2020年9月8日火曜日

縄文中期アリソガイの利用原理(作業仮説)

 縄文貝製品学習 13

縄文中期の千葉市有吉北貝塚などから出土するアリソガイ製ヘラ状貝製品の用途が、現代製革工程の石灰漬けに相当するものであると作業仮説して学習を進めてきました。この記事ではさらに踏み込んでアリソガイ製ヘラ状貝製品の利用原理についての作業仮説を設定します。

1 現代製革工程と縄文時代アリソガイ製ヘラ状貝製品役割の対応(作業仮説)


現代製革工程と縄文時代アリソガイ製ヘラ状貝製品役割の対応(作業仮説)

2 縄文中期アリソガイ製ヘラ状貝製品の利用原理(作業仮説)


縄文中期アリソガイ製ヘラ状貝製品の利用原理(作業仮説)

1 アリソガイを皮に擦りつける→ペースト状の炭酸カルシウムが皮表面に塗布される。

2 皮を水で湿らせる→水とペースト状炭酸カルシウムが反応して水酸化カルシウムが生成される。

・炭酸カルシウムが水に溶解し、炭酸イオンとカルシウムイオンに乖離する。

・炭酸イオンは水のHと結びついて炭酸(弱酸性)になる。

・カルシウムイオンは水のOHと結びついて水酸化カルシウム(強アルカリ性)になる。

・全体が強アルカリが支配する状況となる。

3 皮が水酸化カルシウムにより現代製革工程石灰漬けと同じ効果を受ける。(毛・表皮の破壊、非コラーゲンタンパク質の除去、脂肪のケン化がなされ、皮は膨潤し、線維組織がゆるめられほぐされる。皮の線維構造に均質化が図られ、革となったときの柔軟性が向上する。)

この作業仮説は予備実験でアリソガイを革に擦りつけると微量のペースト状貝成分が革に塗布されることから最初のその確からしさ感触を得ています。

3 縄文中期アリソガイ製ヘラ状貝製品の利用原理(作業仮説)の問題点と検証

ア 問題点

ア-1 アリソガイ貝成分塗布の微量性

アリソガイを擦りつけると確かに貝成分(炭酸カルシウム)がペースト状に革表面に塗布できました。しかしその量は極めて微量です。この微量の炭酸カルシウムが水と反応してさらに微量の水酸化カルシウムが生成され、それが原皮の脱毛や柔軟化にどのように影響するのか、原皮に生じる化学反応の大局観を素人故にもつことができません。

おそらく、縄文中期には脱毛や柔軟化について既に既存の技術が確立存在していたことは間違いないと思います。脱毛や柔軟化の基本的工程は済んでいる状況のなかで、最後の仕上げ、上等化・高級化のステップで使われたような気がします。

例えば、脱毛や脂肪除去作業でどうしても取れない微小異物について、鋭い削器等を使うと原皮が傷つく恐れがあるとき、アリソガイを使って「魔法」のように異物を除去するというようなイメージが湧きます。

ア-2 出土アリソガイの廃棄基準

出土アリソガイの写真を見ると摩耗の程度から、貝が少し縮小して手で持ちにくくなったら廃棄しているように観察できます。

これはアリソガイ在庫が豊富にあり、使い勝手優先で考えることができる状況があり、少しでも使い勝手が悪くなると廃棄していたように感じられます。

この現象から、アリソガイの利用にあたって、貝成分をいかに多量にゴシゴシ塗布するかという問題意識より、いかに擦りつけ使い勝手を維持するかという方に重点があるように感じられます。つまり貝成分塗布ではない別の操作問題意識が存在していた可能性があります。

例えば皮なめし薬剤や染色剤の塗り込みがアリソガイで行われていた可能性もありうると考えます。貝が摩耗縮小すると薬剤の塗り込みがしにくくなるのかどうか確かめなければなりません。考察の範囲を広げなければなりません。

イ 検証

作業仮説の検証をシカ皮などの原皮(体から剥いだ直後の皮)で行う必要があります。

その場合、縄文中期製革工程モデルをいくつか作り、その中にアリソガイ利用をいろいろな場面に組み込むという多数ケースについて実験的に考察する必要があります。


アリソガイ製ヘラ状貝製品(出土物)

西野雅人先生提供資料から作成


アリソガイ(現棲)

現物は西野雅人先生から借用

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