2025年11月30日日曜日

斜面貝層形成仮説 -ハマグリが斜面下部に分布する-

 Slope Shell Layer Formation Hypothesis: Clams Distribute at the Lower Slope


Regarding the shell layers on the slope, I proposed the "Slope Shell Layer Formation Hypothesis: Clams Distribute at the Lower Slope." This hypothesis is similar in spirit to the artifact distribution hypothesis, but uses a different verification method.


斜面部貝層に関して「斜面貝層形成仮説 -ハマグリが斜面下部に分布する-」を設定しました。この仮説は遺物分布仮説と同趣旨ですが、検証方法は別としました。

1 斜面貝層形成仮説 -ハマグリが斜面下部に分布する-

有吉北貝塚北斜面貝層を事例に、次の仮説を設定しました。

斜面最下部はガリー流路による流水営力の影響がありますが、それより上の斜面部では下部にハマグリなど二枚貝純層が分布します。

1-1 仮説結論

斜面貝層では貝殻が斜面上部から投棄され、重力及び葡行現象(クリーピング)で斜面下部に移動する。

斜面傾斜は安息角に近いあるいは同等(35度~40度)であるため、形状の大きい貝殻ほど下方への移動量が大きい。

斜面プロセス

・大きな貝殻ほど斜面表面に露出しやすい。

ハマグリなど二枚貝>イボキサゴなど巻貝>イボキサゴの破砕貝片

・斜面で貝殻が露出すると転がったり滑ったりしやすく、重力でより下方へ移動しやすい。

・結果として斜面下部に大柄の貝殻(主にハマグリ)が分級されて堆積する。

1-2 仮説の基礎となる貝殻移動原理 葡行現象

●葡行現象

斜面の貝殻は長期にわたる葡行現象で斜面下方に移動する。

葡行現象は冬季霜柱と動物・人の踏圧等で生じる。

1-2-1 緩慢な移動

冬季霜柱により斜面の垂直方向に貝殻が上昇する。日中の霜柱融解で貝殻は鉛直方向に下方移動する。このため貝殻は斜面下方に移動する。長期にわたる冬季霜柱の影響で貝殻は緩慢に移動する。

1-2-2 急激な移動

斜面は安息角に近いあるいはそれ以上の急斜面であり、冬季霜柱による微細移動をトリガーとして局所的な小崩壊・滑り(急激な移動)が頻発する。

「持ち上げ → 支えを失う → 安息角を超える → 一気に短い表層すべり」

動物や人の踏圧、強風、豪雨、地震等でも同じ小崩壊・滑り(急激な移動)が発生する。

葡行現象に伴う急激な移動(崩れトリガー)で、遺物は下方へ大きく移動する。

1-2-3 大きな貝殻の選択的移動

破砕貝片、イボキサゴな小さい貝殻はハマグリなど大きい貝殻の間に紛れ込むので、斜面ではハマグリなど大きな貝殻ほど表面に浮かび上がる。つまりハマグリなど大きな貝殻ほど表面に露出しやすくなる。そのため葡行現象の影響を受けやすくなる。一方、破砕貝片、イボキサゴな小さい貝殻は地表面から沈むので葡行現象の影響を受けにくくなる。従って、ハマグリなど大きな貝殻が選択的に斜面移動する。

2 仮説の検証について

2-1 斜面下部ほどハマグリなど大きい貝殻が選択的に分布するか

次の資料から斜面下部ほどハマグリなど大きい貝殻が選択的に分布する様子を詳細にデータ化できます。

・貝層断面図(発掘調査報告書掲載)及び発掘原票「セクション図」

・貝層断面写真(発掘調査報告書掲載)

・貝層剥ぎ取り断面現物(千葉県中央博物館展示)

2-2 投棄後に本当に貝殻が動いたのか、もともと斜面下部にハマグリが投棄されたのではないか

次の4つの視点から投棄後に貝殻が動いて分級したことを検証する予定です。

2-2-1 サイズ分析

貝層剥ぎ取り断面撮影写真から貝殻分類、長径サイズデータ化し、その分布から「動いたか、もともとその場所に投棄されたか」検証します。

2-2-2 貝殻配向分析

貝殻の長軸方向のパターンが葡行現象による斜面移動と整合的であるかどうかを分析して、葡行現象による移動つまり「動いたか、もともとその場所に投棄されたか」検証します。

流水により礫が一定方向に揃って並ぶインブリケーションという配向現象が知られています。それと対応できるような配向現象が安息角斜面における貝殻移動でも観察できるかどうか、観察・分析します。

安息角斜面における貝殻移動では流水における礫移動とは異なり、「 一気に短い表層すべり→小堆積」現象の繰り返しが配向現象として記録されていると考えられ、流水礫インブリケーションより複雑なパターンになると考えられます。

2-2-3 層境界分析

貝層境界分析により、連続的に変化した堆積なのか、斜面下部にもともとハマグリが投棄されたのか、検証します。

2-2-4 貝殻破損分析

貝殻が斜面上部で投棄され、斜面下部まで葡行現象で移動してきたと仮定すると、斜面上部の貝殻は破損が少なく、斜面下部では破損が進んでいると考えられます。この観点から現実的な分析方法があるかどうか検討します。

斜面上部と斜面下部の貝殻サンプルが現存していて、それを使うことができれば、この分析ができる可能性があります。

剥ぎ取り断面には斜面上部と斜面下部の貝殻現物が存在しているので、断面非破壊的方法で貝殻破損分析を行うことが可能であると考えられます。剥ぎ取り断面写真を予察的にみると、斜面下部のハマグリには破損・ひび割れが多いように見受けられますので、この方法が有効になる可能性があります。

3 メモ

斜面最下部はガリー流路による流水営力の影響があります、この最下部を除く斜面部では、「斜面貝層における遺物分布仮説 -大きい遺物ほど斜面下部に分布する-」を援用して「斜面貝層形成仮説 -ハマグリが斜面下部に分布する-」を設定しました。遺物と貝層の仮説は同じ趣旨ですが、検証方法は別としました。

これからの有吉北貝塚北斜面貝層取組みはこの遺物と貝層に関する仮説検証が重要な軸の一つになり展開します。

この仮説検証過程で有用情報の多産が期待できそうです。


斜面貝層形成仮説


斜面貝層形成仮説

2025年11月26日水曜日

石鏃と石斧の3D分布

 3D Distribution of Arrowheads and Axes


I observed the 3D distribution of arrowheads and axes on the shell layer of the northern slope of the Ariyoshikita Shell Mound. Small arrowheads were distributed throughout the entire slope, while larger axes were primarily found in the middle and lower parts of the slope. This provides further evidence supporting the hypothesis that larger artifacts tend to be distributed lower down the slope.


有吉北貝塚北斜面貝層の石鏃と石斧の3D分布を観察しました。小さな石鏃は斜面全体に分布し、大きな石斧は斜面中下部に主に分布し、「大きい遺物ほど斜面下部に分布する」仮説を裏付ける材料の一つになります。

1 石鏃と石斧の3D分布

石鏃と石斧の3D分布

黄点:石鏃

赤点:石斧

有吉北貝塚北斜面貝層

3DF Zephyr v8.031でアップロード


3Dモデルの動画


3Dモデルの画像


3Dモデルの画像

2 石鏃と石斧資料


石鏃と石斧資料

3 ガリー中流部斜面の様子

ガリー中流部の斜面の石鏃と石斧を抜き出して、観察しました。


ガリー中流部斜面で抜き出した情報


ガリー中流部斜面の様子

全体を総観すると、小さい石鏃の分布範囲は斜面上部から下部まで広がっていますが、大きい石斧は主に斜面中下部に分布し、斜面下部の割合が多くなっています。「大きい遺物ほど斜面下部に分布する」仮説を裏付ける材料の一つになります。


参考 有吉北貝塚出土石鏃の例

石鏃の大きさは長径2~3㎝程度のものが図示されています。


参考 有吉北貝塚出土打製石斧の例

打製石斧の大きさは長径が10㎝を越えるものが図示されています。

斜面貝層における遺物分布仮説 -大きい遺物ほど斜面下部に分布する-

 Artifact Distribution Hypothesis in Sloping Shell Layers: Larger artifacts tend to be distributed lower down the slope.


I made a note of the artifact distribution hypothesis in sloping shell layers: "Larger artifacts tend to be distributed lower down the slope." While conducting 3D spatial analysis of bones, pottery, and other artifacts in the shell layer on the northern slope of the Ariyoshikita Shell Mound, I finally arrived at a highly plausible artifact distribution hypothesis.


斜面貝層における遺物分布仮説「大きい遺物ほど斜面下部に分布する」をメモしました。有吉北貝塚北斜面貝層における骨や土器など遺物の3D空間分析作業をする中で、確からしさを強く感じる遺物分布仮説にようやくたどり着きました。

1 斜面貝層における遺物分布仮説 -大きい遺物ほど斜面下部に分布する-

有吉北貝塚北斜面貝層を事例に、次の仮説を設定しました。

1-1 仮説結論

斜面貝層では遺物が斜面上部から投棄され、重力及び葡行現象(クリーピング)で斜面下部に移動する。

斜面傾斜は安息角に近いあるいは同等(35度~40度)であるため、形状の大きい遺物ほど下方への移動量が大きい。

斜面プロセス

・大きな貝殻や大きな遺物ほど斜面表面に露出しやすい

・斜面で露出すると転がりやすく、重力でより下方へ移動しやすい

・結果として斜面下部に大柄の貝殻、大柄の遺物が分級されて堆積する。

1-2 仮説の基礎となる遺物移動原理 葡行現象

●葡行現象

斜面の貝殻・遺物は長期にわたる葡行現象で斜面下方に移動する。

葡行現象は冬季霜柱と動物・人の踏圧等で生じる。

1-2-1 緩慢な移動

冬季霜柱により斜面の垂直方向に貝殻・遺物が上昇する。日中の霜柱融解で貝殻・遺物は鉛直方向に下方移動する。このため貝殻・遺物は斜面下方に移動する。長期にわたる冬季霜柱の影響で貝殻・遺物は緩慢に移動する。

1-2-2 急激な移動

斜面は安息角に近いあるいはそれ以上の急斜面であり、冬季霜柱による微細移動をトリガーとして局所的な小崩壊・滑り(急激な移動)が頻発する。

「持ち上げ → 支えを失う → 安息角を超える → 一気に短い表層すべり」

動物や人の踏圧、強風、豪雨、地震等でも同じ小崩壊・滑り(急激な移動)が発生する。

葡行現象に伴う急激な移動(崩れトリガー)で、遺物は下方へ大きく移動する。

1-2-3 大きな貝殻・遺物の選択的移動

小さい貝殻や遺物は大きい貝殻や遺物の間に紛れ込むので、斜面では大きな貝殻や遺物ほど表面に浮かび上がる。つまり大きな貝殻・大きな遺物ほど表面に露出しやすくなる。そのため葡行現象の影響を受けやすくなる。一方、小さな貝殻や遺物は地表面から沈むので葡行現象の影響を受けにくくなる。従って、大きな貝殻・遺物が選択的に斜面移動する。

2 仮説の検証について

次の3点から仮説検証を行うことにします。

・斜面下部に行くほど本当に貝殻や遺物が大きくなるのか?(サイズ分布の定量的把握)

・貝殻や遺物は投棄後に本当に動いたのか、そもそも堆積時からそうなっていたのではないか?(層序、年代、構造検証)

・投棄後に動いたとして、葡行プロセスが妥当か?(斜面プロセスの妥当性、実験、モデル)

2-1 斜面下部ほど形状の大きいものが分布しているか

この検証は多くのデータを用意できそうです。

貝層断面図資料から貝殻の大きさについて指標となるような資料を用意できそうです。

遺物については、遺物データベースを活用して多くの資料を用意できそうです。

例えば、石鏃(形状小)と石斧(形状大)の分布が違うことについて、近々記事にするよう予定です。

2-2 投棄後に貝殻と遺物が本当に動いたのか

貝層断面資料から貝層堆積の様子を推察できて、その中で貝層移動について確認できると考えます。

斜面下部にハマグリ純貝層が見られる場合が多いですが、これが葡行プロセスによる分級である確認は検討の一つの山場となります。

また、遺物移動については土器接合資料から決定的な情報を得ることができそうです。

2-3 想定する葡行プロセスが妥当であるか

2-3-1 安息角の測定

葡行プロセス妥当性の検討基礎として、安息角の実験的測定が重要です。

ハマグリ、イボキサゴ、(イボキサゴの)破砕貝からなる貝層の安息角、その貝層に土器片等の遺物を混入した場合の安息角を実験的に測定する機会ができれば、仮説検証が進みます。

2-3-2 葡行プロセス検討

想定する葡行プロセスが妥当であるかどうかという検討では、まずは文献調査をメインに行います。さらに、将来実験的検討の機会が生まれることを期待します。

3 仮説に関する課題例

この仮説に関する課題例として、次の事項があります。

この仮説は北斜面貝層に草木が繁茂していない状況を前提にしています。貝殻や遺物投棄がおこなわれていた当時、北斜面貝層が常時草木に覆われていたならば、葡行プロセスは微弱であったに違いありません。貝塚が形成されていた当時、貝塚の草木被覆がどうだったのか、検討する必要があります。斜面には強い塩分が結果的に投下されていたので、草木繁茂が無かったのか、検討を深めることが大切です。


有吉北貝塚北斜面貝層遺物分布


2025年11月25日火曜日

骨と土器の密集域

 Bone and Pottery Concentrations


The bone and pottery concentrations in the shell layer on the northern slope of the Ariyoshi Kita Shell Mound are displayed simultaneously in a 3D viewport. The concentrations are distinct, as if they were living separately. I hypothesize that this represents differences in behavior within the shell layer after disposal. Such visualization has not been done in Japan before.


有吉北貝塚北斜面貝層の骨と土器の密集域を同時に3Dビューポートに表示しました。まるで棲み分けているように密集域が異なります。投棄後の貝層中における挙動の違いが表現されていると仮説しています。このような可視化はこれまでに本邦ではありません。

1 骨と土器の密集域

骨と土器の密集域

黄色は骨の密集域

赤色は土器の密集域

密集域とは「標準偏差による最近隣距離4区分の区分1」

有吉北貝塚北斜面貝層

3DF Zephyr v8.031でアップロード


3Dモデルの動画


3Dモデルの画像


3Dモデルの画像

2 骨と土器の密集域資料


骨と土器の密集域資料

3 メモ

有吉北貝塚北斜面貝層の骨と土器の密集域を同時に3Dビューポートに表示しました。まるで棲み分けているように密集域が異なります。投棄後の貝層中における挙動の違いが表現されていると仮説しています。

骨は小さく、斜面貝層中のクリープ(葡行)による移動が少ないのに対して、土器は大きく、斜面貝層中のクリープ(葡行)移動距離が長く、斜面下部まで達したものが多かったと推測します。

仮説の当否は別にして、骨と土器密集域の対比的表現という可視化はこれまでに本邦ではありません。


2025年11月24日月曜日

土器 標準偏差による最近隣距離4区分

 Pottery: Four Nearest Neighbor Distance Categories Based on Standard Deviation


I examined pottery's nearest neighbor distances based on the standard deviation. Looking at the cross section, there are slightly denser clusters (yellow) near dense clusters (red), and together they are more prevalent at the bottom of the slope. On a frictional slope, I assume that creep forces acted more strongly on heavier pottery, causing it to move more rapidly downslope than bones and other objects.


土器の標準偏差による最近隣距離4区分を観察しました。断面で見ると、密集(赤)の近くにやや密集(黄色)が存在して、合わせると、斜面下部に多くなっています。摩擦のある斜面では重量が重い土器に葡行営力がより強く作用し、骨などよりも斜面移動が激しかったと想定します。

1 土器の4区分結果

1-1 土器 標準偏差による最近隣距離4区分 区分1(密集)


土器 標準偏差による最近隣距離4区分 区分1(密集)

0.007~0.098m

1-2 土器 標準偏差による最近隣距離4区分 区分2(やや密集)


土器 標準偏差による最近隣距離4区分 区分2(やや密集)

0.098~0.160m

1-3 土器 標準偏差による最近隣距離4区分 区分3(やや散在)


土器 標準偏差による最近隣距離4区分 区分3(やや散在)

0.160~0.258m

1-4 土器 標準偏差による最近隣距離4区分 区分4(散在)


土器 標準偏差による最近隣距離4区分 区分4(散在)

0.258~1.847m

1-5 観察

土器の密集域のまわりにやや密集域、そのまわりにやや散在域、さらにそのまわりに散在域が分布します。土器の密集域が斜面下部のガリー流路沿いに集中していることが特徴です。

安息角に近い斜面では大きな土器に葡行営力がより強く作用し、骨などよりも斜面移動が激しかったと想定します。

2 土器 標準偏差による最近隣距離4区分の谷中断面

土器 標準偏差による最近隣距離4区分の谷中断面

土器 標準偏差による最近隣距離4区分 区分1(密集)3Dモデルに谷中部の断面を追記


谷中部断面


谷中断面の位置

有吉北貝塚北斜面貝層

3DF Zephyr v8.031でアップロード


3Dモデルの動画


3Dモデルの画像


3Dモデルの画像

3 考察

他の遺物と同様に土器の投棄のともなう斜面移動を次図のように想定しました。


考察

土器は斜面における重力・葡行移動とガリー流路における稀で強い流水移動の2つの移動種類により移動していたと想定します。

骨の移動イメージについて

 Image of bone movement


The image of bone movement published in the previous article has been revised for accuracy. It is assumed that in the shell layer on the northern slope of the Ariyoshikita Shell Mound, not only bones but all discarded artifacts moved by a combination of gravity and creep movement on the slope and water movement at the bottom of the slope.


前記事で掲載した骨の移動イメージ画像を正確を期するために修正しました。有吉北貝塚北斜面貝層では骨だけでなく、全ての投棄遺物が斜面における重力・葡行移動と斜面下部における流水移動の組合わせで移動していると想定します。

1 骨の投棄・移動・堆積のイメージ(修正)


骨の投棄・移動・堆積のイメージ(修正)

2 有吉北貝塚北斜面貝層の遺物移動原理(想定)


有吉北貝塚北斜面貝層の遺物移動原理(想定)

3 メモ

有吉北貝塚北斜面貝層の遺物は貝層縁辺台地面から投棄され、重力・葡行(クリープ)営力で斜面を下り、斜面下部に到達した遺物はガリーによる稀な流水営力でさらに遠方を移動したと想定します。

この想定(仮説)の検証が北斜面貝層検討の重要テーマの一つとなります。


2025年11月23日日曜日

技術メモ 標準偏差による最近隣距離4区分

 Technical Note: Four-Level Classification of Nearest Neighbor Distance Based on Standard Deviation


I developed my own four-level classification based on the standard deviation of 3D nearest neighbor distances for artifacts and applied it to bones. The density of bone distribution became clear. This is a record of the behavior of bone dumping, transportation, and deposition.


遺物3D最近隣距離の標準偏差による4区分を自分なりにまとめ、骨に適用しました。骨分布の密集性が明らかになりました。その様子は骨投棄→移動→堆積の挙動記録です。

1 遺物3D最近隣距離の標準偏差による4区分

貝層内遺物の3D最近隣距離を計測し、「平均からの離れ(標準偏差)」を基準にして、最小値、最大値も使い、データの相対的位置(かなり小さい、やや小さい、やや大きい、かなり大きい)の4区分を遺物3D分布分析に利用しています。この4区分の定義と名称をこのブログでは次のように設定します。

●名称

標準偏差による最近隣距離4区分

●定義

区分1:最小値~(平均値-標準偏差)

区分2:(平均値-標準偏差)~平均値

区分3:平均値~(平均値+標準偏差)

区分4:(平均値+標準偏差)~最大値

詳細には次のように定義します。

最小値≦区分1≦(平均値-標準偏差)

(平均値-標準偏差)<区分2≦平均値

平均値<区分3≦(平均値+標準偏差)

(平均値+標準偏差)<区分4≦最大値

●区分の意味

区分1:値が平均よりかなり小さい(遺物密集)

区分2:値がやや小さい~平均寄り(遺物やや密集)

区分3:値が平均寄り~やや大きめ(遺物やや散在)

区分4:値が平均よりかなり大きい(遺物散在)

●区分の表現

区分1(密集)

区分2(やや密集)

区分3(やや散在)

区分4(散在)

2 骨の4区分結果

2-1 骨 標準偏差による最近隣距離4区分 区分1(密集)


骨 標準偏差による最近隣距離4区分 区分1(密集)

   0.005~0.037m

2-2 骨 標準偏差による最近隣距離4区分 区分2(やや密集)


骨 標準偏差による最近隣距離4区分 区分1(やや密集)

   0.037~0.107m

2-3 骨 標準偏差による最近隣距離4区分 区分3(やや散在)


骨 標準偏差による最近隣距離4区分 区分3(やや散在)

   0.107~0.177m

2-4 骨 標準偏差による最近隣距離4区分 区分4(散在)


骨 標準偏差による最近隣距離4区分 区分4(散在)

   0.177~2.043m

2-5 観察

骨の密集域のまわりにやや密集域、そのまわりにやや散在域、さらにそのまわりに散在域が分布しています。

この分布の様相は、骨が貝塚に投棄され、斜面を移動して最終的に移動が停止した状態を表現しています。

貝塚縁辺部に骨密集域が存在しているのは、投棄された骨のかなりの部分の移動量が小さいため、投棄された場所を結果として表現していると仮説します。

3 骨 標準偏差による最近隣距離4区分の谷中部断面

骨 標準偏差による最近隣距離4区分の谷中部断面

骨 標準偏差による最近隣距離4区分 区分1(密集)3Dモデルに谷中部の断面を追記


谷中部断面


谷中部断面の位置

有吉北貝塚北斜面貝層

3DF Zephyr v8.031でアップロード


3Dモデルの動画


3Dモデルの画像


3Dモデルの画像

4 考察


考察

骨 標準偏差による最近隣距離4区分の谷中部断面を次のように仮説的に解釈しました。

貝塚縁辺部から骨が投棄され、その骨の一定部分はその場に残るが、それ以外は斜面を貝層とともに下方に移動して各所に堆積する。骨は大きさが小さいので移動量が小さく、土器のように斜面下部に密集して堆積するには至らなかった。

2025年11月21日金曜日

骨の最近隣距離分布観察

 Observing the Distribution of Nearest Neighbor Distances for Bone Samples


I observed the 3D distribution of nearest neighbor distances for 34,050 bone samples excavated from the shell layer on the northern slope of the Ariyoshikita Shell Mound. I created four distribution maps by dividing the nearest neighbor distances into four sections using minimum, maximum, mean, and standard deviation. The bone-dense areas were distributed in five separate areas around the edge of the shell layer, which is completely different from the distribution of pottery.


有吉北貝塚北斜面貝層の出土骨34050件の最近隣距離3D分布を観察しました。分布図は最近隣距離を最小値、最大値、平均値、標準偏差を利用して4区分して4枚作成しました。骨密集域は貝層縁辺部に5ヶ所に別れて分布し、土器分布の様相と全く異なります。

1 骨 最近隣距離3D分布

1-1 骨 最近隣距離0.005~0.037m


骨 最近隣距離0.005~0.037m

1-2 骨 最近隣距離0.005~0.037m、0.037~0.107m


骨 最近隣距離0.005~0.037m、0.037~0.107m

1-3 骨 最近隣距離0.005~0.037m、0.037~0.107m、0.107m~0.177m


骨 最近隣距離0.005~0.037m、0.037~0.107m、0.107m~0.177m

1-4 骨 最近隣距離0.005~0.037m、0.037~0.107m、0.107m~0.177m、0.177~2.043m


骨 最近隣距離0.005~0.037m、0.037~0.107m、0.107m~0.177m、0.177~2.043m

2 メモ

2-1 骨の集中域

骨の集中域は北斜面貝層縁辺部に5ヶ所ほどに別れて分布しています。この様子から貝層縁の台地面から骨を投棄した様子とそのメイン投棄場所が5ヶ所ほどに限定されていたことを推察できます。また下図でaと注記したが最大投棄場所で特徴的です。骨の投棄は貝層に満遍なく行われたのではなく、好まれていた場所があったことが判明しました。


骨の集中域

2-2 骨と土器集中域の比較

骨と土器の集中域を比較すると、顕著な違いが浮かび上がります。骨集中域は北斜面貝層の縁辺部に分布し、土器集中域は斜面下部からガリー流路沿いに分布します。


骨と土器集中域の比較

この2枚分布図の比較から次の仮説が浮かび上がりましたので、今後の重要テーマとして検討・検証することにします。

・骨は貝層縁辺付近の台地面から投棄された。投棄された骨は重力や長期にわたるクリープ現象で斜面を下るものもあったが、その割合は土器より少なかった。

・土器も貝層縁辺付近の台地面から投棄された。投棄された土器は重力や長期にわたるクリープ現象で斜面を下るものが多く、斜面下部に集中域を形成し、それはガリー流水で運ばれた。

・骨と土器の斜面移動量の違いは個別遺物の重量の違いによると考えられる。骨は小さく、かつ比重が小さいので重量が小さく、地表面での抵抗で移動しにくい。一方、土器は破片が大きく、かつ比重が大きいので重量が大きく、地表面での抵抗に対して移動しやすい。

・長期にわたるクリープ現象の要因として、霜柱がメインであり、人の踏圧なども考えられる。


2025年11月20日木曜日

骨3D分布の平均最近隣距離計測

 Measuring the average nearest neighbor distance of bone 3D distribution


I measured the average nearest neighbor distance of bone 3D distribution in the shell layer on the northern slope of the Ariyoshikita Shell Mound and compared it with pottery and stone tools.

The standardized index of average nearest neighbor distance was pottery < bone < stone tools, and comparing the three, pottery showed the highest density.


有吉北貝塚北斜面貝層の骨3D分布の平均最近隣距離を計測して土器・石器と比較しました。

平均最近隣距離の標準化指標は土器<骨<石器となり、3つを較べると土器の密集性が最も高いことがわかりました。

1 平均最近隣距離について(再掲)

1-1 平均最近隣距離(Average Nearest Neighbor ANN) ANN1

遺物Aが3D空間に分布していて、遺物Aの全てについて、最近隣にある別の遺物Aとの距離を計測し、その平均値を求めたものが遺物Aの平均最近隣距離です。これをANN1とします。

同一空間に同一数の遺物種が分布している場合、ANN1の数値が小さい遺物種ほど密集性が高いことを表現しています。

1-2 ランダム分布の平均最近隣距離 ANN2

遺物Aが分布する同じ3D空間に遺物Aと同数のランダム点をプロットして、そのランダム点の平均最近隣距離をもとめ、これをANN2とします。

ANN2は密集性が存在していない、あるいは分散性が存在していない仮想的な分布状況の平均最近隣距離を表現していると考えることができます。

1-3 標準化された平均最近隣距離指標 ANN3

ANN1/ANN2を求めると、その値は標準化された平均最近隣距離指標となります。これをANN3とします。標準化された平均最近隣距離ANN3はその値が1より小さければ密集度合いを、1より大きければ分散度合いを表現します。同時にANN3を使えば、遺物数や3D空間の広さが異なる遺物種の間でも密集-分散度合いを比較して論じることができます。

2 骨(骨・歯)を例としたANN計測

2-1 骨分布資料等


統計分析用3D空間(骨分布3D空間)

骨分布は基本的に貝層中であり、泥層には分布しないので、統計分析用3D分布は全遺物分布3D空間ではなく、骨分布3D空間(≒貝層分布空間)としました。


骨3D分布(34050件)

2-2 骨のANN計測結果

骨ANN1 0.107

骨ANN2 0.151

骨ANN2 0.709

2-3 参考 骨のランダム分布平均最近隣距離(ANN2)算出法

次の近似式によりANN2を近似的に算出しました。

ランダム分布の平均最近隣距離期待値=0.554×(容量/サンプル数)1/3乗

容量:683㎥

サンプル数:34050

(容量/サンプル数)1/3乗:(683/34050)1/3乗=0.2717

ランダム分布の平均最近隣距離期待値:0.554×0.2717=0.151

2-4 土器・石器との比較

骨と土器・石器との平均最近隣距離を比較しました。


骨、土器、石器の平均最近隣距離

平均最近隣距離の標準化指標は土器<骨<石器となり、3つを較べると土器の密集性が最も高いことがわかりました。

遺物数が大きく違うので、Blender3Dビューポートで総観的に、その密集性を比較することは困難ですが、平均最近隣距離の標準化指標により土器が最も密集性が高いことがわかり、これは画期的な出来事です。

なぜ土器の密集性が最も高いのか、その理由を考えるなかで、遺物投棄活動と貝層における遺物流動に関する有力な仮説が生まれつつありますので、順次ブログ記事にしていくことにします。

遺物としての土器破片個体の重量が石器や骨より大きく、この要素が急斜面貝層における密集性に寄与していると考えるようになりました。

3 骨最近隣距離の基本統計

最小値 0.005m

最大値 2.043m

中央値 0.094m

平均値 0.107m

標準偏差 0.07


最近隣距離順位グラフ


2025年11月17日月曜日

土器の最近隣距離分布観察

 Observing the Distribution of Nearest Neighbor Distances for Pottery


I observed the 3D distribution of nearest neighbor distances for 17,481 pottery artifacts excavated from the shell layer on the northern slope of the Ariyoshi Kita Shell Mound. I created a distribution map by dividing the nearest neighbor distances between pottery artifacts into four sections using minimum, maximum, average, and standard deviation. From the pottery distribution, I observed four shell layer stratigraphic units and three distinct pottery concentrations.


有吉北貝塚北斜面貝層の出土土器17481件の最近隣距離3D分布を観察しました。分布図を土器間の最近隣距離を最小値、最大値、平均値、標準偏差を利用して4区分して作成しました。土器分布から貝層層位4単位と3ヶ所の顕著な土器集中が観察できました。

1 土器 最近隣距離3D分布

1-1 土器 最近隣距離0.007~0.098m


土器 最近隣距離0.007~0.098m

1-2 土器 最近隣距離0.007~0.098m、0.098~0.160m


土器 最近隣距離0.007~0.098m、0.098~0.160m

1-3 土器 最近隣距離0.007~0.098m、0.098~0.160m、0.160~0.258m


土器 最近隣距離0.007~0.098m、0.098~0.160m、0.160~0.258m

1-4 土器 最近隣距離0.007~0.098m、0.098~0.160m、0.160~0.258m、0.258~1.847m


土器 最近隣距離0.007~0.098m、0.098~0.160m、0.160~0.258m、0.258~1.847m

2 メモ

2-1 土器分布からみた貝層層位想定

4枚の土器分布図を観察して、土器分布の成層の様子から貝層層位を想定できました。下から、基底層、中層、上層、最上層に大別しました。精細にみればさらに細分できますが、北斜面貝層全体を概観する上で4層区分がふさわしいと考えました。


土器分布からみて貝層層位想定、顕著な土器集中

2-2 顕著な土器集中

顕著な土器集中が3ヶ所見つかりました。土器集中1は発掘調査報告書で詳しく記述されています。土器集中2と3は発掘調査報告書では記述されていません。

3ヶ所の土器集中ともにBlender3Dビューポートでよく観察して、いずれもガリー水流で運ばれてきて、その場が最終堆積場所になったと考えると合理的であると感じました。3ヶ所の土器集中は層位が異なりますから、顕著な土器堆積現象(大きな出水による土器運搬堆積)は3回あったことになります。発掘調査報告書で記述されている土器集中はその最初の事象です。


2025年11月16日日曜日

土器分布観察用テスト断面の予備検討

 Preliminary Study of Test Sections for Observing Pottery Distribution


I conducted a preliminary study of test sections for observing pottery distribution. From the pottery distribution, I found it possible to observe the shell layer stratigraphy, i.e., the slope shell layer and the channel shell layer/soil layer. The shell layer (soil layer) appears to be broadly divided into three layers: basal, middle, and upper.


土器分布の観察用テスト断面について予備検討をしました。土器分布から、貝層層位つまり斜面性貝層と流路性貝層・土層の様子を観察することが可能であることが判りました。貝層(土層)は基底層、中層、上層の3層に大区分できそうです。

1 断面土器分布から見た貝層層位感想


断面土器分布から見た貝層層位感想


断面土器分布

荒木・西野(2025)「有吉北貝塚北斜面貝層における3D空間分析用データベースの構築と活用」(千葉縄文研究会)を踏まえ、次の感想を得ることができました。

・斜面性貝層→流路性貝層→流路性土層と貝層(土層)が連続している様子を捉えることができます。

・貝層(土層)は下から基底層、中層、上層の3層に大区分できそうです。

・斜面貝層に無土器層が観察できます。

・斜面貝層の基底にはガリー侵食基底層が観察できます。

・流路性土層の上層には逆勾配の部分が観察できます。


参考 土器分布観察用テスト断面 平面オルソ投影


参考 土器分布観察用テスト断面 貝層分布図表示

2 土器分布観察用テスト断面と剥ぎ取り断面との関係


土器分布観察用テスト断面と剥ぎ取り断面との関係 1


土器分布観察用テスト断面と剥ぎ取り断面との関係 1(剥ぎ取り断面なし)


土器分布観察用テスト断面と剥ぎ取り断面との関係 2


土器分布観察用テスト断面と剥ぎ取り断面との関係 2(剥ぎ取り断面なし)


土器分布観察用テスト断面と剥ぎ取り断面との関係 3


土器分布観察用テスト断面と剥ぎ取り断面との関係 3(剥ぎ取り断面なし)

「土器分布観察用テスト断面と剥ぎ取り断面との関係」から、「1断面土器分布から見た貝層層位感想」の確からしさを視覚的に確認しました。

3 メモ

遺物3D分布の任意断面を作成できるようになりました。この技術により、遺物投棄特性や貝層発達の情報を詳しく得ることができる可能性が高まりました。