2020年9月30日水曜日

使い込まれたアリソガイ製ヘラ状貝製品の観察

 縄文貝製品学習 17

千葉県教育委員会の許可で閲覧した有吉北貝塚出土縄文中期アリソガイ製ヘラ状貝製品の観察を行っています。この記事では相当使い込まれて摩耗変形した製品372図2を観察します。

1 アリソガイ製ヘラ状貝製品(磨貝)(千葉市有吉北貝塚)372図2表面 観察記録3Dモデル 

アリソガイ製ヘラ状貝製品(磨貝)(千葉市有吉北貝塚)372図2表面 観察記録3Dモデル 

縄文中期、L、殻長105.3㎜、殻高77.9㎜ 

撮影場所:千葉県教育庁森宮分室 

撮影月日:2020.09.18 

許可:千葉県教育委員会許可による撮影・掲載 

3Dモデル写真測量ソフト 3DF Zephyr で生成 v5.007 processing 35 images


撮影風景


実測図


3Dモデルの動画

2 擦痕観察のための画像処理

擦痕等を観察するためにPhotoshopハイパス機能を使った画像処理をしました。


撮影写真と画像処理写真

3 擦痕等の観察


擦痕等の観察

・貝殻成長線を切るように多数の擦痕や大きな傷が観察できます。また放射肋由来と考えられる模様も一部観察できます。

・アリソガイ製ヘラ状貝製品が何かを擦る道具として使われた痕跡は多数の擦痕が該当すると考えることができます。

・多数の擦痕はほとんどが貝殻成長線と斜交して付いています。その角度は40~60度程度の傾きが多くなっています。この傾斜はアリソガイの使い方を表現しているとともに、使用目的を推定するための有力な材料となると考えられます。

・現状では擦る方法を貝殻成長線と斜交させることによって、より効果的に貝殻成分を対象物に塗布していたと考えます。

・貝殻成長線と斜交させて対象物をこするためにはどうしても貝殻の左右の部分を使うことになります。その結果、左右が摩耗で少しずつ消失すると、372図2のような形状になります。

・擦痕の存在は、その傷をつけるほどの細く硬いモノに触れたことを意味します。また擦痕が多いといっても、その分布密度は限定的です。

・このような擦痕の付き方はアリソガイを使って擦った相手のモノの特定に役立つ情報です。

・現状ではシカやイノシシ獣皮の一応の皮なめしが済んで、それを最後に仕上げる時、皮をアリソガイで擦れば、毛根内に残存している毛がこのような擦痕を付ける可能性が濃厚です。男が髭をそるとき、剃刀の刃がこぼれることがあるのと同じような感じを想像します。実験的に確かめることが大切です。

4 感想

・通常の撮影写真もPhotoshopで画像処理すれば擦痕が浮かび上がってくることは感動的ですらあります。

・擦痕の様子からアリソガイ製ヘラ状貝製品がどのような目的で使われたのか、その範囲をかなり絞ることができそうです。

・この372図2の観察結果は、アリソガイ製ヘラ状貝製品が皮なめし関連で使われたと考えることと整合します。


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