2021年12月27日月曜日

「第二の道具」としてのマダカアワビ貝刃

 Madaka abalone shell blade as a "second tool"


Observe the blade of the madaka abalone shell blade in detail at the Chiba Municipal Folk Museum "Chiba City Archaeological Excellent Material Exhibition" with a 3D model. Although the practical function as a large kitchen knife can be confirmed, the essence is assumed to be the "second tool" in cooking rituals.

[madaka abalone shell=Haliotis (Nordotis) madaka]

["second tool"=implements used in rites and rituals]


千葉市立郷土博物館「千葉市出土考古資料優品展」で展示されているマダカアワビを3Dモデルで観察しました。

2021.12.24記事「真珠干渉色に輝く大形アワビ(千葉市大膳野南貝塚)を3Dモデルで観察する

3Dモデルでさらに細部を観察しているなかで、この製品の意義についての思索が深まりましたのでメモします。

1 全体形状

3DモデルからGigaMesh Software Frameworkで6面図を作成しました。


マダカアワビ貝刃 6面図

webでマダカアワビ写真を多数収集し、その形状とこの6面図を比較してみました。比較の結果刃部が極端にすり減っているということは確認できませんでした。このアワビ製品は採集されたときの形状とあまり変わらないことが判りました。

2 断面形状

3Dモデルを切断して発掘調査報告書掲載断面形状を確認しました。


3Dモデル断面形状

3 刃部の観察

発掘調査報告書では刃部の位置を記載しています。


大膳野南貝塚発掘調査報告書掲載 1号屋外漆喰炉出土貝製品

この刃部を3Dモデルで観察すると、内面の厚い真珠干渉色層の表層の一部が剥落していることがわかります。刃部以外にこの剥落はありませんから、刃部がモノの切断等に実際に使われたことが確認できます。


刃部


刃部拡大

なお、刃部の刃渡りは17.3㎝になります。一般的なハマグリ貝刃の刃渡りは9㎝程度ですから、マダカアワビ貝刃は刃渡りが倍近くになります。


マダカアワビ貝刃の刃渡り

4 マダカアワビ貝刃の出土状況

マダカアワビ貝刃の出土場所


大膳野南貝塚発掘調査報告書から引用

マダカアワビ貝刃は大膳野南貝塚のメイン屋外漆喰炉から出土しています。屋外漆喰炉における調理活動とこのマダカアワビ貝刃が関連していることは確実です。

5 マダカアワビ貝刃の意義

大膳野南貝塚の漁場である村田川河口では、当時、このマダカアワビを採ることはできないと考えます。東京湾口など遠方から交易で入手した宝物であると考えます。真珠干渉色で光り輝くこのアワビを巨大貝刃に仕立て上げて特別な調理活動で使ったのだと想像します。その特別な調理活動とは祭祀で使う料理、より直接的には神に捧げる料理をつくる時の包丁であったと想像します。神にささげる料理を作る際にマダカアワビ製の光り輝く大包丁を使い、その料理を神に捧げたあと、集落構成員全員でそれを食べたのだと思います。

刃部の磨耗がアワビの形を変えるほどに進んでいないので、包丁(貝刃)といっても実用物というより祭器という側面の方が強かったのだと思います。マダカアワビ貝刃は「第二の道具」であると考えます。

マダカアワビ貝刃が屋外漆喰炉から出土した関係(遺物-遺構関係)は、異形台付土器・土偶・石棒等が大型住居(特殊遺構)から出土する関係(遺物-遺構関係)と相似的です。屋外漆喰炉でマダカアワビ貝刃を使って料理祭祀が挙行されたこと、大型住居(特殊遺構)で異形台付土器・土偶・石棒等を使って各種祭祀が挙行されたことが推察できます。


加曽利貝塚112号住居跡の出土遺物分布

「史跡加曽利貝塚総括報告書」(2017、千葉市教育委員会)から引用


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