2021年7月22日木曜日

奈良文化財研究所の文化財総覧WebGISを試用してみる

 奈良文化財研究所の文化財総覧WebGISを試用してみました。きわめて充実したGISシステムであることがわかりました。全国を対象に、検索機能を駆使して奈良文化財研究所が集成所持している考古データベースから必要な情報を抜き出し、分布図にすることができます。背景地図は地理院地図の多くの地図が利用できますからとても便利です。

1 データソース

各種文化財・遺跡DB(奈文研)500269件と遺跡抄録110497件の合計610766件がデータソースとなっています。(2021.07.22)

2 検索項目

次の項目で検索できます。

・データソース

・都道府県

・種別

・時代

・フリーワード(文化財名・遺跡名、主な遺構、主な遺物、特記事項・要約)

3 背景地図

デフォルトでは「地理院地図(単色地図)」100%+「傾斜量図」80%になっています。次の背景地図が使えます。

                地理院地図(標準地図)

                地理院地図(単色地図)

                地理院地図(白地図)

                地理院写真(全国最新写真)

                空中写真・衛星画像(2007年〜)

                簡易空中写真(2004年〜)

                国土画像情報(第4期 : 1988〜1990年撮影)

                空中写真(1961〜1969年)

                空中写真(1945〜1950年)

                色別標高図

                傾斜量図

                活断層図(都市圏活断層図)

                治水地形分類図 初版(1976〜1978年)

                明治期の低湿地

                地質図(産総研地質調査統合センター)

                奈文研空中写真(1955〜1962年)

                遺構図(平城宮跡)

                地形図(平城京跡:1955〜1962年)

                兵庫県CS立体図

(防災関連の背景地図がさらに多数追加されるようです。)

これらの多様な背景地図が使えることにより、文化財情報の分析を効果的に進めることができます。「文化財総覧WebGIS」のGIS機能の主な意味はこの多様な背景地図にあるといえます。例えば「空中写真(1961〜1969年)」を背景地図に使えば、高度成長期開発前の地形と遺跡との関係を見ることができるので便利です。


貝塚分布と背景地図「空中写真(1961〜1969年)」1

4 GIS操作の特徴

ズームが簡単にでき、対象物表示が個別表示及び統計的表示(円グラフ的表示)に変化します。


貝塚分布と背景地図「空中写真(1961〜1969年)」2


貝塚分布と背景地図「空中写真(1961〜1969年)」3(空中写真の範囲がピンクで表示されている)


貝塚分布と背景地図「空中写真(1961〜1969年)」4(空中写真の範囲がピンクで表示されている)

(北海道の貝塚情報はまだとりこまれていないようです。)

回転及び斜め表示ができます。


千葉県回転表示(全遺跡 空中写真・衛星画像(2007~))


千葉県斜め表示(全遺跡 空中写真・衛星画像(2007~))


全国斜め表示(貝塚、古代以前+古代 空中写真・衛星画像(2007~))

(北海道の貝塚情報はまだとりこまれていないようです。)

5 遺跡情報が超充実

自分が現在学習中の有吉北貝塚を例にとると、千葉県公開情報(ちば情報マップ 埋蔵文化財包蔵地)のテキスト情報とくらべて文化財総覧WebGISのテキスト情報は超充実しています。地元より中央のデータベースの方が充実しているという現象に戸惑います。


ちば情報マップの有吉北貝塚検索画面

テキスト情報

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遺跡名

有吉北貝塚

よみがな

アリヨシキタ

所在地

千葉市緑区有吉町730

種別

包蔵地、集落跡、貝塚、生産

時代

旧石器、縄文(早・前・中・後)、古墳(後)、平安、中世

立地・現状

台地上、台地斜面・造成地、公園

遺構・遺物

点列環状貝塚、住居跡、小竪穴、土坑、斜面貝層、小鍛冶跡、道路状遺構、火葬墓、中世墳墓、土壙墓・溝・旧石器(掻器)、縄文土器(茅山・諸磯・浮島・阿玉台・勝坂・中峠・加曽利E・称名寺)、土師器、須恵器、中近世陶磁器、石器、石製品、土器片錘、骨角器、貝器、鉄製品、和鏡、貝、鳥獣骨、魚骨、人骨

文献

抄59~62、文256.257

備考

S58~62年調査、一部消滅

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文化財総覧WebGISの有吉北貝塚検索画面

テキスト情報

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名称(漢字) 有吉北貝塚

名称(かな) ありよしきたかいづか

RecNo 239771

時代・遺跡種別 集落|貝塚

主な時代 旧石器|縄文|古墳|奈良|平安|中世(細分不明)|近世(細分不明)|不明

遺物概要 県センター報325(古墳-土師器+須恵器+土製品+鉄製品+羽口+鉄滓/中世-銅製品+植物遺存体(炭化種子))。 県センター報324(旧石器-石器/縄文(早期から後期)-縄文土器+石器+土器片錘+骨角歯牙製品+土製品(円盤+耳飾+耳栓)+貝製品)。 県文化財地図、旧石器-掻器/縄文(早期+前期+中期+後期)-縄文土器(茅山式+諸磯式+浮島式+阿玉台式+勝坂式+中峠式+加曽利E式+称名寺式)+石器+石製品+土器片錘+骨角器+貝器+動物遺存体(貝+鳥(骨)+獣(骨)+魚(骨))/古墳後期+平安-土師器+須恵器+鉄製品+和鏡/中世から近世-陶磁器/不詳-人骨。 旧石器2010、旧石器-ナイフ形石器+角錐状石器+槍先形尖頭器+スクレイパー+使用痕のある剥片+石刃ほか。

遺構概要 県センター報325(古墳-竪穴建物97+小鍛冶2+屋外炉6+土坑2+粘土採掘坑1+竪穴1+溝1/奈良から平安-竪穴建物5+火葬墓1/中世-土壙群+ピット群+竪穴5+土壙墓1+地下式壙3+掘立柱建物2+柵列遺構1+溝2/近世-落とし穴9+溝14/時期不明-竪穴建物6)。 県センター報324(旧石器-石器集中6/縄文早期-炉穴25+落とし穴12/縄文前期-土坑1+埋設土器1/縄文中期-竪穴建物168+土坑770+斜面貝層5+埋設土器2/縄文後期-竪穴建物1+土坑2+斜面貝層)。 県文化財地図、集落+貝塚+生産。都川水系。縄文(早期+前期+中期+後期)-点列環状貝塚+斜面貝層/中世-道路+墓/不詳-竪穴(小型)。<立地>台地上+台地斜面。<現況>造成地+公園。<保存状況>一部消滅。 旧石器2010、標高40m。旧石器-石器集中。

その他概要 県台帳865。県抄報昭和59年度・昭和60年度・昭和61年度・昭和62年度。「有吉北貝塚 1」(『千葉東南部ニュータウン』19、1997)。「有吉北貝塚 2」(『千葉東南部ニュータウン』20、1997)。県センター報325-1998.3。県センター報324-1998.3。県文化財地図1999、47-11。日本旧石器学会『日本列島の旧石器時代遺跡』(2010)。

発掘概要 千葉県東南部地区区画整理事業。 県文化財地図、1983年から1987年調査。

都道府県コード 12

所在地コード 12105

所在地 千葉県千葉市緑区有吉町730/731/おゆみ野2丁目ほか

世界測地系東経 1401028.2

日本測地系東経 1401030.8

世界測地系北緯 353341.7

日本測地系北緯 353325.4

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文化財総覧WebGISは文献情報がとても充実しているといえます。自分は、今後遺跡の基礎資料を得る作業では、最初に文化財総覧WebGISを利用することになります。

6 使えない機能

文化財総覧WebGISを試用してみて、次の機能は装備されていないようです。

●データベースダウンロード機能

検索した情報のダウンロードはその内容及び位置情報ともにダウンロードできません。従って地理院地図とかQGISとかで分布情報を再利用することは困難です。

(個別遺跡の位置情報を得たり、テキスト情報をコピーすることはできます。)

●情報追記機能

地理院地図では情報追記ができますが、文化財総覧WebGISでは出来ません。

7 参考


文化財総覧WebGISの紹介新聞記事(日経2021.07.21夕刊)


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