2021年5月22日土曜日

有吉北貝塚竪穴住居から出土した加曽利EⅢ式土器(紙上観察)

 縄文土器学習 610

この記事では有吉北貝塚竪穴住居から出土した加曽利EⅢ式土器(第12群土器)の紙上観察を行います。

1 第12群土器の特徴

第12群加曽利EⅢ~EIV式

埼玉編年のⅩⅢ~ⅩⅣ期に対応する。遺構数は極端に滅少し、遺物も少量が出土しているにすぎない。

加曽利EIV式の資料がほとんどみられないため両者を一括して第12群とした。キヤリパー形土器では、2段構成が崩れ、口縁部と胴部の両文様帯の癒着傾向が現れる。また、胴部文様帯の磨消懸垂文が幅広になって縄文施文帯との懸垂文効果が不明瞭になり、沈線が縄文施文帯の上端で逆Uの宇状に連結する例等も存在する。連弧文土器は消滅し、波線文土器や横位連繫弧線文土器と呼ばれる類型が出現するが、その出土量は少ない。

(有吉北貝塚発掘調査報告書から引用)

2 第12群土器の例


sb225-1

波状口縁部に文様帯はなく、胴部上部に大きな渦巻文が描かれています。


sb236-1

小型の土器で縄文施文部が懸垂文のようになり、口唇部で逆U字を呈します。


sb236-2

小さな波状があります。胴部上部に大きな渦巻が描かれている意匠充填系土器です。


sb236-4

波状口縁で口縁部はなく、大きな渦巻が胴部に描かれています。

3 渦巻について

竪穴住居から出土した加曽利EⅢ式土器は渦巻が胴部に大きく描かれる意匠充填系土器が多くなっています。しかし、発掘調査報告書の実測図及び写真では土器表面の1/3くらいしか詳細に観察できません。そこで、参考に加曽利貝塚博物館R2企画展展示の類似土器について展開写真をつくり、渦巻を並べて観察してみました。

3-1 加曽利EⅢ式深鉢(No.23)(船橋市新山貝塚)


3Dモデル画像


GigaMesh Software Framework展開写真に文様トレース

括れ部を境に文様が判れ、上段は渦巻文横方向につながっています。下段は渦巻文かもしれません。

3-2 加曽利EⅢ式深鉢(No.49)(柏市小山台遺跡)


3Dモデル画像


GigaMesh Software Framework展開写真に文様トレース

縄文が地、磨消が文様をつくる図となっています。括れ部で文様のテーマが異なり、上段は2つの渦巻文が繋がる文様が楕円区画文を挟んで展開しています。下段は中抜き楕円区画文と楕円区画文が展開しています。

3-3 加曽利EⅢ式深鉢(No.52)(流山市桐ケ谷新田第Ⅱ遺跡)


3Dモデル画像


GigaMesh Software Framework展開写真に文様トレース

括れ部を境に、上段は渦巻文が横位に連携して配置され、下段は垂下文が描かれます。渦巻文は口縁部小突起に併せて配置されています。

3-4 加曽利EⅢ式深鉢(No.64)(我孫子市鹿島前遺跡)


3Dモデル画像


GigaMesh Software Framework展開写真に文様トレース

括れ部を境に文様が2段にわかれますが、いずれも渦巻文が配置されます。観察できる範囲では上下段の渦巻文ともに2つの渦巻が繋がって描かれています。

3-5 メモ

GigaMesh Software Framework展開写真に文様トレースした例を見ると、胴部に大きく描かれた渦巻が単独で孤立しているものはありません。2つがペアになっているか、横位に次々につながっているかどちらかです。

また、上下段に渦巻が描かれるものもありますが、下段が垂下文あるいは区画文になっているものがあります。

これらの観察から、sb225-1、sb236-2、sb236-4の渦はいずれも横位に2つペアか、連続してつながっていたと考えます。

sb236-4は胴部下部の文様が垂下文である可能性が濃厚です。

【意匠充填系土器の渦巻文に関する問題意識メモ】

・渦巻が二つペアになっているものはいわゆるS字状文と同じ意義があるのではないかと考えます。2つの渦巻が結ばれる線がどのようなカーブを描くかというデザインはいろいろあり得ますが、2つの渦巻が結ばれるという原理の意味解読の方が重要です。

これまでの自分の空想では、水のネットワーク(泉のネットワーク…理想郷の環境)がS字状文や渦巻文連携の意味だと考えています。しかし、2つの渦が結ばれるというデザインはもっと深い意味があるに違いありません。今後じっくり思考していくことにします。土器に描かれた渦が豊かで新鮮な水が土器内部に注がれるという暗喩があるとすれば、2つの渦のうちもう1つの渦は土器内部から美味しい鍋料理が生まれ出るという別の暗喩があるかもしれません。土器内部と外部は別次元の世界で、それを結ぶ装置が渦模様である。(?)




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