2015年5月28日木曜日

八千代市白幡前遺跡から出土した墨書土器検討のまとめ

花見川地峡史-メモ・仮説集->3花見川地峡の利用・開発史> 3.4〔仮説〕律令国家の直線道路、東海道水運支路の検討>3.4.139 八千代市白幡前遺跡から出土した墨書土器検討のまとめ

白幡前遺跡出土墨書土器の文字の意味についてながらく検討してきました。

「八千代市白幡前遺跡-萱田地区埋蔵文化財調査報告書Ⅴ-本文編」(1991、住宅都市整備公団首都圏都市開発本部・財団法人千葉県文化財センター)に詳しい文字出土情報が整理されているので、検討を深めることができのです。

自分としては思いもかけず大きな成果を得ることができたと思っています。

自分には墨書を読み取る力はありませんが、専門家の方が読み取った墨書文字の意味を辞書で調べたり、分布図を作成したり、遺構や遺物との対応関係を観察することはできますから、素人の自分にもある程度検討ができたという訳です。

これまでの検討結果を1枚の地図にまとめてみました。

八千代市白幡前遺跡の各ゾーンを代表する墨書土器の文字

各ゾーンを代表する(多数出土する)文字とこれまで調べてきた諸情報(※)からそのゾーンに展開する部隊の職務内容が浮かび上がってきました。

※ これまで調べてきた諸情報…各ゾーンの地形、津との位置関係、建物情報(掘立柱建物と竪穴住居の比率等)、ハマグリ出土状況、銙帯出土状況、瓦塔等出土状況等

1Aゾーン 生・生堤(戦死回避)…戦地陸奥国へ向かう部隊の一時逗留場所
1Bゾーン ○(戦争勝利)・継(基地機能確保)・立(いざ戦わん)…高級将官逗留場所、軍事司令部機能
2Aゾーン 佛(寺院関連)・上(官人出世祈願)…中央貴族接待施設、基地の政治中心施設
2Bゾーン 器(祈願)…2Aゾーンを支える農業集団
2Cゾーン 大一(陰陽道による戦勝祈願)・磨(戦勝祈願)…陰陽師の祈願施設
2Dゾーン 廓(基地警備隊祈願)・文(官人出世祈願)…基地警備隊居住
2Eゾーン 圓(会計係祈願)…基地会計係居住
2Fゾーン 廿(衣服倉庫管理警備隊祈願)…衣服倉庫とその管理警備隊居住
3ゾーン 饒・豊(食料倉庫管理警備隊祈願)…食料倉庫とその管理警備隊居住

感想
白幡前遺跡出土の墨書土器文字の意味検討をした感想をメモしておきます。

・墨書土器は戦地に向かう将兵と基地内で働く官人グループが書いて、使ったものと考えます。律令国家が行う蝦夷戦争遂行業務のなかで、官人によってひろまった風習であると考えます。

・一般農業集落的イメージの強い2Bゾーン(寺院を支える集落)では墨書土器がほとんど出土していなく、また特徴的な文字も出土していません。これは、一般農業そのものは官人が関与するプロジェクトではなく、組織活動ではなかったためであるからであると考えます。

・墨書土器の文字は職務集団毎に(=ゾーン毎に)その職務そのものを象徴する言葉(スローガン)を使っているので、墨書土器作成は組織的に行われた活動であると考えます。

・墨書土器を一人一人が持って生活上における何かを祈願したということから、基地内における組織活動によって人々は大いなるストレスを感じていて、そのストレスを癒す必要があったものと考えます。
・墨書土器による祈願は、当時の組織活動における一種の自己啓発活動(やる気を起こす活動)であったと考えます。

・ゾーンを別にする、つまり部隊を別にする職務集団として通過部隊現場支援(1Aゾーン)、軍事指揮(1Bゾーン)、政治指導(2Aゾーン)、基地警備(2Dゾーン)、会計(2Eゾーン)、衣服倉庫管理警備(2Fゾーン)、食糧倉庫管理警備(3ゾーン)が存在していることがわかりました。基地業務が高度に組織され専門分業体制が構築されていることがわかりました。

・寺院は鎮護国家の観点から戦勝勝利のための活動を精力的に行っていたと考えます。基地活動における政治的側面は寺院活動と密接に関係していたと考えます。しかし、寺院と墨書土器との関係は希薄であることが明瞭です。
・寺院活動は人々の精神活動には食い込んでいなかったようです。

・陰陽師による祈願が行われていたという発見は重大な発見であると考えます。その実体を知るために今後白幡前遺跡の遺構・遺物の詳細検討が必要であると考えます。
・陰陽師による祈願は機密事項であり、一般の墨書土器の風潮と無関係のように感じます。

・寺院による祈願、陰陽師による祈願は国家が行う公式戦勝祈願であったと考えます。寺院と陰陽師が同時に存在して戦勝祈願を行なっている姿は律令国家中央の姿をそのまま反映していると考えます。

興味は尽きず時代区分別に検討するなどすればさらに有益な情報を得ることができると思います。
また全国墨書土器データベースと連動して、文字の全国的な分布との関連から検討することも新しい情報を得る手段となります。

しかし、近隣の他の遺跡にも興味がありますので、白幡前遺跡の墨書土器検討はひとまずここで区切りたいと思います。

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