2021年7月1日木曜日

「土偶を読む」を読む

 竹倉史人著「土偶を読む」(2021、晶文社)を読みました。とても興味深い図書で考えさせられることがいろいろありましたので、感想をメモします。


竹倉史人著「土偶を読む」(2021、晶文社)

1 人類学者による土偶研究

考古学者による土偶研究ではなく、人類学者による土偶研究という点でこの図書は異色の研究だと思います。人類学者が土偶という考古発掘成果物を研究対象にしたこと自体に興味が湧きます。同じ土偶を扱っても考古学者と人類学者では研究の視点、手法が異なることは当然です。また得られる結果も同じようになるとは限りません。むしろ異なる見解が生まれることの方が健全です。土偶は考古学手法によって発掘整理されますが、それは社会的文化財になりますから、人類学者、神話学者、心理学者等の分野からも研究対象になることが社会全体の知性向上になると思います。

2 土偶は読むことができる

著者は土偶は読むことができる、土偶は一つの「造形言語」であり、文字の無かった縄文時代における神話表現の一様式であると述べています。自分は正にその通りと考えます。(自分は、著者の言葉を借りれば土偶のみならず土器も「造形言語」だと考えます。)なお、土偶は読む対象ではないとか、あるいは土偶を読んでもそれは実証できないのだから意味がないと考えるならば、この図書の記述は荒唐無稽に感じることになります。

3 植物の人体化

著者は植物の人体化(アンソロポモファイゼーション、anthropomorphization)という概念で土偶を観察して、土偶とは植物に手と足がついたものであると論じています。その論は世界で初めてであるとしています。

この図書では「植物の人体化」概念を土偶に当てはめたこの研究が、土偶研究の地平を新たに切り開くものであるのか、それとも単なる思いつきレベルの研究であるのか、その判断を読者に挑発的に委ねています。

4 土偶プロファイリング

9種の土偶について植物の人体化概念を当てはめて検討しています。最初のハート形土偶がオニグルミに酷似するという論は、自分は無意識的に反発するのではないかと意識が予想したのですが、結果は、「それもあるかもしれない」という感想を持ちました。


ハート形土偶とオニグルミ

竹倉史人著「土偶を読む」(2021、晶文社)から引用


驚くほどの形態の近似

竹倉史人著「土偶を読む」(2021、晶文社)から引用


驚くほどの形態の近似

Photoshopニューラルフィルター機能によるカラー化

しかし、読み進めるに従って「それはいくらなんでも違うんじゃない」という感想も幾つか浮かびます。同時になるほどと思うことも多々あります。

5 感想

著者の提示する事例を全部首肯できないですが、事例全部の完全否定もできません。むしろ植物の人体化概念のもっともらしさを感じるようになります。

土偶は女性のつくったものであり、植物採集が女性の仕事であったということを考えると、土偶に植物の人体化概念を当てはめることは魅力的仮説思考です。

この図書内容は、土器や土偶を扱う考古研究者の興味(分類、編年)とは離れています。つまりこの図書は考古学専門図書ではありません。あくまでも人類学図書です。そうした前提を踏まえて、この図書をさらに深く検討することを楽しむことにします。


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