2025年12月4日木曜日

北斜面貝層断面図の基礎検討

 Basic Study of the Shell Layer Profile on the Northern Slope


I will be conducting intensive, in-depth basic research on the shell layer profile on the northern slope of the Ariyoshikita Shell Mound for some time. Based on preliminary survey work, I have compiled a work plan. Ultimately, I aim to accurately compare the stratigraphical sections of all 15 profiles and compile a database.


有吉北貝塚北斜面貝層の貝層断面図について突っ込んだ基礎検討をしばらくの間集中的に行います。予察作業にもとづき、作業企画をまとめました。最終的には全15断面の正確な分層対比を行い、データベース化を目指します。

1 検討イメージ

・5月にまとめたペーパー「」における検討をより精細な作業で見直すことからスタートし、その結果を全断面に波及させることを基本に検討します。

・詳しい情報が存在する11断面と、11断面から1m離れた剥ぎ取り断面(いつでも展示現物観察可能)をセットで「北斜面貝層の模式断面」として位置付け、詳しい検討を行います。

・剥ぎ取り断面では3Dモデルを活用して、貝殻の配向分析をおこないます。

2 検討ステップ

2-1 11断面検討分析

・セクション図詳細検討

・セクション図と写真の対応分析


11断面予察作業の様子

セクション図と写真との対応がつくなど、5月段階と比べて認識がかなり深まっています。

2-2 11断面と剥ぎ取り断面の対応分析

・剥ぎ取り断面分層検討

・11断面と剥ぎ取り断面の対応分析


11断面と剥ぎ取り断面

予察観察では11断面と剥ぎ取り断面の分層単位の正確な対比の思考が進みました。1mしか離れていませんが、11断面より剥ぎ取り断面の方が最上貝層の層厚が増します。

2-3 11断面と10断面・12断面との対応

・11断面と10断面の対応分析

・11断面と12断面の対応分析


10・11・剥ぎ取り・12断面の対応(5月作業)

予察として詳しく検討すると5月作業を修正すべき点が見つかりました。分層対比をより正確に進めることができそうです。

2-4 剥ぎ取り断面の3Dモデルによる精細分析

・貝殻種別サイズ分析

・貝殻配向分析

・層境界分析

・貝殻破損分析


3D方向傾斜計測のためのハマグリ計測面定義


剥ぎ取り断面3Dモデルにおける3D方向傾斜計測画面(Blender)

予察作業として、剥ぎ取り断面3Dモデルにおける3D方向傾斜計測をBlenderで実際に行いました。貝殻が密集しているので、作業が困難であり、3D方向傾斜計測は諦めることにしました。剥ぎ取り断面に投影される貝殻切片からX軸(ロール)角度の計測に限定して作業することになりそうです。

海外事例にはとても参考になるものがありますので、追って記事としてメモします。

2-5 全断面の対応分析

・10~12断面と13~15断面の対応分析

・10~12断面と2~9断面の対応分析

・10~12断面と1断面の対応分析

2-6 北斜面貝層の3Dモデル化

・分層単位の3Dモデル化作業


2025年12月1日月曜日

遺物3D分布データの断面連続撮影と動画作成

 Continuous Cross-Sectional Photography and Video Creation for 3D Artifact Distribution Data


When artifacts are densely distributed in 3D space, it becomes difficult to observe their interiors. To address this issue, I developed a continuous cross-sectional photography technique. Videos can also be created from the continuous cross-sections. This technology is an important tool for observing 3D artifact distribution data.


3D空間で遺物分布密度が高まると内部観察がしにくくなります。この不都合解決のために、断面連続撮影技術を開発しました。連続断面から動画もできます。この技術は遺物3D分布データ観察の重要ツールとなります。

1 遺物3D分布データの断面連続撮影


遺物3D分布データの断面連続撮影

Blender3Dビューポートに分布する遺物3D分布データの断面連続撮影をBlenderPythonで行いました。

事例は有吉北貝塚北斜面貝層の全遺物3D分布データ(点群データ)の一部です。

BlenderPythonで点群バウンディングボックスのXZ断面スリット(この例では幅0.1m)内遺物を断面に投影しました。

Y軸方向距離が18.5mあるので、断面画像は185枚生成しました。


生成断面画像例

2 断面連続撮影動画


断面連続撮影動画

遺物連続断面185枚を順に並べて、Premiere proで約1分の動画にしました。

3 メモ

3D空間において、遺物分布密度が高まると内部の様子が見にくくなるのですが、断面連続撮影画像、動画を使えば観察が容易になります。断面連続撮影技術は遺物3D分布データ観察の重要なツールとなります。


斜面貝層形成仮説とその検証方法

 The slope shell formation hypothesis and its verification method.


This image summarizes the slope shell formation hypothesis and its verification method. The hypothesis will be verified through cross-sectional observation and analysis of excavated samples.


斜面貝層形成仮説とその検証方法の概要を画像にまとめました。仮説検証は剥ぎ取り断面観察分析により行います。

1 斜面貝層形成仮説の検証方法


斜面貝層形成仮説の検証方法

斜面貝層形成仮説とその検証方法の概要を画像にまとめました。

仮説

・斜面上部からハマグリ、イボキサゴ、イボキサゴ破砕貝片などが投棄された

・重力と葡行現象により貝殻が移動し、斜面下部ほど選択的にハマグリが堆積した

仮説検証方法

剥ぎ取り断面の観察・写真による仮説検証

・種別サイズ分析(下部ハマグリ純層確認)

・貝殻配向分析(葡行現象の配向確認)

・層境界分析(連続的境界分布の確認)

・貝殻破損分析(下部ほど貝殻破損確認)

2 参考 剥ぎ取り断面画像


剥ぎ取り断面画像


剥ぎ取り断面画像(貝殻外縁線強調)

3 メモ

剥ぎ取り断面画像を細かく観察すると、上記検証ができそうな感覚を持つことができました。しかし、実際に詳細作業をして見なければ、本当に検証できるかどうかわかりません。現状で予定調和的に検証がうまくゆく保証はありません。リスキーな一抹の不安をともなう活動です。それだけに、この状況をなんとしてでも突破したいという強い学習意欲が湧いてきます。


2025年11月のブログ活動のふりかえり

 A look back at blog activities in November 2025


I've been reflecting on the activities of the blog "Walking the Hanami River Basin" in November 2025.

In November, I conducted statistical analysis to compare species characteristics of the 3D distribution of artifacts excavated from the shell layer on the northern slope of the Ariyoshikita Shell Mound. Through this, I was able to hypothesize the distribution principle of the artifacts and shell layer. This was a milestone in my learning.


ブログ「花見川流域を歩く」の2025年11月活動をふりかえりました。

11月は有吉北貝塚北斜面貝層の出土遺物3D分布について、統計分析により種別特性を比較する活動を行いました。この中で遺物及び貝層の分布原理仮説を獲得できました。自分の学習活動の中で画期的出来事になりました。

1 ブログ「花見川流域を歩く」

・2025年11月の記事数は20です。

・石器、土器、骨などについて標準偏差による最近隣距離4区分分析を行い、比較検討しました。

・この検討の中で、「斜面貝層における遺物分布仮説 -大きい遺物ほど斜面下部に分布する-」と「斜面貝層形成仮説 -ハマグリが斜面下部に分布する-」を設定することができました。

2 ブログ「花見川流域を歩く 自然・風景編」

・早朝散歩記事4編を書きました。

3 2025年11月活動の特徴

・当初の11月活動目標は全遺物種について統計的分析比較により分布類縁性を浮かび上がらせるものでしたが、それは時間的に無理があり、できませんでした。しかし、石器、土器、骨などの密集域分布比較検討の中で、遺物と貝層の分布原理仮説に気が付くことができ、自分の北斜面貝層取組みで画期的出来事となりました。数年来継続発展させている有吉北貝塚北斜面貝層学習の一つのピークに到達できたという感覚を覚えます。

・技術的に、「標準偏差による最近隣距離4区分」をまとめました。自分レベルの技術基準づくりです。

・興味のある幾つかの具体的テーマに取組むことができませんので、12月に取組むことにします。

4 2025年12月活動の展望

・12月から、貝層断面図(セクション図)データベース化のための基礎検討に取組みます。貝層断面図情報をそのまま北斜面貝層検討作業に利用できる道筋を作る作業です。現状資料は層相観察点情報が記録としては面情報に引き延ばされていて、自分の作業には、そのまま使えない状況です。

・貝層断面図の活用策検討の基礎作業として、剥ぎ取り断面貝層(千葉県立中央博物館展示)の現場観察・写真分析を次の項目について行います。

貝殻種別サイズ分析

貝殻配向分析

層境界分析

貝殻破損分析

・この分析活動は貝層分布原理仮説検証活動ですが、この活動の中で、貝層断面図活用方策のアイディアが必ず生まれると期待しています。この活動は2025年12月と2026年1月の2カ月間を予定します。

・11月に思い浮かび、実行できなかった次の技術課題に可能な限り取組みます。

最近隣距離によらない点群密度表現(「〇m圏内遺物数」など)

点群密度表現が可能なBlenderアドオン等の試用評価(Scatterplot 3D 、MeasureIt / MeasureIt-ARCH)

点群分布空間の連続断面作成とその動画作成技術

時期別土器片3D分布データ(発掘調査報告書掲載グラフ由来データ)を遺物種3D分布分布データ(発掘原票由来データ)にプロットして、北斜面貝層全体の時期別考察を深める

294番土器破片の土器3D分布データへのプロット(層位との関連分析、土器破片大きさの分布分析)

斜面性貝層出土土器で復元されている土器現物を閲覧して、土器片遺物番号情報を取得し、精細な3D分布情報を得る

5 2026年前半活動イメージ

2025年12月~2026年1月…剥ぎ取り断面貝層を軸とする貝層断面図活用方策検討、貝層分布原理仮説検証、貝層断面図データベース作成

2026年2月~3月…貝層データベースと遺物データベースの関連検討、遺物分布原理仮説検証

2026年4月~6月…発掘調査報告書掲載土器の土器片遺物番号調査、土器型式情報の遺物データベースへのリンク、遺物データベースの土器型式を使った分析

参考

ブログ「花見川流域を歩く」2025年11月記事(〇は閲覧の多いもの)


2025年11月 Sketchfabに投稿した3Dモデル


2025年11月 YouTubeに投稿した動画


2025年11月 ブログ「花見川流域を歩く」投稿記事に掲載した画像


2025年11月30日日曜日

斜面貝層形成仮説 -ハマグリが斜面下部に分布する-

 Slope Shell Layer Formation Hypothesis: Clams Distribute at the Lower Slope


Regarding the shell layers on the slope, I proposed the "Slope Shell Layer Formation Hypothesis: Clams Distribute at the Lower Slope." This hypothesis is similar in spirit to the artifact distribution hypothesis, but uses a different verification method.


斜面部貝層に関して「斜面貝層形成仮説 -ハマグリが斜面下部に分布する-」を設定しました。この仮説は遺物分布仮説と同趣旨ですが、検証方法は別としました。

1 斜面貝層形成仮説 -ハマグリが斜面下部に分布する-

有吉北貝塚北斜面貝層を事例に、次の仮説を設定しました。

斜面最下部はガリー流路による流水営力の影響がありますが、それより上の斜面部では下部にハマグリなど二枚貝純層が分布します。

1-1 仮説結論

斜面貝層では貝殻が斜面上部から投棄され、重力及び葡行現象(クリーピング)で斜面下部に移動する。

斜面傾斜は安息角に近いあるいは同等(35度~40度)であるため、形状の大きい貝殻ほど下方への移動量が大きい。

斜面プロセス

・大きな貝殻ほど斜面表面に露出しやすい。

ハマグリなど二枚貝>イボキサゴなど巻貝>イボキサゴの破砕貝片

・斜面で貝殻が露出すると転がったり滑ったりしやすく、重力でより下方へ移動しやすい。

・結果として斜面下部に大柄の貝殻(主にハマグリ)が分級されて堆積する。

1-2 仮説の基礎となる貝殻移動原理 葡行現象

●葡行現象

斜面の貝殻は長期にわたる葡行現象で斜面下方に移動する。

葡行現象は冬季霜柱と動物・人の踏圧等で生じる。

1-2-1 緩慢な移動

冬季霜柱により斜面の垂直方向に貝殻が上昇する。日中の霜柱融解で貝殻は鉛直方向に下方移動する。このため貝殻は斜面下方に移動する。長期にわたる冬季霜柱の影響で貝殻は緩慢に移動する。

1-2-2 急激な移動

斜面は安息角に近いあるいはそれ以上の急斜面であり、冬季霜柱による微細移動をトリガーとして局所的な小崩壊・滑り(急激な移動)が頻発する。

「持ち上げ → 支えを失う → 安息角を超える → 一気に短い表層すべり」

動物や人の踏圧、強風、豪雨、地震等でも同じ小崩壊・滑り(急激な移動)が発生する。

葡行現象に伴う急激な移動(崩れトリガー)で、遺物は下方へ大きく移動する。

1-2-3 大きな貝殻の選択的移動

破砕貝片、イボキサゴな小さい貝殻はハマグリなど大きい貝殻の間に紛れ込むので、斜面ではハマグリなど大きな貝殻ほど表面に浮かび上がる。つまりハマグリなど大きな貝殻ほど表面に露出しやすくなる。そのため葡行現象の影響を受けやすくなる。一方、破砕貝片、イボキサゴな小さい貝殻は地表面から沈むので葡行現象の影響を受けにくくなる。従って、ハマグリなど大きな貝殻が選択的に斜面移動する。

2 仮説の検証について

2-1 斜面下部ほどハマグリなど大きい貝殻が選択的に分布するか

次の資料から斜面下部ほどハマグリなど大きい貝殻が選択的に分布する様子を詳細にデータ化できます。

・貝層断面図(発掘調査報告書掲載)及び発掘原票「セクション図」

・貝層断面写真(発掘調査報告書掲載)

・貝層剥ぎ取り断面現物(千葉県中央博物館展示)

2-2 投棄後に本当に貝殻が動いたのか、もともと斜面下部にハマグリが投棄されたのではないか

次の4つの視点から投棄後に貝殻が動いて分級したことを検証する予定です。

2-2-1 サイズ分析

貝層剥ぎ取り断面撮影写真から貝殻分類、長径サイズデータ化し、その分布から「動いたか、もともとその場所に投棄されたか」検証します。

2-2-2 貝殻配向分析

貝殻の長軸方向のパターンが葡行現象による斜面移動と整合的であるかどうかを分析して、葡行現象による移動つまり「動いたか、もともとその場所に投棄されたか」検証します。

流水により礫が一定方向に揃って並ぶインブリケーションという配向現象が知られています。それと対応できるような配向現象が安息角斜面における貝殻移動でも観察できるかどうか、観察・分析します。

安息角斜面における貝殻移動では流水における礫移動とは異なり、「 一気に短い表層すべり→小堆積」現象の繰り返しが配向現象として記録されていると考えられ、流水礫インブリケーションより複雑なパターンになると考えられます。

2-2-3 層境界分析

貝層境界分析により、連続的に変化した堆積なのか、斜面下部にもともとハマグリが投棄されたのか、検証します。

2-2-4 貝殻破損分析

貝殻が斜面上部で投棄され、斜面下部まで葡行現象で移動してきたと仮定すると、斜面上部の貝殻は破損が少なく、斜面下部では破損が進んでいると考えられます。この観点から現実的な分析方法があるかどうか検討します。

斜面上部と斜面下部の貝殻サンプルが現存していて、それを使うことができれば、この分析ができる可能性があります。

剥ぎ取り断面には斜面上部と斜面下部の貝殻現物が存在しているので、断面非破壊的方法で貝殻破損分析を行うことが可能であると考えられます。剥ぎ取り断面写真を予察的にみると、斜面下部のハマグリには破損・ひび割れが多いように見受けられますので、この方法が有効になる可能性があります。

3 メモ

斜面最下部はガリー流路による流水営力の影響があります、この最下部を除く斜面部では、「斜面貝層における遺物分布仮説 -大きい遺物ほど斜面下部に分布する-」を援用して「斜面貝層形成仮説 -ハマグリが斜面下部に分布する-」を設定しました。遺物と貝層の仮説は同じ趣旨ですが、検証方法は別としました。

これからの有吉北貝塚北斜面貝層取組みはこの遺物と貝層に関する仮説検証が重要な軸の一つになり展開します。

この仮説検証過程で有用情報の多産が期待できそうです。


斜面貝層形成仮説


斜面貝層形成仮説

2025年11月26日水曜日

石鏃と石斧の3D分布

 3D Distribution of Arrowheads and Axes


I observed the 3D distribution of arrowheads and axes on the shell layer of the northern slope of the Ariyoshikita Shell Mound. Small arrowheads were distributed throughout the entire slope, while larger axes were primarily found in the middle and lower parts of the slope. This provides further evidence supporting the hypothesis that larger artifacts tend to be distributed lower down the slope.


有吉北貝塚北斜面貝層の石鏃と石斧の3D分布を観察しました。小さな石鏃は斜面全体に分布し、大きな石斧は斜面中下部に主に分布し、「大きい遺物ほど斜面下部に分布する」仮説を裏付ける材料の一つになります。

1 石鏃と石斧の3D分布

石鏃と石斧の3D分布

黄点:石鏃

赤点:石斧

有吉北貝塚北斜面貝層

3DF Zephyr v8.031でアップロード


3Dモデルの動画


3Dモデルの画像


3Dモデルの画像

2 石鏃と石斧資料


石鏃と石斧資料

3 ガリー中流部斜面の様子

ガリー中流部の斜面の石鏃と石斧を抜き出して、観察しました。


ガリー中流部斜面で抜き出した情報


ガリー中流部斜面の様子

全体を総観すると、小さい石鏃の分布範囲は斜面上部から下部まで広がっていますが、大きい石斧は主に斜面中下部に分布し、斜面下部の割合が多くなっています。「大きい遺物ほど斜面下部に分布する」仮説を裏付ける材料の一つになります。


参考 有吉北貝塚出土石鏃の例

石鏃の大きさは長径2~3㎝程度のものが図示されています。


参考 有吉北貝塚出土打製石斧の例

打製石斧の大きさは長径が10㎝を越えるものが図示されています。

斜面貝層における遺物分布仮説 -大きい遺物ほど斜面下部に分布する-

 Artifact Distribution Hypothesis in Sloping Shell Layers: Larger artifacts tend to be distributed lower down the slope.


I made a note of the artifact distribution hypothesis in sloping shell layers: "Larger artifacts tend to be distributed lower down the slope." While conducting 3D spatial analysis of bones, pottery, and other artifacts in the shell layer on the northern slope of the Ariyoshikita Shell Mound, I finally arrived at a highly plausible artifact distribution hypothesis.


斜面貝層における遺物分布仮説「大きい遺物ほど斜面下部に分布する」をメモしました。有吉北貝塚北斜面貝層における骨や土器など遺物の3D空間分析作業をする中で、確からしさを強く感じる遺物分布仮説にようやくたどり着きました。

1 斜面貝層における遺物分布仮説 -大きい遺物ほど斜面下部に分布する-

有吉北貝塚北斜面貝層を事例に、次の仮説を設定しました。

1-1 仮説結論

斜面貝層では遺物が斜面上部から投棄され、重力及び葡行現象(クリーピング)で斜面下部に移動する。

斜面傾斜は安息角に近いあるいは同等(35度~40度)であるため、形状の大きい遺物ほど下方への移動量が大きい。

斜面プロセス

・大きな貝殻や大きな遺物ほど斜面表面に露出しやすい

・斜面で露出すると転がりやすく、重力でより下方へ移動しやすい

・結果として斜面下部に大柄の貝殻、大柄の遺物が分級されて堆積する。

1-2 仮説の基礎となる遺物移動原理 葡行現象

●葡行現象

斜面の貝殻・遺物は長期にわたる葡行現象で斜面下方に移動する。

葡行現象は冬季霜柱と動物・人の踏圧等で生じる。

1-2-1 緩慢な移動

冬季霜柱により斜面の垂直方向に貝殻・遺物が上昇する。日中の霜柱融解で貝殻・遺物は鉛直方向に下方移動する。このため貝殻・遺物は斜面下方に移動する。長期にわたる冬季霜柱の影響で貝殻・遺物は緩慢に移動する。

1-2-2 急激な移動

斜面は安息角に近いあるいはそれ以上の急斜面であり、冬季霜柱による微細移動をトリガーとして局所的な小崩壊・滑り(急激な移動)が頻発する。

「持ち上げ → 支えを失う → 安息角を超える → 一気に短い表層すべり」

動物や人の踏圧、強風、豪雨、地震等でも同じ小崩壊・滑り(急激な移動)が発生する。

葡行現象に伴う急激な移動(崩れトリガー)で、遺物は下方へ大きく移動する。

1-2-3 大きな貝殻・遺物の選択的移動

小さい貝殻や遺物は大きい貝殻や遺物の間に紛れ込むので、斜面では大きな貝殻や遺物ほど表面に浮かび上がる。つまり大きな貝殻・大きな遺物ほど表面に露出しやすくなる。そのため葡行現象の影響を受けやすくなる。一方、小さな貝殻や遺物は地表面から沈むので葡行現象の影響を受けにくくなる。従って、大きな貝殻・遺物が選択的に斜面移動する。

2 仮説の検証について

次の3点から仮説検証を行うことにします。

・斜面下部に行くほど本当に貝殻や遺物が大きくなるのか?(サイズ分布の定量的把握)

・貝殻や遺物は投棄後に本当に動いたのか、そもそも堆積時からそうなっていたのではないか?(層序、年代、構造検証)

・投棄後に動いたとして、葡行プロセスが妥当か?(斜面プロセスの妥当性、実験、モデル)

2-1 斜面下部ほど形状の大きいものが分布しているか

この検証は多くのデータを用意できそうです。

貝層断面図資料から貝殻の大きさについて指標となるような資料を用意できそうです。

遺物については、遺物データベースを活用して多くの資料を用意できそうです。

例えば、石鏃(形状小)と石斧(形状大)の分布が違うことについて、近々記事にするよう予定です。

2-2 投棄後に貝殻と遺物が本当に動いたのか

貝層断面資料から貝層堆積の様子を推察できて、その中で貝層移動について確認できると考えます。

斜面下部にハマグリ純貝層が見られる場合が多いですが、これが葡行プロセスによる分級である確認は検討の一つの山場となります。

また、遺物移動については土器接合資料から決定的な情報を得ることができそうです。

2-3 想定する葡行プロセスが妥当であるか

2-3-1 安息角の測定

葡行プロセス妥当性の検討基礎として、安息角の実験的測定が重要です。

ハマグリ、イボキサゴ、(イボキサゴの)破砕貝からなる貝層の安息角、その貝層に土器片等の遺物を混入した場合の安息角を実験的に測定する機会ができれば、仮説検証が進みます。

2-3-2 葡行プロセス検討

想定する葡行プロセスが妥当であるかどうかという検討では、まずは文献調査をメインに行います。さらに、将来実験的検討の機会が生まれることを期待します。

3 仮説に関する課題例

この仮説に関する課題例として、次の事項があります。

この仮説は北斜面貝層に草木が繁茂していない状況を前提にしています。貝殻や遺物投棄がおこなわれていた当時、北斜面貝層が常時草木に覆われていたならば、葡行プロセスは微弱であったに違いありません。貝塚が形成されていた当時、貝塚の草木被覆がどうだったのか、検討する必要があります。斜面には強い塩分が結果的に投下されていたので、草木繁茂が無かったのか、検討を深めることが大切です。


有吉北貝塚北斜面貝層遺物分布


2025年11月25日火曜日

骨と土器の密集域

 Bone and Pottery Concentrations


The bone and pottery concentrations in the shell layer on the northern slope of the Ariyoshi Kita Shell Mound are displayed simultaneously in a 3D viewport. The concentrations are distinct, as if they were living separately. I hypothesize that this represents differences in behavior within the shell layer after disposal. Such visualization has not been done in Japan before.


有吉北貝塚北斜面貝層の骨と土器の密集域を同時に3Dビューポートに表示しました。まるで棲み分けているように密集域が異なります。投棄後の貝層中における挙動の違いが表現されていると仮説しています。このような可視化はこれまでに本邦ではありません。

1 骨と土器の密集域

骨と土器の密集域

黄色は骨の密集域

赤色は土器の密集域

密集域とは「標準偏差による最近隣距離4区分の区分1」

有吉北貝塚北斜面貝層

3DF Zephyr v8.031でアップロード


3Dモデルの動画


3Dモデルの画像


3Dモデルの画像

2 骨と土器の密集域資料


骨と土器の密集域資料

3 メモ

有吉北貝塚北斜面貝層の骨と土器の密集域を同時に3Dビューポートに表示しました。まるで棲み分けているように密集域が異なります。投棄後の貝層中における挙動の違いが表現されていると仮説しています。

骨は小さく、斜面貝層中のクリープ(葡行)による移動が少ないのに対して、土器は大きく、斜面貝層中のクリープ(葡行)移動距離が長く、斜面下部まで達したものが多かったと推測します。

仮説の当否は別にして、骨と土器密集域の対比的表現という可視化はこれまでに本邦ではありません。


2025年11月24日月曜日

土器 標準偏差による最近隣距離4区分

 Pottery: Four Nearest Neighbor Distance Categories Based on Standard Deviation


I examined pottery's nearest neighbor distances based on the standard deviation. Looking at the cross section, there are slightly denser clusters (yellow) near dense clusters (red), and together they are more prevalent at the bottom of the slope. On a frictional slope, I assume that creep forces acted more strongly on heavier pottery, causing it to move more rapidly downslope than bones and other objects.


土器の標準偏差による最近隣距離4区分を観察しました。断面で見ると、密集(赤)の近くにやや密集(黄色)が存在して、合わせると、斜面下部に多くなっています。摩擦のある斜面では重量が重い土器に葡行営力がより強く作用し、骨などよりも斜面移動が激しかったと想定します。

1 土器の4区分結果

1-1 土器 標準偏差による最近隣距離4区分 区分1(密集)


土器 標準偏差による最近隣距離4区分 区分1(密集)

0.007~0.098m

1-2 土器 標準偏差による最近隣距離4区分 区分2(やや密集)


土器 標準偏差による最近隣距離4区分 区分2(やや密集)

0.098~0.160m

1-3 土器 標準偏差による最近隣距離4区分 区分3(やや散在)


土器 標準偏差による最近隣距離4区分 区分3(やや散在)

0.160~0.258m

1-4 土器 標準偏差による最近隣距離4区分 区分4(散在)


土器 標準偏差による最近隣距離4区分 区分4(散在)

0.258~1.847m

1-5 観察

土器の密集域のまわりにやや密集域、そのまわりにやや散在域、さらにそのまわりに散在域が分布します。土器の密集域が斜面下部のガリー流路沿いに集中していることが特徴です。

安息角に近い斜面では大きな土器に葡行営力がより強く作用し、骨などよりも斜面移動が激しかったと想定します。

2 土器 標準偏差による最近隣距離4区分の谷中断面

土器 標準偏差による最近隣距離4区分の谷中断面

土器 標準偏差による最近隣距離4区分 区分1(密集)3Dモデルに谷中部の断面を追記


谷中部断面


谷中断面の位置

有吉北貝塚北斜面貝層

3DF Zephyr v8.031でアップロード


3Dモデルの動画


3Dモデルの画像


3Dモデルの画像

3 考察

他の遺物と同様に土器の投棄のともなう斜面移動を次図のように想定しました。


考察

土器は斜面における重力・葡行移動とガリー流路における稀で強い流水移動の2つの移動種類により移動していたと想定します。

骨の移動イメージについて

 Image of bone movement


The image of bone movement published in the previous article has been revised for accuracy. It is assumed that in the shell layer on the northern slope of the Ariyoshikita Shell Mound, not only bones but all discarded artifacts moved by a combination of gravity and creep movement on the slope and water movement at the bottom of the slope.


前記事で掲載した骨の移動イメージ画像を正確を期するために修正しました。有吉北貝塚北斜面貝層では骨だけでなく、全ての投棄遺物が斜面における重力・葡行移動と斜面下部における流水移動の組合わせで移動していると想定します。

1 骨の投棄・移動・堆積のイメージ(修正)


骨の投棄・移動・堆積のイメージ(修正)

2 有吉北貝塚北斜面貝層の遺物移動原理(想定)


有吉北貝塚北斜面貝層の遺物移動原理(想定)

3 メモ

有吉北貝塚北斜面貝層の遺物は貝層縁辺台地面から投棄され、重力・葡行(クリープ)営力で斜面を下り、斜面下部に到達した遺物はガリーによる稀な流水営力でさらに遠方を移動したと想定します。

この想定(仮説)の検証が北斜面貝層検討の重要テーマの一つとなります。


2025年11月23日日曜日

技術メモ 標準偏差による最近隣距離4区分

 Technical Note: Four-Level Classification of Nearest Neighbor Distance Based on Standard Deviation


I developed my own four-level classification based on the standard deviation of 3D nearest neighbor distances for artifacts and applied it to bones. The density of bone distribution became clear. This is a record of the behavior of bone dumping, transportation, and deposition.


遺物3D最近隣距離の標準偏差による4区分を自分なりにまとめ、骨に適用しました。骨分布の密集性が明らかになりました。その様子は骨投棄→移動→堆積の挙動記録です。

1 遺物3D最近隣距離の標準偏差による4区分

貝層内遺物の3D最近隣距離を計測し、「平均からの離れ(標準偏差)」を基準にして、最小値、最大値も使い、データの相対的位置(かなり小さい、やや小さい、やや大きい、かなり大きい)の4区分を遺物3D分布分析に利用しています。この4区分の定義と名称をこのブログでは次のように設定します。

●名称

標準偏差による最近隣距離4区分

●定義

区分1:最小値~(平均値-標準偏差)

区分2:(平均値-標準偏差)~平均値

区分3:平均値~(平均値+標準偏差)

区分4:(平均値+標準偏差)~最大値

詳細には次のように定義します。

最小値≦区分1≦(平均値-標準偏差)

(平均値-標準偏差)<区分2≦平均値

平均値<区分3≦(平均値+標準偏差)

(平均値+標準偏差)<区分4≦最大値

●区分の意味

区分1:値が平均よりかなり小さい(遺物密集)

区分2:値がやや小さい~平均寄り(遺物やや密集)

区分3:値が平均寄り~やや大きめ(遺物やや散在)

区分4:値が平均よりかなり大きい(遺物散在)

●区分の表現

区分1(密集)

区分2(やや密集)

区分3(やや散在)

区分4(散在)

2 骨の4区分結果

2-1 骨 標準偏差による最近隣距離4区分 区分1(密集)


骨 標準偏差による最近隣距離4区分 区分1(密集)

   0.005~0.037m

2-2 骨 標準偏差による最近隣距離4区分 区分2(やや密集)


骨 標準偏差による最近隣距離4区分 区分1(やや密集)

   0.037~0.107m

2-3 骨 標準偏差による最近隣距離4区分 区分3(やや散在)


骨 標準偏差による最近隣距離4区分 区分3(やや散在)

   0.107~0.177m

2-4 骨 標準偏差による最近隣距離4区分 区分4(散在)


骨 標準偏差による最近隣距離4区分 区分4(散在)

   0.177~2.043m

2-5 観察

骨の密集域のまわりにやや密集域、そのまわりにやや散在域、さらにそのまわりに散在域が分布しています。

この分布の様相は、骨が貝塚に投棄され、斜面を移動して最終的に移動が停止した状態を表現しています。

貝塚縁辺部に骨密集域が存在しているのは、投棄された骨のかなりの部分の移動量が小さいため、投棄された場所を結果として表現していると仮説します。

3 骨 標準偏差による最近隣距離4区分の谷中部断面

骨 標準偏差による最近隣距離4区分の谷中部断面

骨 標準偏差による最近隣距離4区分 区分1(密集)3Dモデルに谷中部の断面を追記


谷中部断面


谷中部断面の位置

有吉北貝塚北斜面貝層

3DF Zephyr v8.031でアップロード


3Dモデルの動画


3Dモデルの画像


3Dモデルの画像

4 考察


考察

骨 標準偏差による最近隣距離4区分の谷中部断面を次のように仮説的に解釈しました。

貝塚縁辺部から骨が投棄され、その骨の一定部分はその場に残るが、それ以外は斜面を貝層とともに下方に移動して各所に堆積する。骨は大きさが小さいので移動量が小さく、土器のように斜面下部に密集して堆積するには至らなかった。

2025年11月21日金曜日

骨の最近隣距離分布観察

 Observing the Distribution of Nearest Neighbor Distances for Bone Samples


I observed the 3D distribution of nearest neighbor distances for 34,050 bone samples excavated from the shell layer on the northern slope of the Ariyoshikita Shell Mound. I created four distribution maps by dividing the nearest neighbor distances into four sections using minimum, maximum, mean, and standard deviation. The bone-dense areas were distributed in five separate areas around the edge of the shell layer, which is completely different from the distribution of pottery.


有吉北貝塚北斜面貝層の出土骨34050件の最近隣距離3D分布を観察しました。分布図は最近隣距離を最小値、最大値、平均値、標準偏差を利用して4区分して4枚作成しました。骨密集域は貝層縁辺部に5ヶ所に別れて分布し、土器分布の様相と全く異なります。

1 骨 最近隣距離3D分布

1-1 骨 最近隣距離0.005~0.037m


骨 最近隣距離0.005~0.037m

1-2 骨 最近隣距離0.005~0.037m、0.037~0.107m


骨 最近隣距離0.005~0.037m、0.037~0.107m

1-3 骨 最近隣距離0.005~0.037m、0.037~0.107m、0.107m~0.177m


骨 最近隣距離0.005~0.037m、0.037~0.107m、0.107m~0.177m

1-4 骨 最近隣距離0.005~0.037m、0.037~0.107m、0.107m~0.177m、0.177~2.043m


骨 最近隣距離0.005~0.037m、0.037~0.107m、0.107m~0.177m、0.177~2.043m

2 メモ

2-1 骨の集中域

骨の集中域は北斜面貝層縁辺部に5ヶ所ほどに別れて分布しています。この様子から貝層縁の台地面から骨を投棄した様子とそのメイン投棄場所が5ヶ所ほどに限定されていたことを推察できます。また下図でaと注記したが最大投棄場所で特徴的です。骨の投棄は貝層に満遍なく行われたのではなく、好まれていた場所があったことが判明しました。


骨の集中域

2-2 骨と土器集中域の比較

骨と土器の集中域を比較すると、顕著な違いが浮かび上がります。骨集中域は北斜面貝層の縁辺部に分布し、土器集中域は斜面下部からガリー流路沿いに分布します。


骨と土器集中域の比較

この2枚分布図の比較から次の仮説が浮かび上がりましたので、今後の重要テーマとして検討・検証することにします。

・骨は貝層縁辺付近の台地面から投棄された。投棄された骨は重力や長期にわたるクリープ現象で斜面を下るものもあったが、その割合は土器より少なかった。

・土器も貝層縁辺付近の台地面から投棄された。投棄された土器は重力や長期にわたるクリープ現象で斜面を下るものが多く、斜面下部に集中域を形成し、それはガリー流水で運ばれた。

・骨と土器の斜面移動量の違いは個別遺物の重量の違いによると考えられる。骨は小さく、かつ比重が小さいので重量が小さく、地表面での抵抗で移動しにくい。一方、土器は破片が大きく、かつ比重が大きいので重量が大きく、地表面での抵抗に対して移動しやすい。

・長期にわたるクリープ現象の要因として、霜柱がメインであり、人の踏圧なども考えられる。