2020年9月6日日曜日

アリソガイのシカ革・シカ毛皮塗布実験

 縄文貝製品学習 10

1 作業仮説

縄文中期千葉市有吉北貝塚で人々がアリソガイをシカ皮に擦りつけ、その成分(主成分は炭酸カルシウム)塗布によってシカ皮に変化が生じ、シカ皮のなめしが効率的に行われていたと作業仮説しました。

2020.09.03記事「アリソガイ学習の作業仮説と予備実験1


現代製革工程と縄文時代アリソガイ製ヘラ状貝製品役割の対応(作業仮説)

2 予備実験1 アリソガイによるシカ革への貝成分塗布

この作業仮説に基づいてシカ革(タンニンなめし国産シカ革ハギレ)にアリソガイを塗布しました。

その結果アリソガイ塗布部分は革が柔らかくなることを体感しました。

2020.09.03記事「アリソガイ学習の作業仮説と予備実験1

3 予備実験2 アリソガイによるシカ革への水を加えながらの貝成分塗布

ア 予備実験1の考察

予備実験1でアリソガイ成分を塗布した部分の断面(ハギレの端)を24時間たってから観察すると、クリーム状の貝成分(主成分は炭酸カルシウム)は表面だけにとどまり、内部には浸透していないように見えます。それはアリソガイを塗布していない断面との比較で肉眼で感じられます。

アリソガイ成分を塗布することによってシカ革が柔らかくなったことを体感しましたが、その柔らかさ発生の原因はあくまでもクリーム状貝成分がシカ革両面に存在しているためであることがわかります。つまり革の内部にクリーム状貝成分が浸透して革そのものが全体として柔らかくなったのではなく、表裏両面の表面に生じた部分的な軟化であると考えられます。

革の内部にまで貝成分が浸透していないためシカ革軟化は劇的なものになっていない可能性が想定できます。

イ 予備実験2の立案

予備実験1の結果から、シカ革内部にまでアリソガイ成分を浸透させる試みをすることにします。具体的にはシカ革に水を加え(シカ革を湿らせ)ながらアリソガイを革に擦りつけることにしました。

ウ 予備実験2の様子

水を加え(湿らせながら)アリソガイをシカ革に擦りつけると、革表面に白い色が付きますから貝成分塗布はできているようです。しかし手が受ける感触は実験1の時のような「ねっとりしたものが革表面に移っていく」ような感触(革裏面)、「油が革表面に移っていく」ような感触(革表面)はありません。革表裏ともにとても機械的な感触です。


予備実験2の様子

エ 予備実験2の結果

24時間後、実験2を行った部分が乾燥してからその部分を触るとなにもしない部分よりも硬くなっていました。当初想定した劇的柔軟化の真逆の結果となりました。

オ 予備実験2の考察

アリソガイ成分の中の炭酸カルシウムが水の溶けて革内部に入り、その中で結晶化する(石灰石になる)という模式的な現象を考えれば、革が固くなるのは当然なことです。

縄文人がアリソガイを皮に塗布したとすれば、その時に水は使っていないと考えることができます。

4 予備実験3 アリソガイによるシカ毛皮への貝成分塗布

ア 予備実験3の立案

シカ毛皮(毛皮製品製作で使われた国産シカ毛皮のハギレ)にアリソガイを擦りつけて貝成分を塗布し、脱毛のしやすさを体感してみることにします。脱毛のしやすさは指で毛をつまんで引き抜くときの感覚(どれだけ力を必要とするかという感覚)を指標にします。


シカ毛皮

イ 予備実験3の結果

イ-1 毛皮裏面に対する貝成分塗布

シカ毛皮裏面にアリソガイを擦りつけ成分を塗布しました。しかし塗布直後も24時間後も脱毛に対する影響はありませんでした。指で毛を抜くことは困難です。

イ-2 毛皮表面に対する貝成分塗布

シカ毛皮の毛を両側に分けて生まれる地肌にアリソガイを擦りつけ貝成分を塗布しました。塗布直後から指で毛を抜くことが可能になります。ただし、劇的なものではなく、これまでほとんど抜けることのない毛が極少しだけ抜けるという状況です。毛が抜けた様子(地肌)を観察できるような状況は全くありません。

効果が有るか無いかといわれれば確かに効果はあるが、それは毛皮の毛を全部脱毛する前提で考えればほとんど効果零に等しい効果です。


予備実験3の様子

ウ 予備実験3の考察

入手したシカ毛皮は脱毛しないような特殊処理が行われている考えられます。そのためアリソガイの貝成分塗布はこの現代製品に対してほとんど効果が無かったものと考えられます。

しかしミクロな状況では脱毛効果があると体感できました。この情報は本実験にむけて重要な情報であると考えられます。

5 予備実験のまとめ

・現代なめしシカ革にアリソガイを塗布したところわずかな柔軟化がみられた。

・現代なめしシカ革に水を加えながらアリソガイを塗布したところ革は硬くなった。

・現代技術処理シカ毛皮にアリソガイを塗布したところ脱毛の影響はほとんど無かった。

6 予備実験の意義

・シカ革にアリソガイを擦りつけると、貝からクリーム状物質や油状物質が革に移るという現象を体感できました。この現象を知ったことによりアリソガイの秘密により近づけたような気がします。この現象体感が今回予備実験の最大の成果であると感じます。

・今回予備実験は現代なめしシカ革と現代技術処理シカ毛皮を使いました。本来シカ原皮(シカから剥いだ直後の皮)を対象に予備実験を行うべきです。今回の予備実験は「予備」に至る前の「柔軟体操」みたいなものです。

・予備実験3のプロセスのなかで次のような感想を持ちました。

「シカ毛皮の毛の密集度を観察すると、アリソガイにどんなに特効的脱毛効果があったとしても、脱毛を全部アリソガイだけで行ったとは到底考えられない。脱毛に関して別の効果的方法があり、それと併用されていたことは間違いない。」

・今回、アリソガイをシカ革、シカ毛皮に擦りつける動作をしながら、この同じ動作で縄文人が得ていた効果は最終仕上げに関連する効果(製品の上質化に関連する効果)であったに違いないと感じました。皮の柔軟化や脱毛に関する基本技術が別に存在していて、その基本技術の意義をさらに高めるためにどこかの工程でアリソガイが使われたに違いないと考えました。

・シカ原皮を湿って暖かい場所で「発汗」させる工程(脱毛工程)とか、シカ下顎骨製品・ヘラ状シカ角製品などを使った脂肪・肉片・血液等の除去工程など、縄文製革工程全体との関連でアリソガイの利用方法を特定させることが重要であると考えます。

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