花見川地峡史-メモ・仮説集->3花見川地峡の利用・開発史> 3.4〔仮説〕律令国家の直線道路、東海道水運支路の検討>3.4.339 作業メモ 西根遺跡命名の素となった小字「西根」の意味
鳴神山遺跡、西根遺跡、船尾白幡遺跡付近の地名には既に古代に使われていたことが証明されているものもあります。
西根遺跡から墨書文字「舟穂郷生部直弟刀自女奉」が出土し、「舟穂郷」が現在に大字「船尾」として伝わる地名であることからです。
船尾に限らず古代に生まれた地名が現在の小字として残っているものと考えられるものが数多く存在しますので、メモしておき、今後の発掘情報と地名情報の関連分析に備えます。
次の図は印西市の小字分布図です。
印西町字界図(昭和63年印刷)平成13年4月印西市復刻
これまでに小字「大野」と小字「白幡」を記事にしてすでに説明してあります。
1 大野
小字「大野」は墨書文字「大」や「大加」集団が活躍した土地であることから、その記憶が地名「大野」(大[オオ、オホ]と祈願していた人々が活躍していた野)として定着したと想像しました。
詳しくは、2015.12.30記事「鳴神山遺跡最多出土墨書文字「大」と小字「大野」」参照
参考 墨書土器文字「大」と小字「大野」
2 白幡
小字「白幡」はシラ(オシラサマと同じシラ(白)で繭の白さ)-ハタ(機織)であり、絹製品生産地を示すと考えました。
2016.03.21記事「船尾白幡遺跡 紡錘車」参照
参考 船尾白幡遺跡の紡錘車出土と小字白幡
船尾白幡遺跡は養蚕を示す有力な遺物が多数出土しています。
3 西根
さて、これ以外に注目すべき小字として「西根」があります。
戸神川沖積地の左岸サイドに「西根」があります。
西根の東側は船尾白幡遺跡の中心拠点(Dゾーン)が控えています。
また西根遺跡から多数の出土物がみつかり、西根遺跡付近が船尾白幡遺跡のミナトであり、祭祀の場であることもわかってきています。
このような情報から、小字「西根」の意味を次のように想像します。
船尾白幡遺跡が新規開発地として建設された時、その西側に位置する戸神川低地は開発地(集落)と外部を結ぶ重要なミナトであり、そのミナトを通じて船尾白幡遺跡は外部とつながっていました。
つまり船尾白幡遺跡からみると、地先の戸神川低地は西側に伸びる根のような存在であったと考えます。
船尾白幡遺跡からみて地先戸神川低地は自らの根元の部分に当たると考えて、「西根」という地名が生まれたと考えます。
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参考
ね【根】
1 〖名〗
二 物の基礎となり、それを形づくる根本となる部分。ねもと。つけね。
① 生えているものの下部。毛、歯などの生えているもとの部分。
*万葉(8C後)四・五六二「いとま無く人の眉(まよ)根(ね)をいたづらに掻かしめつつもあはぬ妹かも」
*あきらめ(1911)〈田村俊子〉七「頭髪の根が痛くって仕様がないよ」
② 立っているものが、地に接する部分。ふもと。すそ。
*書紀(720)神代上(兼方本訓)「譬ば海(うな)の上(うへ)に浮(うか)べる雪の根(ネ)係所(かかること)無(な)きが猶し」
*真景累ケ淵(1869頃)〈三遊亭円朝〉五一「手水鉢(てうづばち)の根に金が埋めて有るから」
『精選版 日本国語大辞典』 小学館から引用
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4 木戸
木戸場という小字と木戸脇という小字があります。
木戸という地名は、柵があって囲まれている区域や建物があり、その区域や建物の中に出入りするための木戸が存在するということです。
現代は柵や木戸(つまり扉)の存在に驚くことはありません。
しかし、古代にあっては、柵と出入りするための木戸があるということは、そこが役所であるとか、軍事施設であるとか、関所であるとかの重要な意味を持っていたと考えます。
木戸という地名はその場所に重要施設が存在していたことを示している指標性のある地名です。
戸神と船尾にある「木戸脇」「木戸場」は双方とも南(印旛沼)から鳴神山遺跡や船尾白幡遺跡にやってくる訪問者をチェックする役所(関所)が存在していたことを伝えていると想像します。
8世紀の蝦夷戦争準備時代、蝦夷戦争時代に新規開発地の建設が始まりましたが、建設当時は軍事兵站基地として建設されたので、誰でも自由に出入りできるような集落ではなかったと考えます。
5 戸神川沖積地が左右(東西)に二分されている
戸神川沖積地の小字がその中央付近で二分されています。
この分割は新規開発地でいえば鳴神山遺跡と船尾白幡遺跡の領域分割に対応すると考えます。
より厳密に思考すると、古墳時代の戸神集落と船尾集落の領域分割が新規開発地にも引き継がれたということです。
戸神川両岸(戸神集落と船尾集落、鳴神山遺跡と船尾白幡遺跡)は共存しつつ競争関係にあったと考えます。
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