2021年8月4日水曜日

剥ぎ取り断面によるイボキサゴ破砕貝層の観察

 縄文社会消長分析学習 119

有吉北貝塚北斜面貝層の学習ではイボキサゴの意義に関する学習が大きなポイントであると直観しています。特にイボキサゴの破砕についての意義が焦点となります。そこで、1年前に千葉市埋蔵文化財調査センターで撮影し3Dモデルを作成した、園生貝塚貝層剥ぎ取り断面のイボキサゴ破砕貝層を参考として観察しました。

1 園生貝塚貝層断面 観察記録3Dモデル

園生貝塚貝層断面 観察記録3Dモデル

平成20年度確認調査

縄文時代後期~晩期(約4000~3000年前)

断面の大きさ:95㎝×270㎝

撮影場所:千葉市埋蔵文化財調査センター

撮影月日:2020.08.21

3Dモデル写真測量ソフト 3DF Zephyr で生成 v5.003 processing 102 images


展示の様子


3Dモデルの動画

2 イボキサゴ破砕貝層の観察


イボキサゴ破砕貝層拡大写真位置図


写真1

イボキサゴ破砕貝層とその上にのる二枚貝貝層との境付近の様子です。子細にみるとイボキサゴ破砕貝粒径は必ずしもソートされていませんから、水流の影響を受けていないことは確実です。雨水の影響は当然受けていますから、写真では確認できないような微細なかけらは地下水と一緒に下方に流れていったに違いありません。

二枚貝貝層には完形に近いイボキサゴとその破片が二枚貝の間を充填しています。


写真2

イボキサゴ破砕貝層の中央部付近です。完形やそれに近いイボキサゴが中央で横に薄く層状に観察できます。この写真から破砕されたものの量がほとんどであり、完形に近いものの量は極わずかであることが判ります。完形に近いものが層状になっている事象の一つの解釈として、イボキサゴを破砕して利用した最後に、土器の中で残った貝殻を取り出すために水をいれて洗う行為があり、この時破砕貝殻と破砕されそこなった少数の完形貝殻がソートされ、そのソートのまま破砕貝が籠などに入れられて貝塚に持ち込まれたと仮想します。


写真3

二枚貝層の上のイボキサゴ破砕貝層の様子です。二枚貝層の直上には完形に近いイボキサゴが層を成しています。これは二枚貝の層には空隙が多いために、雨水が地下に浸透する際に破砕貝殻を下の二枚貝層に移動させたことによると考えられます。完形イボキサゴは二枚貝層の空隙よりも大きいので、それだけ選別されて残ってしまって層を成したと考えることができます。


写真4

二枚貝の間には完形イボキサゴとイボキサゴ破砕貝殻片が充填しています。この写真には完形に近いイボキサゴがかなり多く見えます。もしも、イボキサゴの破砕貝殻量と完形貝殻量の比が一定であるならば、この写真の泥のように見える部分は実際にはイボキサゴ破砕貝由来の物質であると言えるかもしれません。


写真5

オキアサリ純貝層のオキアサリ貝殻間隙を良くみるとイボキサゴ完形貝とイボキサゴ破砕貝が隈なく充填しています。オキアサリを利用してその貝殻はそれだけでこの場に投棄したとは思いますが、同時にイボキサゴの投棄もあったことになり、イボキサゴ利用がきわめて盛んであったことを物語っているように感じます。


写真6

アカニシとか獣骨とかマガキなどの注記がありますが、大きなモノの間は破砕イボキサゴと完形イボキサゴが隈なく充填しています。完形イボキサゴは「目に見える」のでその存在は判りますが、破砕イボキサゴの量はまるで泥のように見えてしまい、結局「目に見えない」ことになっているのではないか、疑問が生まれます。

3 感想

3-1 縄文中期と後晩期のイボキサゴ利用

園生貝塚貝層剥ぎ取り断面は縄文後晩期の資料です。一方、現在学習中の有吉北貝塚北斜面貝層は縄文中期の遺構です。時期は異なりますが、イボキサゴの利用方法は同様であったという前提で以下の感想をメモします。

3-2 イボキサゴ破砕が利用のメイン

イボキサゴ破砕貝層がイボキサゴ利用の真の姿を反映している可能性を強く感じ取ります。

つまりイボキサゴは破砕して中身を取り出し、その破砕貝殻を貝塚に投棄したのであり、イボキサゴ1つ1つから中身を取り出すことはメインではなかったと考えます。

この仮説は自分がイボキサゴを扱ってみた直観と一致します。自分の指先の大きさとその筋肉感覚からは、いくら最適な道具を使い、いくら習熟しても、イボキサゴ1つ1つから中身を取り出して得られる成果は、あまりに小さく、生活の中で非効率感、非現実感しか持てないと感じました。

3-3 イボキサゴ破砕利用のイメージ

土器の中でイボキサゴを潰して中身(肉と内蔵)と破砕貝殻が混じった状態をつくる。水(海水)をその土器に入れて中身(肉と内蔵)と破砕貝殻を比重の違いを利用して分離する。破砕貝殻だけを貝塚に投棄する。中身は煮詰めて最後は乾燥させて固形旨味の素を作る。あるいは肉と液状部分(内蔵)を分離して、肉は乾燥貝にし、液状部分(内蔵)は魚醤として、タレ(旨味)の素などとして利用する。

3-4 イボキサゴ利用量が低く見積もられている可能性

イボキサゴは破砕されて利用され、完形イボキサゴは破砕されそこなった極一部であるとすれば、破砕イボキサゴ貝殻片は極小さいので、容易に二枚貝貝層の中に移動浸透してしまう可能性が大です。このようなイボキサゴ破砕貝の貝層内移動事象により、イボキサゴ利用の実態が過少評価されている可能性がないか、疑問が生まれます。

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