鳴神山遺跡の墨書土器出土は大変強い偏在性を有していて、その背景に打ち欠き行為(酒宴・祭祀)があることがわかりました。
また文字「大」「大加」の分布と「依」の分布はあたかも棲み分けしているように分かれます。「大」「大加」を祈願語として共有する集団と「依」を祈願語として共有する集団が系統を別にしていることは確実だと考えます。
この記事では「大」系列、「依」系列と並んで出土数の多い記号「×」の分布について検討します。また関連して記号・文字の峻別が困難な「♯」と「井」についても検討します。
次に、記号「×」の分布図を示します。
記号「×」出土分布図
最大の特徴は「大」「大加」「衣」のように特定遺構に集中して出土しないことです。
墨書土器出土域に満遍なく1つの遺構に1~3の割合で出土します。ほとんどが1遺構に1点出土です。
この分布状況から「×」は集団が共有する祈願語(祈願記号)そのものでないことがわかります。
「×」は魔除け記号であるといわれています。呪術的意味を有していたと思います。
この呪術的記号(言葉)が祈願語を異にする幾つかの集団を横断して分布していることから、どの集団も、病気とか災害などの災厄防除の一般的呪術記号として「×」を使っていたと考えます。
たくましく空想すれば、集団内でその構成員を呪術でサポートする役割の人間が「×」を使ったのかもしれません。
次に、記号・文字「♯・井」の分布図を示します。記号「♯」には線が3本のものなども含まれてます。記号♯であるのか漢字「井」であるのかの区別は実際上は困難のようです。
記号・文字「♯・井」出土分布図
最大の特徴は2重の環状道路の北には全く分布がないことです。文字「大」「大加」のメイン分布地域には「♯・井」が出土しません。
「♯・井」も魔除け記号であるといわれています。この記号(文字)の分布が最大出土文字である「大」「大加」を共有する集団と結びついていないことに大いに興味が湧きます。大きな情報が隠されていると考えます。
「大」「大加」集団の特性を考える上でも重要情報です。
空想の域をでませんが、「井人」「♯人」という史料が出土していて、これが祈祷師を意味するとすれば、権力構造上優位な「依」集団は専属の祈祷師集団を持ち、権力構造上劣位な「大」「大加」集団はその祈祷師集団のサービスは受けていなかったということかもしれません。
次に、記号「×」と記号・文字「♯・井」ともに密集して分布する場所があり、それがほぼ同じ場所であることを図示します。
記号「×」の密集出土域
記号・文字「♯・井」の密集出土域
この共通する密集域が祈祷師集団の拠点であった可能性を感じ取ります。
鳴神山遺跡の当時の病院・悩み事相談所みたいなゾーンであったのかもしれません。今後他の情報を合わせて検討を深めます。
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