花見川地峡史-メモ・仮説集->3花見川地峡の利用・開発史> 3.4〔仮説〕律令国家の直線道路、東海道水運支路の検討>3.4.223 鳴神山遺跡の墨書文字「久弥良」はクビラ(金毘羅)と推定する
墨書文字「久」、「久弥」、「久弥良」について検討します。
2015.09.27記事「鳴神山遺跡の墨書土器文字・熟語」で「久、久弥良、久弥は湿地における狩猟集団(水鳥猟集団)であると想像します。」と書きました。
その想像が当たっているかどうかは別にして、「久弥良」の読み方とその意味が判ってきましたので、この記事で記述します。
次に、鳴神山遺跡における「久」、「久弥」、「久弥良」の全情報を示します。
鳴神山遺跡における「久」、「久弥」、「久弥良」の全情報
千葉県出土墨書・刻書土器データベース(明治大学日本古代学研究所)から作成
「久」、「久弥」、「久弥良」は同じ遺構から出土することが多いので、「久」、「久弥」は「久弥良」の略語であると考えます。
「久弥良」の画像を参考に示します。
「久弥良」線刻 Ⅰ042竪穴住居出土
千葉県出土墨書・刻書土器データベース(明治大学日本古代学研究所)から引用
「久弥良」線刻 Ⅰ049竪穴住居出土
千葉県出土墨書・刻書土器データベース(明治大学日本古代学研究所)から引用
「久」、「久弥」、「久弥良」の分布図を次に示します。
文字「久」「久弥」「久弥良」出土分布図
内側の環状道路より北側にそのほとんどが分布します。また分布遺構が散らばっていることも特徴です。
「久、久弥良、久弥は湿地における狩猟集団(水鳥猟集団)であると想像」すると、余りに広域に分布していてすこし不自然です。
他の情報がないのでそれ以上の考察はできませんが、狩猟集団であるとの考えの信頼度は低下しました。
次に、「久弥良」の読みについて検討します。
弥、弥の旧字彌、弥の本字镾を調べましたが字音は「ビ」「ミ」です。
「イヤ」「ヤ」は国字(和字)の読みです。
国語学の知識があるわけではないので、直感レベルの考察ですが、ここでは弥をビと読んでみました。
「久弥良」がクビラと読めます。
「クビラ」を辞書で引くと、金毘羅の意味になります。
くびら【宮毘羅・倶毘羅】
(梵 Kumbhīra の訳語。「金毘羅(こんぴら)」とも訳す) 仏語。薬師如来の十二神将の一つ。また、仏法守護の夜叉神王の上首をいう。武装し、忿怒(ふんぬ)の姿をとる。宮毘羅大将。こんぴら。
『精選版 日本国語大辞典』 小学館
金毘羅は大物主神と考えられています。
こんぴら【金毘羅・金比羅】
(梵 Kumbhīra 「宮毘羅(くびら)」とも訳す。鰐の意) 仏語。薬師十二神将の一つ。また、仏法守護の夜叉神王の上首。武装し、忿怒の姿をとるが、持物は一定しない。大物主神(おおものぬしのかみ)はこの垂迹(すいじゃく)の姿といい、海神として信仰され、香川県の象頭山(ぞうずさん)の金刀比羅(ことひら)宮にまつられている。金毘羅大将。金毘羅童子。
『精選版 日本国語大辞典』 小学館
大物主神は大国主神をサポートして国づくりを担った神です。
おおものぬしのかみ 大物主神
日本神話にみえる神の名。▶大神〘おおみわ〙神社の祭神。モノは魔物をいい,ヌシは頭領の意。記紀の伝える▶三輪山伝説によると,この神は蛇体であり岩窟に住んでいた。また崇神天皇の代にこの神のたたりで疫病がはやり人民が飢え苦しんだので,その子孫の▶大田田根子に祭らせたところ,天下は安定したともいう。魔物の頭目として大和地方でもっとも土着性の強い国津神〘くにつかみ〙の一つだが,このオオモノヌシが記紀神話の伝承の中でとくに目だつのは,▶大国主神〘おおくにぬしのかみ〙の分身として国作りに協力し,国譲りの後はもろもろの国津神を率いて宮廷を守護したとされている点である。《出雲国造神賀詞〘いずものくにのみやつこのかむよごと〙》にも,オオクニヌシが己の和魂〘にぎたま〙としてこの神を三輪山に居させ〈皇孫命〘すめみまのみこと〙の近き守り神〉にしたとある。これらの伝承は,宮廷が各地の豪族を次々と服属させ,国津神たちを逆に己の守護神へと仕立て上げていったいきさつを,オオモノヌシに典型化して語ったものである。
『平凡社 改訂新版 世界大百科事典』 日立ソリューションズ
そして、面白いことに、大物主神が協力した大国主神の神名が、墨書土器として出土しています。
「国玉神上奉 丈部鳥 万呂」です。
その出土地を上掲分布図に参考としてプロットしました。
国玉神は国魂神で大国主神です。
くにたまのかみ 国魂神
国霊神,国玉神とも書く。日本人固有の神霊に関する信仰の一形態で,国土そのものの神霊をいう。《古事記》《日本書紀》などの,いわゆる〈国生み神話〉によれば,〈大八洲〘おおやしま〙〉すなわち日本の国土は,天津神のみことのりによって伊弉諾〘いざなき〙尊と伊弉冉〘いざなみ〙尊の男女の性の交わりを通して生まれたとされている。また,生まれた島々も〈淡道之穂之狭別〘あわじのほのさわけ〙〉(淡路島),〈愛比売〘えひめ〙〉(伊予国),〈飯依比売〘いいよりひめ〙〉(讃岐国)のように,男女を区別する名で呼ばれている。このように,古代日本人は国や島を人格的なものと考え,一定の区域内にはそれぞれの国魂が内在し,そのはたらきによって国土が成長し発展すると考えた。これが〈国魂神〉の観念である。したがって,〈国生み神話〉は,元始に神が天地を〈創造〉したとする旧約聖書の世界観とは,本質的に異なるものである。やがて,幾つかの国魂を総称した魂が考えられるようになった。これが〈大国魂〘おおくにたま〙神〉の信仰である。大国魂神は〈大年〘おおとし〙神の子〉,または〈大国主神〉とも言われている(《古事記》《日本書紀》《古語拾遺》)が,本来は幾つかの国魂の総称,あるいは,最高の国魂と考えられたものであろう。《延喜式》によれば,国魂神をまつった神社には〈国玉神社〉(和泉国,尾張国),〈国玉命神社〉(伊豆国)などがある。また,東京都府中市の〈大国魂神社〉は著名である。
『平凡社 改訂新版 世界大百科事典』 日立ソリューションズ
支配集団丈部(ハセツカベ)一族の書いた多文字墨書土器に出てくるのが、大国主神であり、労働集団が祈願語として使ったのが、大物主神であるという対照からくみ取ることができる意味は大きなものがあると考えます。
この記事では、「久弥良」をクビラと読み金毘羅=大物主神を意味し、同時に同じ遺跡から大国主神が出土しているという推定&事実を示し、今後の検討対象として面白いという指摘にとどめます。
0 件のコメント:
コメントを投稿