2020年9月6日日曜日

陸前高田市大陽台貝塚出土アリソガイの隔絶分布意義

 縄文貝製品学習 11

1 アリソガイが隔絶的に出土する陸前高田市大陽台貝塚

岩手県陸前高田市大陽台貝塚からアリソガイが隔絶的に出土しています。現代では房総付近を分布北限とするアリソガイが岩手県陸前高田市の縄文中期が盛期の遺跡から出土すること自体が驚きです。

発掘調査報告書では次のように記述し、なぜ出土したのか、その理由についていぶかっています。


出土したアリソガイ

「房総以南現棲の貝であり、この存在に興味がもたれる。」

岩手県陸前高田市大陽台貝塚発掘調査概要(1979)から引用


アリソガイが隔絶的に出土した陸前高田市大陽台貝塚と有吉北貝塚の位置

2 陸前高田市大陽台貝塚の特性

大陽台貝塚は広田湾に面した半島に位置する縄文前期から後期まで続く遺跡で大木8b式(関東では加曽利EⅡ式期頃)を盛期としています。マグロ骨が多出しマグロ漁が盛んであるとともにシカ・イノシシの骨出土が近隣遺跡より多く、シカ骨やシカ角を利用した道具が盛んにつくられています。

狩猟という観点から遺跡位置をみると半島のくびれ部に遺跡が位置していて、シカ群の追い込み猟好適地であったと考えられます。

陸前高田市大陽台貝塚周辺の地形3Dモデル

地理院地図3Dモデル(色別標高図+陰影起伏図) 

垂直倍率:×3.0 

1大陽台貝塚、2広田湾、3陸前高田市市街地

3 出土骨角器


ヘラ状骨角器

岩手県陸前高田市大陽台貝塚発掘調査概要(1979)から引用


ヘラ状骨角器

岩手県陸前高田市大陽台貝塚発掘調査概要(1979)から引用


有孔の鹿角棒

岩手県陸前高田市大陽台貝塚発掘調査概要(1979)から引用

ヘラ状骨角器は皮なめしに使われた道具である可能性があります。また有孔の鹿角棒は皮なめしにおいて皮を痛めることなく、皮肉側の余分な脂肪・肉片・血液等を効率的にこそぎ取る専用道具であると想定できます。この道具出土から大陽台貝塚はシカ・イノシシのなめし皮生産拠点であった可能性が考えられます。

4 アリソガイの隔絶的出土の意味

アリソガイ出土の意味解釈の一つとしてアリソガイが皮なめしに使われた可能性が考えられます。

2020.09.06記事「アリソガイのシカ革・シカ毛皮塗布実験」参照

もしアリソガイが皮なめしに使われたとすると、その入手方法が問題になります。縄文中期頃にアリソガイが岩手県付近にも分布していた可能性もありうると考えます。広田湾でもアリソガイを拾える可能性があったかもしれません。

また、もしその当時アリソガイが岩手県に分布していなかったとすると、アリソガイを南方からつまり福島県とか茨城県とか千葉県から交易品として入手していたのかもしれません。

アリソガイが皮なめし薬剤として特段に有用であったために、アリソガイが交易品として全国展開するほどの価値があるモノであったのかどうか、またそもそも本当にアリソガイと皮なめしが関係あるのか、学習の興味はますます深まります。

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