2020年10月10日土曜日

千葉市に存在した縄文大規模落し穴列の紹介(2015年4月検討)

 縄文社会消長分析学習 49

学習に着手した千葉市内野第1遺跡に76基を有する縄文大規模落し穴列が検出されています。その大規模落し穴列を2015年4月にブログ記事にて検討しましたので、紹介します。

ブログ花見川流域を歩く番外編2015.04.20記事「千葉市内野第1遺跡 縄文時代大規模落し穴シカ猟」

ブログ花見川流域を歩く番外編2015.04.18記事「千葉市内野第1遺跡 縄文時代土壙列と地形」

ブログ花見川流域を歩く番外編2015.04.16記事「千葉市内野第1遺跡 縄文時代遺構の土壙列に注目する」

1 千葉市内野第1遺跡発掘調査報告書記載76基土壙穴列


千葉市内野第1遺跡縄文時代遺構に見られる土壙列


土壙の形状 例

報告書では次のような説明がされています。(要約)

1号土壙列(北側)は、標高30mから低地部分までの230mにわたって台地を横断する形で計36基が検出されている。さらに数基の存在が考えられる。住居跡等に切られている土壙がある。

2号土壙列は42基が標高20mのラインに沿って約200mに亘り弧状に分布する。住居跡に切られている土壙がある。

土壙は陥穴群と思われ、規模は長軸2m~3m、短軸1m~2m、深さ1~2mで、底面が細くなり断面がV字状をなすもので底面施設はない。土壙間の間隔は、3m~4mであるが、一部が欠落したり、間延びしている部分もあり、一定していない。構築時期については、住居跡との重複関係から古墳時代前期より古いと想定できるが、明確な時期決定はできない。

2 土壙列と地形


千葉市内野第1遺跡縄文時代遺構に見られる土壙列

土壙列は台地斜面中腹に設置されています。

下段の土壙列の東端は沖積面に埋没しています。土壙列が使われていた時期の河床面は発掘当時の沖積面よりはるか下位に存在していたと考えられます。(近隣他所のボーリング資料例から数m~10m程度河床面が低かった…斜面がそれだけ長大だった…と推定できます。)


土壙列の1960年代都市図プロット図

(1960年代都市図は開発前地形を表現する最初の航測地図です。この地図所管は現在、千葉市都市計画課ではなく千葉市郷土博物館です。千葉市郷土博物館に「閲覧申請」して電子複製を作成しました。)


土壙列の現代地図プロット図

3 土壙列を使った狩猟方法


狩猟装置としての土壙列区分とその狩猟範囲(追い込みのイメージ)

土壙列は落し穴列であり、大規模追い込み猟の装置であると考えました。


土壙列(落し穴列)の工夫の相違

下段の土壙列より上段の土壙列の方が工夫がされているので、上段土壙列の方が新しいと考えました。また沖積面の上昇(斜面の短縮)により下段の土壙列が狩猟装置として機能低下し、それにより上段土壙列が新設されたと考えることもできるかもしれません。

4 感想(2020.10.10)

・落し穴列で大量(?)捕獲したシカは沖積面を流れる勝田川の水で処理され、その場には多量のシカ骨が残されたと推測できます。それらは全て現在沖積面の下深さ10m以上の場所になります。開発によりその沖積面は掘削され遊水地に、あるいは埋め立てられ住宅地になりました。沖積層の深いところに現在も狩猟に関わる遺構や遺物が存在している可能性が濃厚です。

・人の居住と狩猟装置の存在は両立しません。この装置は縄文後晩期集落とは全く無関係であると結論づけることができます。またこの場所にシカの大きな群れが遊動していたという「豊過ぎる状況」や落し穴の盛行時期等から、この落し穴列は縄文早期以前のものであると想像します。


千葉市内野第1遺跡の遺物と遺構

 縄文社会消長分析学習 48

2020.10.07記事「縄文社会消長分析学習の方法」に基づいて早速学習テーマの渉猟のための作業を開始します。とりあえず次の発掘調査報告書はこれまでに親しんできているので、その相互比較を行い問題意識を醸成することにします。

・史跡加曽利貝塚発掘調査報告書

・有吉北貝塚発掘調査報告書

・六通貝塚発掘調査報告書

・大膳野南貝塚発掘調査報告書

・西根遺跡発掘調査報告書

・内野第1遺跡発掘調査報告書

最初の具体的作業は遺物・遺構の種類と数量の大局観的比較をします。

この記事では千葉市内野第1遺跡発掘調査報告書から遺物・遺構の種類と数量を拾ってみました。

1 千葉市内野第1遺跡の遺物・遺構


千葉市内野第1遺跡の遺物・遺構の種類と主な数量

(この図の記述は、この記事の最後にテキストで掲載)

・堀之内1式期から安行3b式期までがメインの遺跡です。

・遺構は竪穴住居跡125、土壙427、土壙列76などです。土壙列は斜面の落し穴列であり、その時期は不明ですが、縄文早期頃が想定され、遺跡集落とは無関係です。

・土器は堀之内1式から安行3b式まですべての時期で深鉢、鉢、浅鉢、注口土器が出土し、台付鉢や壺もほとんどの時期で出土します。注口土器などは祭祀と関わる土器であると考えます。発掘調査報告書に掲載された土器数のカウントはまだ行っていません。

・特殊土器150には異形台付土器48が含まれていて、ほとんどが祭祀道具であるとみられます。

・土製品を便宜的に祭祀・装飾系と生産系に分けました。祭祀・装飾系には土偶289、耳飾119などが含まれ、豊富です。生産系は有孔円盤形土製品63が含まれ、製糸活動が盛んだったことがわかります。

・石製品51には石棒・石剣26が含まれます。石製品は全て祭祀・装飾品です。

・石器1300はほとんどが生産・生活用具のようです。石鏃102は磨製石斧178や打製石斧192より少なく、狩猟がどれほど行われたのか興味が湧きます。

・骨角貝製品12は大変貧弱です。

・木製品3が出土しています。

・動物遺体はシカ2071、イノシシ626がメインとなっています。焼骨等がかなり出土しているようですが、その調査は特段には行われていないようです。

・貝層はオキアサリ、ハマグリ、シオフキ、イボキサゴなどから構成され、船橋付近の東京湾から運ばれたことが推定されています。

・魚類はコイ・ウナギなどが多く、淡水漁が行われていたようです。

・埋葬された人骨12体が出土しています。動物遺体と一緒に回収されたヒト骨は15をカウントしていて、その解釈に興味を持ちます。

2 他遺跡との比較

今後、千葉市内野第1遺跡の遺物・遺構の種類、数量情報を他遺跡と比較します。

3 感想

東京湾から魚貝類が運ばれてきていますが、その返礼品が何であったのか、興味が湧きます。

異形台付土器、土偶や耳飾の出土が多く、この集落分だけであるのか、あるいは拠点集落であり近隣集落分も含まれるものであるのか興味が湧きます。

4 1の作業で判った一つの事柄

1の作業でこの遺跡では骨角貝製品が極めて貧弱であることがわかりました。シカやイノシシの下顎を利用した搔器が全く出土していません。この事実から、この遺跡で皮なめしが盛んであったとは到底考えられません。

一方、特殊土器-ミニチュア土器のサンダル状土製品を、皮革製サンダルのミニチュアではないだろうかと以前想定しました。(その後注口付き片口と想定を変更。)もし、1の情報を知っていれば、サンダル状土製品を皮革製品のミニチュアと考えることにはもうすこし慎重な思考をしたかもしれません。

……………………………………………………………………

千葉市内野第1遺跡の遺物・遺構の種類と主な数量

千葉市内野第1遺跡

  • 遺構
    • 竪穴住居跡 125
      • 炉
      • 柱穴
      • 焼土
      • 獣骨
      • 炭化物
      • 埋甕
      • 貝
      • 灰
    • 土壙 427
    • 土壙列 76
    • 溝
  • 土器
    • 堀之内1式期
      • 深鉢
      • 鉢
      • 浅鉢
      • 注口土器
      • 壺
    • 堀之内2式期
      • 深鉢
      • 鉢
      • 浅鉢
      • 注口土器
      • 壺
    • 加曽利B1式期
      • 深鉢
      • 鉢
      • 浅鉢
      • 注口土器
      • 壺
    • 加曽利B2式期
      • 深鉢
      • 鉢
      • 台付鉢
      • 浅鉢
      • 注口土器
      • 壺
    • 加曽利B3式期
      • 深鉢
      • 鉢
      • 台付鉢
      • 浅鉢
      • 注口土器
    • 曽谷式期
      • 深鉢
      • 鉢
      • 台付鉢
      • 浅鉢
      • 注口土器
    • 安行1式期
      • 深鉢
      • 台付鉢
      • 浅鉢
      • 注口土器
    • 安行2式期
      • 深鉢
      • 鉢
      • 台付鉢
      • 浅鉢
      • 注口土器
    • 安行3a式期
      • 深鉢
      • 鉢
      • 台付鉢
      • 浅鉢
      • 注口土器
      • 壺
    • 安行3b式期
      • 深鉢
      • 鉢
      • 台付鉢
      • 浅鉢
      • 注口土器
      • 壺
  • 遺物
    • 特殊土器 150
      • 異形台付土器 48
      • 蓋形土器 12
      • 手燭形土器 5
      • 舟形土器 4
      • 吊手形土器 12
      • 小形土器 37
      • ミニチュア土器 24
      • 製塩土器 8
    • 土製品
      • 祭祀・装飾系 559
        • 土偶 389
          • 山形土偶 98
          • ミミズク土偶 74
          • 中空土偶 58
        • 人面付土版 3
        • 土版 34
        • 耳飾 119
        • 動物型土製品 6
        • 脚付土器 1
        • 人面装飾付土器 2
        • 土製垂飾 2
        • 玦状耳飾 1
        • スタンプ形土製品 1
        • アワビ形土製品 1
      • 生産系 353
        • 有孔円盤形土製品 63
        • 有孔円盤形土器片 11
        • 有孔球形土製品 5
        • 有孔円柱形土製品 1
        • 円盤形土製品 1
        • 円盤形土器片 245
        • 円柱形土製品 1
        • 土錘 3
        • 土器片錘 17
        • 焼成粘土塊 7
    • 石製品 51
      • 石棒・石剣 26
      • 独鈷石 4
      • 岩版 1
      • 環状石製品 1
      • 玉類 19
    • 石器 1300
      • 尖頭器 3
      • 石鏃 102
      • 石錐 6
      • 石匙 3
      • 磨製石斧 178
      • 打製石斧 192
      • 磨石 317
      • 敲き石 146
      • 凹石 73
      • 石皿 144
      • 台石 23
      • 砥石 8
      • 円盤形石器 7
      • 石錘 6
      • 軽石製品 367
    • 骨角貝製品 12
      • 骨製品 4
        • かんざし 骨
        • 骨錐又はヤス 鹿又は猪の骨
        • 骨針 猪犬歯
      • 角製品 7
        • 栓状品 鹿角
        • かんざし 鹿角
        • 儀礼用具 鹿角
        • 腰飾り 鹿角
      • 貝製品 1
        • 貝輪 イタボガキ
    • 木製品 3
      • 柄付大皿
      • 堅櫛
      • 容器
    • 動物遺体
      • 破片
        • 哺乳類 7776
          • シカ 2071
          • イノシシ 626
          • ヒト 15
          • サル 12
          • キツネ 5
          • ウサギ 5
          • タヌキ 4
          • イヌ 4
          • アナグマ 3
          • オオカミ 2
          • その他 5029
            • クジラ
        • 貝類 46
          • オキアサリ
          • ツノガイ
        • 魚類
          • クロダイ
        • 鳥類 28
      • 焼骨等
    • 貝層 サンプル
      • 二枚貝
        • オキアサリ
        • ハマグリ
        • シオフキ
      • 巻貝
        • イボキサゴ
    • 貝層中の魚類 サンプル
      • コイ
      • ウナギ
      • ホラ
      • ハゼ
      • マイワシ
      • ギバチ
      • クロダイ
      • アジ
    • 人骨 12

2020年10月9日金曜日

称名寺式土器(千葉市餅ヶ崎遺跡)透視観察 その2

 縄文土器学習 481

2020.09.27記事「称名寺式土器(千葉市餅ヶ崎遺跡)の透視観察が実現」のつづきです。

1 称名寺式土器(千葉市餅ヶ崎遺跡)高密度点群3Dモデル

称名寺式土器(千葉市餅ヶ崎遺跡)高密度点群3Dモデル

加曽利貝塚博物館常設展展示「称名寺式土器(千葉市餅ヶ崎遺跡)」の高密度点群3Dモデル

この土器は沈線が深く刻まれ、その部分の器壁厚さが薄いのですが、その様子をこの3Dモデルで透視的に観察することができます。


高密度点群3Dモデルの動画

2 参考 称名寺式深鉢形土器(千葉市餅ヶ崎遺跡) 観察記録3Dモデル

称名寺式深鉢形土器(千葉市餅ヶ崎遺跡) 観察記録3Dモデル 

撮影場所:加曽利貝塚博物館 

撮影月日:2019.12.27 

許可:加曽利貝塚博物館の許可により全周多視点撮影及び3Dモデル公表 

3Dモデル写真測量ソフト 3DF Zephyr で生成 v4.523 processing 93 images


2020年10月8日木曜日

アリソガイを獣皮タンニンなめしに使った可能性

 縄文貝製品学習 20

千葉県教育委員会の許可で閲覧した有吉北貝塚出土縄文中期アリソガイ製ヘラ状貝製品の観察を3Dモデルを活用しながら行っています。この記事では4点目として372図13を観察します。

1 アリソガイ製ヘラ状貝製品(磨貝)(千葉市有吉北貝塚)372図13表面 観察記録3Dモデル

アリソガイ製ヘラ状貝製品(磨貝)(千葉市有吉北貝塚)372図13表面 観察記録3Dモデル

縄文中期、R、殻長120.7㎜、殻高93.4㎜ 

撮影場所:千葉県教育庁森宮分室 

撮影月日:2020.09.18 

許可:千葉県教育委員会許可による撮影・掲載 

ハイパス調整画像

3Dモデル写真測量ソフト 3DF Zephyr で生成 v5.008 processing 19 images

(撮影写真点数が少ないせいか、一部結像できなかったことは残念です。)


撮影の様子


撮影の様子


参考 裏面


実測図


3Dモデルの動画

2 観察


観察画像メモ

・擦痕は一部でしか観察できません。恐らく顕微鏡サイズの事象なので、出土個体によって肉眼や写真撮影ではっきり見えるものと見えないものがあるのだと思います。この個体も顕微鏡で観察すれば多数の擦痕を観察することが必ずできると考えます。

・削剥部が腹縁ではない場所に数か所存在しています。この個体では腹縁部がメインの擦り場所とは言い切れないようです。

・中央部腹縁付近に大きな丸い色素沈着部があります。この色素沈着は裏面にまで到達しています。

・貝殻表面の各所に色素沈着があります。擦痕部では小溝の中に色素が沈着しています。貝殻表面に色素が沈着して、それが擦り行為で除去され、小溝の中の色素だけ除去をまぬかれたという様相です。

・裏面には色素が広範囲に残っています。

・腹縁部は擦り行為で薄くなっているということは特段にはないようです。また、裏面を観察すると凸部になっている腹縁部に幅の狭い削剥部が存在します。これらの事象から、腹縁部も表面擦痕や削剥部とは別意味の擦り行為に使われたと推定できます。

3 感想

・大きな色素沈着は、貝殻表面に色素液体を浸けて、その液体を別のモノに塗りつけるような用途に使われ、その使用が長期にわたったため色素が裏面にまで到達したと想定できます。つまり、このアリソガイはハケのような使われ方をされたのだと考えます。

・この個体でモノを擦るときには、ハケとしての機能中心部分(円形色素沈着部分)を避けて、別の部分を使ったため、削剥部が表面の各所に及んだと考えます。

・色素を有する液体を他のモノに塗りつけるハケとしての機能がこの個体の役割ですから、この貝殻はいつも色素まみれで、そのため表面裏面の各所に色素が残存したと考えます。

・色素を含んだ液体が何であるかは、残存色素を削り取って分析すれば判るかもしれません。

・これまでの学習積み重ねでは獣皮タンニンなめしにおけるタンニン液である可能性が浮かび上がります。あるいは単純な獣皮染色かもしれません。

・もしこの貝殻からタンニンが検出されれば、縄文時代列島においてタンニンなめしが行われていた物的証拠となります。おそらく列島のみならず人類史的にみて貴重な情報になると思います。


2020年10月7日水曜日

口縁部四角の安行3a式浅鉢

 縄文土器学習 480

8月末まで加曽利貝塚博物館で開催されていた「ミニ企画展示「県内縄文遺跡展」-千葉県の縄文時代研究を彩った遺跡たち- 君津市三直貝塚編」で展示されていた安行3a式浅鉢を3Dモデルで観察します。

1 縄文晩期安行3a式浅鉢(君津市三直貝塚) 観察記録3Dモデル

縄文晩期安行3a式浅鉢(君津市三直貝塚) 観察記録3Dモデル

撮影場所:加曽利貝塚博物館 ミニ企画展示「県内縄文遺跡展」-千葉県の縄文時代研究を彩った遺跡たち- 君津市三直貝塚編 

撮影月日:2020.08.28 

ガラス面越し撮影 

ハイパス調整画像

3Dモデル写真測量ソフト 3DF Zephyr で生成 v5.008 processing 34 images


展示の様子


実測図

君津市三直貝塚発掘調査報告書から引用


3Dモデルの動画

2 メモ

ア 口縁部四角の意味

口縁部四角の浅鉢は三直貝塚では大変珍しく、2020.10.02記事「背面が丸く自立しない前浦式浅鉢」で観察した口縁部四角浅鉢とともに奉納物を入れる容器で祭祀で使われた祭具だったと想像します。

イ 二つの渦が絡まる文様

胴部には二つの渦が絡まる特徴的な文様が描かれています。二つの渦の上は磨消、下は縄文が施文されています。

発掘調査報告書をめくると、二つの渦が絡まる同じ文様が数多く見つかります。

この文様は2020.09.23記事「縄文後晩期土製耳飾(君津市三直貝塚)20 観察記録3Dモデル」で観察した土製耳飾にも描かれています。


二つの渦が絡まる文様

ウ ハイパス調整画像

この記事の3Dモデルは撮影写真をハイパス調整画像で作成しました。撮影写真とそれをハイパス調整した画像を較べると、撮影写真のピントがぼやけているように感じますが、ピントは正確に合っています。ハイパス調整画像が現実には存在しないクッキリ感を表現しています。


撮影写真とハイパス調整画像


縄文社会消長分析学習の方法

 縄文社会消長分析学習 47

1 活動目標と期間

下総地域付近の縄文中期から後晩期までを対象に、社会消長を詳しく分析学習して、縄文社会消長の様子とその要因を自分なりに詳しく知る活動を行うことにします。

希少な人生残時間の割り振りの関係から次のような時間消費を予定します。

2020年10月~11月 分析学習テーマを絞り込む活動

2021年1月~2022年12月 テーマを絞り込んだ分析学習

2 分析項目

縄文社会の消長の様子とその要因を生き生きと推察するための分析項目として次のような項目が一般論として考えられます。

・遺物(モノ)の種類、量、質→利用→生業、祭祀

・遺物(モノ)の使用痕、傷、破損→利用

・遺物(モノ)の時系列変化→流行、技術発展

・遺物(モノ)と遺物(モノ)の関係(道具の組み合わせ体系)

・遺物(モノ)と遺構との関係(遺物利用や廃棄場面、遺跡内分布)

・遺構の種類、量、質→生業、交流、人口

・遺構と遺構の関係→遺跡の特性

・遺構の分布

・遺物(モノ)の分布

・遺跡の分布→広域社会

・気温変化(氷床データ等)

・植生変化(花粉分析データ等)

・地形変化(第四紀地形発達史データ等)

このような分析項目のうち、自分の学習目標に効果的であり、またその方法自体に興味が深まるものをいくつか選ぶ作業を最初に行うことにします。

分析項目を無意識的に最初から特定する活動スタートは避けることにします。

3 過去学習の有効活用

この3年間ほどの趣味活動は縄文学習がメインであり、様々な学習活動を行ってきました。これらの学習体験が生きるような学習活動を行うことにします。

下総地域という視点でみれば、これまで次の発掘調査報告書について詳しく学習し、深く分析したものもあります。

・史跡加曽利貝塚発掘調査報告書

・有吉北貝塚発掘調査報告書

・六通貝塚発掘調査報告書

・大膳野南貝塚発掘調査報告書

・西根遺跡発掘調査報告書

・内野第1遺跡発掘調査報告書

また、500以上作成した縄文土器等の3Dモデルも学習データとして活用場面ができればおもしろいことです。

4 学習テーマの渉猟

2021年~2022年に予定している縄文社会消長分析学習の本学習の具体的テーマを2020年10月~12月に絞り込むことにします。

下総縄文社会中期~後晩期の消長を総括的、俯瞰的に知ることは本学習の中で当然行うことですが、それはメインではありません。本学習のメインはかなり絞り込んだテーマ・方法の学習をイメージしています。

その本学習用テーマ・方法を絞り込むために、自分の本当の興味がどこにあるか、そのためのデータ入手や分析技術獲得の可能性について検討したいと思います。

テーマ・方法の渉猟(絞り込み)は3でピックアップした発掘調査報告書を通読・精読する活動を通じて行うことにします。

なお、多数発掘調査報告書の特定データを集成分析する活動が本学習で重要な方法になるに違いないと考えています。

5 学習テーマに関連するかもしれない興味

これまでに興味を持った次のような事象は、学習テーマに関連するかもしれません。

ア 器台と異形台付土器

縄文中期に器台が存在し、後期には出土しません。一方、異形台付土器は中期には存在しませんが、後期には出土します。まるで器台→異形台付土器という交代現象があるように見えます。祭祀の在り方の変化を表現していると想像します。

イ 土偶出土数の後期急増

中期の土偶出土数は大変稀です。一方後期には急増します。祭祀面での変化が観察できます。

ウ 石棒や装身具出土数の後期急増

石棒や装身具の出土数が後期に急増します。土偶と同じで祭祀面での大きな変化が見られます。

エ 加曽利EⅡ式土器のデザイン合理性

加曽利EⅡ式土器は口縁部が平滑なものがほとんどです。前後の時期とくらべて波状口縁部とか把手の存在が少なくなっています。煮沸具としてみると利用上合理的であるように感じることができます。そしてこの時期は人口急増期です。社会の風潮が前後の時期と異なるように感じられます。

オ アリソガイ製ヘラ状貝製品と貝灰

中期有吉北貝塚ではアリソガイ製ヘラ状貝製品が出土します。一方後期遺跡からのヘラ状貝製品出土は少なく、貝灰(漆喰)や骨灰が多量に出土します。アリソガイ製ヘラ状貝製品→貝灰という交代があったかもしれません。


花


2020年10月6日火曜日

貝殻成長線と擦痕を強調した3Dモデルの作成

 縄文貝製品学習 19

アリソガイの通常撮影写真では貝殻成長線や使用に伴う擦痕の様子を把握するのは困難です。しかし写真をハイパスフィルター処理するとそれまで見えなかった貝殻成長線や擦痕が浮かび上がり観察しやすくなります。

この体験的に知った事象を利用して3Dモデルをつくれば、3Dモデル自身に貝殻成長線や擦痕を浮かび上がらすことができる可能性があります。そこで試してみました。

有吉北貝塚出土372図2のアリソガイ製ヘラ状貝製品をテスト対象としました。

1 アリソガイ製ヘラ状貝製品(磨貝)(千葉市有吉北貝塚)372図2表面 画像ハイパス調整3Dモデル 

アリソガイ製ヘラ状貝製品(磨貝)(千葉市有吉北貝塚)372図2表面 画像ハイパス調整3Dモデル 

縄文中期、L、殻長105.3㎜、殻高77.9㎜ 

撮影場所:千葉県教育庁森宮分室 

撮影月日:2020.09.18 

許可:千葉県教育委員会許可による撮影・掲載 

3Dモデル写真測量ソフト 3DF Zephyr で生成 v5.008 processing 35 images

同上 通常写真による3Dモデル


画像ハイパス調整3Dモデルと通常の観察記録3Dモデルの画面比較

2 3Dモデルの動画


画像ハイパス調整3Dモデルの動画


通常写真による動画

3 写真


画像ハイパス調整3Dモデルと通常の観察記録3Dモデルの写真比較

4 テスト成功

元写真をハイパスフィルター調整してぼんやりとした画質をクッキリとさせて、それで3Dモデルを作成すると3Dモデルもクッキリとした画像になることを確認できました。

肉眼では不明瞭な貝殻成長線や擦痕が浮かび上がるのですからグッドです。

5 画像ハイパス調整3Dモデル作成に必要な基礎テクニック

数十枚から100枚以上の写真を1枚1枚Photoshopでハイパスフィルター処理すると膨大な時間がかかるため、この作業はバッチ処理テクニックで対処することが必須です。

6 感想

今後のアリソガイ製ヘラ状貝製品学習では画像ハイパス調整3Dモデルを標準3Dモデルとして活用することにします。

アリソガイ製ヘラ状貝製品の観察が周回写真撮影により通常の肉眼観察以上の精度と効率でできることがわかりました。

ハイパス調整3Dモデルはアリソガイ製ヘラ状貝製品に限らず縄文土器などの3Dモデルにも有用な技術であるかどか今後確かめることにします。

7 参考 Photoshopハイパスフィルター処理

「カラーが極端に変化している部分で指定した半径内のエッジのディテールを保持し、それ以外の部分についてはエッジのディテールを抑えます。」AdobePhotoshopマニュアルより


2020年10月5日月曜日

土製耳飾着装人骨

 縄文土器学習 479

9月に千葉市内野第1遺跡や君津市三直貝塚の土製耳飾を観察し、それが耳たぶの極端な伸長という身体変工を伴う通過儀礼に関わるものであり、かつ、社会階層の差異を明確にするための役割があるらしいことを学習しました。

その後、耳たぶ伸長身体変工が確実に推定できる土製耳飾着装人骨の例を図書の中で見つけましたのでメモします。

1 装身具の着装例(日本第四紀学会編「図解・日本の人類遺跡」(1992、東京大学出版会))


装身具の着装例

日本第四紀学会編「図解・日本の人類遺跡」(1992、東京大学出版会)から引用・着色

大阪・国府遺跡(晩期)の例は人骨耳部に直接土製耳飾が乗っていて、この種の製品が土製耳飾であることが証明された例です。

長野・宮崎遺跡(後期)の例は「人骨耳部から径5㎝をこえる耳飾りを検出し、縄文後期には耳朶伸長の習俗があったことを証明」しています。

なお、福岡・山鹿貝塚(後期)の例では猪牙製と鮫歯製耳飾が頭骨耳部から出土し、「縄文時代の耳飾に多様な素材があったことを、教えてくれ」ています。

2 長野・宮崎遺跡(後期)の詳細情報


3号石棺墓の人骨頭部と土製耳飾

宮崎遺跡発掘調査報告書(1988、長野県教育委員会・川田土地改良区)から引用

左耳着装の土製耳飾が倒れて裏側(無紋)が見えています。

対ではなく1個しか着装していないようです。


3号石棺墓実測図

宮崎遺跡発掘調査報告書(1988、長野県教育委員会・川田土地改良区)から引用


参考 宮崎遺跡出土魚骨製耳飾と土製耳飾

1(左一番上)(5号土壙墓)のみ魚骨製(鮫?の椎骨)耳飾、他は全部土製耳飾

魚骨製耳飾はそれを装着していたことを示す人頭骨右耳部から出土していて、赤色塗彩されています。

3 感想

・耳朶を異常なまでに伸長させて大きな土製耳飾を装着したことが証明できる人骨を観察することができました。

・宮崎遺跡3号石棺墓と5号土壙墓の例は片耳だけに耳飾を装着していて、その意味について新たな疑問が生まれます。なぜ両耳に耳飾を装着していないのか?一つの可能性として木製等の腐りやすいモノで耳飾の代用品を装着していた可能性があります。最初から片方だけ耳飾を装着して埋葬されたとするならば、それには特別の意味があり、解明する必要があります。

・耳飾には土製だけでなく骨角製など多様な素材が使われていたことを知りました。


2020年10月4日日曜日

有吉北貝塚出土アリソガイ3点目の観察

 縄文貝製品学習 18

千葉県教育委員会の許可で閲覧した有吉北貝塚出土縄文中期アリソガイ製ヘラ状貝製品の観察を行っています。この記事では3点目として372図5を観察します。

1 アリソガイ製ヘラ状貝製品(磨貝)(千葉市有吉北貝塚)372図5表面 観察記録3Dモデル 

アリソガイ製ヘラ状貝製品(磨貝)(千葉市有吉北貝塚)372図5表面 観察記録3Dモデル 

縄文中期、L、殻長108.4㎜、殻高91.3㎜ 

撮影場所:千葉県教育庁森宮分室 

撮影月日:2020.09.18 

許可:千葉県教育委員会許可による撮影・掲載 

3Dモデル写真測量ソフト 3DF Zephyr で生成 v5.008 processing 29 images


撮影の様子


実測図

有吉北貝塚発掘調査報告書から引用


3Dモデルの動画

2 観察


375図5


372図5の観察図

ア 顕著な擦痕

・貝殻の中ほどに顕著な擦痕5本が腹縁方向に伸びています。

・石製品と想定される硬いモノを強く擦っています。それぞれ1回だけの行為で、同じ場所を繰り返し擦るということはないです。

・顕著な擦痕は腹縁に近づくにしたがって不明瞭になる様子から、最初に顕著な擦痕がつけられ、その後に不明瞭な擦痕を残す擦りが行われたと観察できます。

イ 不明瞭な擦痕

・顕著な擦痕から腹縁の間に不明瞭な細線の擦痕が多数観察できます。面的なモノを繰り返し擦ったためにできた擦痕であると考えられます。

・貝殻成長線の観察から、擦り行為による摩耗による腹縁部の後退(貝殻の損耗)が確認できます。

・貝殻を右から、あるいは左から使うために、貝殻損耗が少ない場所は中央部になります。

・表裏を含む3Dモデル(あるいはキャリパー等)で詳しく測定すれば、利用されていないアリソガイと比べて、ヘラ状貝製品の貝殻厚さは中央部で同じで残存腹縁部でゼロに近づく人工変化をみせると想定できます。

ウ 明瞭なエッジ削剥部

・写真向かって右の腹縁部のエッジに細長い削剥部が見られます。角(エッジ)を利用して強く擦った跡です。貝殻表面を利用して擦る仕方と異なります。より強く擦っています。

エ 372図5の擦り方まとめ

・石製品を強く擦って貝殻に大きな傷をつけた擦り方、貝殻の面を利用した擦り方、エッジを利用した擦り方の3つの擦り方が観察できます。

3 感想

・顕著な擦痕は何か象徴的な活動であるような印象を持ちます。

・1回限りの活動であり、この貝殻に最初につけられた跡です。擦った相手(石製品?)が問題ではなく、この貝殻に明瞭な傷を付けたことに意味があるのかもしれません。例えば、この貝殻の持ち主を特定できるような印をつけたのかもしれません。

・アリソガイは擦った相手に何らかの効果をもたらした道具であり、現代人からみても実利的効果が期待できる道具であったと想定します。同時に、アリソガイがマジカルな効果(呪術的な効果)をもたらしていたという妄想が強く発生していて払拭できません。今後じっくり検討する密かなる楽しみです。「縄文中期ハンドパワー強化先端技術がアリソガイの利用であった。」


2020年10月2日金曜日

背面が丸く自立しない前浦式浅鉢

 縄文土器学習 478

8月末まで加曽利貝塚博物館で「ミニ企画展示「県内縄文遺跡展」-千葉県の縄文時代研究を彩った遺跡たち- 君津市三直貝塚編」が開催されていました。ここで展示されていた前浦式浅鉢(背面展示)を3Dモデルで観察します。

1 縄文晩期前浦式浅鉢(君津市三直貝塚) 観察記録3Dモデル

縄文晩期前浦式浅鉢(君津市三直貝塚) 観察記録3Dモデル

撮影場所:加曽利貝塚博物館 ミニ企画展示「県内縄文遺跡展」-千葉県の縄文時代研究を彩った遺跡たち- 君津市三直貝塚編 

撮影月日:2020.08.28 

ガラス面越し撮影 

3Dモデル写真測量ソフト 3DF Zephyr で生成 v5.008 processing 45 images


展示の様子


展示の様子


実測図

君津市三直貝塚発掘調査報告書から引用


3Dモデルの動画

2 感想

・背面(表面の底)が完全な球体となっています。自立することはできません。

・発掘調査報告書をみると類似の浅鉢の多くが自立することができない形状をしています。

・背面には沈線と縄文で模様が描かれています。

・背面の中央部はほとんど摩耗していないといっていい状態です。背面が接地する状況で利用されたり、あるいは置かれたことがほとんどないと考えられます。

・この浅鉢はその中に神様への捧げものをいれて、おそらく巫女が祭祀執行中ずっと両手で持っているという所作で利用されていたと空想します。

・この空想が正しければ、祭祀執行シャーマンには補助巫女が付き添いずっと浅鉢を両手で捧げていたことになります。

・祭壇に奉納品を置くのではなく、補助巫女が両手で捧げていたのです。

・この浅鉢は祭具以外のなにものでもありません。