2016年6月21日火曜日

GISを使った房総古代分郡図の不合理理由検討

1 下総国郷名分布基礎データ作成

安房国分、上総国分にひき続き下総国郷名分布基礎データを作成しました。

元となるデータは「千葉県の歴史 通史編 古代2」(千葉県発行)付録「房総三国の郡・郷・里の変遷と比定地一覧」です。

GIS画面に郷名をプロットした結果は次の通りです。

下総国郷名分布

郷名をプロットしている時に分郡図の郡界線と郷プロットが合わないところがかなり見つかりました。

どうも現在使っている房総三国分郡図は「千葉県の歴史 通史編 古代2」(千葉県発行)付録「房総三国の郡・郷・里の変遷と比定地一覧」と同じ本に掲載されているにも関わらず、その検討成果が使われていないことが推察されますので、その理由を次に検討してみました。

2 房総三国分郡図(「千葉県の歴史 通史編 古代2」(千葉県発行)掲載)の不合理例とその理由

房総三国分郡図(「千葉県の歴史 通史編 古代2」(千葉県発行)掲載)は次の通りです。

房総三国分郡図(「千葉県の歴史 通史編 古代2」(千葉県発行)掲載)

この分郡図をGISにプロットして使っています。

地図を作る際の、あるいは転写する際に生じるズレ等の誤差はGISを使い込むとある程度わかります。それは問題にしません。

問題は転写等で生じるズレ等の誤差ではない、意味のある界線の不合理性です。

次に下総国海上郡を例に分郡図の不合理について検討します。

下総国海上郡の分郡界線と郷名プロット

この作業結果から次のような分郡図不合理がみつかりました。

その不合理を訂正して判明する下総国海上郡の領域を次に示します。

郷名プロットと合わない郡領域界線及び郷名プロットから推定できる郡領域

「千葉県の歴史 通史編 古代2」(千葉県発行)付録「房総三国の郡・郷・里の変遷と比定地一覧」は詳しく郷の場所を検討している最新データですから、それを基本に考えることにしています。

その場合の海上郡領域は古代の地勢(海陸分布)と一致していて、とても理解しやすいものです。

私が理解する海上郡の地形要素を次に列挙してみます。

下総国海上郡領域の交通面からみた地形要素

房総三国分郡図の郡界線の異常は地図転写作業の時に生じたズレなどの誤差ではなく、必ずその理由があるはずです。

その理由を探してみました。

いろいろな資料を探しているうちに、その理由が判明しました。

「千葉県地名変遷総覧(千葉県立中央図書館編)附録千葉県郷名分布図(邨岡良弼著日本地理志料による)」の図面の郡界線をそのまま転写して縮図したものが房総三国分郡図(「千葉県の歴史 通史編 古代2」(千葉県発行)掲載)であることが判りました。

邨岡良弼著日本地理志料は信用がおけない史料です。創郷(邨岡良弼がかってにあらたな郷を新設!)までしているのです。

郡と郷の詳しい分布図はとても魅力的ですから、これを縮図すれば房総の分郷図ができるのですが、あまり信用のおけない、限界がある資料です。

次に「千葉県地名変遷総覧(千葉県立中央図書館編)附録千葉県郷名分布図(邨岡良弼著日本地理志料による)」の下総国海上郡の領域界線をなぞってみました。

「千葉県地名変遷総覧(千葉県立中央図書館編)附録千葉県郷名分布図(邨岡良弼著日本地理志料による)」の下総国海上郡の領域界線

この地図をGISの地図とオーバーレイすると、不合理のある海上郡界線とほぼピタリと一致します。

GISの地図と千葉県郷名分布図のオーバーレイ

この検討で次のことが判りました。

●「千葉県の歴史 通史編 古代2」(千葉県発行)付録「房総三国の郡・郷・里の変遷と比定地一覧」は最新情報が表形式でまとめられている。

●「千葉県の歴史 通史編 古代2」(千葉県発行)掲載房総三国分郡図は明治時代の誤りに満ちた情報をそのまま転写して作成している。最近の検討成果は全く生かされていない。

従って、次のようなアクションを予定したいと思います。

●現代最新情報をまとめた「千葉県の歴史 通史編 古代2」(千葉県発行)付録「房総三国の郡・郷・里の変遷と比定地一覧」のGISプロット結果に基づいて、地勢(地形、主に流域界)との関係を見ながら、私家版分郡図を新たに作成する。

なお、「千葉県の歴史 通史編 古代2」(千葉県発行)掲載房総三国分郡図の界線の細かい分布(凸凹、ぐにゃぐにゃ)は結局は明治時代の村界線(現在の大字界線)を利用したものです。

しかし、古代の郷界線(というものがあればの話ですが)を明治時代の村界線が踏襲しているという保証はどこにもありません。

従って、「千葉県の歴史 通史編 古代2」(千葉県発行)掲載房総三国分郡図の界線の細かい分布(凸凹、ぐにゃぐにゃ)は情報にもっともらしさを与えて権威を付けるという効果はありますが、それ以上の意味はあまりないと思います。

海上郡でいえば、上記図で描いた「郷名プロットから推定できる海上郡の領域」界線の方が、得られている情報のレベルを誠実に表現することになると考えます。


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