縄文土器学習 579
有吉北貝塚出土加曽利EⅠ式土器について、便宜上、竪穴住居、土坑、南斜面貝層、北斜面貝層別にその代表サンプルを観察しています。この記事は土坑出土加曽利EⅠ式土器4点を発掘調査報告書実測図・写真により観察します。
1 SK332 1番土器
SK332 1番土器 7群土器
発掘調査報告書では次のように記載されています。
「1は口縁部に隆帯と沈線で渦巻文等を構成し、胴部には垂下する3本一組の沈線が渦巻文や剣先状モチーフを描くものである。」
キャリパー形の土器で主文様帯が口縁部にあり、胴部に垂下沈線があることなどから「正統」な加曽利EⅠ式土器であると理解します。沈線に渦巻文と剣先状モチーフが隣接して存在していますが、これはセットであり、次のSK164 72番土器説明の「有棘渦巻文」であると理解します。「有棘渦巻文」は大木式の影響を受けた文様であると理解します。
2 SK164 72番土器
SK164 72番土器 7群土器
発掘調査報告書では次のように記載されています。
「72は細い粘土紐による有棘渦巻文等を口縁部文様帯にもつものである。」
次図のようにクランク文が基本的文様であり、それに有棘渦巻文が付いた文様であると理解します。
クランク文が基本で、それに有棘渦巻文が付属し、さらにクランク文の一部が細区画されたという理解
3 SK321 333番土器
SK321 333番土器 7群土器
発掘調査報告書では次のように記載されています。
「333は上部に渦巻文を描いた4単位の把手を持つ波状口縁の深鉢である。図の正面と左側の把手上の渦巻文は、口唇部上を巡る沈線で連携し、それと対になるように裏側と右側のものが連携している。肥厚する口縁部無文帯部には指頭状工具による押圧が加えられ、胴部には地文縄文が施文される。」
器形がキャリパー形ではなく、埼玉編年(1982)でいう第2群土器(折衷土器)の一種であると考えます。SB190 2番土器に似ています。(2021.04.11記事「有吉北貝塚出土加曽利EⅠ式土器観察 2」参照
参考 SB190 2番土器
4 SK223a 3番土器
SK223a 3番土器 8群土器
発掘調査報告書では次のように記載されています。
「3は波頂部に渦巻文の付く波状口縁の深鉢で、口縁部には沈線で2本に分けられた隆帯によるクランク文が巡る。クランク文の先端は渦巻文になっている。明確な頸部無文帯は2本の沈線で胴部文様帯と画され、胴部には蛇行沈線と3本一組の直沈線とを交互に垂下する。」
波状口縁の波頂部渦巻文のあり方はSK321 333番土器と似ています。
[文様の意味に関する思考メモ]
・口縁部…天空界
・頸部無文帯…地上界と天空界の間の空(そら)
・胴部…地上界
・波頂部の渦巻文…吹き上がる理想の湧水
・口縁部渦巻文…湧水
・口縁部クランク文…理想の生活領域(理想の縄張り、海と陸の双方の空間を含む縄張り)
・クランク文隆帯を2つに分ける沈線…複数の独立したクランク文が隣接して描画されていることを強調している。
・胴部垂下蛇行沈線…河川
・胴部垂下直沈線(3本一組)…生活領域の区画(隣接集団(集落)との間で取り決められた活動権利区域)(3本の真ん中線…真の区画線、両側の線…隣接集団(集落)が相手領域を犯さないように定めた自主的区画線)
・口縁部と胴部の縄文…区画(生活領域)に存在する自然(植生)をパノラマ遠望的に表象する。
5 感想
・土坑出土土器片は南北斜面貝層出土土器片より大型のものが多いようです。土坑では完形土器や大型土器片を意図的に埋置する行為が多いことと、後年の撹乱が少ないことによると考えます。
・有棘渦巻文というテクニカルタームを知ることが出来ました。魔除け的な効果のある文様だと思いますが、大木式土器学習の中でその起源や意味について学びたいと思います。
・SK223a 3番土器を例に文様の意味に関する思考をまとめました。文様の意味に関する思考(検討、想像)は考古学分野の活動ではなく、神話学(古代心理学)分野の活動であると区別した上で楽しむことにします。
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