2021年8月8日日曜日

イボキサゴ破砕ミニ実験 成果大

 縄文社会消長分析学習 121

有吉北貝塚北斜面貝層のメイン貝種は中小形ハマグリとイボキサゴです。イボキサゴは破砕されているのが特徴です。イボキサゴの破砕が実際に貝層断面でどのように観察されるのか発掘調査報告書には良い写真がないので、参考に園生貝塚の貝層剥ぎ取り断面3Dモデルを観察しました。

2021.08.04記事「剥ぎ取り断面によるイボキサゴ破砕貝層の観察」参照

この記事ではイボキサゴ標本を実際に破砕してみて、そのミニ実験から判ったことをメモします。たわいのないミニ実験ですが、成果はとても大でした。

1 イボキサゴ破砕ミニ実験


破砕前のイボキサゴ

右(赤)イボキサゴが破砕用サンプル、左(緑)イボキサゴは破砕用サンプルと大きさが同程度の対照用サンプル

2 イボキサゴの破砕

ア イボキサゴ1個をラップでくるみ、それを数枚の新聞紙に挟み、手でつぶそうとしました。つぶれません。当方が高齢のため握力が減退していることもかかわるかもしれませんが、イボキサゴはかなり固いものです。

イ 同じものをコンクリートの床に置き、スニーカーをはいて乗りましたがつぶれません。スニーカーのかかとクッションが効いてしまっているようです。

ウ 同じものをコンクリートの床の上に置き、コンクリートブロックを乗せ、その上に自分が乗りました。音を立ててつぶれました。

ここまでの実験でイボキサゴの殻は相当に固いことが判りました。土器に多量のイボキサゴを入れて、上から棒でつぶすという自分の想定は間違っている印象を持ちました。多量のイボキサゴを棒の圧力で同時に破砕することはいくら力持ちの縄文人とはいえ困難であると考えます。またその行為を土器の中ですれば、土器が破損すること必定です。

3 イボキサゴ破砕結果

3-1 結果


破砕後のイボキサゴ

破砕した破片をまとめて置いたものです。


破砕後のイボキサゴ

破砕した破片をまとめて置いたものです。


破砕後のイボキサゴ

破砕後のイボキサゴをばらして置いたものです。


破砕後のイボキサゴ

破砕後のイボキサゴをばらして置いたものです。

3-2 見かけの体積

完形イボキサゴの見かけの体積(螺旋内部空間にモノが詰まっていると考えた時の体積)と破砕してバラバラにしたものの実体積(破砕物を水に沈めた時、排除される水の体積)を比較すれば、後者は前者より生体が居住していた螺旋内部空間分だけ減少することになります。実際に視覚的に上の写真を観察すると1/3程度に減少しているような印象をうけます。

3-3 内部生体組織の残存

破砕したイボキサゴには生体組織(有機物)が残存していて、破砕物から弱い臭気が発生しています。イボキサゴ標本の生体部分取り出しは繰り返して行い、最後はポリデント処理までしたのですが、思いもかけない程度の生体組織残存です。

この結果を単に自分の標本作成法が未熟であると考えるか、それともイボキサゴから生体組織を完全に取り去ることはほぼ不可能であるかと考えるかで、得られる情報が異なってきます。

4 考察

4-1 縄文人のイボキサゴ破砕法

イボキサゴ殻が固いという実態を踏まえて、縄文人がどのようにしてイボキサゴを破砕していたのか実験的方法も加えながら検討する必要があります。

例えば、台石の上にイボキサゴを置き磨石で梃の原理を利用しながら1個1個つぶしたともイメージできます。木製台とか、木製棒、土器(片)では多量のイボキサゴすりつぶしは困難であったと考えます。

4-2 イボキサゴ破砕による貝殻見かけ体積減少

今回の破砕実験結果から、貝層断面でイボキサゴ破砕層を見る時、破砕層の単位断面積当りの元のイボキサゴ個体数は同じ単位断面積の完形イボキサゴ層よりはるかに多いことが判ります。イボキサゴ破砕層を観察する時にイボキサゴ個体数の過小評価に注意することが大切です。

4-3 イボキサゴ破砕物に付着する生体組織(有機物)

今回の実験結果から、イボキサゴから生体組織を完全に取り去ることは、その大きさと人指の大きさの関係から、現代人も縄文人も同じで、ほぼ不可能であったという前提を仮定して考察します。

この実験結果から、縄文時代イボキサゴ破砕物には必ず生体組織が付着していて、それが貝層に投棄されたと確実にいえそうです。

つまりイボキサゴ破砕層は有機物に富んでいて臭いも強烈であったということです。ここに土を少しかぶせればその場所は土に養分があり、太陽光に恵まれている場所ですから、植物にとっての天国が生まれたことになります。

混貝土層は「締まった土」を生成してガリー侵食に対抗したという視点だけでなく、「植物生育を促す圃場」を形成して、植物繁茂によりガリー侵食に対抗したという視点も重要な仮説になると考えます。

さらに、意図して植物生育を促した活動が存在したということは、その活動と有用植物の採集とか植物の栽培とかなどが絡むのか否かという問題も意識せざるを得なくなります。

4-4 イボキサゴ利用の一つの仮想イメージ

ア イボキサゴを土器で煮る(中身の肉が固くなり殻から分離しやすくなる、ゆで汁はスープとして利用する)

イ ゆでたイボキサゴ1個1個を台石の上で磨石で潰して、中身と殻を一緒に土器に入れる

ウ 土器に水を入れて浮かぶ中身(肉)だけ選別する(中身(肉)は干し貝として製品化する)

エ 土器の中で上澄み(内蔵のドロドロした部分)と殻を回転運動などで分離して上澄みだけ取り出す(上澄みは加熱濃縮し、旨味液体・旨味固体・旨味粉末などとして製品化する)

オ 土器に残った破砕殻は混貝土層の素として貝層(圃場)に撒く

カ 破砕貝を撒いた上に土を被せる【混貝土層の形成】(イボキサゴ由来栄養分を多量に含んだ良質な土壌が形成される)

キ 植物繁茂により地形侵食防止を期待する。生えた植物の中から有用植物を選別して生活で利用する。(有用植物を栽培する。?)


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