2021年8月21日土曜日

破砕イボキサゴの殻径

 有吉北貝塚を始め東京湾岸貝塚から破砕イボキサゴ貝層が出土していて、なぜ破砕したのか興味が湧きますが、破砕イボキサゴと通常出土イボキサゴの殻径データが「史跡加曽利貝塚総括報告書」(2017、千葉市教育委員会)に掲載されていることを西野雅人先生から教えていただきました。破砕の意味が判るかもしれない貴重なデータであり、最初の検討をメモします。

1 イボキサゴの復元殻径と比較


イボキサゴの復元殻径と比較

「史跡加曽利貝塚総括報告書」(2017、千葉市教育委員会)から引用

破砕イボキサゴ貝層に含まれる破片の中から軸高計測可能なものを見つけて軸高を計測し、軸高と殻径の間には関係があるので、その関係式にもとづいて破砕イボキサゴ殻径を復元しています。

このグラフをみると破砕イボキサゴは通常出土イボキサゴ(破砕されていないイボキサゴ)より4㎜程小さいイボキサゴになっています。つまり小さいイボキサゴ(殻径中央値-10㎜)については破砕しているということです。一方大きいイボキサゴ(通常のイボキサゴ)(殻径中央値-14㎜)は破砕していないということです。

このグラフの解釈として、身を取り出すことが可能な大きさのイボキサゴはそのまま取り出し、身を取り出すことが困難なイボキサゴは殻ごと潰して、殻と身がぐちゃぐちゃになったなかから身や内蔵エキスを何らかの方法で選別採集していたことを考えることができます。

なお、小さいイボキサゴほど貝殻の強度は低いと考えられますから、身を一つ一つの貝から取り出す膨大な手間を回避するために、つまり一挙に身を取り出す方法を適用するために、わざと小さなイボキサゴを選択して採取したという捉え方も成り立つかもしれません。

このデータは有吉北貝塚北斜面貝層の成り立ちを考える上でも大変貴重な情報になると思います。

2 2021.07.10木更津盤洲干潟採取イボキサゴ殻径頻度分布

2021.07.10木更津盤洲干潟採取イボキサゴのなかから無作為に50個を選び、殻径、軸高、殻高を電子ノギスで計測しました。


殻径、軸高、殻高を計測したイボキサゴ50個

この計測のうち殻径の頻度分布をグラフにすると次のようになります。


2021.07.10木更津盤洲干潟採取イボキサゴ殻径頻度分布

-17㎜(16.1~17.0㎜)に全体の54%が集中します。殻径は加曽利貝塚出土通常イボキサゴより3㎜大きく、破砕イボキサゴより7㎜も大きくなります。

このグラフを1の加曽利貝塚グラフに追記すると次のような資料になります。


イボキサゴ殻径頻度分布の比較

盤洲干潟採取イボキサゴのサンプル数はたったの50ですから、データの重みが異なりますが、予察の予察であるとする立場にたてば、興味ある事象が空想できそうです。

【空想】 現生イボキサゴの殻径の方が加曽利貝塚出土イボキサゴより大きい可能性がある…………………現在はイボキサゴを食用として採集していませんから、自由にすくすく育っていてイボキサゴが本来の大きさに育っています。一方縄文時代は採集圧でイボキサゴの育ちはわるく、小さいイボキサゴが多かったと考えます。特段に小さいものまでも大量に採集し、それは破砕しなければ利用できないほどだったのです。

3 感想

現在のイボキサゴよりはるかに小さなイボキサゴを大量に利用していたという事実は、イボキサゴの利用においてタンパク源としての身(肉)の利用がメインではなく、旨味としての利用がメインであるという考え方の確からしさをより確固としたものにするような印象を持ちます。


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