2018年6月19日火曜日

縄文遺構出土貝殻の態様

「大膳野南貝塚学習中間とりまとめ 5 貝殻・獣骨・土器片出土の意義」のとりまとめのために若干の補足作業を行います。この記事では貝殻について補足作業を行います。

1 貝殻の出土が完形貝だけではないという事実に着目する
大膳野南貝塚発掘調査報告書を繰り返し読むと、貝層、地点貝層、竪穴住居、土坑などから出土する貝殻は完形貝だけではなく破砕貝、漆喰が登場します。発掘調査報告書記述では破砕貝出土箇所が多いため完形貝出土が特記事項になるほどです。
貝殻の3態様…完形貝、破砕貝、漆喰の様子を観察すれば貝殻出土意義の一端が判る可能性があり、着目することにします。
破砕貝とはイボキサゴやハマグリを砕いたものです。わざわざ貝殻を砕くという労力を投入してつくる産物ですから、それを使うことには必ずや解釈可能な意味があると考えます。
さらに漆喰とは貝殻を砕いて粉にして焼いて、それに水を加えたものです。破砕貝以上に労力とエネルギーを投入してつくった産物です。漆喰を使うことは破砕貝以上に特別な意味があるはずです。
このような観点から貝殻出土について観察分析すれば、縄文人の活動の一端を解明・解釈することができると考えます。

2 土坑を例とした貝殻3態様の出土状況
後期集落土坑を例に貝殻3態様の出土状況の統計をとりました。

貝殻態様別土坑数 1(重複有)
貝殻が出土する土坑は全部で78ありますが、そのうち破砕貝が出土する土坑が63(約80%)、完形貝が出土する土坑が36(約46%)、漆喰が出土する土坑が12(約15%)となります。
完形貝が出土する土坑よりも破砕貝が出土する土坑の方がはるかに多いという事実は大変興味深いものです。
この統計をより詳しくみると次のようになります。

貝殻態様別土坑数 2
貝殻の出土とはイボキサゴやハマグリの破砕貝出土を最初にイメージすべきであり、完形の姿の貝殻出土はむしろ少数派であるということになります。
縄文人は貝殻を遺構に収めるとき、完形の貝を収めるよりも、それを砕いて白いパウダー状の製品にして収めたことの方が多いということになります。
遺跡全体における完形貝と破砕貝の量的割合はまだわかりませんが、土坑を例にすると、土坑数という統計では破砕貝が完形貝を圧倒します。

3 遺構断面における貝殻3態様の様子
土坑と竪穴住居をそれぞれ1例取り出して貝殻3態様の分布をみてみました。
3-1 土坑断面における貝殻3態様の様子

146号土坑 貝殻の態様
貯蔵土坑が廃絶祭祀により貝殻堆積した例です。
下層では漆喰がわずかに出土し、中層では2層に分かれて完形貝が出土し、上層では破砕貝が蓋をするような形状で出土します。
漆喰という特別な製品が最初に投入されたことには意味があると考えます。
ついで、土坑を充填する本体は完形貝、蓋をするのは破砕貝というイメージを持つことができます。
なお、まだデータにしていませんが、破砕貝と完形貝が同時に出土する土坑の多くで破砕貝が蓋のように堆積していることが観察できます。
破砕貝と完形貝はむやみやたらに投入されたのではなく、一定の順番で、つまり儀式の順番に則り投入されたことが判ります。

3-2 竪穴住居断面における貝殻3態様の様子

J77竪穴住居 貝殻の態様
見やすいようにデフォルメした断面に色を塗っています。
この竪穴住居では漆喰貼床・漆喰炉があり、その上に完形貝が乗り、最上部の一部(柄鏡形住居の張出部と本体を結ぶ付近)に破砕貝が乗ります。
破砕貝が儀式の最後に投入されたことは146号土坑と同じであり、破砕貝の意義を考える上で重要な情報です。
漆喰貼床・漆喰炉は祭祀を実行するために貼られたもの、あるいは祭祀行為として貼ったものであると考えています。
白い床を漆喰でつくり、炉を漆喰で埋めつくし、その場で祭祀を行い、さらにその場を完形貝で埋め尽くし、最後に破砕貝の白パウダーを投入したというプロセスを観察できます。

4 感想
縄文人にとっての貝殻は祭祀において清め機能を有する重要なモノであったと考えます。それを製品化して効能を増幅させたものが破砕貝(白いパウダー)と漆喰(祭祀の場を白くするための固化材)であったと考えます。
完形貝を製品(破砕貝、漆喰)にすることで純白をつくることができ、清め機能増幅と神聖性演出ができたと考えます。



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