有吉北貝塚北斜面貝層土器出土状況学習でとてもうれしく感じる誤算があり、ますます学習意欲が増進しましたので、その誤算をメモします。
1 同時性指標としての同一土器個体破片
有吉北貝塚発掘調査報告書では北斜面貝層について、土器接合破片1つ1つの分布が立体空間のなかで判る情報が掲載されています。この情報(個別土器破片1つ1つの平面分布図・投影断面分布図)と2m間隔で記録された貝層断面図を組み合わせることで、土器破片1つ1つの出土層準を簡易的に略推定できます。
一つの土器に接合した破片は、その破片が出来た時(土器が破壊された時)は一緒ですから、ピンポイントでの同時性指標になります。従って、同じ土器に接合した破片はそれが出土した貝層(地層)の同時性を指標します。つまり、地層学で地層中に含まれる火山灰を同時性の有力指標として使うのと同じ原理が発現します。
2 これまでの予察作業
1の観点から北斜面貝層下流部を対象に、予察的に67土器(中峠式浅鉢形土器)、395土器(加曽利EⅢ式有孔鍔付土器)についてその土器破片分布3Dモデルを作成し、出土貝層層準を略推定しました。この結果、離れた場所の貝層の同時性をイメージすることができました。
2021.09.13記事「土器接合破片1つ1つの分布・出土層準情報から導き出される超重要情報」など
検討例
土器破片分布3Dモデル
3 誤算に気が付き、ラッキーな感情が生まれる
2の予察作業の継続として同じ作業を294土器(加曽利EⅡ式キャリパー形土器)と325土器(同)について作業しました。作業があらかた済んで、興味深い分析コメントをはやく書きたくなります。
294土器の土器破片分布3Dモデル(Blender画面)
この作業の中で294土器が北斜面貝層出土あるいは有吉北貝塚出土の最大級土器であるので次の説明図をつくりました。
294土器の巨大さを説明する資料
この図を見て、また発掘調査報告書の記載を読んで何か違和感を感じます。そして突然この巨大土器がかつて加曽利貝塚博物館で展示された土器であり、北斜面貝層の別の場所で出土していることを最近の学習でも確認した土器であることに気が付きました。
2019年2月に加曽利貝塚博物館で撮影した294土器
そして発掘調査報告書図版をよくみると294土器破片が北斜面貝層の広域にわたって出土していることに気が付きました。土器破片分布図は大きく上流部と下流部に分かれてつくられていますが、その双方に破片が分布するものがあるとは想定していなかったので、貝層下流部の極一部の分布域しか扱っていないという誤算に気が付いたのです。最も離れた破片間の距離は約33mになります。
294土器破片の分布
基底部土器出土状況図で確認できる294土器特大破片
予察作業をすることでこの誤算がわかり、また広い分布事象が有力情報をもたらすに違いないという直観も働き、とてもうれしくなりました。いわばラッキーな誤算です。学習の醍醐味を味わった瞬間です。同一土器破片が広域に分布すればするほど、貝層同時性の対比が広域で可能になります。露頭で火山灰層の連続分布を発見した時のような気分になりました。
すでに作業した395土器も広域に分布することがわかりました。この土器も最近別の場所の分布が掲載されている発掘調査報告書図版を引用しているのですが、気が付かなかったのです。
395土器破片の分布
294土器破片も395土器破片も大局的にはガリー流路に沿って分布しますが、上流側で壊されて水流で下流に運ばれて分布したという単純推定だけでは説明できないことが既に判っていますから、興味が深まります。
4 今後の展開
これまでの予察作業はその役割を十分に果たしたので、これからは北斜面貝層全体を対象にして予察作業と同じ分析作業を、全土器を対象に新規まき直しで行うことにします。
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