万能工具説はおそらく棄却できると思います。

3 引き続き検討する課題

3-1 3Dモデル観察方法

今後、使用痕をより鮮明に表現できる写真撮影方法、3Dモデル作成方法をまとめます。

同時に顕微鏡等を使ったよりミクロな観察・撮影を行い、その結果を3Dモデルにする方法や効果について検討します。

3-2 遺跡におけるアリソガイ製ヘラ状貝製品の有無の理由検討

加曽利EⅠ~Ⅱ式頃、狩猟中心の養安寺遺跡では九十九里に近いにもかかわらずアリソガイ製ヘラ状貝製品は出土しません。下総ではアリソガイは九十九里にのみ産します。

同時期の有吉北貝塚では漁労が中心で九十九里に遠いにも関わらずアリソガイ製ヘラ状貝製品が多数出土します。

この地理現象理解がアリソガイ製ヘラ状貝製品の用途説明のヒントになるかもしれません。

0 件のコメント:

コメントを投稿