1 小字の文字と読み
文字が民衆に普及した時代以降は、小字の読みと書きが一致していて、それを意識することはありません。
しかし、文字普及のはるか以前から小字の素となった地名が口承で伝えられてきています。
小字の素となった地名は旧石器時代→縄文時代→弥生時代→古墳時代→奈良・平安時代→中世→近世→近代→現代と連綿と口承で伝えられ、恐らく中世から近世頃(文書が社会に普及する頃)にその多くが当て字されて、読みと書きのセットが成立したと想像します。
千葉県の小字のかなりの部分が口承で伝えられてきて、ある時代に当て字されて文字になったものです。
従って、千葉県の小字を考えるときには表記されている文字を対象に検討するだけでなく、その読みについても注意を払う必要があります。
そこで、千葉県小字の出現数が多いものを文字表記と読みでそれぞれカウントして並べてみました。
千葉県 出現数が多い小字名 文字と読み
千葉県小字データベースで、文字表記で検索すると最多出現小字名は「大谷」です。
そして、「大谷」の読みにはオオヤツ、オオヤ、オオサク、オオタニなどが含まれています。
ですから、小字の当て字が普及する以前にはオオヤツ、オオヤ、オオサク、オオタニなどの地名が口承で伝えられてきていたのですが、文字表記する最初の時に同じ「大谷」に当て字されたものです。
文字表記が統合されたと理解できます。
一方、読みで検索すると、千葉県第3位に「オオヤツ」が出てきます。「オオヤツ」の文字表記は大谷、大谷津となっています。
この情報からオオヤツとして口承で伝えられてきた地名は「大谷」と「大谷津」の別の表記に当て字されたことが判ります。
さらに、読み検索の千葉県31位「オオサク」の当て字は「大作」、「大谷」などとなっています。
当て字される際に別表記に分離しています。
このように口承で伝わってきた地名が当て字されるときに、類縁地名が文字表記で統一されてしまう場合と、別の文字表記に分離する場合があることが判ります。
そこで、文字表記「大谷」に関連する小字群を事例にして、「大谷」に収れんする前の類縁小字の系統を分別し、また「大谷」に統合される際に、別表記に分離した文字表記を分別してみたいと思います。
参考
次の表に色を付けて表示したように、千葉県では[大谷、大谷津、大作etc---オオヤツ、オオタニ、オオサクetc]グループの他に、[長谷、長作、永作etc-ナガサク、ナガヤツetc]グループなど谷(作)に関する小字群がいくつもあり、恐らく同じ構造のグループであると考えています。
千葉県 出現数が多い小字名 文字と読み 谷(作)グループ表示
2 文字表記「大谷」の読み系統
千葉県小字データベースで文字表記「大谷」で検索して、その読みをカウントして系統別に整理してみました。
「大谷」検索結果
全部で5系統の読みに分別できます。
ア オオヤツ系統
5つの系統の中では最も数が多くなっています。
オオヤツが最も多く、その短縮形である「オオヤ」が数として続きます。「ウヤ」は「オーヤ」から変化したものと考えます。
イ オオサク系統
5つの系統の中では2番目に数が多いものですが、後に検討するように、オオサクのかなりの部分が「大谷」ではなく「大作」等に流れてしまったので、文字以前のオオサク系統分布より過小の値となっています。
ウ オオタニ系統
5つの系統では出現数が3番目になります。
エ オオザワ系統
出現数1です。
オ ダイサク系統
出現数1です。
オオサクと同じサクですが、オオがダイになった小字です。
以上の結果から、小字の文字表記「大谷」は、じつは文字表記される前は、近縁発音を統合して考えると、「オオヤツ」、「オオサク」、「オオタニ」、「オオザワ」、「ダイサク」の5つの別の名称の小字名であったことが判明しました。
当て字をする際に、つまり口承されてきた小字の意味を捉えて文字に翻訳するときに、相互に相談することもなく、自然現象的に、一斉に「大谷」になったものです。
なお、後に詳しく論じますが、「オオサク」(大きく裂ける)の意味が伝わって「大谷」になった地域は少数派であり、大半は意味不明のため「大作」などに表記されるようになりました。
「オオザワ」(オオサワ)は1例を除いて全部「大沢」になりました。
「ダイサク」も1例を除いて全部「大作」等になりました。
つづく
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