2022年8月5日金曜日

土偶装飾付土器(北杜市寺所第2遺跡)の再観察

 Re-observation of pottery with clay figurine decoration (Teradoko No.2 site,Hokuto City)


The Hokuto City Board of Education kindly provided me with an image of the reverse side of a pottery with clay figurine decorations (Teradoko No.2 site,Hokuto City). Two large and small clay figurine decorations hold the pottery including both hands and feet. Are these two clay figurines a male and female (person), a mother and child (person), or an anthropomorphic snake and frog?


北杜市教育委員会から土偶装飾付土器(北杜市寺所第2遺跡)の裏面画像を提供していただきました。2体の大小土偶装飾が両手両足を含め土器を抱いています。この2体土偶装飾は男女(人)か、母子(人)か、擬人化したヘビとカエルか?

1 土偶装飾付土器(北杜市寺所第2遺跡)の再観察について

山梨県立考古博物館企画展「心を描く縄文人」の「様々な土偶装飾付土器」展示コーナーで展示された土偶装飾付土器(北杜市寺所第2遺跡)は、これまで次の記事で検討してきました。

2022.06.12記事「様々な土偶装飾付土器12点 観察記録3Dモデル

2022.06.13記事「土偶が両手を広げる意味

関連記事

2022.06.15記事「考古学切手 ツタンカーメンの守護女神セルケト


土偶装飾付土器(北杜市寺所第2遺跡) 3Dモデル画像

この度、北杜市教育委員会からこの土器の裏面の様子を撮影した写真を提供していただき、ブログ掲載許可をいただいたので、あらためてこの土器を観察しました。北杜市教育委員会に感謝します。

2 土偶装飾付土器(北杜市寺所第2遺跡)の画像


土偶装飾付土器(北杜市寺所第2遺跡)画像1

北杜市教育委員会提供


土偶装飾付土器(北杜市寺所第2遺跡)画像2

北杜市教育委員会提供

3 土偶装飾付土器(北杜市寺所第2遺跡)の観察


土偶装飾付土器(北杜市寺所第2遺跡)の観察

次の観察により、次の特徴を感得しました。

3-1 土偶装飾に大小がある

土偶装飾は黒駒土偶を土器に貼りつけたような姿であり、首筋の僧帽筋と肩の分離が特徴です。


黒駒土偶複製

2体の土偶装飾は大小があり、意識して大小を造形したことに間違いは無いと考えます。

3-2 土偶装飾大小はともに両手両足で土偶を抱いている

土偶装飾大小はともに両手両足で土偶を抱いているように造形されています。両手両足と文様区画線は融合しています。

3-3 土偶装飾小の右手、左手、左足には指がついている

土偶装飾小の右手、左手、左足にはそれぞれ2本指が付いているように観察できます。現物を周回して観察すれば指がどのような経路でついているのか正確な情報を知ることができると思います。土偶装飾大に付く指は確認できません。2本指はカエル文で使われるものであり、土偶装飾小はカエル文の擬人化と捉えることも可能です。

3-4 土偶装飾大小の顔はソロバン玉様の形状で、人面としては異形である

2体土偶装飾の顔(頭部)はソロバン玉のような形状で、吻が出ているように感じられますから、人面としては異形です。人体は人間として表現していますが、顔(頭部)は動物の特徴を表現しているように感じます。

3-5 土偶装飾小の顔は上向き土偶装飾大の顔は正面向き

土偶装飾小の顔は上向きに造形されています。一方土偶装飾大の顔は正面向きです。2体土偶装飾に優劣(上下)のような関係が表現されているように感じてしまいます。2つの動物対峙の様子が彷彿とします。

3-6 土器下部が使用で磨耗した様子は観察できない

土器のどの面をみても、下部に使用(煮沸具としての使用)により生じた磨耗などの様子が感じられません。

4 類似文様土器の例

自分の人面土器3Dモデルcollectionの中からこの土器文様に類似する千葉県出土土器2点を参考として観察しました。

4-1 深鉢(阿玉台式・勝坂式・七郎内Ⅱ群)(柏市小山台遺跡)


深鉢(阿玉台式・勝坂式・七郎内Ⅱ群)(柏市小山台遺跡)


検討

人体装飾では肩と僧帽筋が分離して表現されているように観察できます。また3本指が付く左手と右足が土器を大きく抱え込むように表現されています。3本指はカエルの手であり、それを指標にすると人体装飾はカエルの擬人化と捉えることも可能です。

参考 深鉢(阿玉台式・勝坂式・七郎内Ⅱ群)(柏市小山台遺跡) 観察記録3Dモデルhttps://skfb.ly/owLPG

4-2 人体文付土器(勝坂Ⅰ式)(柏市中山新田Ⅰ遺跡) 


人体文付土器(勝坂Ⅰ式)(柏市中山新田Ⅰ遺跡) 


検討

この土器には人体文が2体付いていて、両手を広げた様子は土器を抱いているように感じることができます。また肩と分離した僧帽筋の表現が刺突でなされていると感じます。

人体文付土器(勝坂Ⅰ式)(柏市中山新田Ⅰ遺跡) 観察記録3Dモデル https://skfb.ly/owLPO

5 考察

5-1 土偶装飾の正体

土偶装飾の意味について、次のような考え方がありうるような感想を持っています。

1 大小2体の土偶は男(小土偶)と女(大土偶)を表現している。(北杜市教育委員会学芸員様ご指摘)

2 大小2体の土偶は母(大土偶)と子(小土偶)を表現してる。(2022.06.13記事

3 大小2体の土偶はカエル文と別の動物文(おそらくヘビ文)を表現している。

7月に集中的に動物文の擬人化について学習したことと、今回北杜市教育委員会から裏面の写真提供を受けたことにより、この土器の土偶はカエル文(小土偶)とヘビ文(おそらく)(大土偶)と想像するようになりました。この土器はヘビとカエルの対峙土器であり、擬人化された(人に化けた)ヘビ神様とカエル神様が織りなす物語を表現するために造形されたと想像します。

5-2 土偶が土器を抱く意味

2体の土偶が(つまり神様が)土器を抱きかかえている様子は、土器内部で生まれる好ましいプロセスを土偶(神様)が見守っている、あるいは好ましい変化反応を念じ促進している姿であると感じます。

この土器が調理用道具であれば、より美味しい料理ができることを祈願する(神様に実行してもらう)という意味になると思います。ただし、使用痕が見られないので、その可能性は低いと思います。

この土器が死産児や早逝幼児の亡骸を入れる道具であるならば、それらの子どもが再びこの世に戻って生まれることを祈願する(神様に実行してもらう)という意味になると思います。しかし、大きさが小さすぎてお棺や恵那壺のような利用は考えられません。

料理にしろ、死者生まれ替わり復活にしろ、何らかの希求事項について、神様が特別の効能を授けた土器の縮小版(一種のアイコン)をつくり、祭壇に飾ったのかもしれません。祭式では希求事項祈願の一環としてこの土器に神様が所望するモノを入れて捧げたのかもしれません。

この土器がつくられたときの機能検討は後日することにします。

6 参考 様々な土偶装飾付土器12点 観察記録3Dモデル

様々な土偶装飾付土器12点 観察記録3Dモデル

縄文時代中期中葉


番号

1 土偶「黒駒土偶」複製(笛吹市中丸遺跡)

2 土偶装飾(北杜市上小用遺跡)

3 土偶装飾付土器(韮崎市石之坪遺跡)

4 土偶装飾付土器(北杜市寺所第2遺跡)

5 土偶装飾(笛吹市釈迦堂遺跡)

6 土偶装飾(北杜市東原B遺跡)

7 土偶装飾(甲州市大木戸遺跡)

8 土偶装飾(北杜市実原A遺跡)

9 土偶装飾付土器(北杜市寺所第2遺跡)

10 土偶装飾土器複製(北杜市諏訪原遺跡)

11 土偶装飾付土器(北杜市原町農業高校前遺跡)

12 土偶装飾付有孔鍔付土器「ピース」複製(南アルプス市鋳物師屋遺跡)

撮影場所:山梨県立考古博物館令和4年度春季企画展「心を描く縄文人 -人面・土偶装飾付土器の世界-」

撮影月日:2022.06.01

ガラスショーケース越し撮影

3Dモデル写真測量ソフト 3DF Zephyr で生成 v6.505 processing 69 images

12 pieces of various pottery with clay figurine Observation record 3D model

Mid-Middle Jomon period

Location: Yamanashi Prefectural Archaeological Museum Reiwa 4th Spring Exhibition “Jomon people who draw their hearts-The world of pottery with human face and clay figurines-“

Shooting date: 2022.06.01

Shooting through a glass showcase

Generated with 3DF Zephyr v6.505 processing 69 images


0 件のコメント:

コメントを投稿