1 位置
上谷遺跡D268土坑の位置
台地と台地崖の境付近の日当たりの良い場所にあります。
2 報告書の記載
長軸3.66m×短軸3.56m×深さ2.88m。平面形は円形である。壁は垂直に近く、坑底には十文字に溝が掘り込まれていた。
また、壁際に全周して溝が巡っていた。
坑底から0.30m程度の高さに焼土と炭化材を認め、坑底から壁に炭化したカヤ材が貼付く様に出土している。
更に坑底から0.70mの高さに焼土を認めた。
覆土は複雑な堆積状況を示すが、大きく1~4層、11層~36層、37~45層に捉えられており、人為的な投入によって埋没したと判断した。
遺構調査図
遺構写真
(文中の番号D269は報告書の過誤)
3 D268土坑用途の推定 カヤ実の処理機能付き貯蔵庫
3-1 用途推定をするにあたっての大前提
報告書記載で「坑底から壁に炭化したカヤ材が貼付く様に出土している。」という記載があります。
この「カヤ材」が「かや(茅、萱)」つまり屋根をふくためなどにつかうススキ、チガヤ、スゲなのか、「かや(榧、柏、栢)」つまりイチイ科の常緑高木を意味しているのか不明です。
写真 (5)はそれを示そうとしているのかもしれませんが、報告書の記述を読むかぎり「かや」がどちらを指しているのか不明確です。
この記事ではかやが榧であり、実がなる常緑高木の意味であると理解して、D268土坑の用途を推定します。
もし、カヤが草ならば、また違った用途推定と説明になります。
カヤが何を指すのか関係者に問い合わせたいと思います。
3-2 カヤ(榧)出土からカヤ実貯蔵を推定する
坑底には周溝及び十字の溝があります。
それは水分と物を分けるための排水機能であると考えられますから、この土坑は物の貯蔵等が目的であったと考えられます。
「坑底から壁に炭化したカヤ材が貼付く様に出土している」ほどなのですから多量の榧がそこに存在していたことがわかります。
榧からは実が採れ、その実は食することができると同時に、良質の油を生産することができます。
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『平凡社 改訂新版 世界大百科事典』 日立ソリューションズから引用
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こうした情報からD268土坑はカヤ実の貯蔵庫であったのではないかと推定します。
3-3 土坑のカヤ実処理機能
土坑にカヤ実を貯蔵する意味は、果肉ごとこの土坑で貯蔵することによって果肉を腐らせ、一定時間後に取り出して硬い殻付き種子だけにする工程処理が行われていたのではないかと想定します。
子どものころ、銀杏を拾い、それを土に埋めて臭いのきつい果肉を腐らせ、殻付き種子だけを取り出して洗って食べた経験がありますから、同じようなことが行われたと考えます。
この土坑は単純な保管庫ではなく、大量のカヤ実の果肉を効率的に取り除くという高機能装置であったと考えます。
3-4 土坑設置場所の意味
果肉を効率的に腐らせるために、その場所が日当たりのよい場所に立地していると考えます。
またその付近は臭いですから台地面はずれに立地させたと考えます。
さらにいえば、残った殻付き種子を谷津の水路で洗うための便を考慮して崖付近に立地させたのだと思います。
4 覆土から出土する転用燈明皿の意味
覆土が大きくは3層に分かれ、遺物出土は上層が多くなっています。
D268土坑出土遺物
遺物に燈明皿転用坏が3つ含まれ、さらに「破換面」が摩滅している坏(片)が7点出土しています。
摩滅している土器片ということですから、土器片として長期間使い込まれてきていることを示しています。
摩滅している土器片とは燈明皿として使っていた可能性を考えることができます。
これらの出土物から次のような土坑の歴史と廃絶時状況を推察します。
●D268土坑はカヤ実の果肉除去機能装置として利用された。
●カヤ実から採れる油は燈明皿を使って夜間照明に使われた。
●土坑内環境の悪化をリセットするために坑内焼却などが行われた。(焼土の存在)
●土坑は繰り返し利用され、堆積物で浅くなった。(下層、中層の存在)
●土坑が浅くなって使えなくなったとき、廃絶の儀式が行われ、使っていた燈明皿をもちより、感謝の念を込めて土坑に投げ込み埋めた。
もし、カヤが草のカヤなら、別のストーリーを考えます。
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