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2022年3月10日木曜日

称名寺式土器(千葉市内野第1遺跡) 観察記録3Dモデル

 Syomyozi type pottery (Uchino Daiichi site,Chiba City) Observation record 3D model


I created and observed a 3D model of the Syomyozi type pottery (Uchino Daiichi site,Chiba City) that was exhibited at the Chiba City Buried Cultural Property Research Center "Exhibition of excellent archaeological materials excavated from Chiba City". The J-shaped pattern of the cord-mark impressions is layered in two layers, and it is a pottery that shows the most basic pattern of the Syomyozi type pottery.


千葉市埋蔵文化財調査センター「千葉市出土考古資料優品展」に展示されていた称名寺式土器(千葉市内野第1遺跡)の3Dモデルを作成して観察しました。縄文帯によるJ字文が2段に重ねられていて、称名寺式土器の最も基本となる文様パターンを示す土器です。

1 称名寺式土器(千葉市内野第1遺跡) 観察記録3Dモデル Syomyozi type pottery

称名寺式土器(千葉市内野第1遺跡) 観察記録3Dモデル

撮影場所:千葉市埋蔵文化財調査センター「千葉市出土考古資料優品展」

撮影月日:2022.03.07


展示の様子

ガラスショーケース越し撮影

3Dモデル写真測量ソフト 3DF Zephyr で生成 v6.5 processing 165 images

Syomyozi type pottery (Uchino Daiichi site,Chiba City) Observation record 3D model

Location: Chiba City Buried Cultural Property Research Center "Exhibition of excellent archaeological materials excavated from Chiba City"

Shooting date: 2022.03.07

Shooting through a glass showcase

Generated with 3D model photogrammetry software 3DF Zephyr v6.5 processing 165 images


3Dモデルの動画

2 GigaMesh Software Frameworkによる展開

GigaMesh Software Frameworkにより3Dモデルを扇形平面に展開しました。


GigaMesh Software Frameworkによる展開

3 メモ


文様パターン

縄文帯によるJ字文が2段に重ねられている文様パターンを示していて、称名寺式土器の最も基本となる文様パターンであると言われています。


2020年10月18日日曜日

称名寺式土器の高精細3Dモデル(正面半裁)

 縄文土器学習 486

1 称名寺式土器の高精細3Dモデル(正面半裁)

「称名寺式土器の高精細3Dモデル(正面半裁)」を作成しましたが、このファイルの大きさが146MBとなりSketchfab投稿(プラス会員は100MBまで)ができませんでした。したがって3Dモデルのwebにおける共有は現状ではできません。


称名寺式土器の高精細3Dモデル(正面半裁)の様子


称名寺式土器の高精細3Dモデル(正面半裁) 正面(オルソ投影)


称名寺式土器の高精細3Dモデル(正面半裁) 正面の内面(オルソ投影)

2 称名寺式土器の高精細3Dモデル(正面半裁)の動画


称名寺式土器の高精細3Dモデル(正面半裁)の動画

参考 3Dモデルの諸元

称名寺式深鉢形土器(千葉市餅ヶ崎遺跡) 高精細3Dモデル(正面半裁)

撮影場所:加曽利貝塚博物館

撮影月日:2019.12.27

許可:加曽利貝塚博物館の許可により全周多視点撮影及び3Dモデル公表

3Dモデル写真測量ソフト 3DF Zephyr で生成 v5.008 processing 93 images

3 感想

・この土器の高精細モデルのファイル大きさが191MBなので、土器を切断して半分にすればファイル大きさは100MB以下になるのではないだろうかと期待したのですが、そうは問屋は下ろしませんでした。頂点やメッシュ部分は確かに半分になるのですが、張り付いている画像が100MBほどあり、これがそのまま残るので、ファイルの大きさの減少は期待したようにはならなかったのです。

・半裁高精細モデル動画は質の高いものができたと満足します。

・この土器の模様をよく観察すると、この土器には正面が存在し、その正面を意識した土器利用の跡(内面上部のリング状おこげ)が観察できます。


土器正面


土器黒変部とおこげの対応


土器外面黒変と土器内面おこげの対応考察

2020年10月12日月曜日

称名寺式土器透視で観察できる円弧状模様の意味

 縄文土器学習 483

2020.10.09記事「称名寺式土器(千葉市餅ヶ崎遺跡)透視観察 その2」で称名寺式土器(千葉市餅ヶ崎遺跡)高密度点群3Dモデルを掲載しました。土器を透視できるとうたったのですが、肉眼では観察できない模様の透視が出来ていて、われながら驚きましたので、メモします。

1 円弧状模様


高密度点群画像とテクスチャ画像

高密度点群画像では明瞭な円弧状模様が観察できます。円弧の上は点が粗、下の点は密です。

一方テクスチャ画像をみると円弧模様はほとんどわかりません。(高密度点群画像を見ない人で円弧模様を見つけることができる人はいないのではないかと確信します。)

2 円弧状模様の意味

最初は、この円弧状模様が幾何学的であるので、土器復元調整のために現代技術に関わってつけられたものではないかと考えました。

しかし、画像を分析すると、次のような解釈に至りました。縄文人が土器製作途中につけた模様です。


円弧線(赤線)による高密度点群の密度変化の解釈

・土器概成後口縁部付近の内外面仕上げを丁寧に行うために、内面粘土を棒で上から円弧を描くように薄く削り取ったのだと思います。

・薄く削り取った部分の内外面調整を仕上げとして特に丁寧に行ったのだと思います。

・この土器は沈線がとても深く、それだけに仕上げが大切であったのだとおもいます。

Bは概成土器の内面であり、微細な起伏が密のため高密度点群が多くなっていると考えます。

Aは丁寧に仕上げた部分であり、一度棒で削っていますから、微細な起伏が粗のため高密度点群が少くなっています。

矢印はBが削り取られた跡を示しています。

3 感想

・3Dモデル分析で高密度点群データも有用であることがわかりました。比喩ではなく、真の透視ができます。

・おそらくAの部分とBの部分では手触り感覚が違うと想像します。Bの部分の方がよりザラザラすると思います。いつか触らせてもらうことをお願いすることにします。


2020年10月9日金曜日

称名寺式土器(千葉市餅ヶ崎遺跡)透視観察 その2

 縄文土器学習 481

2020.09.27記事「称名寺式土器(千葉市餅ヶ崎遺跡)の透視観察が実現」のつづきです。

1 称名寺式土器(千葉市餅ヶ崎遺跡)高密度点群3Dモデル

称名寺式土器(千葉市餅ヶ崎遺跡)高密度点群3Dモデル

加曽利貝塚博物館常設展展示「称名寺式土器(千葉市餅ヶ崎遺跡)」の高密度点群3Dモデル

この土器は沈線が深く刻まれ、その部分の器壁厚さが薄いのですが、その様子をこの3Dモデルで透視的に観察することができます。


高密度点群3Dモデルの動画

2 参考 称名寺式深鉢形土器(千葉市餅ヶ崎遺跡) 観察記録3Dモデル

称名寺式深鉢形土器(千葉市餅ヶ崎遺跡) 観察記録3Dモデル 

撮影場所:加曽利貝塚博物館 

撮影月日:2019.12.27 

許可:加曽利貝塚博物館の許可により全周多視点撮影及び3Dモデル公表 

3Dモデル写真測量ソフト 3DF Zephyr で生成 v4.523 processing 93 images


2020年9月27日日曜日

称名寺式土器(千葉市餅ヶ崎遺跡)の透視観察が実現

 縄文土器学習 477

偶然3Dモデルの透視観察ができるようになりました。3Dモデルの穴埋め方法をあれこれ工夫している最中、3Dモデルソフト3DF Zephyr Liteのこれまでほとんど見たことのない高密度点群の画面をたまたま見ました。この画面が土器内面と外面を点群で正確に表示しています。それに気が付きました。早速2020.09.26記事「サンダル状土製品を容器として見立てる」でその画面を動画にして掲載しました。この記事では土器内面まで撮影して作成した称名寺式土器3Dモデルで透視観察を実施してみました。

1 称名寺式土器(千葉市餅ヶ崎遺跡)の透視観察


称名寺式土器(千葉市餅ヶ崎遺跡)の透視観察 動画


参考 称名寺式土器(千葉市餅ヶ崎遺跡)3Dモデルの動画


3Dモデルテクスチャ画面と高密度点群画面の対比

高密度点群画面は対象物を透視する技術として意義づけることができ、それを使って対象物特徴の直観的理解が可能となると考えます。


3Dモデルテクスチャ画面と高密度点群画面の対比


参考 低密度点群画面

低密度点群は粗すぎて表現手法、観察技術としては使えないようです。

2 メモ

・3DF Zephyr Liteにおける高密度点群は3Dモデルの素となる原点群です。写真測量としての精度確保が高密度点群で担保されています。つまり高密度点群から浮かび上がる土器内面、外面の様子はまさに土器を透視して浮かび上がっている画面です。透視観察が比喩ではなく、科学的方法で実現しています。

・3DF Zephyr Liteではそれで作成した3Dモデルファイルなら高密度点群を利用することができアニメ表現することができます。しかし高密度点群そのものを3Dモデルファイルとして出力したり、Sketchfabにアップロードすることはできないようです。

・高密度点群だけの3Dモデルファイル出力ができるようになり、Sketchfabアップロードもできるようになれば、3Dモデルを活用した縄文土器観察学習における表現がより豊かになります。


2020年2月19日水曜日

GigaMesh Software Frameworkによる6側面図書き出し

縄文土器学習 351

GigaMesh Software Frameworkに3Dモデルを取り込むとワンクリックでモデルのオルソグラフィック投影6側面図を得ることができます。

称名寺式土器(千葉市餅ヶ崎遺跡)3Dモデル6側面図 テクスチャーモデル
撮影は加曽利貝塚博物館の許可による

称名寺式土器(千葉市餅ヶ崎遺跡)3Dモデル6側面図 ソリッドモデル
撮影は加曽利貝塚博物館の許可による

一瞬のうちに6側面図が書き出されるので驚きです。
完形土器に限らず不定形の土器片や石器などの撮影に有効のように感じます。
さらに縄文学習に限らず3Dモデル一般を扱っていくうえでとても便利な機能です。
類似の機能をfreeCAD(3次元CAD、フリーソフト)で見かけたことがあります。

GigaMesh Software Frameworkによる展開写真も実は次のような生成3Dモデルのオルソグラフィック投影6側面図のうち正面図と後面図を利用したものです。

称名寺式土器(千葉市餅ヶ崎遺跡)展開写真3Dモデル6側面図 ソリッドモデル
撮影は加曽利貝塚博物館の許可による

GigaMesh Software Frameworkの縄文土器3Dモデル観察・分析機能があまりに充実していて価値の高いものばかりです。GigaMesh Software Frameworkをいじる楽しさの虜になっている日々が続いています。




2020年2月18日火曜日

称名寺式土器の動画作成

縄文土器学習 350

加曽利貝塚博物館常設展に展示されている称名寺式土器(千葉市餅ヶ崎遺跡)の3Dモデル動画及び切断3Dモデル動画を作成しました。
動画作成は3DF Zephyr Liteのアニメ機能によりました。
切断は電子ファイル上で行いました。
3Dモデル動画、切断3Dモデル動画ともに同じカメラワークにしました。

称名寺式土器(千葉市餅ヶ崎遺跡)3Dモデル動画
撮影は加曽利貝塚博物館の許可によります。

称名寺式土器(千葉市餅ヶ崎遺跡)切断3Dモデル動画
撮影は加曽利貝塚博物館の許可によります。

沈線刻後に施された縄文の様子

縄文土器学習 349

称名寺式土器はそれ以前の土器と異なり沈線が刻まれた後に縄文が施されています。
その様子を3Dモデルに注記を入れてわかるようにしてみました。

称名寺式土器3Dモデルの沈線と縄文の切りあい画面

称名寺式深鉢形土器(千葉市餅ヶ崎遺跡) 観察記録3Dモデル  注記付き
撮影場所:加曽利貝塚博物館
撮影月日:2019.12.27
許可:加曽利貝塚博物館の許可により全周多視点撮影及び3Dモデル公表
注記はモデル作成者の感想
3Dモデル写真測量ソフト 3DF Zephyr で生成 v4.523 processing 93 images

沈線と縄文切りあいの様子は昨年の加曽利貝塚博物館主催講演会で加納実先生が次のように説明されています。

称名寺式より前の縄文と沈線の切りあい
加納実先生講演「縄文時代中期終末から後期初頭の様相」映写から引用
縄文施文後に沈線を刻むと、縄文部分が一部めくれてしまいます。

称名寺式以後の縄文と沈線の切りあい
加納実先生講演「縄文時代中期終末から後期初頭の様相」映写から引用
沈線刻後に縄文を施すと、沈線部で縄文がめくりあがることはありません。

沈線刻後に縄文を施しているということは縄文が文様の図になったということです。それまでは縄文は土器文様の地であったということです。
この違いは単なる施文技術の変化としてではなく、より広い社会現象の一環の事象に違いないとして学習するつもりです。

沈線刻後に狭い範囲に縄文を施すということはかなり根気のいる手作業です。それだけ土器作成に対して時間をかけています。土器作成に情熱(こだわり)が生まれています。自ら負荷をかけているように感じられます。加曽利E式土器の機能優先デザインから明らかに変化しています。おそらく社会的困難(貧しさ)に立ち向かう心性と関連する事象として、縄文の地→図変化があったものと想像します。

2020年2月17日月曜日

称名寺式土器黒変部の観察と考察

縄文土器学習 348

作成した3DモデルからGigaMesh Software Frameworkにより外面・内面の展開写真ができるようになりました。これによりこの記事の黒変部観察考察が可能となりました。観察・分析用の道具(GigaMesh Software Framework)利用は自分にとって極めて大きな学習加速因子です。GigaMesh Software Frameworkの作者及び日本における紹介者に感謝、感謝です。

1 称名寺式土器の展開写真

称名寺式土器の外面
2段の模様付近に特段に黒い部分が存在しています。2段の模様より下の胴下部は比熱により赤化(白化)しています。

称名寺式土器の内面 (左右反転表示)
胴下部の深黒の部分は照明(天井蛍光灯)の影響です。
胴下部の青灰色部分はおこげであると観察しました。そのおこげが胴上部にも舌状に伸びている部分があります。

2 外面黒変部とおこげの対応状況
外面黒変部とおこげの対応状況を観察しました。

外面黒変部とおこげの対応
外面の特段に黒い部分をa、b、cとして抽出しました。aとcは黒光りしていますが、bは鈍い黒であり、aとcは同じ成因、bは別の成因のように感じました。
aは内面性青灰色fとhに対応するようです。
bは内面に対応するモノは無いようです。
cは内面に青灰色の上部出っ張りgに対応するようです。

以上の観察からaとcは内面のおこげに対応していて、土器の利用(被熱)により生じた黒変であると考えました。
なお、aは土器正面でありcはその対向位置にあることは着目すべき事柄です。
bは内面に対応するものがないので土器製作に際してできた黒変のようです。

3 考察
土器外面黒変と土器内面おこげの対応を次のように解釈しました。

土器外面黒変と土器内面おこげの対応考察
ア 土器正立による通常調理
土器を正立させた通常調理により外面胴部下部の赤化(白化)と内面におこげ付着が生まれると考えます。
イ 土器正面を下にした横置によるミニ調理
土器正面を手前(下)にして横置して土器上部を利用した熾火によるミニ調理(白湯、煎じ茶など)が行われたと推測します。
土器自体が熱くなっているとき、横置した土器内面に水を垂らせばお湯になり、煎じ茶をつくることも可能であったと考えます。熾火による食後のティータイムが考えられます。
内面ドーナッツ状黒変部はおこげというしっかりとした物的事象ではなく、茶渋のような事象であると考えます。

参考 土器内面の上部に広がるドーナッツ状黒変部 茶渋か?

ウ 土器正面を上にした横置による空焚き
縄文土器は調理後空焚きして有機物を炭化することによってカビ発生を防止していたと考えられます。その際土器正面を上にしたので、その対向位置付近内面におこげが土器上部まで広がったと考えます。

参考 土器内面上部に広がるおこげのような青灰~黒変部

この記事で特に参考とした図書
小林正史(2017):モノと技術の古代史 陶芸編(吉川弘文館) 

2020年2月16日日曜日

称名寺式土器の内外器壁デコボコ分析

縄文土器学習 347

加曽利貝塚博物館から許可をいただいて撮影・3Dモデル作成した称名寺式深鉢形土器(千葉市餅ヶ崎遺跡)の内外器壁デコボコ分析をしました。

1 分析の趣旨
器壁外面に深くかつ幅広に刻まれた沈線が器壁内面整形にどのような影響を与えているかという事実を知ろうという趣旨です。
具体的には次の記述を確かめようという趣旨です。
「沈線は何度もなぞられ、他の後期の土器に比べて幅が広く、かつ深いことが多い。そのため器壁の薄いものでは、沈線の裏の部分が盛り上がっていることがある。」(日本土器事典の称名寺式土器記述)2019.05.14記事「称名寺式土器 餅ヶ崎遺跡

2 3Dモデル切断断面による観察

称名寺式深鉢形土器(千葉市餅ヶ崎遺跡) 切断3Dモデル
撮影場所:加曽利貝塚博物館
撮影月日:2019.12.27
許可:加曽利貝塚博物館の許可により全周多視点撮影及び3Dモデル公表
3Dモデル写真測量ソフト 3DF Zephyr で生成 v4.523 processing 93 images

切断3Dモデルによる断面形を詳しく観察すると、口唇部と上部模様帯の境をなす2本の周回沈線に対応する器壁内面は凹部になっています。
一方上部模様帯と下部模様帯の境をなす2本の周回沈線に対応する器壁内面のデコボコは明瞭ではありませんが凸部であるように観察できます。

J字文(逆J字文)及び+文沈線は内面ではそれに対応するデコボコはほとんど観察できません。

3 GigaMesh Software Frameworkで作成した展開ソリッドモデルによる分析
GigaMesh Software Frameworkにより3Dモデルを展開したソリッドモデルを器壁内外面について作成し、その対応を観察しました。

GigaMesh Software Frameworkにより作成した器壁外面ソリッドモデル(左右反転)
Photoshopでデコボコを強調表示。

GigaMesh Software Frameworkにより作成した器壁内面ソリッドモデル
Photoshopでデコボコを強調表示。

上部周回2本沈線は内面では凹部周回に、下部周回2本沈線は内面では凸部周回に対応していることが観察できます。

上部周回2本沈線及び下部周回2本沈線の内面デコボコ対応

4 考察
切断3Dモデルとソリッドモデルによる分析から、この土器については次の事実を観察することができました。
ア 上部周回2本沈線は内面では凹部周回になっている。
イ 下部周回2本沈線は内面では凸部周回になっている。
ウ J字文(逆J字文)及び+文は内面デコボコとして表現されていない。
この観察事実から、この土器が次のように作成されたと考えます。
ア 上部周回2本沈線が道具で刻まれたとき、内面ではその部分が圧力により凸部になった。その後内面を平に整形するために手で周回してこすった。その際粘土が薄い部分は強い力のため逆に凹んだ。
イ 下部周回2本沈線が道具で刻まれたとき、内面のその部分は凸部になった。その後内面を手でこすって整形したが、手を深く伸ばして作業するため力の加わり方が弱く、上部のように逆に凹むほどのことは無かった。
ウ J字文(逆J字文)及び+文は、手で内面を周回してこする作業に対して沈線が直になっている部分が多く、凸部が適切に修正され平滑化した。

結論として次のように考えます。
これだけ深く広い沈線をつくると器壁が薄くなり、圧力で内面が凸部になる。
内面が各所で凸部になったのでその修正作業(平滑化作業)が必須となった。
修正作業では土器内面上部では作業しやすく、強い力で作業できるため薄い粘土が逆に凹んだ。
土器内面下部では作業しにくいため弱い力となり、薄い粘土が逆に凹むほどのことは無かった。

2019年7月12日金曜日

称名寺式土器の分布

縄文土器学習 184

2019.07.12記事「加曽利E式土器細分毎の遺跡分布」で加曽利E式土器細分でみると劇的な遺跡急増・急減を観察できました。このつづきが知りたいという欲望を抑えられないので、予定を変更して称名寺式土器→堀之内式土器→加曽利B式土器と順番を追って遺跡分布を観察することにします。この記事では縄文社会の顕著な退縮期である称名寺式期の遺跡分布について観察します。

1 千葉県 称名寺式土器出土遺跡分布図

千葉県 称名寺式土器出土遺跡分布図

千葉県 称名寺式土器出土遺跡分布ヒートマップ
ヒートマップの様子は加曽利EⅣ式期と大変よく似ています。加曽利EⅣ式期から称名寺式期頃が社会退縮の底であったと想定できます。

2 参考 千葉県 縄文土器形式別出土遺跡数

千葉県 縄文土器形式別出土遺跡数

2019年5月18日土曜日

餅ヶ崎遺跡出土称名寺式土器の展示状況3Dモデル

縄文土器学習 127

餅ヶ崎遺跡出土称名寺式土器の展示状況3Dモデル
(中央位置の土器が称名寺式土器) 加曽利貝塚博物館展示 2019.05.16撮影 (参考左土器は加曽利貝塚出土加曽利EⅢ式土器、右土器は加曽利貝塚出土堀之内1式土器)

ガラス越し撮影ですが展示されている称名寺式土器の様子を3Dモデルにすることができました。
「作品」とか「製品」とかをイメージする3Dモデルではなく、学習資料・観察記録の材料としての価値はある3Dモデルをつくれたと考えます。

ガラス越し撮影から3Dモデルがつくれることが判ったことは自分の学習にとって意義のおおきなことです。
写真撮影に際してガラス面反射を避けつつ、少しだけ視点を移動して、ピントを合わせた多数枚写真を撮ることがコツのようです。

Jの先端がハネている(尖っている)ことに気が付きました。+のほうはハネていません。
口縁部、胴くびれ部、胴下部の一番膨らんだところの3箇所に2本沈線による横帯がありますが、最下部横帯は波状になり、波状頂部の下にぶらさがる小塊が水滴形状にイメージできます。シャンデリアから下がる水晶のようなイメージの装飾です。土器模様全体が実在した室内装飾を起源とするのかもしれません。

2019年5月17日金曜日

餅ヶ崎遺跡出土称名寺式土器の裏側盛り上がり 3Dモデル観察

縄文土器学習 126

1 称名寺式土器観察記事
2019.05.14記事「称名寺式土器 餅ヶ崎遺跡」で千葉市餅ヶ崎遺跡出土称名寺式土器を観察しました。その記事の中で「日本土器事典」における称名寺式土器記述を引用しました。その引用中には次の文章が含まれていました。
「沈線は何度もなぞられ、他の後期の土器に比べて幅が広く、かつ深いことが多い。そのため器壁の薄いものでは、沈線の裏の部分が盛り上がっていることがある。」
私の観察は沈線裏側についてはまったく無頓着であり、その実情は判っていませんでした。

2 Twitterでのご指摘ご教授
この記事アップ後、Twitterでpolieco archeさんからのご指摘ご教授があり、以前その土器を観察したことがあり、「突出ではない」という挿図とメモを残しているとして、それをアップしていいただきました。
同じ土器について過去に専門的観察がpolieco archeさんによって行われその結果を教えていただいたので、興味が強く湧きました。同時に自分としても同じ観察をするのが筋だと思い、早速その土器が展示されている加曽利貝塚博物館にでかけ、土器内面をガラス越しに観察してみました。

3 土器内面の3Dモデル観察
土器内面をガラス越しですが別角度から7枚の写真を撮り、3DF Zephyr Liteで3Dモデルを作成したところ、土器内面の凹凸が判るレベルでの3Dモデルを作成することができました。

餅ヶ崎遺跡出土称名寺式土器内面の3Dモデル

口縁部に幅広でとても深い沈線が2条刻まれていますが、その裏側付近に凹部2条とそれに挟まれた凸部1条が観察できます。その様子は次の‏matcap画像でも確認できます。(3Dモデル画面下のmodel inspector(i)でmatcapにすると写真が除去され立体物だけの表示になります。)

matcap画像
この情報から土器外面沈線と内面凹凸の関係を次のように分析することができました。

4 土器外面沈線と内面凹凸の関係分析

土器外面と内面の様子

土器外面沈線と内面凹凸の関係分析

ア 土器外面沈線に対応して内面に凹部があります。凹部には指で押した跡が多数見られます。
イ 土器外面の沈線に囲まれた部分(相対的に出っ張った部分)に対応して内面に凸部があります。この凸部には指で押した跡は見られません。

「器壁の薄いものでは、沈線の裏の部分が盛り上がっていることがある。」という「日本土器事典」の記述と較べると内面凸凹は真逆になります。
しかし、多数の指で押した跡の存在から次の推測が成り立ちます。
「この土器は最初沈線に対応して内面に凸部ができた。その凸部を解消するために指で押さえて凸部をへこませた。その時凸部は薄いので指で押さえた時元通りではなく、凹みすぎた。」
結論として、「この土器は沈線を描いた時、内面は盛り上がった。しかしそれを指で補正した。補正が過ぎてその部分が凹んだ。」と観察メモを残すことができると思います。

5 まとめ
polieco archeさんが残した観察メモ「突出ではない」はその通りです。同時に「日本土器事典」の「沈線は何度もなぞられ、他の後期の土器に比べて幅が広く、かつ深いことが多い。そのため器壁の薄いものでは、沈線の裏の部分が盛り上がっていることがある。」もある意味でその通りだったと言えると思います。

polieco archeさんご指摘ご教授に端を発した活動により、称名寺式土器の一つの特性を深く体験することができました。polieco archeさんに感謝します。

なお、ガラス越し撮影でも丁寧な撮影により有用な3Dモデル作成ができることを体験できました。自分にとっての学習ツールが増えたことになり、よかったと思います。

2019年5月14日火曜日

称名寺式土器 餅ヶ崎遺跡

縄文土器学習 123

縄文土器を形式別に観察しています。
この記事では加曽利貝塚博物館に展示されている縄文後期初頭土器様式である称名寺式土器(千葉市餅ヶ崎遺跡出土)を観察します。

1 称名寺式土器の観察

称名寺式土器 千葉市餅ヶ崎遺跡出土 加曽利貝塚博物館展示 ガラス越し撮影

称名寺式土器上半部拡大 千葉市餅ヶ崎遺跡出土 加曽利貝塚博物館展示 ガラス越し撮影

称名寺式土器下半部拡大 千葉市餅ヶ崎遺跡出土 加曽利貝塚博物館展示 ガラス越し撮影

・胴部くびれ部分があります。そのくびれで模様構成が2段に分かれています。
・J字文を含むモチーフが深い沈線でつくられ、その内部が縄文で満たされています。沈線外部の縄文は磨り消されていますが、十分に消されていません。

2 「日本土器事典」における称名寺式土器記述の抜粋
「関東地方の縄文文化後期初頭の型式。
その祖型については西日本に求める考え方が有力であるものの、一方西日本では、中津式の成立を東日本の影響とする考え方があり未解明の部分が多い。
器形
ロ縁がやや外反し、胴上半部にくびれ部を持つ深鉢が基本形であり、平縁のものと波状縁のものがある。波状縁は4単位が多い。また、Ⅰ式後半からは波頂部に把手をもつものがあり、そのうち一つだけ大きなつくりになるものもある。深鉢のほかには、量は少ないが浅鉢や塊がある。
文様
平行する沈線によって閉じたモチーフを連続して描き、縄文を充填して、モチーフを浮び上がらせるのがⅠ式の基本であり、無文部分はよく研磨される。使用されることの多いモチーフには、O字状、J字状、剣先状のものがあり、とくにJ字を二段縦に配置する構成が特徴的である。沈線は何度もなぞられ、他の後期の土器に比べて幅が広く、かつ深いことが多い。そのため器壁の薄いものでは、沈線の裏の部分が盛り上がっていることがある。新しい段階になると、文様の配置がくずれ、複雑に入り組んだものとなるため、空白部分が減少し、施文範囲が胴部全般に及ぶようになるとともに、縄文帯の下端が解放されるものが多くなる。
分布
関東地方とその西部に多く見られるが、古いタイプは今のところ南関東でしか見つかっていない。同じ時期の東海や西日本の磨消縄文土器と胴部破片では区別が難しいため、境界線を設けるのは困難であるが、東海東部、中部高地までは分布圏と考えられる。」
「日本土器事典」から引用

3 称名寺式土器の較正年代

称名寺式土器の較正年代
小澤政彦先生講演「東関東(千葉県域)の加曽利E式」資料(2019.02.24)では称名寺式土器の較正年代が4490~4235年前calBPとなっています。

4 称名寺式土器の千葉県域分布

称名寺式土器出土遺跡
私家版千葉県遺跡データベースでは称名寺式は220レコード(遺跡)ヒットします。

称名寺式土器出土遺跡ヒートマップ
加曽利EⅣ式頃の中期社会崩壊直後の様子を表現している興味深い分布図であると考えられます。
縄文中後期の千葉県域最大集落地帯である都川流域-村田川河口域-鹿島川源流域が遺跡密集地域として表現されていません。
詳しい検討は改めて行います。そこでは前後の加曽利E式土器(EⅠ、EⅡ、EⅢ、EⅣ)、堀之内式土器分布との関係をみて、中期社会崩壊について考察します。

5 参考 餅ヶ崎遺跡の場所と情報

ちば情報マップ 埋蔵文化財包蔵地より引用

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