縄文貝製品学習 18
千葉県教育委員会の許可で閲覧した有吉北貝塚出土縄文中期アリソガイ製ヘラ状貝製品の観察を行っています。この記事では3点目として372図5を観察します。
1 アリソガイ製ヘラ状貝製品(磨貝)(千葉市有吉北貝塚)372図5表面 観察記録3Dモデル
アリソガイ製ヘラ状貝製品(磨貝)(千葉市有吉北貝塚)372図5表面 観察記録3Dモデル縄文中期、L、殻長108.4㎜、殻高91.3㎜
撮影場所:千葉県教育庁森宮分室
撮影月日:2020.09.18
許可:千葉県教育委員会許可による撮影・掲載
3Dモデル写真測量ソフト 3DF Zephyr で生成 v5.008 processing 29 images
撮影の様子
実測図
有吉北貝塚発掘調査報告書から引用
3Dモデルの動画
2 観察
375図5
372図5の観察図
ア 顕著な擦痕
・貝殻の中ほどに顕著な擦痕5本が腹縁方向に伸びています。
・石製品と想定される硬いモノを強く擦っています。それぞれ1回だけの行為で、同じ場所を繰り返し擦るということはないです。
・顕著な擦痕は腹縁に近づくにしたがって不明瞭になる様子から、最初に顕著な擦痕がつけられ、その後に不明瞭な擦痕を残す擦りが行われたと観察できます。
イ 不明瞭な擦痕
・顕著な擦痕から腹縁の間に不明瞭な細線の擦痕が多数観察できます。面的なモノを繰り返し擦ったためにできた擦痕であると考えられます。
・貝殻成長線の観察から、擦り行為による摩耗による腹縁部の後退(貝殻の損耗)が確認できます。
・貝殻を右から、あるいは左から使うために、貝殻損耗が少ない場所は中央部になります。
・表裏を含む3Dモデル(あるいはキャリパー等)で詳しく測定すれば、利用されていないアリソガイと比べて、ヘラ状貝製品の貝殻厚さは中央部で同じで残存腹縁部でゼロに近づく人工変化をみせると想定できます。
ウ 明瞭なエッジ削剥部
・写真向かって右の腹縁部のエッジに細長い削剥部が見られます。角(エッジ)を利用して強く擦った跡です。貝殻表面を利用して擦る仕方と異なります。より強く擦っています。
エ 372図5の擦り方まとめ
・石製品を強く擦って貝殻に大きな傷をつけた擦り方、貝殻の面を利用した擦り方、エッジを利用した擦り方の3つの擦り方が観察できます。
3 感想
・顕著な擦痕は何か象徴的な活動であるような印象を持ちます。
・1回限りの活動であり、この貝殻に最初につけられた跡です。擦った相手(石製品?)が問題ではなく、この貝殻に明瞭な傷を付けたことに意味があるのかもしれません。例えば、この貝殻の持ち主を特定できるような印をつけたのかもしれません。
・アリソガイは擦った相手に何らかの効果をもたらした道具であり、現代人からみても実利的効果が期待できる道具であったと想定します。同時に、アリソガイがマジカルな効果(呪術的な効果)をもたらしていたという妄想が強く発生していて払拭できません。今後じっくり検討する密かなる楽しみです。「縄文中期ハンドパワー強化先端技術がアリソガイの利用であった。」
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