2016年10月8日土曜日

墨書文字釈文の不確かさの表記方法

上谷遺跡発掘調査報告書を学習する中で、墨書文字釈文の不確かさの表記方法が、一般的なものではなくローカルなものであることに気が付きましたので、メモしておきます。

墨書土器に関するデータは千葉県墨書土器データベース(明治大学、WEBで公表)が充実しています。

そのため、上谷遺跡における墨書土器検討も千葉県墨書土器データベースをGISデータベース化して使っています。

さて、上谷遺跡には俘囚や奴婢など社会の下層に位置する住民がいたのではないかと想定しています。

2016.10.05記事「上谷遺跡 竪穴住居の機能・利用が2分割できそう」参照

一方、上谷遺跡墨書土器から「囚」という文字が出土しています。


釈文 囚 の墨書土器

想定する俘囚と文字囚が同じ文字ですから、大いに気になります。

発掘調査報告書のデータも同じです。

ただし、上記データの図像をよく見ると、人の周りに□(四角形)はありません。

そこで、八千代市立郷土博物館を尋ね、研究員の方にお話しをきいてみました。

現物を見なければなんともいえないが、もしかしたら、漢字の囚(クニガマエに人)ではなく、四角形と漢字人の組み合わせかもしれないとのことでした。

結論は出ませんでしたので、釈文「囚」の墨書土器現物の閲覧を申し込みました。



その後、発掘調査報告書を子細に読むと、別の釈文表記から、この「囚」と見えて表記が□(四角形)に人の合成図像であることが判明しました。

次に、上谷遺跡発掘調査報告書におけるローカルな釈文解釈表記方法を推定してまとめました。

上谷遺跡発掘調査報告書におけるローカルな釈文解釈表記方法

つまり釈文が不確かなものはその漢字を四角形で囲うという表記方法がとられていたのです。

そのローカルな表記方法をわきまえて、千葉県墨書土器データベースではそれを「万ヵ」など一般的表記に変換していたのです。

しかし、「囚」については、その漢字が存在するので変換されなかったということです。

上谷遺跡発掘調査報告書の釈文はこれまで勘違いして読んできていたので、これからは正確に読まなければならないということです。

上谷遺跡 A133竪穴住居遺物観察表


上谷遺跡発掘調査報告書のようなローカルな釈文表記方法は、門外漢の私は、考古学専門世界の中で大変不便であるに違いないと推察します。

このブログでは「万に□」の墨書を検討しています(*)が、もしそれが上谷遺跡で出土すると、上谷遺跡発掘調査報告書ではどのような表記になるのでしょうか?

*2016.08.13記事「参考 墨書文字「万」が構成する熟語」参照
 
上谷遺跡発掘調査報告書の釈文表記方法のあいましさ

上谷遺跡発掘調査報告書は、素晴らしい発掘調査作業を行っていますが、釈文表記方法ではあいまいさが濃い報告書です。

なお、全国の墨書土器をみると、文字を□で囲う墨書は多数あります。

釈文に万が含まれる墨書土器文字

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