小字の文字表記「大谷」が千葉県の出現小字第1位です。
その「大谷」の読み系統が千葉県小字データベースの分析から5つに分類できることが判りました。
2016.05.05記事「千葉県最多小字名「大谷」の5系統(オオヤツ、オオサク、オオタニ、オオザワ、ダイサク)」参照
その5系統の読みで千葉県小字データベースを検索して、それぞれの読み系統に「大谷」以外の文字表記を含めたデータをまとめてみました。
次の表が5系統の読みに対応した「大谷」表記以外も含めた小字データです。
「大谷」検索による読み5系統と読み5系統による検索結果
注)原データ(角川千葉県地名大辞典)で船橋市及び習志野市だけ小字読みデータが欠落しているので、読み系統によるデータにこの2市分が含まれていません。)
オオヤツ系統では「大谷」の他に「大谷津」、「大野」表記が含まれます。
オオサク系統では「大谷」以外に「大作」、「大佐久」、「大鞁作」、「大栄」が含まれます。
オオタニ系統は「大谷」だけです。
オオザワ系統では「大谷」の他「大沢」が含まれます。
ダイサク系統では「大谷」の他「大作」、「台作」、「太夫作」が含まれます。
作業仮説として、次のような単純化を行います。
5つの読み系統が古代頃までに存在していて、中世から近世にかけて地域社会における文書作成が一般化して、小字の文字表記が行われるようになり(小字に当て字がされるようになり)、その結果が現代に伝わる小字リストになったと考えます。
このように単純化した作業仮説を「大谷」を例に絵にすると次のようになります。
小字表記「大谷」を中心とする小字群の統合分離イメージ(2016.05.05作業仮説)
この作業仮説を念頭に、各読み系統の分布図を検討します。
1 小字読み「オオヤツ」系統
小字読み「オオヤツ」系統分布
注)船橋市及び習志野市はデータ欠落です。この記事では以下の全分布図で同じです。
・小字読み「オオヤツ」は千葉県全体をその分布がカバーしていません。
大きい谷津という意味を「オオヤツ」と表現して地名にするという行為が下総国の香取の海沿岸や国府のある西部付近では行われていないということです。
千葉県全体をカバーしていないことから、「オオヤツ」は原始から伝わってきている地名ではなく、ある時代(農耕時代)に流行って隆盛した地名であると考えることができます。
2 小字読み「オオサク」系統
小字読み「オオサク」系統の分布
・分布数は「オオヤツ」より少ないのですが、千葉県全体に分布しています。
千葉県全体に分布していることと、谷津を「サク」(裂く)と表現する心性が農耕民のものではないことから、「オオサク」は旧石器時代・縄文時代から口承されてきた5系統のなかでは最も古いタイプの小字読みだと考えます。
旧石器時代や縄文時代前期では海面が現在より低く(最大-100m)、従って谷が深く、当時の人々は谷を「サク」(裂く)と表現したものと考えます。
縄文海進により深い谷は全て埋まり、現在のような沖積面が形成され、湿地が増えると、その谷を低湿地を表現するヤチ、ヤト、ヤツ、ヤと呼び、千葉県ではヤツが地名として一般化したと考えます。
「オオサク」は地名が備える強力な伝承性により縄文時代から古墳時代・奈良時代・平安時代と継承されたのですが、その意味が忘れられてしまった地域が多く、「大谷」と翻訳(当て字)されるよりも、「大作」など意味をまったく伝えない言葉に翻訳(当て字)される場合の方が多かったことになります。
3 小字読み「オオタニ」系統
小字読み「オオタニ」系統の分布
・「オオタニ」の分布は場所が離れた場所に散在しています。
また、「オオタニ」系統の文字表記は「大谷」だけです。
これらの情報から、想像と直観により検討すると、「オオタニ」は翻訳(当て字)された後になって、二次的に派生した地名であると考えます。
「オオサク」から文字表記「大谷」が生まれた後、その文字と「オオサク」という読みが感覚的に合いませんから、いつしか漢字の読みである「オオタニ」に変更してしまったものと考えます。
「オオタニ」の分布域が「オオサク」の分布域に包摂されますから、この推定の蓋然性は高いと思います。
上記「小字表記「大谷」を中心とする小字群の統合分離イメージ(2016.05.05作業仮説)」を早速修正する必要が出てきたようです。作業仮説を作って表現したので、それを超える発想を獲得できたということです。
4 小字読み「オオザワ」系統
小字読み「オオザワ」系統の分布
・小字読み「オオザワ」系統の分布は数は少ないですが、千葉県中央を南北にわたっています。
想像と直観を交えて考察すると、「オオサク」が谷につけられた地名であることは理解するけれど、の意味が判らないで音が近い「オオサワ、オオザワ」と理解して、漢字「大沢」を当てたものと考えます。
かつて谷と沢の使い分けがあって別の地名が生まれたということではなく、起源は「オオサク」で、その変化バージョンであると考えます。
この思考も上記作業仮説の変更を迫ります。
5 小字読み「ダイサク」系統
小字読み「ダイサク」系統の分布
・小字読み「ダイサク」系統の分布は2カ所に分かれて、大変特異になっています。
しかし、「オオタニ」「オオザワ」の検討に続いて、この「ダイサク」も想像と直観を交えて、同様に、次のように思考できます。
「オオサク」が「大作」などに翻訳(当て字)された後、その漢字「大作」をいつしか「ダイサク」と読み直した結果派生したものだと思います。
漢字「大作」(オオサク)は本来の意味が100%失われているのですから、その地名を文書に書き直す過程で「大作」(ダイサク)と変化しても(読み間違えても)不思議な事象ではありません。
オオサクがダイサクに間違って変化してしまっても、それをチェックできる知恵は社会に存在しません。
ここまでの検討で、大きな谷津という意味の小字の素は「オオサク」と「オオヤツ」の二つであり、「オオタニ」、「オオザワ」、「ダイサク」は「オオサク」から2次派生したバージョンであるということがわかりました。
「オオサク」「オオタニ」「オオザワ」「ダイサク」はいわばオオサクファミリーです。
そのオオサクファミリーを全部一緒にプロットすると、奇妙な分布のものが、不足部分を補いあうように補完しあい、円満な千葉県全体の分布図になります。
参考 小字読み「オオサク」「オオタニ」「オオザワ」「ダイサク」の分布
改訂版作業仮説は次の記事で掲載します。
つづく
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