Jomon pottery 3D model analysis Relationship between height / capacity and type / pattern
I have summarized the 3D model analysis of Jomon pottery. I analyzed the relationship between the height / capacity of pottery and the type / pattern of pottery in a predictive manner, and obtained useful information that will contribute to increasing learning motivation in the future.
「2022年2月~5月の縄文土器学習記録」と銘打って今年2月以降の縄文土器学習の要点を記録としてまとめています。この記録は次のような目次を予定しています。
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1 はじめに
2 これまでに開催された企画展「あれもE…」と学習の概要
3 令和3年度企画展「あれもE…」と学習活動
3-1 展示土器の3Dモデル作成と観察
3-1-1 観覧と写真撮影
3-1-2 3Dモデル作成とGigaMesh Software Framework展開
3-1-3 3Dモデルによる土器観察
1)意匠充填系土器
2)入組系横位連携弧線文土器
3)対向系横位連携弧線文土器 外
3-2 3Dモデル分析
3-2-1 3Dモデル分析の目的
3-2-2 3Dモデル分析の作業フロー
3-2-3 3Dモデル分析の方法
1) 3Dモデル実寸法付与方法
2) 器形の仮想復元
3) 器高と容量の計測方法
3-2-4 器高と容量の計測結果
3-2-5 器高と容量を指標とした土器分類
3-2-6 器高容量土器分類と土器型式・文様分類との関係
1) 容量類型区分の型式別表示
2) 容量類型区分の文様別表示
3-2-7 考察
3-3 興味を覚えたテーマ(講演会含む)
3-4 習得した3Dモデル関連技術
3-5 感想
4 今後の学習について
4-1 令和4年度企画展開催までの学習活動
4-2 令和4年度企画展にかかる学習活動
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この記事では次の目次部分を掲載します。
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3-2 3Dモデル分析
3-2-1 3Dモデル分析の目的
3-2-2 3Dモデル分析の作業フロー
3-2-3 3Dモデル分析の方法
1) 3Dモデル実寸法付与方法
2) 器形の仮想復元
3) 器高と容量の計測方法
3-2-4 器高と容量の計測結果
3-2-5 器高と容量を指標とした土器分類
3-2-6 器高容量土器分類と土器型式・文様分類との関係
1) 容量類型区分の型式別表示
2) 容量類型区分の文様別表示
3-2-7 考察
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3-2 3Dモデル分析
3-2-1 3Dモデル分析の目的
2019年2月頃から始めたフォトグラメトリ技術習得活動の中で、これまでに3Dモデルを約850点Sketchfabに投稿し、そのうち縄文土器3Dモデルは約650点になっています。この3Dモデルを単に文様を観察するだけに活用するのはもったいない、贅沢過ぎると感じるようになりました。折角手間暇かけて作成した3Dモデルでするから自分の趣味活動の中でもっと有効活用したいと思うようになりました。そこで今回の縄文土器学習のなかで器高等の大きさと容量を計測してデータを作成し、そのデータと土器型式や文様分類との関係を考察してみることにしました。この関係を分析してみるとどうようなことが判る可能性があるのか見てみようという予察的検討です。特定の結果を目指す分析ではなく、ともかく手を動かして分析してみよう、分析すれば次の活動に参考となる情報が生まれるかもしれないという算段です。
3Dモデル分析の対象は加曽利貝塚博物館R3企画展「あれもE…」展示土器18点と同館常設展展示土器等4点の合計22点としました。
3-2-2 3Dモデル分析の作業フロー
3Dモデル分析の作業をフローでまとめると次のようになります。
3Dモデル分析の作業フロー
3-2-3 3Dモデル分析の方法
1) 3Dモデル実寸法付与方法
3Dモデルから器高や容量を計測するためには3Dモデルに実寸法を付与しなければなりません。そのために加曽利貝塚博物館R3企画展「あれもE…」関連撮影では全てスケール(ファイバー製折尺)を写し込み、3DF Zephyr Liteで実寸法を付与しました。
スケールを写し込んでいる様子
参考 How to scale and make measurements with Zephyr Free And Lite
なお、この操作は写真測量活動そのものですから、得られる結果の精度が高いものであることは当然です。
2) 器形の仮想復元
3Dモデルを作成した展示土器のうち次の土器は底部が省略されているため、部分的にしか復元されていません。そのためこれらの土器底部について仮想的に復元しました。
・加曽利EⅢ式深鉢(No.26)(千葉市芳賀輪遺跡)
・加曽利EⅤ式・称名寺式深鉢(No.37)(千葉市餅ヶ崎遺跡)
・称名寺Ⅰ式深鉢(No.11)(千葉市海老遺跡)
・称名寺Ⅰ式深鉢(千葉市加曽利西貝塚)
・称名寺Ⅰ式深鉢(No.18)(千葉市上谷津第2遺跡)
仮想的底部復元は自分が作成した同時代類似器形土器3Dモデルの中から適切なものを選んで参考にして行いました。
仮想的底部復元の様子
3) 器高と容量の計測方法
器高及び口径(口縁部直径)、最大幅等は3DF Zephyr Liteの計測機能で3Dモデルから直接計測します。
容量は土器を回転体と見立てて、パップス・ギュルダンの定理により計測します。
パップス・ギュルダンの定理
回転体の体積=半裁断面の重心が回転で描く軌跡の長さ×半裁断面の面積
=2×π×重心と軸との距離×半裁断面の面積
3Dモデルによる加曽利E式土器の高さ、直径、容積の測定方法
なお、半裁断面を作成する上で土器の厚さを計測する必要があります。その計測は土器3Dモデルを切断してその切断面の代表的部分で計測し、全体に敷衍しました。
土器の厚さ計測の様子
参考 土器の厚さが計測ができる場所
土器断面線から土器厚さ分だけ内側に移動する半裁断面線の作図はillustrator「パスのオフセット」機能を利用して正確に行いました。
便利なillustrator「パスのオフセット」機能
また、半裁断面の重心はBlenderで求めました。
Blenderで表示したobjectの重心
重心と軸の距離や半裁断面面積はPhotoshopの計測機能で求めました。
容量計測作業図例
作図及び計測は全て作業図(illustratorファイル)に記録し、チェックできるようにしました。
3-2-4 器高と容量の計測結果
器高順に土器を並べて容量をグラフで表現してみました。
器高順に並べた土器とその容量
(注 縄文人イラスト(「千葉県の歴史」から引用)のスケールは土器器高スケールと同じ)
器高は最大53.68㎝から最小26.37㎝になります。最大/最小(比)は約2です。一方、容量は最大41.18ℓから最小1.91ℓになります。最大/最小(比)はなんと20を越えます。この数値をみて、ごく当然のことですが、当事者の縄文人にとっては土器の大きさ(器高)ではなく、容量がはるかに重要な要素であったことに気が付きました。縄文人にとってはどれだけの量の煮炊きをするのかという目標にもとづいて土器をつくったのであり、結果として器高や器形ができたと考えることが妥当です。縄文人がどの程度の器高の土器をつくろうかと目標的に考えたことはなかったに違いありません。われわれ現代人が分析的に器高を扱うのは自由であり必要だと思いますが、縄文人にとっては、容量の方がはるかに重要な指標であることに気が付きました。
【参考】
縄文人の参考身長
3-2-5 器高と容量を指標とした土器分類
「器高順に並べた土器とその容量」を眺めているうちに、次のような類型区分を仮想しました。
容量データによる類型区分
A 容量特大…30ℓ以上あるような特大土器です。ドングリ煮沸によるアク抜きなど、集団作業で使われた「業務用大鍋」のような印象を持ちます。食事のための調理用としては大きすぎるような気がします。
B 容量大…20ℓ前後の大きな土器です。多用途で使われ、場合によっては集団のための調理に使われたのかもしれないと空想します。
C 容量中…10ℓ前後の土器です。この大きさの土器が家族調理用に使われたのではないだろうかと想像します。
D 容量小…5ℓ以下の土器です。器体の大きさに比して大きな把手を有しています。神前に供える料理を調理する専用土器あるいは神前に料理を供える容器であったものであると空想します。
この類型区分仮想がどの程度蓋然性があるのか、今後学習を深める必要があります。
なお、「容量による類型区分」という思考をすると、縄文土器を利用実務面から考えざるを得なくなります。それにより狭い意味での型式学習から抜け出すことができました。自分にとって重要な土器学習視点転換となりました。
【参考】
巨大土器の3Dモデル オルソ投影画面
縄文人身長:162.7㎝
左土器:器高53.68㎝、容量41.18ℓ、加曽利EⅣ式深鉢(No.35)(千葉市餅ヶ崎遺跡)
中土器:器高71.55㎝ 容量70.09ℓ、加曽利EⅡ式深鉢(千葉市有吉北貝塚)
右土器:器高74.1㎝ 容量69.7ℓ、加曽利B式壺(印西市西根遺跡)
今回計測した土器で最大のもの(No.35)は加曽利EⅡ式や加曽利B式の巨大土器とくらべると小ぶりになります。
3-2-6 器高容量土器分類と土器型式・文様分類との関係
1) 容量類型区分の型式別表示
容量類型区分の型式別表示
この図表を見て感じる第一印象は、土器型式別に容量特性分布を考察するのはデータが少なすぎて無理があるということです。同時に、今後統計的に意味が出てくる程度のデータを揃えれば、何かおもしろい特性が浮かび上がりそうだという予感がします。
このような第一印象を踏まえて、次のような感想を後日のためにメモしておきます。
・見かけ上、器高容量ともに最大のものが加曽利EⅣ式-加曽利EⅤ式-称名寺式になっています。このような傾向が多数データでみられるのかどうか、興味が湧きます。
・分類A、B、C、Dは利用目的に対応していると想定しますが、そのような観点から見た時、分類A、B、C、Dの器高や容量の平均値が型式別にどのようになるのか事実を知りたくなります。
・そもそも、ある地域(千葉県とか千葉市付近とか)での土器型式別出土数を知りたくなります。母数(実際の出土総数(あるいはその割合))を前提に土器型式別の器高や容量の特性を分析したくなります。
2) 容量類型区分の文様別表示
加曽利E式土器型式大きさ文様
この図は容量類型区分、土器型式、文様類型を対応させたものです。
文様分類は次の3つの分類を主にしています。
・意匠充填系土器
・入組系横位連携弧線文土器
・対向系横位連携弧線文土器
この図もデータが少なすぎて統計的な意味を汲み取ることは到底無理ですが、興味をそそる感想が浮かび上がってきましたので、後日のためにメモしておきます。
ア 意匠充填系土器について
・意匠充填系土器の文様の最大の特徴は大きな渦巻文やそれに通じる大きな円文や楕円文のようです。
・意匠充填系土器が4つの型式で出現するので加曽利E式期から称名寺式期まで継続して使われた基本的な文様であることが判ります。意匠充填系土器の文様が変異変化したと考えられるものが加曽利EⅤ式、称名寺式に出現するのでこの文様は加曽利E式期を生き延び、称名寺式の文様に自らを変化させながら同化していった(影響を与えた)と考えることができます。
・意匠充填系土器がA(容量特大)、C(容量中)で出現するので、特大土器に特徴的な文様であるという考えは成り立たないようです。つまりどのような用途の土器にも使われて汎用性のある文様であると考えることができそうです。
・意匠充填系土器には器形が口がすぼまったもの(キャリパー形)が多いので、器形と文様の相関がありそうです。器形-文様のセットが存在するとすれば、そのセットはどうしてできたのか(どのような事象と相関しているのか)興味が湧きます。
イ 入組系横位連携弧線文土器について
・入組系横位連携弧線文土器が3つの型式で出現します。加曽利EⅢ式期にもこの文様はありますから、意匠充填系土器と同じように加曽利E式期から称名寺式期まで継続して使われた基本的な文様であることがわかります。
・入組系横位連携弧線文土器がA(容量特大)、B(容量大)、C(容量中)、D(容量小)で出現します。このことから、入組系横位連携弧線文土器は土器のある大きさに限定されない文様であることが判ります。
・称名寺式期に入組系横位連携弧線文のデザインをあしらったデザインがみられ、注目できます。文様そのものを描いたというよりも、立体空間の中で入組系横位連携弧線文土器を客観視した時にみることができる意匠(例えば画像に焼き付けた時の意匠)が描かれています。
・入組系横位連携弧線文土器は器形がラッパ形(非キャリパー形)のものばかりであり、文様と器形の相関がありそうです。
ウ 対向系横位連携弧線文土器について
・対向系横位連携弧線文土器は加曽利EⅢ式とEⅣ式に出現します。EⅤ式と称名寺式に出現しないのは展示物選定の際の事情によるたまたまのことなのか、文様としての盛衰に関係するのか、興味が湧きます。
エ その他
・意匠充填系とJ字文が同時に描かれる土器があり、同時期同空間同一人が異なる文様を描いていて、使っていたことがわかります。
・両耳壺の文様は一般的文様ではなく、湧泉記号(用途を特定する記号)を描いていると考えます。
3-2-7 考察
器高容量類型区分Aは土器4点ありますが、容量の大きいもの3点が意匠充填系土器で残り1点が入組系横位連携弧線文土器です。意匠充填系土器は口径より胴部最大幅が大きなずんぐりタイプの器形が多く、その器形と意匠充填系土器が対応しているような印象を持ちます。この図から器高容量類型区分A、Bを対象に文様別に容量平均を算出すると次のようになります。
器高容量類型ABにおける文様区分別平均容量ℓ
家族というより集団で使うことが想定される大きな土器(A、B)を対象にすると、意匠充填系土器の方が入組系横位連携弧線文土器(及び対向系横位連携弧線文土器)より大きな土器であることが言えそうです。
この想定が本当に正しいかどうかより多数データで確かめる必要があります。
もしこの想定が正しければ、なぜそうなのかその理由や背景に強い興味が生まれます。
意匠充填系土器をもっぱら使う集団(家系)と入組系横位連携弧線文土器(あるいは対向系横位連携弧線文土器)をもっぱら使う集団(家系)という社会の出自がそこに見て取れれば、さらにその異なる集団間の婚姻関係によりこれらの異なる文様が混在して出土しているのだとすれば、大変面白いことになります。どのような結論が待っているにせよ、土器学習意欲が強まります。
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