2015年5月19日火曜日

墨書土器文字の読解

花見川地峡史-メモ・仮説集->3花見川地峡の利用・開発史> 3.4〔仮説〕律令国家の直線道路、東海道水運支路の検討>3.4.134 墨書土器文字の読解

八千代市白幡前遺跡の2Dゾーンと2Eゾーン分布中心を持つ墨書土器文字について検討しています。

6 2Dゾーンに出土中心をもつ文字 つづき
●文の意味

ふみ【文・書】
1 〖名〗
① 文書・書物など、文字で書きしるしたもの。かきもの。
イ 漢文の典籍・経典の類をいう。
※書紀(720)推古一〇年一〇月(岩崎本訓)「是の時に書生(フミまなふるひと)三四人を選びて観勒に学び習は俾む」
ロ 一般に、文書・記録・日記などの類をいう。
※書紀(720)皇極四年六月(図書寮本訓)「倉山田麻呂臣進みて三の韓(からひと)表文(フミ)を読み唱ぐ」
『精選版 日本国語大辞典』 小学館

参考
慣用句 ふみ の つかさ
① (「図書寮」と書く) 令制での官司の一つ。中務省(なかつかさしょう)に属して、官有の書籍・仏具の保管、図書の書写・製本を行ない、紙、筆、墨などを製造して諸司に給付し、また、国史の修撰をつかさどった役所。ずしょりょう。ふんのつかさ。〔二十巻本和名抄(934頃)〕
② (「書司」と書く) 令制の後宮十二司の一つ。天皇御用の書籍、文房具および楽器のことをつかさどる。尚書一人、典書二人、女嬬六人を置く。しょし。ふんのつかさ。ふみ。
『精選版 日本国語大辞典』 小学館

「文」は上記辞書から抜書きしたような意味であり、「文」をフミと読み、基地業務における文書作成担当官(書記官)の祈願の文字と考えます。

●田の意味
「田」(タ)は水田開発地の拡大(「大田」と同じ)、あるいはイネの豊作祈願の言葉(「草田」(クサダ、カヤタ)…収穫の少ない田(草田)の収穫が増えますように、と同じ)であると考えます。

●得の意味

とく【得】
〖名〗
① 得ること。なすことの叶うこと。成就すること。
※讚岐典侍(1108頃)上「一とせの行幸の後、又見参らせばやと、ゆかしくおもひ参らするに、そのとくなければ」 〔春秋左伝‐定公九年〕
② (「徳」とも) もうけ。利益。利得。
※落窪(10C後)一「時の受領は、世にとく有物といへば、只今そのほどなめれば、つかうまつらむ」
※雁(1911‐13)〈森鴎外〉一「我儘をするやうでゐて、実は帳場に得(トク)の附くやうにする」 〔漢書‐項籍伝〕
③ (形動) 有利であること。便利であること。また、そのさま。
『精選版 日本国語大辞典』 小学館

「得」(トク)は上記の辞書の意味の通り、プラス事項を得たいという祈願語です。
類似の祈願語としてこれまで「満」、「万」、「大」、「盛」などが出てきています。

●魚の意味

さか‐な【肴・魚】
〖名〗 (「さか」は「さけ(酒)」、「な」は、副食物の総称)
① 酒を飲むときに添えて食べる物。飲酒のときの魚、肉や果実、野菜など。さかなもの。酒のさかな。
※常陸風土記(717‐724頃)久慈「遠邇(をちこち)の郷里より酒と肴(さかな)とを齎賫(もちき)て」
※徒然草(1331頃)二一五「この酒をひとりたうべんがさうざうしければ、申しつるなり。さかなこそなけれ、人は静まりぬらん、さりぬべき物やあると」
② 酒席に興をそえるような行為や事柄。歌や踊り、隠し芸、話題など。酒席の座興。
※とはずがたり(14C前)一「『御酌を御つとめ〈略〉こゆるぎのいそならぬ御さかなの候へかし』と申されしかば、〈略〉今様をうたはせおはします」
※仮名草子・元の木阿彌(1680)下「数杯の酒の御さかなと、禿(かぶろ)は扇おっとり、立ち出で」
③ (魚) うお。魚類の総称。
※甲陽軍鑑(17C初)品三〇「日数をへて、さかなのさがるに、塩をいたす事もなく」
④ 主食に対して、副食物。おかず。
※幼学読本(1887)〈西邨貞〉六「飯に続きて必要なる物は肴なる可し」
『精選版 日本国語大辞典』 小学館

な【魚】
〖名〗 (「な(肴)」と同語源) 食用、特に、副食物とするための魚(さかな)。
※書紀(720)持統三年七月「越の蝦夷八釣魚等に賜ふ。各差有り(魚、此をば儺(ナ)と云ふ)」
『精選版 日本国語大辞典』 小学館

上記辞書内容の通り、「魚」と書いてナあるいはサカナと読んだ文字で、宴会のごちそうが沢山あることを願った言葉であると考えます。

2Cゾーンで出た「厨」(クリヤ)とほとんど同義だと思います。

●太の意味
「太」(タ)は「太一」(タイイツ)、「太一星」(タイイツセイ)の略で、意味としては具体的な北極星を表現し、陰陽道で武運を祈願した言葉であると考えます。

「太」をフトルと読んで、肥えて大きくなるという意味から繁栄を祈願したとも考えられなくはないけれども、その可能性は低いと想像します。

●工の意味

たくみ【工・匠・巧】
(動詞「たくむ(工)」の連用形の名詞化)
1 〖名〗
一 人についていう。
① 手や道具を用いて物を作り出すことを業とする人。細工師。工匠。職人。「こだくみ(木工)」「かなだくみ(金工)」など。
※書紀(720)神代上(兼方本訓)「即ち、石凝姥(いしこりとめ)を以て冶工(タクミ)と為て、天香山の金(かね)を採て以て日矛(ひほこ)を作(つく)らしむ」
② 特に木材で物を作る職人。こだくみ。大工(だいく)。
※書紀(720)雄略六年二月・歌謡「我が命も 長くもがと 言ひし柂倶彌(タクミ)はや」
※大鏡(12C前)二「工(たくみ)ども裏板(うらいた)どもをいとうるはしくかなかきて」
『精選版 日本国語大辞典』 小学館

「工」(タクミ)は基地で働く大工、金工、石工などの技能者が、仕事の質向上や高い評価を受けることを祈願した言葉であると考えます。

7 2Eゾーンに出土中心をもつ文字

●圓の意味

まる【丸・円】
(「まろ」の変化した語)
1 〖名〗
③ 金銭、特に貨幣をさしていう。
※歌舞伎・隅田川続俤(法界坊)(1784)口明「イヤモウ〇になることならなんなりと相談に来ることさ」
『精選版 日本国語大辞典』 小学館

「圓」(マロ、マル)と読んで、貨幣を扱う官人つまり基地の会計係集団が会計業務の帳尻が合うことを祈願した言葉であると考えます。

●赤足の意味
これまで出てきた人足、得足を人名と考えてきていますので、この「赤足」(アカタリ)も人名と考えます。

自分の名前が書いてある土器に、お供え物を盛って、その土器全体を自分に見立てて悪神にささげ、本当の自分は悪神から逃れるという算段です。

●上挟の意味
「上挟」(ウワバサミ)は上等な挟(文房具のハサミ)という意味で、文書作成等の基地業務に携わる書記官がその出世を願って祈願した言葉であると考えます。

文官として出世すれば上等の鉄製鋏が支給されることを想像しています。

●十
2Eゾーンは「圓」「上挟」が出土しているので書記官集団(下級官人集団)が活動していたようです。

そうした状況から想像すると、例えば「十」は十干… 甲(こう)、乙(おつ)、丙(へい)、丁(てい)、戊(ぼ)、己(き)、庚(こう)、辛(しん)、壬(じん)、癸(き)を意味していて、書記官の活動の成績を意味する基準であると考えることができます。

「十」(ジッ)は十干の意味で官人の出世の祈願語であったと考えました。

●加の意味
「加」(カ)は増やす、増えるという意味であり、繁栄を願う祈願語であると考えます。

類似の祈願文字に「得」、「満」、「万」、「大」、「盛」などがあります。

八千代市白幡前遺跡2Dゾーン、2Eゾーンに出土中心を持つ墨書土器文字の実例

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