2015年10月31日土曜日

メモ 地名と墨書土器の文字 その2

花見川地峡史-メモ・仮説集->3花見川地峡の利用・開発史> 3.4〔仮説〕律令国家の直線道路、東海道水運支路の検討>3.4.235 メモ 地名と墨書土器の文字 その2

2015.10.30記事「メモ 地名と墨書土器の文字」では大層偉そうな気分で記事を書きました。

墨書文字「草田」(カヤタ)が地名そのものではなく、「草(カヤ…くさ)」が生えるような生産性の低い水田の増収を願う祈願語であるという説を説明しました。

1日経って、この記事を読み返して、「違うかもしれない?」という異説が頭脳中に発生しました。

偉そうな記事を書いた翌日、自ら異説を唱えるのですから、恥ずかしさと向上突破感とが混ざった複雑な感情が渦巻いています。

自らの感情分析はさておいて、「草田」(カヤタ)が地名そのものではなく、生活生産の原材料増産を祈願していたという説を説明します。

辞書による「かや」の説明を次に引用します。

かや【茅・萱】
〖名〗
① 屋根を葺(ふ)くのに用いるイネ科、カヤツリグサ科の大形草本の総称。主としてススキ、チガヤ、スゲなどが用いられる。茅根。茅草。<季・秋>
※古事記(712)上「爾に即ち其の海辺の波限(なぎさ)に鵜の羽を以ちて〓草(かや)と為て産殿を造りき。〈略〉〈波限を訓みて那芸佐と云ふ。葺草を訓みて加夜(カヤ)と云ふ〉」
※延喜式(927)祝詞(九条家本訓)「取り葺ける草(カヤ)の噪き〈略〉なく」
② 「⇨すすき(薄)」の異名。
※八丈実記(1848‐55)土産「芒(カヤ)すすき 地筋(カヤ)(〈注〉ヂヂョ)、異名菅根、土筋、菅茅、黄茅」
語誌
⑴元来は①のように総称だったので、「延喜式・祝詞」に見られるように「草」をあてることもあった。「茅」は「ち」で、「ちがや」を指すが、「ちがや」は屋根をふく草の代表的なものなので、「かや」にあてられた。
⑵「萱」は本来、ユリ科の植物カンゾウ、一名ワスレグサで、「かや」の意に用いるのは誤り。「和名抄」「名義抄」などに「かや」とよむ文字は「萓」。字形が似ているところから、後世誤ったもの。
『精選版 日本国語大辞典』 小学館

「かや」は草の字をつかうこともあり、有用な建築資材としての意味があったことがわかります。

「かや」を刈り取る場として「茅場・萱場」、「茅原・萱原」、「茅山・萱山」などの言葉があります。

辞書レベルでは「かや」という語に特段のマイナス印象(不要物、耕地の邪魔者等)を見つけることはできません。

「草田」(カヤタ)が建築の有用資材であるカヤの採取場所を指し、「草田」という語が有用資材かやの増産を祈願した言葉である可能性を濃厚に感じます。

「かや」のイメージ

白幡前遺跡の墨書土器文字を調べると、「草」1文字だけの祈願語も出土しています。

「草」白幡前遺跡出土
千葉県出土墨書・刻書データベース(明治大学日本古代学研究所)から引用

「草田」(カヤタ)の草(カヤ)が生産性が低いことを示す雑草の意味であるとしたら、「草」1文字だけの祈願語の存在は考えにくいように感じます。

「草」1文字の祈願語はそれを有用建築資材・生活資材としての「かや」にその意味を求めるのが極自然の成り行きというものです。

資材としての「かや」の増産祈願であると考えることが自然です。

結論として、「草田」(カヤタ)という墨書土器文字は、地名を表現したものではなく、有用資材である「かや」の増産を祈願した言葉であるということになります。

その「かや」を刈る場所としての「草田」(カヤタ)という言葉が地名となり、現在八千代市の大字萱田として伝わってきているということです。

「草田」(カヤタ)という祈願語墨書は、地名発生の瞬間を土器表面に定着させたものであり、地名の意味を現代に伝える物証であると考えます。

次の記事で、この記事を書くきっかけとなった「かや」そのものを暗示する墨書土器写真(八千代市立郷土博物館で実物閲覧)を掲載して、さらに「草田」検討を深めます。

つづく

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