2015年10月18日日曜日

墨書文字「依」の意味深考

花見川地峡史-メモ・仮説集->3花見川地峡の利用・開発史> 3.4〔仮説〕律令国家の直線道路、東海道水運支路の検討>3.4.226 墨書文字「依」の意味深考

鳴神山遺跡の墨書文字「大」が大国玉(大国主神)を表し、「久弥良」がクビラ(金毘羅)つまり大物主神を表していると知って、ある疑念というか不安というか、思考を深めなければいられない衝動が身を走りました。

鳴神山遺跡の最大出現文字は「大」ですが、二番目に多い文字は「依」です。

「依」は鳴神山遺跡に「衣」が少数出土していることも参考にして、直感的に被服関係集団の祈願語であると結論付けました。

この直観的結論が本当に正しいのだろうかという疑念です。

その疑念は、民俗等で使われる「依代」という用語に「依」という文字が使われていることから生まれました。

出土文字「依」は「依代」に関係して、つまりは神に関係する文字かもしれないという疑念です。

早速調べました。

より‐しろ【依代】
〖名〗 神霊が出現するときの媒体となるもの。神霊の寄りつくもの。正月の年神の依代としての門松などのような特定の枝葉や花・樹木・岩石、あるいは形代(かたしろ)・よりましなど、きわめて種類が多い。
『精選版 日本国語大辞典』 小学館

辞書には依代の用例がありません。

webで調べてみると、なんと「依代」は現代学術用語(造語)であることがわかりました。

折口は、1915年4月、雑誌『郷土研究』へ掲載した論文『髯籠の話』の中で、柳田國男の 柄杓、瓢、杓子に関する膨大な資料等を参照し、「採り物」と呼ばれる柄杓状の呪具が、マナを招き、「えぶる(集める)」物を指すものの、古神道や日本の民俗信仰で用いられる、神降ろしの印を表す言葉がない、という問題から、依り代という言葉を、招代・標山とともに初めて用いた(なお、柳田國男は依り代という語を二度しか用いなかった)。
Wikipedia 「依り代」

ちなみに「憑依」という言葉も戦後から使われ出した翻訳語だそうです。(Wikipedia 「憑依」)

「依代」という言葉は古代には存在していませんでした。従って、「依代」という概念に引きずられて出土文字「依」を考える必要は全くありません。

一方、漢和辞典では「依」を次のように説明しています。


字音
イ、エ
字義
1
➊よ‐る。㋐よりすがる。もたれかかる。㋑たのむ。たよる。㋒つく。従う。「帰依(キエ)」㋓なぞらえる。準ずる。
➋助ける。また、いつくしむ。
➌そのまま。以前のまま。
2
➊やすんずる。安らか。
➋ついたて。=扆。
➌たとえる。また、さとす。
解字
形声。人+衣(音)。甲骨文では、人にまつわりつく衣服のさまにかたどる。まつわりしたしむ・よるの意味を表す。
『新漢語林』 大修館書店

「依」という漢字そのものに神やそれに関連する意味合いは全くありません。

同時に、解字説明にあるように「依」は衣服と強く関連しています。

依という漢字は形声という方法で、人と衣(衣服)を組み合わせてつくった新漢字ですから、もともと衣服のイメージが濃厚に込められている漢字です。

漢字の原義は衣服が人にまつわりついていて、つまり衣服が人に「㋐よりすがる。もたれかかる。㋑たのむ。たよる。㋒つく。従う。」ものであり、その状況を表現しています。

この漢字原義(漢字が表現している状況)の主役は衣服です。

以上の思考(検討)から、鳴神山遺跡で墨書土器に「依」と書いた集団は衣服に関わる集団であると考えて間違いないと思います。

墨書文字「依」の意味を深く考えることができました。

文字「依」出土分布図

「依」出土集中遺構は掘立柱建物群のすぐそばです。

衣服関連集団が被服廠としての掘立柱建物で、あるいはその近くで酒宴(祭祀)を何回も行ったのだと思います。

その時に「依」と書いた土器を打ち欠き、特定場所(当時既に捨てられていた竪穴住居跡)に捨てた(納めた)ものだと思います。

「依」集団が麻の栽培から製糸、織り、縫製まで手掛けて衣服(恐らく軍服)までつくっていたのか、麻栽培という現場は別集団が行っていたのか、詳しく調べれば判明すると期待しています。

鳴神山遺跡出土 依の例
Ⅱ84竪穴住居
千葉県出土墨書・刻書土器データベース(明治大学日本古代学研究所)から引用

鳴神山遺跡出土 衣の例
N201竪穴住居
千葉県出土墨書・刻書土器データベース(明治大学日本古代学研究所)から引用


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参考
けい‐せい【形声】
〖名〗 漢字の六書(りくしょ)の一つ。意味を表わす文字に、音声を表わす文字を組み合わせて、新しい漢字を作る方法。また、そのような構成の文字。水を意味する「氵」に、音を表わす「可」を組み合わせた「河」の類。諧声(かいせい)。象声。〔許慎‐説文解字序〕
『精選版 日本国語大辞典』 小学館

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