2025年10月14日火曜日

貝層3D空間における土器・石器分布復元(遺物データベース試用)

 Reconstructing the Distribution of Pottery and Stone Tools in 3D Space within the Shell Layer (Artifact Database Trial)


I created a reconstruction of the distribution of pottery and stone tools in 3D space within the shell layer on the northern slope of the Ariyoshikita Shell Mound, and conducted comparative observations of the 3D models. While detailed examination and analysis are anticipated, for now I enjoyed the newly created information. Both pottery and stone tools are distributed in layers within the shell layer.


有吉北貝塚北斜面貝層3D空間における土器分布・石器分布復元資料を作成し、その3Dモデルを比較観察してみました。詳細検討・分析は先の楽しみですが、とりあえず出来立ての情報を楽しんでみました。土器・石器ともに貝層内で層状に分布しています。

1 有吉北貝塚北斜面貝層の土器・土製品3D分布

有吉北貝塚北斜面貝層の土器・土製品3D分布

遺物数(3D座標が揃ったもの):17481件

1遺物を直径5㎝球で表現

3DF Zephyr v8.029でアップロード


3Dモデル画像


3Dモデル動画

2 有吉北貝塚北斜面貝層の石器・石3D分布

有吉北貝塚北斜面貝層の石器・石3D分布

遺物数(3D座標が揃ったもの):2045件

1遺物を直径5㎝球で表現

3DF Zephyr v8.029でアップロード


3Dモデル画像


3Dモデル動画

3 土器・土製品-石器・石オーバーレイ

土器・土製品-石器・石オーバーレイ

土器・土製品(17481件)を赤点、石器・石(2045件)を青点で表示

1遺物を直径5㎝球で表現

3DF Zephyr v8.029でアップロード


3Dモデル画像


3Dモデル動画

4 メモ

土器は分布粗密が特段に明瞭で、集中土器投棄場所が確認できます。土器分布と比べて、石器は一様に分布しています。石器が特段に集中投棄された場所は鳥瞰レベルでは見つかりません。

土器は層状に分布しています。下流部では3層の層構造が見られますが、この3層が上流・谷頭部にどのように連続するのか、今後詳しく検討します。遺物層状分布と貝層分布の対応が判れば、そして土器型式との関連が判れば、貝層発達史、貝層利用史が浮かび上がります。

5 技術メモ

当初遺物をBlenderのUV球で表現していたのですが、1万点以上になると三角面の数が多くなりすぎ、Sketchfab投稿に失敗しました。そのためICO球(正20面体)を使いました。

Sketchfabで遺物集中域が判りやすくなるような工夫(SSAO スクリーンスペース・アンビエント・オクルージョンを使う)をしました。


2025年10月12日日曜日

土器部位別分布類似度を比較する画像、動画、3Dモデル

 Images, videos, and 3D models comparing the distribution similarity of pottery by part


I created images, videos, and 3D models to intuitively compare the distribution similarity of pottery by part: rim, base, and handle. The limited distribution of handles is clearly evident.


口縁部、底部、把手という部位別土器分布の類似度を直観的に比較するための画像、動画、3Dモデルを作成しました。把手の分布が限定されていることがよくわかります。

1 土器口縁部-底部分布オーバーレイ


土器口縁部-底部分布オーバーレイ画像


土器口縁部-底部分布オーバーレイ動画

土器口縁部-底部分布オーバーレイ3Dモデル

2 土器口縁部-把手分布オーバーレイ


土器口縁部-把手分布オーバーレイ画像


土器口縁部-把手分布オーバーレイ動画

土器口縁部-把手分布オーバーレイ3Dモデル

3 土器底部-把手分布オーバーレイ


土器底部-把手分布オーバーレイ画像


土器底部-把手分布オーバーレイ動画

土器底部-把手分布オーバーレイ3Dモデル

4 メモ

動画、3Dモデルにより、把手分布域の限定を直観的に観察できます。把手分布域からどのような意味を読み取れるのか、今後の検討課題です。把手投棄場所は貝層内活動主部に対応しているような印象をうけます。


2025年10月11日土曜日

土器部位別分布に関する分布類似度統計分析の一例

 An Example of Distribution Similarity Statistical Analysis of Pottery Part Distribution Information


Pottery information for each part—rim, base, and handle—is plotted in 3D space. Although the number of pieces varies significantly, their distribution appears similar at first glance. Therefore, I conducted a trial study using the Chamfer distance average as an indicator to determine whether the distributions for the three parts are statistically similar. The handle distribution differs from the rim and base distributions.


口縁部、底部、把手という部位別土器情報が3D空間にプロットされています。部位別土器数は大きく異なりますが、一見するとその分布の様子は似ています。そこで、3つの部位別分布が統計的に似ているのか否か、Chamfer距離平均を指標に試行的検討をおこないました。把手分布が口縁部・底部分布と異なります。

1 Chamfer距離平均の単純適用

1-1 Chamfer距離平均の算出法

口縁部をA、底部をBとした場合、

Aのそれぞれの点について、Bの全点を対象として最近傍距離を算出する。次にA全点の最近傍距離平均aを求める。

Bのそれぞれの点について、Aの全点を対象として最近傍距離を算出する。次にB全点の最近傍距離平均bを求める。

Chamfer距離平均を次式から求める。

A-BのChamfer距離平均=(a+b)/2

1-2 結果

口縁部-底部のChamfer距離平均…0.357

口縁部-把手のChamfer距離平均…0.647

底部-把手のChamfer距離平均…0.714

口縁部-把手のChamfer距離平均が短く、この2つの部位の分布は似ています。しかし、口縁部-把手のChamfer距離平均は0.647(口縁部-底部の1.8倍)、底部-把手のChamfer距離平均は0.714(口縁部-底部の2.0倍)と長くなります。従って、口縁部、底部の分布と較べて、把手の分布だけが異なっている様子を確認できます。

口縁部分布


底部分布


把手分布

2 部位別土器数の数の違いによる影響を回避したChamfer距離平均

2-1 部位別土器数の数の違いによる影響回避法

口縁部土器数は3482、底部土器数は1073、把手土器数は173と土器数の数の違いが大きいので、その数の違いの影響を次の方法で回避して、Chamfer距離平均を求めました。

2つの部位土器の少ない土器数に合わせて、多い部位土器からランダムサンプリングしてChamfer距離平均を求める。ランダムサンプリングは1000回行い、Chamfer距離平均の1000回平均を最終Chamfer距離平均とする

2-2 結果

口縁部-底部のChamfer距離平均…0.433±0.009(95%)

口縁部-把手のChamfer距離平均…1.050±0.065(95%)

底部-把手のChamfer距離平均…1.033±0.060(95%)

1の単純適用結果をより強調した結果となりました。口縁部-底部の値0.433に対して把手と口縁部、把手と底部の値はそれぞれその約2.4倍になります。つまり把手の分布が、口縁部分布、底部分布と異なっている様子を統計的に把握できます。

3 メモ

Chamfer距離平均分析から、口縁部と底部3D分布は似ているけれども、把手3D分布は離れてることがわかりました。なぜこの違いが生まれているのか、大きな問題意識を持つことができました。廃用土器投棄原理が口縁部・底部と把手では違うことが予想されます。言い換えれば、把手のない土器と把手のある土器の廃用時投棄活動が違っていたと予想されます。

追記 2025.10.13

把手のある完形に近い土器がその場で壊されて投棄されたと考えると、把手と(把手の無い部分の)口縁部と底部は近くに存在し、今回のような統計にはならないと考えられます。今回の結果は把手だけが口縁部や底部と切り離された状態で投棄された様子を暗示していると考えます。出土把手現物を見ればなにかわかるかもしれませんが、現状では現物にアクセスできません。


2025年10月10日金曜日

貝層3D空間における土錘分布復元(遺物データベース試用)

 Reconstructing the Distribution of Earth Weights in 3D Space in Shell Layers (Artifact Database Trial)


I have created a prototype reconstruction of the distribution of earth weights in 3D space in the shell layer on the northern slope of the Ariyoshikita Shell Mound. Since earth weights are used for fishing nets, I believe that the distribution of earth weights is an indicator of fishing net disposal sites. The distribution characteristics of earth weights are clearly different from the distribution characteristics of pottery itself.


有吉北貝塚北斜面貝層3D空間における土錘分布復元資料を試作しました。土錘は漁網の錘ですから、土錘分布は漁網廃棄地点の指標であると考えます。土錘分布特性は土器そのものの分布特性とは明らかに異なります。

1 土錘3D分布図


土錘分布

3D座標が揃った土錘586件の分布図です。情報源は発掘調査報告書です。

北斜面貝層下流部斜面が主な分布域となり、上流部、谷頭部の出土は少なくなっています。またガリー流路における極端な集中はありません。


参考 土器分布

3D座標が揃った土器・土製品17481件の分布図です。


参考 朱塗土器分布

3D座標が揃った朱塗土器529件の分布図です。

土錘と朱塗土器は出土数は類似していますが、その分布特性が異なります。朱塗土器の廃棄原理と土錘(漁網)の廃棄原理が異なっていることが判ります。

2 メモ

土器・土製品全体、朱塗土器、土錘の3D分布をみると、いずれも北斜面貝層に広く分布しますが、密集性という観点でみるとそれぞれ分布特性が異なると直観的に観察できます。この直観的観察は統計的に検証して説明的に記述する予定です。

遺物種別の3D分布特性が異なる様子から、遺物毎に廃棄活動が異なっていた可能性を導くことができそうです。例えばガリー流路には土器が特段に密集して出土していますが、「土器塚」のような意味のある活動が存在していた可能性があります。

朱塗土器は北斜面貝層に満遍なく、特段の集中を避けるように分布していて、それが意味のある廃棄活動だったのかもしれません。

土錘は生産道具(漁網)の廃棄に伴うものですが、下流部に主な分布域があり、斜面貝層空間利用のおける緩やかなゾーニングが存在していたと想像します。上流部や谷頭部に人骨集中場所があり、土錘(漁網)廃棄はそうした聖的空間を避けていたのかもしれません。


2025年10月7日火曜日

貝層3D空間における土器分布復元(遺物データベース試用)

 Reconstructing the Distribution of Pottery in 3D Space in Shell Layers (Artifact Database Trial)


I have created a prototype reconstruction of the distribution of pottery in 3D space in the shell layer on the northern slope of the Ariyoshikita Shell Mound. This is the result (provisional) of my efforts to familiarize myself with the operation of the artifact database. Interesting phenomena can be observed. This 3D spatial distribution data of various artifact classifications in shell layers is unprecedented in Japan.


有吉北貝塚北斜面貝層3D空間における土器分布復元資料を試作しました。遺物データベースの操作習熟作業の結果産物(仮成果)です。興味ある事象が観察できます。貝層における、遺物の各種分類別3D空間分布資料は、本邦では類例をみたことがありません。

1 土器分類

遺物台帳の情報から、データベースでは土器・土製品について次の分類をしています。

●土器・土製品分類1

1…土器

2…土製品

●土器・土製品分類2

1…(土器)土器

2…(土器)口縁部

3…(土器)底部

4…(土器)把手

11…(土製品)土錘

12…(土製品)円盤

13…(土製品)耳飾

14…(土製品)11、12、13以外の土製品

●土器・土製品分類3

1…朱塗

2…非朱塗

この情報にから次の項目の3D分布図を作成しました。

参考 全遺物の3D分布

1 土器・土製品の3D分布

2 土器口縁部の3D分布

3 土器底部の3D分布

4 土器把手の3D分布

5 朱塗土器の3D分布

2 土器3D分布図


参考 全遺物分布

3D座標が揃った全遺物55892件の分布図です。背景グリッドの大きさは1m×1mです。


土器分布

3D座標が揃った土器・土製品17481件の分布図です。


土器口縁部分布

3D座標が揃った土器口縁部3482件の分布図です。


土器底部分布

3D座標が揃った土器底部1073件の分布図です。


土器把手分布

3D座標が揃った土器把手173件の分布図です。


朱塗土器分布

3D座標が揃った朱塗土器529件の分布図です。


土器分布(任意視点から)


朱塗土器分布(任意視点から)

3 メモ

・全遺物分布図と土器分布図を比較すると分布傾向が明瞭に異なります。全遺物は貝層の中に満遍なく分布している様子が読み取れ、おもに骨・歯の分布を表現しているようです。土器はガリー流路に沿って密に分布していて、斜面での分布が少なくなっています。詳しい検討は後日行いますが、土器はガリー流路に好んで投棄され、斜面に投棄されたものは少なかったようです。

・土器口縁部、土器底部、土器把手の分布も大局的には土器分布と同様の傾向にあるように見えます。土器部位別に分布特性が本当に同じなのか、統計的検証を後日行うことにします。

・朱塗土器の分布特性は土器分布、部位別土器分布と異なり、ガリー流路沿いの集中が見られません。重要な検討課題発見です。朱塗土器が日常的な調理用途ではなく、儀礼的調理に関わる特別な用途であったとすると、その廃棄(投棄)の仕方も特別なものであった可能性を感じさせる分布事象です。

・土器分布及び部位別分布の濃密の様子が発掘作業単位別に異なります。遺物個体として取り上げる大きさ基準や、接合する土器片を分けるか一緒にするかの基準、土器部位別情報記録の可否などが現場(担当者)によって微妙に異なっていたことが想定できます。


2025年10月6日月曜日

3D空間分析用遺物データベースのプロトタイプ完成

 Completed prototype of artifact database for 3D spatial analysis


A prototype database has been completed that adds artifact distribution map data to artifact ledger data. There are 55,892 artifacts with complete 3D coordinates (total artifacts: 63,599). Using recently acquired techniques, a CSV file containing 42 items and 55,892 records can be plotted in a Blender 3D viewport in approximately one second.


遺物台帳データに遺物分布図読取り平面座標を加えたデータベースのプロトタイプが完成しました。3D座標が揃う遺物は55892(遺物総計は63599)です。最近習得技術により、42項目×55892レコードのcsvファイルのBlender3Dビューポートプロット時間は1秒程度です。

1 遺物分布図読取データのチェック

5月~9月にかけて実施した遺物分布図からの遺物平面座標読取り結果のチェックを行いました。

146枚遺物分布図の中に1枚だけ遺物番号が略記(※)されているものを発見し、この発見だけで3D座標が揃う遺物が約500増えました。

※この遺物分布図では、遺物番号は全て1000番台であるが、記載は1000番台の最初の1が省略されている。

2 3D空間分析用遺物データ(csvファイル)のBlenderプロット

BlenderPythonスクリプトにより、3D空間分析用遺物データ(csvファイル、42項目×55892レコード)をBlender3Dビューポートに1遺物を1頂点でプロットしました。1頂点には多数の分類情報が紐づいています。このプロットにかかった時間は1秒程度です。感動的短時間です。もしオブジェクト(CUBE)などでプロットするならば、2時間以上の時間を覚悟する必要があります。


3D座標が揃った全遺物の頂点としてのプロット

3 geometry nodesによる分類別実体化

Blenderに取り込んだデータベースからgeometry nodesで好みの分類による遺物分布を実体化できます。実体化も瞬時に終わります。


土器のプロット


土器プロットのgeometry nodes


骨・歯のプロット

4 メモ

データのプロトタイプが完成し、またデータ活用基礎技術の確認ができました。

しばらくの間、遺物分類毎の3Dモデルを作成して、どのような分析が可能か考えながら、データの使い勝手を体感することにします。

その後に、データの中に、発掘調査報告書遺物分類に準拠した第2の遺物分類体系をつくり、追加することにします。現状の遺物分類は遺物台帳そのものの分類であり、発掘現場における仮分類です。例えば、発掘調査報告書で人骨とされる遺物のほとんど全てが遺物台帳では骨・歯です。こうした不都合を解消するために、発掘調査報告書に準拠した第2遺物分類をデータベースに追加します。



2025年10月1日水曜日

2025年9月ブログ活動のふりかえり

 Reflecting on September 2025 Blog Activities


I'm reflecting on the September 2025 activities of the blog "Walking the Hanami River Basin."

In September, I felt a sense of relief after completing the coordinate reading of the shell layer on the northern slope of the Ariyoshikita Shell Mound. I also learned about a breakthrough technology called "plotting with vertices, materializing with geometry nodes," which essentially eliminated the time required to plot a large number of artifacts in 3D space.


ブログ「花見川流域を歩く」の2025年9月活動をふりかえりました。

9月は有吉北貝塚北斜面貝層の座標読取作業が終了して、解放感的雰囲気を味わいました。また「頂点でプロット、geometry nodesで実体化」というブレイクスルー技術を知り、多数遺物の3D空間プロット時間が実質ゼロになるという画期的状況を体験しました。

1 ブログ「花見川流域を歩く」

・2025年9月の記事数は16です。

・6月からスタートした有吉北貝塚北斜面貝層の遺物分布図から遺物平面座標を読みとる素作業が完了しました。遺物総数は63599で、読みとった座標から3D座標が揃う遺物は55380となりました。

・3D座標が揃った遺物の3D分析作業に関わる問題意識が頭脳の中で占める割合が増えました。その結果3D分析作業に関わる様々な技術問題解決記事が増えました。

・考古学切手の画像作成技法記事を書きました。

2 ブログ「花見川流域を歩く 自然・風景編」

・早朝散歩記事を2編書きました。

3 2025年9月活動の特徴

3-1 平面座標読取素作業の完了

遺物分布図から平面座標を読み取る素作業が完了し、一息付けることになりました。毎日午前中は読取作業に専念することを自分に強制してきた生活ともお別れです。高校生の頃炎天下で厳しい運動を強いられた長期合宿が終わった時のような、「解放のうれしさ+一抹の別れ寂しさ」感情を味わいました。

3-2 3D分析作業のスタート

遺物3D座標データが揃ってみると、それを分析する3D技術習得がこれからの活動であることに気が付き、技術習得に真正面から取組める状況が生まれて、「大きなうれしさ+一抹の不安」感情を味わっています。

「一抹の不安」は実際に顕在化し、技術的トゲが刺さり、3日間苦しみました。

同時に、86分かかった遺物プロット作業が1秒以内で完了するブレイクスルー技術を習得し、「大きなうれしさ」を実体感しました。

4 2025年10月活動の展望

有吉北貝塚北斜面貝層の3D分析活動の展開を進めることにします。この中で、geometry nodes習熟が鍵となると直観しますので、geometry nodesがある程度自由に使えるように操作技術習得に意識的に取組みます。

参考

ブログ「花見川流域を歩く」2025年9月記事(〇は閲覧の多いもの)

ブログ「花見川流域を歩く 自然・風景辺」2025年9月記事


2025年9月 Sketchfabに投稿した3Dモデル


2025年9月 YouTubeに投稿した動画


2025年9月 ブログ「花見川流域を歩く」投稿記事に掲載した画像


2025年9月30日火曜日

遺物密度計測のための計測対象空間の設定方法

 Methods for Setting the Measurement Target Space for Artifact Density Measurement


I began investigating methods for setting the measurement target space for artifact density measurement of the shell layer on the northern slope of the Ariyoshikita Shell Mound. I initially identified three methods. As a method for setting the measurement target space based on the artifact distribution itself, I tried setting it as a voxel union.


有吉北貝塚北斜面貝層の遺物密度計測のための計測対象空間の設定方法について検討をはじめました。とりあえず3つの方法を抽出しました。遺物分布そのものに基づく計測対象空間設定方法では、ボクセルの和集合で設定してみました。

1 遺物密度計測のための計測対象空間の設定方法

1-1 遺物分布そのものに基づく方法

【考え方】

遺物出土位置を指標する頂点に球(あるいはCUBE)を設定し、重なった球(あるいはCUBE)の外縁形状を計測対象空間とします。

【例】

rを任意の数値として設定します。(例 0.3m)

rを半径とする球を全頂点に設定し、重なった球の外縁形状が成す空間を計測対象空間とします。

【作業の実際】

重なった球の外縁形状が成す空間の体積を直接計測する方法がないので、重なった球の外縁形状からボクセルの和集合を設定して、その体積を計測し、遺物分布密度を測定します。

1-2 地形(ガリー侵食地形)を計測対象空間とする。

【考え方】

復元したガリー侵食地形に蓋を被せた空間を計測対象空間とします。

【例】

Blenderでガリー侵食地形に蓋を被せた空間を設定します。

計測対象空間体積はBlenderで計測します。

1-3 3Dグリッドシステムを設定し、3Dグリッドで計測対象空間を設定する。

【考え方】

復元したガリー侵食地形と遺物出土位置を完全に内包する3Dグリッド空間を計測対象空間とします。

【例】

グリッドの大きさを設定します。(例 1m×1m×1m)

Blenderでワールド原点を原点とする3Dグリッドシステムを設定します。

復元したガリー侵食地形と遺物出土位置を完全に内包する3Dグリッド空間を計測対象空間とし、グリッド数から計測対象空間体積を求めます。

2 遺物分布そのものに基づく計測対象空間設定方法の検討(予察)

2-1 遺物分布(事例)


遺物分布(事例)

遺物平面座標読取作業の最終ロットにおける遺物分布(1320遺物)を事例として、以下の検討を進めました。

2-2 r=0.3m球分布重なりによる計測対象空間


r=0.3m球重なりによる計測対象空間

Blenderではこの資料から計測対象空間体積を算出できないので、この方法から直接遺物密度を計算できません。

2-3 ボクセルによる計測対象空間の設定とそのメッシュ化による体積計測


ボクセルで作った近似空間

「r=0.3m球分布重なりによる計測対象空間」の近似空間をボクセルでつくり(「ポイントのボリューム化」)、それをメッシュオブジェクトに変換する(「ボリュームのメッシュ化」)ことにより体積計測します。

この例では計測対象空間の体積は76.6987㎥となりました。(遺物密度は1320/76.6987㎥=17.21/㎥)


参考 ボクセル近似空間と遺物出土位置の関係

Blender作業を進めるなかで、「r=0.3m球分布重なりによる計測対象空間」という最初の設定にこだわる必然性は特段ないことに気が付きました。ボクセルに関わる諸元を操作して遺物出土地点分布の外縁を縁取るにふさわしいボクセル分布を見つけて、その諸元をもって「計測対象空間」とすることで問題はないと考えます。球重なりによる形状よりボクセル分布形状の方が「計測対象空間」としてふさわしいように感じます。


体積計測用オブジェクト作成のためのgeometry nodes

2-4 参考 凸包


凸包

遺物分布から凸包をつくると、その体積は90.8875㎥となります。凸包では外形の曲線的成分が全て直線的成分あるはい凸形成分に置き換わるため、「計測対象空間」設定には不向きです。

3 感想

頂点分布に近似する3D空間をボクセルでシミュレーションしながら作成できる方法を今回の検討で知ることができました。今後の検討に大いに役立つ操作技術です。

またBlender本体ではできない体積計測をアドオン3D Print Toolboxでできるようになりました。


2025年9月29日月曜日

座標読み取り作業を終える(2025.09.29)

 Coordinate reading completed (September 29, 2025)


The work to read the artifact distribution map coordinates for the shell layer on the northern slope of the Ariyoshi Kita Shell Mound, which began in June, has now been completed. It took a full four months. We were able to obtain 3D coordinates for 55,380 artifacts, accounting for 87% of the 63,599 artifacts recorded in the artifact register. Looking at the resulting simple 3D distribution map, stratified distributions can be observed in various locations, making us excited for future analysis.


6月からスタートした有吉北貝塚北斜面貝層の遺物分布図座標読み取り作業を終えました。丸4カ月間かかったことになります。遺物台帳記載63599遺物のうち87%にあたる55380遺物の3D座標を得ることができました。読み取り結果の単純3D分布図を見ると層別分布が各所に観察され、今後の分析作業が楽しみになります。

1 有吉北貝塚北斜面貝層の遺物分布図データ(2025.09.29現在、素読取完了)

有吉北貝塚北斜面貝層の遺物分布図データ(2025.09.29現在、素読取完了)

55380遺物データ

遺物は5㎝×5㎝×5㎝のCUBEで表示

3DF Zephyr v8.023でアップロード


3Dモデルの動画


3Dモデルの画像


3Dモデルの画像(上から、オルソ投影)

グリッドの大きさは2m×2mです。


3Dモデルの画像(正面から、オルソ投影)

2 メモ

座標読取作業の最終回ロットの遺物数は1321で作業ロットとしては最少ですが、グリッド数は17で最多となりました。

遺物分布図から平面座標を読み取り、その結果をID(遺物番号)を指標に遺物台帳データベース(この中に標高座標が含まれている)とリレーションして、3D座標付き遺物台帳データベースを作成しました。

3D座標付き遺物台帳データベースの遺物総数は63599で、そのうち3D座標が揃うものは55380遺物(全体の87.1%)です。3D座標が揃わない8219遺物(全体の12.9%)のうち4485遺物(全体の7.1%)は「一括」扱いなどで、出土グリッド以上の詳しい平面座標がもともとありません。残り3734遺物(全体の5.9%)は遺物分布図未記載などに起因します。

今回読み取り1321遺物データはBlender3Dビューポートに頂点としてプロットし、geometry nodesで実体化(CUBE表現)し、その結果をWabefront(.obj)ファイルにしてこれまでのプロット結果に追記しました。


今回作業ロット分の頂点分布


今回作業ロットの実体化分布


実体化のためのgeometry nodes

読み取り作業が終わりましたので、作業結果のチェック調整を行った後に次のステップ(分析作業)に進むことにします。


2025年9月24日水曜日

Blenderブレイクスルー技術のはじめての体感

 My first experience with Blender's breakthrough technology


I experienced a breakthrough technology in Blender. Previously, I plotted 3D coordinate artifacts as cubes in Blender. For 12,422 artifacts, it took 86 minutes. However, plotting them as vertices took less than a second. It was an incredible experience.


Blenderで「これがブレイクスルー技術だ」という体感をしました。これまで3D座標付き遺物をBlenderにCUBEとしてプロットしていました。12422遺物では86分かかりました。ところが、頂点としてプロットすると1秒以下です。信じられないような実体験です。

1 CUBEとしてのプロット


CUBEとしてのプロット

BlenderPythonを使って、12422遺物をCUBEとしてBlenderにプロットすると、86分かかりました。(注:遺物数が多くなると、ID重複照合に要する時間のためか、幾何級数的にプロット時間が増えます。)

2 頂点としてのプロット


頂点としてのプロット

BlenderPythonを使って、12422遺物を頂点(頂点一つだけのオブジェクト)としてBlenderにプロットすると、1秒以下でした。手動ストップウォッチで計測しようとしたのですが、手筋肉反射よりもプロットの方が勝りました。つまり計測不能でした。

注:頂点としてプロットするBlenderPythonでは、超高速化のためにPythonループより何倍も速い「 foreach_set 」アルゴリズムを使っています。

3 頂点のCUBE実体化


頂点のCUBE実体化

geometry nodesにより12422頂点をCUBEオブジェクトに実体化する時間は1秒以下でした。驚くべき速さです。

4 感想

86分間のBlender作業が実質0分になるという体験は今回はじめてです。こういう技術が「ブレイクスルー技術だ!」と実感しました。すばらしい突破体験です。「頂点でプロット、geometry nodesで実体化」という技術はChatGPTとのコミュニケーションで得たものです。自分にとって、ChatGPT活用意義が大きいことに気が付きます。