2017年4月14日金曜日

大膳野南貝塚 前期後葉集落 獣骨出土の意味

1 獣骨出土に関する発掘調査報告書の分析
千葉市大膳野南貝塚発掘調査報告書では前期後葉集落の獣骨出土について次のような分析を行っています。
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イノシシ
出土部位の偏りを見ると、上顎骨や下顎骨および遊離歯は多く出土しているが、四肢骨の出土量は少ない。
これはシカの場合も同様である。
シカの上腕骨遠位部にイヌの咬みキズが明瞭に残されている例があり写真に示した。
シカ 上腕骨遠位部(イヌの咬み痕多い)

これらの他にもイヌの咬みキズを持つ骨が多く見られることから、この遺跡のシカやイノシシの骨はイヌの餌にされていたと推測される。
四肢骨が少ないのは、それらがイヌに与えられたためであろう。
なお、骨に咬みキズを加えた動物が何であるかの判断は、ネズミでは切歯の形態、イヌ科では犬歯や上下の裂肉歯の形から推定したものである。
イヌは肉片の付いた骨を与えられても骨そのものを食べるのではなく、骨を齧って骨膜や軟骨・骨髄を食べるのであって、その結果、骨の腐食・消滅を促進していたことになる。

なお、J97号住居址出土のイノシシを主体とする動物骨の集中について、船橋市取掛西貝塚に見られるような儀礼的な取り扱いではないかという問題がある。
これについては、出土状態を見ると、J97号住居址の例では頭蓋骨や下顎骨の出土状態に意図的な配列が見られない。
不規則な散乱状態で出土しているように見える。
このことから、J97号住居址のイノシシやシカの出土例は、儀礼的な扱いを受けていないと判断した。

シカ
シカの骨では、イノシシと同様に頭部の骨に比べて四肢骨の出土量が少ない。
この点については、写真で示したようにイヌの咬みキズが多くのこされている上腕骨が出土していることから、イノシシとともにシカの肉付きの骨がイヌの餌になったためと思われる。
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イノシシ、シカともに四肢は狩のパートナーである犬に与え、それ以外の部位について人が食べたこと、及び獣骨最多出土竪穴住居J97のイノシシ頭骨集中出土は儀礼的な扱いを受けていないことが分析結果として述べられています。

2 獣骨出土の意味
竪穴住居を対象に土器出土量と石器出土量を類型区分し、そこに獣骨出土量が判るように竪穴住居をプロットしてみました。

大膳野南貝塚 前期後葉集落 土器・石器出土量と獣骨出土量の関係

参考 大膳野南貝塚 前期後葉 獣骨出土量

この分析から次の事実が判ります。

1 土器出土量、石器出土量ともに多い竪穴住居は1軒だけ(J56)であるが、ここから獣骨は多量に出土する。
2 土器、石器ともに一定以上の出土量がある竪穴住居は11軒あるが、そのうち獣骨が多量に出土するのは1軒(J10)だけである。
3 土器は一定以上出土するが石器の出土がない竪穴住居は1軒だけ(J97)であるが、ここから獣骨が多量(最多)に出土する。
4 土器が極少あるいは完全に出土しないで、石器の出土もない竪穴住居は3軒あり、いずれも獣骨は出土しない。

この事実から獣骨出土の意味を次のようにイメージ(連想)します。
1 土器・石器の出土は主人が死亡して竪穴住居が廃絶した時、故人を送る祭祀で持ち込まれたお供え物であると考えます。その量は集落内における故人のステータスの高さに、比例すると考えます。

2 獣骨出土も故人を送る祭祀で集落社会が故人と供食した動物の骨を土器・石器とともに持ち込んだものであると考えます。

3 J56は土器・石器出土量が最も多く、集落リーダーの送り祭祀跡と考えると、そこから獣骨が多量に出土することは合理的に理解できます。

4 土器・石器ともに「有」の竪穴住居は全部で11軒あり、集落中堅構成員の送り祭祀跡であると考えます。この中で獣骨が多量に出土するJ10は集落中堅構成員の中でもリーダーに準じる身分の人間であったと考え、その準リーダーの送り祭祀では狩猟動物を供食し、他の構成員の送り祭祀では供食は少なかったあるいは無かったと考えることができます。

5 J97は石器という生業に関わる遺物が皆無であるにも関わらず、土器は中テン箱1箱出土していて、集落の中の特殊構成員の送り祭祀跡であると考えます。生業に関わる遺物(石器)をお供え物にしていない状況から故人がシャーマンであったと考えると、その送り祭祀で狩猟動物の供食が多数回行われて、獣骨出土が最多になったと考えることが可能です。

6 土器出土量が極少あるいは無、石器出土量無の竪穴住居3軒は故人送り祭祀がほとんど行われなかった竪穴住居であると考えます。故人の集落内身分が低かったり、集落が消滅した時の最後家族の住居であったと考えます。

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