2015年7月10日金曜日

大一(たいいつ)に関する情報収集

花見川地峡史-メモ・仮説集->3花見川地峡の利用・開発史> 3.4〔仮説〕律令国家の直線道路、東海道水運支路の検討>3.4.167 大一(たいいつ)に関する情報収集

白幡前遺跡の2Cゾーンから墨書土器文字「大の下に一」が大量出土しています。同時に文字「式」も出土しています。

八千代市白幡前遺跡2Cゾーン出土墨書土器文字「大の下に一」の事例
「千葉県の歴史 資料編 古代 出土文字資料集成」から引用

八千代市白幡前遺跡2Cゾーン出土墨書土器文字「式」
「千葉県の歴史 資料編 古代 出土文字資料集成」から引用

「大の下に一」は大一(タイイツ)であり、「式」が共伴して出土していることから2Cゾーンは陰陽師活動ゾーンであると考えました。

一種の重要新発見であると考えました。

白幡前遺跡2Aゾーンには寺院遺構が存在し、瓦塔という遺物も出土していますから、白幡前遺跡には仏教寺院と陰陽師活動が同時に存在したことになります。

寺院は鎮護国家の観点から、陰陽師も同じく蝦夷戦争勝利のための国家的占術の観点から配置されたと考えられ、寺院と陰陽師関連文字出土は大変興味深い事実です。

さて、ふとしたことで大一に関する情報収集が少し進みましたので、メモしておくことにします。(ブログ花見川流域を歩く番外編2015.06.28記事「大一(タイイツ)学習のきっかけをゲットする」参照)

大一(タイイツ)に関するメモ
●国語辞書による解説
たい‐いつ【太一・太乙・泰一・大一】
1 〖名〗
① 中国の上代の思想で、天地・万物の生ずる根元。宇宙の本体。
*藤樹文集(1648頃)三「夫皇上帝者大乙之神霊、天地万物之君親」 〔礼記‐礼運〕
② 天神の一つ。天上の五帝をすべるとされ、天帝・上帝の別名ともいう。また、北極紫微宮をその居所とするところから、時に北極星そのものを指す。
*本朝文粋(1060頃)三・立神祠〈三善清行〉「烹ㇾ鷺而祭ニ太一一、安知ニ求ㇾ仙之徴一」 〔宋玉‐高唐賦〕
2 =⇨たいいつせい(太一星)
*律(718)職制「凡玄象器物、〈略〉、太一雷公式、私家不ㇾ得ㇾ有、違者徒一年」 〔易緯乾鑿度〕
『精選版 日本国語大辞典』 小学館

たいいつ‐せい【太一星・太乙星】
北天を運行する一星。天帝神として、兵乱・禍災・生死などをつかさどるとされる。陰陽道ではとくに重要視され、その八方遊行の方角を求めて吉凶を占うのを、太一占の法という。太一。〔文明本節用集(室町中)〕 〔晉書‐天文志〕
『精選版 日本国語大辞典』 小学館

●大一は式占の一種
・式盤(天地盤)を使って計算して行う占いを式占という。
・天盤(円形盤)は天を、地盤(方形盤)は地を表す。天盤や地盤には十干、十二支などの占うために必要な文字や記号が記入されており、地盤の上に天盤を乗せ、天盤を回して計算する。
・式占は古代中国の国家が採用した占術で、推古天皇の時代にその一つの奇門遁甲が伝来した記事が日本書紀にある。
・大一(タイイツ)、遁甲(トンコウ)、六壬(リクジン)を三式占という。
・大一は天を占い、遁甲は地を占い、六壬は人を占う。
・古代式盤で現存するものはない。朝鮮や中国で出土した式盤の復元図がつくられている。

六壬式式盤の復元図を表紙に掲載した図書
斎藤英喜著「陰陽師たちの日本史」(発行 株式会社kADOKAWA)から引用

●式占は国家の秘事
・律令国家の初期においては、式占は陰陽寮が独占する国家的秘事であった。

●平安時代以降の式占のメインは六壬式
・式占としての大一に関する知識はほとんど完全に失われてしまった。
・平安時代以降の式占は六壬式がメインとなり、陰陽師として名高い安倍晴明は子孫のために『占事略决』を残した。

●感想
・一般概説書や専門書を入手したり、図書館で調べたりしたのですが、大一自体のことを詳しく解説した図書には結局お目にかかれませんでした。
・現代の陰陽道・陰陽師に関するほとんどの情報が安倍晴明を出発点とする六壬式占術に関するものです。
・大一に関する遺物・史料が無いので研究対象にできないのだと思います。

・大一は天を占う術ですから、国家の命運を左右する戦争の占術です。同時にその術は8世紀には確実に陰陽寮の独占化にあったのです。ですから、白幡前遺跡2Cゾーンから式占大一のロゴマークである「大の下に一」と文字「式」が出土したことは、この場所に陰陽寮の出先機関が存在していたと考えて間違いないと思います。

・これまで出土文字「式」および式占・式盤・式神とかの式について、私は「儀式」とか「式次第」とかのセレモニーとしての式として無意識にイメージしてきました。
ところが、式盤を使って複雑な計算をして行う占いの方法を知って、このイメージが間違っていることに気が付きました。
式盤が高度な知的計算道具であることを知り、さらに自分の手が過去の計算尺操作体験を思い出し、「式」のイメージは「方程式」とか「公式」の式に近いイメージの言葉であることに気が付きました。
つまり出土文字「式」及び式占・式盤・式神の式は、定まった法則という意味でイメージする方がぴったりすることに気が付きました。
式占とは法則を見つけ出す占いですから法則占、式盤とは法則を見つけ出す計算盤ですから法則盤、式神とは法則の神様ですから法則神といってもいいのだと、心の中で考えました。

参考
しき【式】
1 〖名〗
① ある物事をするについての定まった形式や方法、型、体裁。定まった法則。一定の標準。規則。式目。方式。のり。
*続日本紀‐天平宝字元年(757)一〇月乙卯「凡国司処二分公廨一式者」
*滑稽本・浮世風呂(1809‐13)四「何の道にも式(シキ)のあるもので」
『精選版 日本国語大辞典』 小学館

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