2020年9月4日金曜日

縄文中期有吉北貝塚の製革工程イメージ(予察)

 縄文貝製品学習 9

2020.09.03記事「アリソガイ学習の作業仮説と予備実験1」で設定した作業仮説(アリソガイが皮なめし関連として使われていた)を前提として、その頃の製革工程をイメージし、各工程ごとに関連する道具(出土物遺物)の対応を予察してみました。

1 製革工程の歴史

出口公長著「皮革あらかると」(解放出版社、1999)では製革工程の歴史およびなめし方法の発展が次のようにまとめられています。


製革技術の区分と発展

出口公長著「皮革あらかると」(解放出版社、1999)から引用


代表的ななめし方法と発達順位

出口公長著「皮革あらかると」(解放出版社、1999)から引用

2 縄文中期の狩猟から皮革製品づくりまでの工程と道具等(予察)

1の情報及び2020.09.03記事「アリソガイ学習の作業仮説と予備実験1」で設定した作業仮説(アリソガイが皮なめし関連として使われていた)から縄文中期の狩猟から皮革製品づくりまでの工程と道具等を予察してみました。予察は千葉市有吉北貝塚を念頭に思考しました。


縄文中期の狩猟から皮革製品づくりまでの工程と道具等(予察)

生皮生成における脂肪等除去作業では脂肪・肉片・血液などの不要物が大小の骨角器を使い分けて除去されたと考えます。

脱毛はアリソガイで炭酸カルシウムを塗布し、その後ハマグリで物理的に除去したと想定します。

革生成の軟化処理はアリソガイで炭酸カルシウムを塗布することにより脱毛と一緒に行われたと考えます。

なめし(狭義)が行われていたかどうかの証拠はありませんが、出口公長著「皮革あらかると」(解放出版社、1999)ではかなり進んだ技術があったかもしれないと述べいます。

なんらかの染色が存在していたと想像します。

調整として張り乾燥や揉みが行われていたと想像しますが、骨角器で擦ることによる作業が生皮生成の脂肪等除去と関連して行われ、革がより柔らかくなったと考えます。

3 千葉市有吉北貝塚出土遺物と製革工程との関係(予察)

ア 脂肪等除去作業の道具

ア-1 全体作業


イノシシ下顎加工品 113

千葉市有吉北貝塚発掘調査報告書から引用


シカ下顎加工品 152

千葉市有吉北貝塚発掘調査報告書から引用

ア-2 細部作業


シカ骨ヘラ状製品 98、99など

千葉市有吉北貝塚発掘調査報告書から引用


シカ骨加工品 145~148など

千葉市有吉北貝塚発掘調査報告書から引用

イ 脱毛、軟化処理


アリソガイ製ヘラ状貝製品

千葉市有吉北貝塚発掘調査報告書から引用

ウ 揉み


シカ角加工品 127~135

千葉市有吉北貝塚発掘調査報告書から引用

有吉北貝塚から出土した骨角器の大半は製革工程に関わる道具であると考えられます。

4 感想
・アリソガイが脱毛と柔軟化の双方に効果があるとすれば、アリソガイを知らない時代からみるとアリソガイ利用は革命的発明であったと考えられます。
・アリソガイという入手しにくい貝をもとめて人々は探し回り、価値あるモノとして流通したに違いありません。
・アリソガイが出土する遺跡があるとすれば、その遺跡では製革用骨角器は必ず共伴出土することが想定できます。特殊製革薬剤ともいえるアリソガイを使うほどですから、単に製革用骨角器が出土するということではなく、質の高い道具が沢山出土するに違いありません。

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