2021年5月16日日曜日

有吉北貝塚の北斜面貝層から出土した加曽利EⅡ式土器(紙上観察) 4

 縄文土器学習 601

この記事では有吉北貝塚北斜面貝層出土加曽利EⅡ式土器のうち第11群土器の紙上観察を行います。

1 第11土器の例

1-1 第11群土器の特徴

11群土器は加曽利EⅡ式土器の最終段階にあたる土器で連弧文系土器が減少してキャリパー形土器が主体となります。第10群段階に見られた整った渦巻文が崩れだし、円文化の傾向が現れます。文様の施文方法も粗雑化し、器形的にもキャリパー形から直線的なものが多くなります。加曽利EⅢ式土器の特徴である磨消懸垂文の幅広化や口縁部文様帯との癒着傾向も現出しだします。また第10群段階では皆無に等しかった、波状口縁呈するものや突起、把手が付された例も存在します。(有吉北貝塚発掘調査報告書から要旨抜粋)

1-2 第11群土器の例


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渦巻が沈線で描出され隆帯の貼付が無い例


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沈線による渦巻形の文様は遺存するもののその巻き方緩大で、内部に縄文が施されてかなり円文に近い形態を呈してる例


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口縁部の渦巻文が完全に円文に置換された資料

この土器は加曽利博の過去の企画展で展示されました。


加曽利貝塚博物館で展示された294土器

(参考 294番土器が展示土器であることは土器割れ目や模様などから確実です。しかしその全体形状が発掘調査報告書では細長くなっています。おそらく発掘調査報告書作成作業における写真操作で手違いがあり、縦横比が狂い、それに従って挿図も描かれたと想像します。)


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キャリパー形土器の口縁部文様帯が省略された例

2 感想

・渦巻文に注目すると、第6群(中峠式)でもみられ、第7群(加曽利EⅠ式)、第8群(加曽利EⅠ式)で存在感のある文様に変貌し、第9群(加曽利EⅡ式)、第10群(加曽利EⅡ式)でトレードマークのように発達します。その渦巻文が第11群(加曽利EⅡ式)になると明白に退化します。

・この渦巻文消長は渦巻文にかかわる神話の消長と軌を一にしていると想像(空想)します。つまり渦巻文にかかわる神話の影響力が第11群時期に著しく衰えたことを意味すると想像します。渦巻文にかかわる神話の霊力が徐々に失われていったということです。

・その背景に今までと同じような生活をしていると、つまり今までのように渦巻文神話の霊力を信じて生活していると、じり貧になるという危機感が生まれていたのではないかと想像します。一言でいえば関東縄文社会が広義環境変化(人口急増などの内部要因変化も含む環境変化)に遭遇したことと渦巻文退化が対応しているのではないかと考えます。

・有吉北貝塚でいえば、第11群時期に集落台地を切り裂くようなガリー浸食に対して、それを意識的に埋める活動(第11群土器の北斜面貝層基底面に対する一括廃棄)が特筆すべき活動であると考えます。未曾有の大雨土砂災害危機とそれに対する集落をあげての対応があり、その対応をもって有吉北貝塚集落が事実上終焉したことの意味解明が重要な学習課題です。


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