2014年4月22日火曜日

花見川河川争奪の特異な原理 動的河川争奪

シリーズ 花見川地峡成立の自然史 -仮説的検討-
第2部 花見川河川争奪に遡る その7

これまでに、人工改変前[印旛沼堀割普請前]の花見川筋の分水界の位置を特定し、その結果に基づいて花見川河川争奪存在の証明をしてきました。
次に、花見川河川争奪の特異な原理とタイプ(様式)について検討します。結果を先に言えば、花見川河川争奪は日本ではこれまで報告されたことない珍しい原理・タイプ(様式)の河川争奪であることが判りました。
この記事では河川争奪の原理について説明します。

ア 河川争奪の一般的説明図と花見川河川争奪との対応
鈴木隆介著「建設技術者のための地形図読図入門 第3巻段丘・丘陵・山地」(古今書院)の河川争奪説明図における説明ポイントと花見川河川争奪との対応を検討して次の図に表現してみました。

河川争奪の一般的説明図と花見川河川争奪との対応

イ 花見川河川争奪の特徴
この対応図を見て、花見川河川争奪について次の際立った特徴に気づくことができます。

花見川河川争奪が一般的河川争奪と異なる際立った特徴

つまり、一般的河川争奪では被奪河川を下流から奪うのに対して、花見川河川争奪ではこれと異なり、被奪河川を上流から奪っています。
被奪河川を下流から奪う一般的河川争奪の場合、最初の争奪ポイント付近に争奪の肘と風隙がセットで形成されます。

ところが、花見川河川争奪では被奪河川を上流から奪うという特異の形式であるため、最初の争奪ポイントに争奪の肘(=流路の急カーブ)が生じますが、風隙ははるか離れた場所の遷急点に生じます。

花見川河川争奪の特徴と一般的河川争奪の特徴の間にこのような差異があるということは、花見川河川争奪原理が一般的河川争奪原理と異なることを示しています。

ウ 一般的河川争奪と異なる花見川河川争奪の原理
次に一般的河川争奪の原理と花見川河川争奪の原理の違いを図示します。

一般的河川争奪原理と花見川河川争奪原理の差異

一般的河川争奪の原理とは争奪河川の侵蝕が河川争奪ポイントに達した時、その結果として被奪側河川の上流部が斬首(截頭)され、それが自動的に争奪河川の流域に組み込まれるという原理です。
デービス原画の河川争奪説明図も鈴木隆介による河川争奪説明図もこの原理を説明しています。
この原理を静的河川争奪と呼ぶことにします。

一方、花見川河川争奪の原理では、最初に河川争奪ポイントが生じても、そのポイントが被奪側河川の最上流部に位置するので自動的に争奪河川に組み込まれる流域は発生しません。その争奪ポイントが被奪側河川の谷津を徐々に下流に向かって移動するとともに(つまり争奪河川の頭方侵蝕が被奪側河川谷津地形に対して差別的に進行するとともに)、少しづつ争奪河川の流域が増えます。
争奪ポイントが花島谷津付近まで移動すると花島谷津の流域が自動的に争奪河川に組み込まれます。
争奪ポイントが柏井付近まで移動すると、前谷津(花見川団地方面の谷津)と後谷津(柏井浄水場方面の谷津)の流域が自動的に争奪河川に組み込まれます。
つまり、花見川河川争奪の原理は、争奪ポイントが絶えず移動してそれによって支川レベルの静的河川争奪が継続的に発生し、争奪河川に組み込まれる新たな流域は累積的に増加していきます。
このような原理を動的河川争奪と呼ぶことにします。

動的河川争奪という概念及び事例の発見は日本で初めてだと思います。

花見川河川争奪は稀少で貴重な学術的価値が認められる可能性を秘めた新発見地学現象です。

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