2021年5月31日月曜日

有吉北貝塚 北斜面貝層 土器出土状況の予察観察

 縄文社会消長分析学習 95

有吉北貝塚北斜面貝層土器出土状況資料を整理して予察観察を行いました。

1 有吉北貝塚北斜面貝層土器出土状況の予察観察


有吉北貝塚北斜面貝層土器出土状況

有吉北貝塚発掘調査報告書掲載資料を引用編集

この土器出土状況図を予察的に検討して、その結果を次にまとめました。


有吉北貝塚北斜面貝層土器出土状況の予察的検討

1-1 土器分布は大局的に上流側と下流側に分かれる

上流側(南側)では土器分布は主にガリー谷底と考えられる場所に集中的に出土します。下流側(北側)の土器分布は斜面と谷津谷底に分かれて分布し、上流側と比較すると分布密度が低くなっています。上流側と下流側の間には土器分布が散漫になる場所があります。

1-2 土器型式構成が上流側と下流側で異なる

上流側では加曽利EⅡ式土器がメインです。一方下流側では中峠式土器が目立ちます。

1-3 貝層形成時期と形成原理が上流側と下流側で異なる可能性

貝層形成時期は下流側が古く、上流側が新しい可能性があります。また上流側では大型土器をその場で破壊して大形土器片が残るという出土状況であり、祭祀活動が想定できるので、土器片出土密度が低い下流側とは形成原理が異なる可能性があります。

1-4 上流側に新旧ガリー谷底の存在が想定できる

上流側に新旧ガリー谷底と考えられる縦断勾配緩と縦断勾配急の断面が観察できます。

1-5 流水で貝層外に土器片が流出している

下流側では貝層分布から離れて、外に向かって土器片分布が観察できます。これは流水によって貝層から土器片が運ばれた結果であると考えられます。

つぎの土器出土状況図(拡大図)からも有用な情報を汲み取ることができます。


土器出土状況(拡大図)による検討

1-6 土器破壊直後の状況で土器が出土する

かなりの土器が土器破壊直後の状況で出土しています。

1-7 大形破片が出土する

大型土器を破壊して大形破片を形成してそれが出土しています。これはこのガリー谷底に一人では運べない大型土器を運び込み、その場で破壊したという意識的活動が行われたことを示しています。さらにその活動が加曽利EⅡ式期の前後に継続して行われたことも判ります。

1-8 土器片には覆瓦状構造が観察される

土器片には覆瓦状構造(imbrication)が観察されますから流水の影響をうけたことは確実です。しかし、土器片のおおくが破壊直後の状況で出土するので、流水の影響はかなり小さかったといえます。これはガリー谷底が普段は流水がなく、大雨の時だけ流水があるという特性によるものと考えます。流水の影響が小さいことは、上流側の土器片が下流側まで届いていないことからも首肯できます。


覆瓦状構造

2 感想

発掘調査報告書資料を整理すると、驚くべきことに、接合を図示した出土全土器片平面分布図とそれの投影断面プロット図が掲載されていました。土器片には発掘調査報告書番号と群別情報が描かれています。驚嘆に値する精細な情報です。自分は眩暈をこらえてこの資料を眺めました。これほどの詳細情報をつくる手間・エネルギーは膨大なものであったと考えます。この貴重な資料から多くの有用情報を汲み出すことで、発掘調査報告書作成にかかわった人々に敬意を払いたいと思います。



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