2021年4月12日月曜日

有吉北貝塚出土加曽利EⅠ式土器観察 3

 縄文土器学習 576

有吉北貝塚出土加曽利EⅠ式土器について、便宜上、竪穴住居、土坑、南斜面貝層、北斜面貝層別にその代表サンプルを観察しています。この記事は南斜面貝層出土加曽利EⅠ式土器4点を発掘調査報告書実測図・写真により観察します。

1 南斜面貝層 269番土器


南斜面貝層 269番土器

発掘調査報告書では次のように記載されています。

「269は隆線によって口縁部ヨコ1次区画され、口縁部文様帯内には両脇に沈線を伴う1条の隆線が波状に横走している。地文は縦回転施文のRL単節縄文で、主文様の抽出以前に施されている。」

キャリパー形土器で、埼玉編年(1982)のⅨb期1群土器F類に該当すると考えます。


参考 埼玉編年(1982)Ⅸb期1群土器F類

2 南斜面貝層 273番土器


南斜面貝層 273番土器

発掘調査報告書では次のように記載されています。

「273は出土量が少ないが、本段階に特有の一類型で、ラッパ状に開く器形を呈し、口縁部外側を極端に肥厚させ、その上面を幅狭の口縁部文様帯とするものである。口縁部は3ないし4単位の波状を呈し、胴部が数段に区画されるものが一般的である。本例は口縁部文様帯が1条の横走沈線のみで、胴部は横走隆線と横走沈線(3条)によって区画され、最上段は無文、中断と下段にはRL単節縄文が縦回転施文されて中段には沈線が廻っている。」

曽利式土器の影響を受けた折衷土器というものでしょうか?

埼玉編年(1982)のⅨa期2群土器F類の類例として理解しておきます。


参考 埼玉編年(1982)のⅨa期2群土器F類

3 南斜面貝層 274番土器


南斜面貝層 274番土器

発掘調査報告書では次のように記載されています。

「274はキャリパー形土器の破片資料である。把手を有している。口縁部ヨコ1次区画の特徴から7群に含めたが、並行隆線の施文方法や口縁部文様帯内に縦位集合沈線が充填されていること等からみると中峠式に属する可能性がある。」

加曽利貝塚博物館企画展に展示された中峠式土器キャリパー形類似例ではヨコ1次区画隆帯に刻みが入っていて、この土器片は刻みがないので7群土器(加曽利EⅠ式土器)に入れたと理解しておきます。


中峠式土器例


中峠式土器例

4 南斜面貝層 325番土器


南斜面貝層 325番土器

発掘調査報告書では次のように記載されています。

「325は器形的にはキャリパー形を呈し内折するように内側が肥厚する口縁部には円筒形で中空の把手が付されている。口縁部文様帯は集合沈線のみで構成されており、その一部が加曽利E様式的な渦巻文状を呈している。頸部には無文帯が存在し、下端に巡る隆線によって胴部縄文施文帯との境界が画されている。口縁部Ⅰ+頸部Ⅱ+胴部Ⅲという文様構成から本群(8群)に含めたもので、口縁部文様帯の特徴から曽利様式系の資料と思われる。」

加曽利EⅠ式が曽利様式の影響を受けてつくられた折衷土器と理解しておきます。

5 感想

・「純粋」の加曽利EⅠ式土器以外の折衷土器が多いことに改めて気が付きました。折衷土器の意義について十分に考える必要性を痛感します。

・過去からの影響(例 中峠式土器の影響)と他の場所で発生し伝播してきた様式の影響(例 曽利式土器の影響)と、そもそもその場所で本流になりつつある生まれ出た加曽利EⅠ式の3つがカオスの状況にあったのが加曽利EⅠ式期であったと理解しておきます。

・中峠式の影響が濃い土器(A)、曽利式の影響が濃い土器(B)、純粋加曽利EⅠ式の土器(C)などの土器群分類と対応する事象があるかどうか興味が湧きます。例えば、A、B、Cの比率は竪穴住居、土坑、南北斜面貝層でほぼ同じなのか、違うのか。竪穴住居毎にみるとどうなのか。共伴出土石器種類構成と関連があるか、ないか。遺構内貝層の存否と関係があるか、ないか。・・・


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