ここまで、小字「オオヤツ」「オオサク」、「ヤツ」「サク」、「ナガヤツ」「ナガサク」と順に検討してきました。
千葉県小字データベースの統計分析とアドレスマッチングによる分布図作成という、これまで専門家を含めて誰も利用できなかった資料を利用することにより、主に想像と直観によるとはいえ、小字というものがある程度わかってきたような気がしています。
そこで、後で自分の認識プロセスをふりかえるときの材料とするために、千葉県小字データベースをいじり出した最初期の中間まとめをメモしておきます。
小字ヤツ・サク群検討結果の概要を次にまとめました。
千葉県における小字ヤツ・サク群の出自と意味-想像により作成した作業仮説-
●説明
1 オオヤツ、ヤツ、ナガヤツについて
・オオヤツ、ヤツ、ナガヤツは言葉発生時代には、地形用語ではなく生産用語(生産に関わるテクニカルターム)であり、オオヤツは「多収穫を期待できる、大きな水田開発地」を、ヤツは「水田開発地」を、ナガヤツは「劣悪狭小であるが、長年にわたり連続収穫を期待する水田開発地」を意味していました。
・言葉発生時代は農耕時代の始まり(弥生時代~古墳時代)です。
・上総国に分布の中心を持ちます。
・翻訳(当て字)時代は中世~近世初頭頃です。
・ヤツの翻訳(当て字)は谷、谷津などで混乱はほとんどありません。
・現代のヤツは地形用語(台地開析谷)として理解され使われています。水田開発地としては使われていません。
参考 小字読み「オオヤツ」「ヤツ」「ナガヤツ」系統の分布
注)船橋市及び習志野市については小字読み(ルビ)データが原資料(角川千葉県地名大辞典)にないため、データが欠落している。
2 オオサク、サク、ナガサクについて
・オオサク、サク、ナガサクは言葉発生時代には、地形用語ではなく生産用語(生産に関わるテクニカルターム)であり、オオサクは「多収穫を期待できる、深い崖のある狩猟場」を、サクは「狩に利用できる崖のある狩猟場」を、ナガサクは「狩に好都合な長い崖のある狩猟場」を意味していました。
・言葉発生時代は狩猟時代(旧石器時代~縄文時代)です。
・千葉県全体に分布します。
・翻訳(当て字)時代は中世~近世初頭頃です。
・サクの翻訳(当て字)は作などと谷に2分され混乱しています。これはサクの意味が判らなった地域と判っていた地域が存在していたためです。
・作などに翻訳(当て字)された地域、つまりサクの意味が判らなかった地域は、翻訳(当て字)時代に狩猟時代の言葉や文化を伝える人々がすでに絶えていた地域と考えます。
・谷に翻訳(当て字)された地域、つまりサクの意味が判っていた地域は、翻訳(当て字)時代に狩猟時代の言葉や文化を伝える人々の末裔がまだ住んでいた地域と考えます。
・現代のサクは、表記「作」の場合は「農作物のでき、作柄」などがイメージされて理解されています。表記「谷」の場合は地形としての台地開析谷をイメージして理解されています。いずれも狩猟場として理解されたり、使われてはいません。
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参考 ●純粋小字と関連小字
なお、ここまでの検討は、小字ヤツ・サク群について、純粋な小字「オオヤツ」「オオサク」、「ヤツ」「サク」、「ナガヤツ」「ナガサク」を検討対象としていることを自らに確認しておきます。
純粋な小字「オオヤツ」「オオサク」、「ヤツ」「サク」、「ナガヤツ」「ナガサク」の他に、それに別の言葉が付加した関連小字が多数存在します。
例 純粋小字 「オオヤツ」、別の言葉が付加した関連小字「カミオオヤツ」「オオヤツジリ」など
関連小字は純粋小字を使って、後年に二次的に派生した地名であると考えられます。
純粋小字が消滅して、関連小字だけが残っている場合もかなりあると思われ、関連小字の検討意義も大いにあります。
しかし、当面は検討作業をできるだけシンプルなものにし、小字全体像のうちその要点だけを知ることとします。
そのために、純粋小字をメインの検討対象とし、関連小字の検討はそれと区別して行うこととします。
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