2018年5月30日水曜日

土坑学習をふりかえる

「大膳野南貝塚後期集落 土坑の再検討」と題してその1を2018.03.02記事「土坑の再検討 予察」として書き、最終その50を2018.05.29記事「植物・灰の送り場土坑、トイレ、柱穴」として書きました。思いがけない長期連載となりましたが、その背景に学習技術の飛躍があります。その技術飛躍により手ごたえのあるデータ分析ができるようになり、その結果学習を大幅に深めることができました。いくら検討しても興味が深まり限界がありません。
このような状況の中で縄文集落の現場状況が自分なりに詳しく感得できるようになりました。しかし、縄文時代の現場状況のイメージが湧きつつあるにも関わらず、自分に生じた根本的な疑問(集落消長の理由、漆喰貝層有無の意義など)が根本的に晴れることが無かったことも現実です。逆に疑問は深まったといっても過言ではありません。
この記事ではこのような状況をふりかえってみます。

1 学習技術の飛躍
1-1 2月までの土坑学習のデータ

2月までの土坑学習のデータ 発掘調査報告書掲載表の一部
2月までの土坑学習は発掘調査報告書に掲載されている土坑一覧表を電子化してExcelで統計分析したり、QGISにプロットして分布図を作成したりしました。
しかし、以下の理由から土坑平面図・断面図や覆土の状況、出土物がわからないため、上記データの分析は強い不全完を伴うものとなりました。

発掘調査報告書における土坑記載は全土坑の記述(テキスト)のページ、全土坑の層位記述のページ、全土坑の平面・断面図のページ、全土坑の出土物(土器)のページ、全土坑の出土物(石器)のページ、全土坑の出土物(骨角器)のページ、全土坑の出土物(貝製品)のページに分かれています。つまり1つの土坑の全記述を知るためには7つのセクションを読まなければならないのです。7つのページを探して読みそこからその土坑のイメージを知ることは苦痛を伴います。複数の土坑の比較をすることは事実上できません。
このようにデータは掲載されているけれど、そのままでは解読を事実上拒否するような編集であったため、2月までの土坑学習は統計分析やQGIS分析をしたにも関わらず充実感の少ない学習となりました。

1-2 3月から始めたデータ整備
発掘調査報告書には未整理ですが貴重なデータはあるので、それを土坑別に切り取り、データベースを作成しました。

電子的に土坑別に切り取った記述

電子的に土坑別に切り取った層位記述

電子的に土坑別に切り取った平面・断面図

電子的に土坑別に切り取った出土物

電子的に切り取った土坑別情報から作成した電子データベース(File Maker)
この土坑データベース作成により土坑学習が抜本的に改善できました。どのような視点からでも瞬時に検索でき、その結果を必要な部分だけExcelに出力できます。2月までの不全完は解消されました。なおデータベースには検索に必要な項目(例 人骨出土の有無等)、自分が検討した結果(各種分類、推定結果、メモ)や位置情報などの項目も随時追加しています。

1-3 土坑平面図・断面図を素材としたkj法分析
土坑平面図・断面図を素材にして土坑分類のためのkj法分析を行いました。(利用ソフトIllustrator)

kj法分析の様子
kj法分析を行うことにより全土坑の平面図・断面図を詳しく何回も眺め、相互に比較し、必要に応じて位置や出土物などの情報も知り、おのずとあるべき分類が可能となりました。土坑の機能(土坑が作られた目的)についてある程度の想定ができたので、それが学習を進める上での推進力の一つになりました。

kj法分析が可能になった背景には、物理的に平面図・断面図が出来たことと、知識背景的にデータベースが存在していて土坑の記述や出土物などが即わかる体制があったことによるものです。

1-4 QGIS分析技術の飛躍
3月になりQGIS分析技術を自分レベルでは飛躍させました。具体的にはデータベースで検索した結果をそのまま分布図にできるようになりました。レイヤのフィルターに演算の式を書き込む方法を活用できるようになったのです。

検索した結果を表示して他の情報と一緒に出力したQGIS画面例

2 感想
2-1 土坑学習の意義は大きい
大膳野南貝塚後期集落の土坑情報は発掘調査報告書を単純に利用する人は事実上立ち入って利用できません。しかし自分の場合はデータベースを作成して情報を利用したので、私の学習は数少ない(あるいは他に例がない)土坑情報利用例となります。我田引水になりますが、発掘調査報告書から土坑情報をはじめて汲みだしたという点での意義は大きいと思います。

2-2 専門的知識不足を実感
データ分析技術を飛躍させたため、発掘調査報告書から縄文社会具体状況を抽出できるようになりました。しかし抽出した縄文社会具体状況を解釈していく上で、専門的知識不足を実感します。いままで具体的縄文データを知りもしないのに高度な専門知識を知ってもあまり意味がないと考えていましたが、そろそろ高度な専門知識が必要になる状況が生まれているのかもしれません。

2-3 竪穴住居のデータベース化が必要
土坑学習は発掘調査報告書では事実上できなのでしかたなくデータベース化し、その結果予期せぬ形で学習を深めることができました。
一方竪穴住居は遺構別に情報が整理されているのでFile Makerを使ったデータベースは作っていません。しかし土坑データベースから生れる新たな情報やアイディア・ヒントの多さを考慮すると、竪穴住居データベースも作成することが大切であると考えます。
今後の学習活動において竪穴住居データベース作成の労力と得られる利点を天秤で図りながらデータベース作成について決めたいと思います。


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