2016年4月4日月曜日

漆業務発展祈願の墨書文字を認識した瞬間

花見川地峡史-メモ・仮説集->3花見川地峡の利用・開発史> 3.4〔仮説〕律令国家の直線道路、東海道水運支路の検討>3.4.322 漆業務発展祈願の墨書文字を認識した瞬間

興味対象が入れ子入れ子になっていまい、連載ブログ記事のストーリー性や体系性が薄らぐことはいつものことですから、ご容赦ください。

墨書文字「子」「小」が蚕(コ)であったことがわかり、検討をしてきましたが、その中で、予期しない突然のことですが、漆業務祈願の墨書文字を認識(発見)しましたので報告します。

鳴神山遺跡(Ⅰ044竪穴住居)で漆に関する墨書文字を認識(発見)した瞬間を画像にしてみました。

漆業務発展祈願の墨書文字を認識した瞬間

1 皮漆関係暗示の記述

2016.03.29記事「墨書土器「馬牛子皮ヵ身軆ヵ」の意味」で引用した文章の中に次の文がありました。
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なお,鳴神山遺跡からは9世紀中葉の土師器杯に「馬牛子皮ヵ身軆ヵ」と墨書がなされたものがあり,意味が不明瞭ながら牛馬の皮?等のことが書かれており,注目される。また,西根遺跡では8世紀後半の土師器椀に漆を塗る際のパレット等として使用されたものがあり,漆工芸を生業とする集団が存在している可能性が指摘できる。漆は木製品・金属製品のみならず,革製品にも利用されており,そうした技術集団が周辺に存在した可能性も残る。

西根遺跡発掘調査報告書から引用
太字は引用者
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漆の記述は段落が切れていないのでそのまま引用したまでで、この時は漆に興味を持っていませんでした。
しかし、この文を引用したことで、皮と漆に関係がある可能性について知ることができました。

2 文字「皮」と共伴出土する「七知益」

2016.04.02記事「鳴神山遺跡 墨書土器「依」再考」で次の表を作成し掲載しました。

鳴神山遺跡 子、小と共伴出土する墨書文字

この表は文字「依」の検討のための材料です。

しかし、この表を眺めると「馬牛子皮ヵ身軆ヵ」と一緒に出土している文字に「七知益」という珍しい文字があり、とても気になりました。

どのように読むのか、「シチチエキ」か?「ナナチエキ」か?はたまた「ナチマス」か?

本来検討テーマではありませんが、実際の画像を調べてみました。

「七知益」の画像
千葉県墨書土器データベースから引用

「七」と「知益」の二つの言葉であることが判りました。

3 漆と通じる「七」

「七」について辞書を調べてみました。

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しち【七】
〖名〗 数の名。六に一を加えた数。なな。ななつ。また、第七番目。漆。
『精選版 日本語国語大辞典』 小学館


しち【七】
〖名〗
六の次、八の前の数。ななつ。なな。「―曜・―宝(しっぽう)・―福神」
表記 証書などで金額を記す場合は間違いを防ぐため「漆」とも書く。
『明鏡国語辞典』 大修館書店


しち【七・漆】
数の名。なな。ななつ。「漆」は大字。
『広辞苑 第六版』 岩波書店
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なんと、七の説明に「漆」の文字が登場します。

漆の字の説明にも七が登場します。
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常音 シツ
常訓 うるし
字音
漢 シツ  呉 シチ
字義
➊うるし。㋐うるしの木。㋑うるしの樹液からとった塗料。
➋黒い。うるしのように黒い。
➌うるしする。うるしをぬる。
➍数字の七に代用する。→七の参考。
➎川の名。陝西(センセイ)省の大神山に発し渭(イ)水に注ぐ。

解字
形声。氵(水)+桼(音)。音符の桼(シツ)は、うるしの意味。水を付して、川の名を表す。また、液体であるうるしの意味をも表す。
『新漢語林』 大修館書店
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4 漆業務存在を示す墨書土器

七と漆が通じていることから、皮と漆関係が脳裏に浮かびます。

七(シチ)は漆(シチ)であることが直観できます。

「知益」をシルエキと読み汁液の意味であり、漆の汁液であることに気が付くのに要した時間はほとんどゼロでした。

また「知益」がシルエキ(汁液)であることが、七(シチ)が漆(シチ)であることのダメ押しとなりました。

「七」(シチ)は漆(シチ)つまりウルシ(漆)を意味して、漆業務発展の祈願語であることが判りました。

「知益」(シルエキ)は漆汁液増産とか、漆汁液を使った漆生産発展の祈願語であることが判りました。

5 西根遺跡発掘調査報告書の記述について

「漆は木製品・金属製品のみならず,革製品にも利用されており,そうした技術集団が周辺に存在した可能性も残る。」という西根遺跡発掘調査報告書の記述の技術集団の一つが鳴神山遺跡Ⅰ044竪穴住居付近に存在していたと考えることができます。

鳴神山遺跡Ⅰ044竪穴住居から「馬牛子皮ヵ身軆ヵ」と「七」・「知益」が出土しているからです。

なお、斃牛馬処理集団が漆技術集団でもあり、生産した皮革の付加価値を漆で高めていたという事実は、鳴神山遺跡の牧業務がそれだけ盛んであったことを物語るデータであると考えます。

6 七万(シチマンドコロ)との関係

2016.02.01記事「墨書土器文字検討メモ 万(マンドコロ)」で次のような検討を行いました。

「また質(シチ)の運営・管理も政所が行っていたと考えることができますから、七万はシチマンドコロと読んで質政所の意味であると考えます。
物のみならず土地も質の対象になり、それらの物(諸質物)と土地(質券地)の管理や訴訟等の活動を行うものが、その活動について祈願した祈願語であると考えます。」

この場合、文字「七」が別の文字「万」と結びついていて「七」=「質」と解釈しました。

その解釈と、この記事での「七」=「漆」という解釈はともに成り立つと考えます。

そもそも文字は多義的ですし、特に数詞の文字は書くと誰にでも読めるので、その音を別の意味に投影して隠語的に使いやすいのだと思います。

また、数詞を他の文字と結びつけると、より一層自由な意味投影が行われ、多義的になると考えます。



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