2025年2月28日金曜日

有吉北貝塚北斜面貝層の貝層発達タイムラプス動画

 A time-lapse video of the development of shell layers on the north slope of the Ariyoshi Kita shell mound


I created a time-lapse video of the development of shell layers on the 10th cross section of the north slope of the Ariyoshi Kita shell mound. When I created this video, I noticed that the shell layers on the slope were "moving down the slope" after the collapse layer was formed.


有吉北貝塚北斜面貝層10断面の貝層発達タイムラプス動画を作成しました。この動画を作成して、崩落層形成以後、斜面貝層が「斜面を下っている」ことに気が付きました。

1 有吉北貝塚北斜面貝層の貝層発達タイムラプス動画


有吉北貝塚北斜面貝層の貝層発達タイムラプス動画

2 貝層発達タイムラプス動画の素材


崩落層


崩落層→二次堆積崩落層


崩落層→二次堆積崩落層→斜面貝層1


崩落層→二次堆積崩落層→斜面貝層1→崩落層


崩落層→二次堆積崩落層→斜面貝層1→崩落層→斜面貝層2


崩落層→二次堆積崩落層→斜面貝層1→崩落層→斜面貝層2→斜面貝層3


崩落層→二次堆積崩落層→斜面貝層1→崩落層→斜面貝層2→斜面貝層3→二次堆積貝層


崩落層→二次堆積崩落層→斜面貝層1→崩落層→斜面貝層2→斜面貝層3→二次堆積貝層→斜面貝層4


崩落層→二次堆積崩落層→斜面貝層1→崩落層→斜面貝層2→斜面貝層3→二次堆積貝層→斜面貝層4→斜面貝層5


崩落層→二次堆積崩落層→斜面貝層1→崩落層→斜面貝層2→斜面貝層3→二次堆積貝層→斜面貝層4→斜面貝層5→斜面貝層6

3 メモ

この動画を作成して、崩落層形成以後、斜面貝層が「斜面を下っている」ことに気が付きました。貝殻や土器を投棄する場所は台地端に限定されていたと考えた作業仮説は廃棄します。時代が下るに従って、貝殻や土器投棄場所は斜面を下っています。ガリー水路(通常は水のない洪水時だけの水道)を埋めつくして斜面貝層発達は終わります。


2025年2月26日水曜日

資料 遺物台帳の「出土貝層」と貝層断面図「分層貝層」との関係

Material: Relationship between the "excavated shell layer" in the artifact ledger and the "separate shell layer" in the cross-section of the shell layer


The relationship between the "excavated shell layer" in the artifact ledger and the "separate shell layer" in the cross-section of the shell layer for the pottery in the shell layer on the north slope of the Ariyoshi Kita Shell Mound was clarified using a test grid. It was understood that the "separate shell layer" in each cross-section is independent and cannot be joined.


有吉北貝塚北斜面貝層の土器について、遺物台帳に記載されている「出土貝層」と貝層断面図の「分層貝層」との関係をテストグリッドで明らかにしました。断面毎の「分層貝層」は独立していて、接合できないことを理解しました。

1 遺物台帳の「出土貝層」と貝層断面図「分層貝層」との関係


遺物台帳の「出土貝層」と貝層断面図「分層貝層」との関係

テストグリッド(331グリッド)の遺物(土器・土製品)について、遺物台帳の「出土貝層」と貝層断面図「分層貝層」との関係を明らかにしました。

遺物台帳データの「出土貝層」記述は10断面分層体系に対応するものと11断面分層体系に対応するものに二分されます。

その二分されたデータは空間的にほぼ棲み分けし、10断面分層体系に対応するデータは10断面に近い空間に、11断面分層体系に対応するデータは11断面に近い空間に分布します。

また、10断面と11断面の分層体系は全く異なり、接合性や整合性はありません。

2 貝層断面図の分層貝層分布と対応土器の空間的分布との関係


10断面対応対応貝層出土土器の分布

10断面の分層貝層分布と対応土器を断面図にオルソ投影した空間的分布の関係をみると、その関連がよくありません。B-1層とC-2層では土器の分布が広がっていて、単一の分層貝層から出土した様子を汲み取ることができません。I層出土土器は断面図I層の場所から離れた場所に分布します。


11断面対応対応貝層出土土器の分布(と想定移動方向)

11断面における関係は10断面と異なり、土器分布と分層貝層分布がほぼ対応しています。

3 メモ その1

1と2の結果から、発掘作業は断面図に近い場所毎に独立した単位作業として行われ、そこで使われる分層体系は独立していることがわかりました。

それぞれの単位作業では、分層貝層を忠実に反映したデータを作成する場合もあれば、データを一括して特定の分層貝層に当てはめてしまう場合があることもわかりました。データを一括して特定の分層貝層にあてはめてしまうという簡易的な処理は、遺物台帳記載の仕方を見ると感じることができます。

そもそも、「分層された貝層」そのものが全て、縦断的・横断的に混土率・破砕率・貝種・層の色が漸移的に変化します。ある断面で「分層された貝層」を別の断面に接合しようとする行為自体が原理的にできないことであると考えます。

10断面の分層貝層と11断面の分層貝層を対比・接合させることはできないと考えます。

また、遺物台帳の「出土貝層」記述は正確な場合もあれば、信頼できない場合もあるということが資料を扱う上での感想になります。

4 メモ その2

発掘資料における(必要以上に詳細な)分層を離れて、例えば貝層断面写真から新たに自分で全体を鳥瞰すれば、別次元の貝層対比・対応・空間的連続性を見つけられる可能性は否定できません。斜面貝層に視点を物理的に近づけしすぎると、見えるものも見えなくなる可能性があります。


千葉市埋蔵文化財調査センター特別展「貝と人」観覧

 Viewing the Chiba City Buried Cultural Property Research Center Special Exhibition "Shells and People"


I visited the Chiba City Buried Cultural Property Research Center Special Exhibition "Shells and People" (held until 2025.03.16) in 2024. As someone who was concentrating on learning about the Ariyoshi Kita Shell Mound, the displays and explanations were so intriguing that I lost track of time. It was a very valuable exhibition.


令和6年度千葉市埋蔵文化財調査センター特別展「貝と人」(2025.03.16まで開催)を観覧しました。有吉北貝塚学習に集中している自分にとって、興味を強く刺激する展示と説明のオンパレードであり、時間経過を忘れてしまいました。とても価値の大きな展示です。

1 会場風景、パンフレット


会場風景

展示物がとても多数になるにも関わらず、とても観覧しやすい会場です。


パンフレット

30ページのカラーパンフレットがとても充実しています。

2 観覧と撮影

自分の学習資料とするために展示物と説明パネル全部の撮影を行いました。

有吉北貝塚から出土した展示物や有吉北貝塚に関わる説明も多くみられ、興味を強く刺激されました。


有吉北貝塚北斜面貝層の写真(剥ぎ取り断面製作作業写真のようです。)

3 3Dモデル作成用撮影

アワビ、貝ヘラ、アワビ形土器、腰飾、彩色貝製品の5点について3Dモデル作成用撮影を行いました。今後3Dモデルを作成してブログ記事を書くことにします。


アワビ


貝ヘラ


アワビ形土器


腰飾


彩色貝製品

4 園生貝塚貝層断面


園生貝塚貝層断面

常設展示されている園生貝塚貝層断面を詳しく観察しました。以前3Dモデルを作成して検討記事を既に書いていますが、貝層の移動(流動)という視点から詳しく観察しました。

5 メモ

5-1 アワビ

アワビの干渉色の魅力に惚れ込みます。

以前にも別会場で展示された際に3Dモデルにしました。今回も3Dモデルにしますが、3Dモデルでは見る角度によって干渉色が変化(へんげ)する様子を表現することは難しようです。(もしかしたら3Dモデルで変化(へんげ)する干渉色を表現する技法があるかもしれませんが、今の自分にはその技術はありません。)

そこで、3Dモデル作成用に撮影した写真(一筆書きのような軌跡で撮影ポイントを移動する写真)をパラパラ動画にしてみることにします。パラパラ動画で視点移動で干渉色変化(へんげ)を再現できるか楽しみです。なお、自分のカメラ設定はいつも1シャッターでナチュラル、ポップアート1、ポップアート2、モノクローム、ドラマチックトーン、リーニュクレールの各フィルター写真計6枚を生成するブラケット撮影にしています。アワビについてこの5種のパラパラ動画を試作して、その比較を楽しんでみることにします。

5-2 貝ヘラ

貝ヘラの用途について、「土器製作時の器面調整などに用いられたものといわれている。」と説明されていて、別のところで読んだ「皮なめしの道具」という推察と別の用途になっていました。貝ヘラの用途については、さらに全く別の用途であった可能性もあり、興味が深まります。

5-3 彩色貝製品

I字文を赤彩白抜きで表現しています。白抜きという技法(技術)にとても強く興味を持ちます。


2025年2月25日火曜日

斜面貝層における土器下方移動方向イメージの間違い訂正

 Correction of an error in the image of the downward movement direction of pottery in a sloping shell layer


The image of the downward movement direction of pottery in a sloping shell layer published in the article on 2025.02.23 was incorrect, so I would like to correct it. It is assumed that pottery dumped in a sloping shell layer moves along the shell layer slope with the shells. A sloping shell layer is a large-scale lamina.


2025.02.23記事で掲載した、斜面貝層における土器の下方移動方向イメージが間違っていましたので、訂正します。斜面貝層に投棄された土器は貝殻とともに分層貝層傾斜に沿って移動すると想定します。分層貝層とは規模の大きなラミナです。

1 間違い


2025.02.23記事に掲載した間違い図

2025.02.23記事「テストグリッドの土器3D分布モデル作成 その3斜面貝層」に、地形に沿って土器が移動しているイメージ図を掲載しましたが、これは間違い(勘違い)でした。土器は分層貝層傾斜に沿って移動すると考えます。斜面上部で投棄された貝殻が下方移動して分級して、下方ほど純貝層に近くなるのと同じ営力で、土器も貝殻と一緒に分層貝層傾斜に沿って下方移動して、下方ほど密度が高くなると想定します。

2 貝層傾斜に沿って土器が移動するイメージ


11断面対応貝層出土土器の分布と想定移動方向

土器は貝殻とともに分層貝層傾斜に沿って下方に移動すると想定します。斜面貝層全体の傾斜(地形の傾斜)と分層貝層の傾斜は異なります。分層貝層は規模の大きなラミナの一種であると考えることができます。


剥ぎ取り断面の土器分布と土器の想定移動方向

11断面と12断面の中間の断面

千葉県立中央博物館展示

剥ぎ取り断面は保存された「現場露頭」といえる貴重な資料です。剥ぎ取り断面観察では、混土率の低い分層貝層に土器が分布し、分層貝層に沿って下方移動して、下方ほど土器密度が高い様子を想定できます。



2025年2月23日日曜日

テストグリッドの土器3D分布モデル作成 その3斜面貝層

 Creation of a 3D distribution model of pottery in a test grid, Part 3: Sloping shell layer


A 3D distribution model of pottery and earthenware related to the 331 grid slope shell layer of the Ariyoshi Kita Shell Mound north slope shell layer was created.

The pottery excavations are concentrated exactly halfway down the slope shell layer. A major feature is that the boundary line intersects with the shell layer division line. Why this is the case is an important issue to consider.


有吉北貝塚北斜面貝層の331グリッドの斜面貝層に関わる土器・土製品の3D分布モデルを作成しました。

斜面貝層のちょうど半分下に土器出土が密集しています。そして、その境界線が貝層区分線と交差していることが大きな特徴となています。なぜそうなのか重要な検討課題となります。

1 有吉北貝塚北斜面貝層331グリッドの斜面貝層における土器3D分布モデル

有吉北貝塚北斜面貝層331グリッドの斜面貝層における土器3D分布モデル

斜面貝層から出土した土器・土製品を赤CUBE(5cm×5cm×5cm)で表示

グリッド枠は2m×2m×6m


3Dモデルの動画


3Dモデルの画像

2 観察


観察メモ画像

貝層断面図(XZ象限)に土器をオルソ投影した画像をみると次の4つの分布特性に気が付きます。

1 斜面貝層のほぼ上半分と下半分で土器密度が全く異なり、下半分で土器が密集して出土しています。

2 土器密集域を分ける境界線(図では点線)と貝層区分線(貝層分層線)が交差していて、平行になっていません。

3 土器の密集性に着目すると明らかにクラスタリングできる分布をしています。土器はお互いに等間隔で配置分布しているのではなく、クラスター(凝集)になって分布しています。図では投影していますから、立体空間における実際のクラスターと異なりますが、3D空間で見ると土器分布はクラスターとして分布していることを確認できます。

4 土器クラスターの見かけの分布は斜面方向に連なって分布しているように見えます。

3 メモ

土器密集域を分ける境界線(図では点線)と貝層区分線(貝層分層線)が交差している事実は貝層と土器との関係について、自分が気が付いていない重要な事柄を物語っていると直観しますので、今後検討を深めます。

3D空間のなかで土器破片がクラスターで分布していることが、土器投棄の実際の様子と対応している可能性があるので、その点も検討を深めます。土器破片を投棄するとき、手で持てる程度の量(破片数でいえば数十?)を一度に投棄し、その土器が貝層と一緒に下方流動して、その一度の投棄量に関連する土器クラスターが生まれるという仮説です。

投影断面におけるクラスターではなく、3D空間における立体的土器クラスターを抽出表現する方法を開発しなければなりません。

4 参考


遺物台帳データベースの情報


貝層大区分

テストグリッドの土器3D分布モデル作成 その2二次堆積崩落層A

 Creation of a 3D distribution model of pottery in a test grid, Part 2: Secondary deposit collapse layer A


A 3D distribution model of pottery and earthenware products related to secondary deposit collapse layer A in 331 grids of the shell layer on the north slope of the Ariyoshi Kita shell mound was created. Pottery excavations are almost exclusively limited to the surface of secondary deposit collapse layer A. It is assumed that for most of the period during which secondary deposit collapse layer A was formed, there was little use of this site by the Jomon people.


有吉北貝塚北斜面貝層の331グリッドの二次堆積崩落層Aに関わる土器・土製品の3D分布モデルを作成しました。土器出土は、ほぼ二次堆積崩落層Aの表層近くだけに限定されます。二次堆積崩落層Aの形成期間中のほとんどの時期に、この場所の縄文人利用はほとんどなかったと推察します。

1 有吉北貝塚北斜面貝層331グリッドの二次堆積崩落層Aにおける土器3D分布モデル

有吉北貝塚北斜面貝層331グリッドの二次堆積崩落層Aにおける土器3D分布モデル

二次堆積崩落層Aから出土した土器・土製品を赤CUBE(5cm×5cm×5cm)で表示

グリッド枠は2m×2m×6m


3Dモデルの動画


3Dモデルの画像

2 観察

土器出土はほぼ二次堆積崩落層Aの表層近くに限定されます。このことから、二次堆積崩落層A形成期間中のほとんどの時期には、その場所では縄文人の利用(土器や貝殻投棄)がなかったが判明します。たまたまその場所だけ縄文人の利用がなかったと考えることもできますが、むしろその時期にその付近一体で利用がなかったと考える方が合理的であるように感じます。別の断面での情報を含めて検討を深める価値のある事柄です。

このような状況を踏まえた記述だと推察しますが、セクション図の注記ではK層(二次堆積崩落層Aの主要構成層)について「比較的短期間の堆積」との記述があります。(短期間と考えた根拠記述はありません。)


遺物台帳データベース情報の「土器・土製品」・「二次堆積崩落層A出土」検索画面(一部)


参考 331グリッド 貝層大区分の3D分布

2025年2月22日土曜日

テストグリッドの土器3D分布モデル作成 その1崩落層

 Creation of a 3D distribution model of pottery in a test grid, Part 1: Collapsed layer


A 3D distribution model of pottery and earthenware products related to the collapsed layer of 331 grids of the shell layer on the northern slope of the Ariyoshi Kita Shell Mound was created. Many pottery fragments excavated from the base layer of the gully erosion topography can be observed. The formation of the erosion topography is synchronized with the dumping of pottery and shells.


有吉北貝塚北斜面貝層の331グリッドの崩落層に関わる土器・土製品の3D分布モデルを作成しました。ガリー侵食地形基底層から出土する土器片が多数観察できます。侵食地形形成と土器投棄・貝殻投棄が同期しています。

1 有吉北貝塚北斜面貝層331グリッドの崩落層における土器3D分布モデル

有吉北貝塚北斜面貝層331グリッドの崩落層における土器3D分布モデル

崩落層から出土した土器・土製品を赤CUBE(5cm×5cm×5cm)で表示

グリッド枠は2m×2m×6m


3Dモデルの動画


3Dモデルの画像

2 観察

崩落層の基底層に土器出土が集中しています。

基底層とは北斜面貝層が収まるガリー侵食地形がアクティブだったその時に生成された地層です。つまり、ガリー侵食が盛んだった頃、台地端から縄文人によって土器が投棄されていたことがわかります。この地層からは貝殻が微量出土していることが記載されていますから、土器と同時に貝殻も投棄されていたことが確認できます。ガリー侵食地形形成と土器投棄・貝殻投棄が同期していると断定できます。

ガリー侵食地形形成(あるいは衰退)と土器投棄・貝殻投棄に因果関係があるのか、それとも単なる同時代の無関係の出来事なのか、興味ある検討課題になります。

崩落層から出土した土器型式を推察できる情報は現状ではありません。


遺物台帳データベース情報の「土器・土製品」・「崩落層出土」検索画面(一部)


参考 331グリッド 貝層大区分の3D分布


2025年2月21日金曜日

有吉北貝塚北斜面貝層の3D空間見える化作業で直面する課題(2025.02.21作業日誌)

 Challenges faced in the 3D visualization of the shell layer on the north slope of the Ariyoshi Kita Shell Mound (Work Journal, 2025.02.21)


I am working on visualizing the relics and shell layers of the shell layer on the north slope of the Ariyoshi Kita Shell Mound in 3D space. I have listed five challenges that I am currently facing in this work. The challenge with the highest priority for consideration is to understand the actual situation of how the shell layer divisions in the shell layer cross section and the excavated shell layer divisions recorded for each relic in the relic ledger correspond in 3D space.


有吉北貝塚北斜面貝層の遺物と貝層を3D空間で見える化する作業を行っています。その作業で現在直面する課題を5つ列挙しました。検討優先度の最も高い課題は、貝層断面図の貝層区分と遺物台帳で遺物毎に記載されている出土貝層区分が3D空間の中でどのように対応しているのか、その実体を把握することです。

1 有吉北貝塚北斜面貝層の3D空間見える化作業で直面する課題

テストグリッド(331グリッド)で次の課題に取組むことにします。

1)貝層断面図の貝層区分と遺物台帳記載遺物出土貝層区分の3D空間における対応

2)貝層区分を発掘作業単位を越えた空間的広がりとして設定できるか否かの検討

3)3D空間における貝層と遺物の配置・分布から貝層生成・遺物投棄に関する考古学的知見を収集する

4)より効率的な遺物分布図のデータベース化方法の検討

5)より効率的な貝層区分3Dオブジェクト作成方法の検討

2 貝層断面図の貝層区分と遺物台帳記載遺物出土貝層区分の3D空間における対応

10断面の11断面の貝層区分(表記-定義)は別体系です。遺物台帳記載の出土貝層区分も10断面貝層区分体系と11断面貝層区分体系に分かれているようです。この様子の実体を3D空間で把握します。

3 貝層区分を発掘作業単位を越えた空間的広がりとして設定できるか否かの検討

2の検討結果を踏まえ、10断面と11断面の貝層区分を接合できるか否か検討します。

4 3D空間における貝層と遺物の配置・分布から貝層生成・遺物投棄に関する考古学的知見を収集する

この検討が取組んでいる作業の真の目的です。3D空間における分布凝集性分析手法などを開発しながら、貝層生成・遺物投棄に関する新知見を得るべく作業を進めます。

5 より効率的な遺物分布図のデータベース化方法の検討

現状のPythonscriptによる自作座標計測ツール作業方法を記録し、さらに効率的方法の開発を目指します。

6 より効率的な貝層区分3Dオブジェクト作成方法の検討

現像のBlenderにおけるBsurfaces機能利用による貝層区分3Dオブジェクト作成方法を記録し、さらに効率的に3Dオブジェクトを作成する方法の習得を目指します。

7 参考 作業で利用している3D空間ソフト・サイト


Blender

3Dモデル作成の基本ソフトとして利用しています。


3DF Zephyr Lite

3Dモデルの動画作成とSketchfab投稿に利用しています。


3Dビュワー

3Dモデル(Wabefront(.obj)ファイル)のチェック用として利用しています。


Sketchfab

3Dモデルの公開サイトとして利用しています。


テストグリッドの遺物3D分布モデル作成

 Creating a 3D distribution model of artifacts in a test grid


I have come up with the creation of a 3D distribution model of artifacts in a test grid of shell layers on the northern slope of the Ariyoshi Kita Shell Mound. For the first time, the relationship between artifact distribution and shell layer distribution in 3D space has been visualized. You can observe the artifact distribution characteristics right before your eyes, which can never be understood by artifact ledger data alone.


有吉北貝塚北斜面貝層のテストグリッドの遺物3D分布モデル作成にたどり着きました。3D空間における遺物分布と貝層分布の関係がはじめて可視化されました。遺物台帳データだけでは決してわからない遺物分布特性が目の前で観察できます。

1 有吉北貝塚北斜面貝層331グリッドの土器等遺物3D分布モデル

有吉北貝塚北斜面貝層331グリッドの土器等遺物3D分布モデル

出土遺物のうち、土器・土製品、石器・石、骨角歯牙製品、貝製品を赤CUBE(5cm×5cm×5cm)で表示

グリッド枠は2m×2m×6m


3Dモデルの動画


3Dモデルの画像

2 全遺物3Dモデルと土器等遺物3Dモデルの比較


全遺物3Dモデルと土器等遺物3Dモデル


XZ象限オルソ投影


YZ象限オルソ投影


XY象限オルソ投影

XZ象限、YZ象限、XY象限はBlenderにおける象限です。

詳しい観察検討は追って行います。

・斜面貝層における土器等及び全遺物の分布は斜面に沿った分布をしていて、貝層とともに流下移動した様子を反映しています。

・斜面貝層上部は混土率の低い貝層(純貝層に近い貝層)ですが、その場所に土器等遺物出土が少ないことが大きな特徴となっています。

・二次堆積崩落層A(K層)から出土した土器等はほとんどその表層近くから出土しています。この層が形成されている途中に人為の影響が少なかったことがわかります。

・崩落層の基底層から多数の土器等が出土していて、注目に値します。北斜面貝層が収まるガリー侵食谷がアクティブだった時代に土器が投棄された証拠です。


2025年2月18日火曜日

テストグリッドの遺物統計

 Test grid artifact statistics


I created and examined artifact statistics for a test grid (2m x 2m, elevation difference approx. 3.5m) set in the shell layer on the north slope of the Ariyoshi Kita Shell Mound. 1,456 artifacts have been excavated. I was surprised to find that the artifact density, excluding food remains such as bones, in the slope shell layer is only about twice as high as that in the collapsed layer.


有吉北貝塚北斜面貝層に設定したテストグリッド(2m×2m、標高差約3.5m)の遺物統計を作成・検討しました。1456遺物が出土しています。遺物から骨など食料残滓を除いた遺物密度でみると、斜面貝層は崩落層の2倍程度の遺物密度にすぎないことは、自分にとって意外でした。

1 331グリッドの貝層大区分の3D分布


331グリッドの貝層大区分の3D分布

遺物台帳データベースから331グリッド出土遺物データを抽出して、貝層大区分を基礎単位として検討します。

遺物台帳データベースのデータをみると、10断面分層区分を採用しているものと、11断面分層区分を採用しているものが混在しています。10断面と11断面の分層区分の詳細を対応させることは不可能(※)です。そのため遺物統計は貝層大区分を基礎単位として行います。

※ 10断面の斜面貝層分層区分の記述がセクション図に記載されていないので、10断面と11断面の分層区分対応ができません。仮に記載があったとしても斜面貝層の変化は激しいので、意義を確認できる対応関係を見つけることは困難です。

2 331グリッドの遺物統計

2-1 貝層大区分別遺物数・体積・密度


表 貝層大区分別遺物数・体積・密度


グラフ 貝層大区分別遺物数

出土遺物数は斜面貝層が1351、二次堆積崩落層Aが57、崩落層が48で、斜面貝層が圧倒的多くなっています。


グラフ 貝層大区分別体積

斜面貝層が6.25㎥、二次堆積崩落層Aが3.55㎥、崩落層が2.26㎥です。

体積はIllustrator画面で貝層大区分別面積を10断面と11断面で求め、その平均値に2を乗じたものです。

Illustratorでの面積測定は次のJavaScript(1行)で行いました。

alert(app.selection[0].area)


グラフ 貝層大区分別遺物密度

1㎥当り遺物数をみると、斜面貝層216.2、二次堆積崩落層A16.1、崩落層21.2となり、斜面貝層は崩落層の約10倍の密度になります。

2-2 貝層大区分別に見た遺物内訳


斜面貝層から出土した遺物

骨・歯の出土が1111でとびぬけて多くなっています。


二次堆積崩落層Aから出土した遺物

土器・土製品の出土が34で一番多く、斜面貝層のように骨・歯が特段に多いという様子はありません。

(「貝」1点出土がありますが、ここでの「貝」は特別に大型のハマグリ(非貝製品)が出土した場合などに遺物として扱われたものです。)


崩落層から出土した遺物

土器・土製品の出土が40で一番多く、斜面貝層のように骨・歯が特段に多いという様子はありません。

2-3 貝・歯等を除いた遺物による遺物密度

骨・歯、貝、魚骨・鱗は動物性食料残滓であると捉え、それを除いた遺物数を対象に遺物密度をみてみました。


骨・歯等を除いた遺物密度

斜面貝層が37.3、二次堆積崩落層Aが10.4、崩落層が18.6となり、斜面貝層は崩落層の約2倍程度です。食料残滓を除くと斜面貝層の密度は崩落層の約2倍程度に過ぎなくなります。

3 考察

崩落層と二次堆積崩落層Aには貝殻が微量ふくまれています。崩落層には混貝土層として記録された分層もあります。しかし、斜面貝層と較べると崩落層と二次堆積崩落層Aからの貝殻出土は圧倒的に少ないです。この状況と上記遺物出土状況を対比すると次の事象が判明します。

1 貝層発達(貝殻の大量投棄)と骨・歯出土量は比例する。

貝層が発達する斜面貝層には骨・歯等出土が多く、貝層が少ない、あるいはほとんどない崩落層と二次堆積崩落層Aには骨・歯燈出土は少なくなっています。このことから、貝層発達(貝殻の大量投棄)と骨・歯出土量は比例すると捉えることができます。食料残滓として貝層に投棄したのは貝殻だけではなく、動物骨も多量に投棄したことがわかります。

2 貝層発達(貝殻の大量投棄)と土器等遺物量の比例関係は意外に弱い

歯・歯等を除いた場合でも、斜面貝層の方が崩落層や二次堆積崩落層Aより土器等遺物の出土量は多く、遺物密度も高くなっています。しかし、貝層発達状況(貝殻投棄量)を考慮すると、貝層発達(貝殻の大量投棄)と土器等遺物量の比例関係は意外に弱いということができます。もし「投棄貝殻量当たり出土土器等遺物量」という指標があれば、その値は崩落層や二次堆積崩落層Aの方が斜面貝層より圧倒的に大きくなります。つまり、結論して、貝殻投棄(食料残滓投棄)と土器等遺物投棄とはあまり密接に関係していないということです。

思考は飛躍しますが、この様子から、貝層発達(貝殻や骨・歯等の食料残滓投棄)を促進する活動と土器等遺物投棄活動は、舞台(場所)は同じですが、別種活動であったと推測します。貝殻や骨を投棄する活動のその時に土器等遺物を投棄する活動も一緒におこなわれていなかったと想像します。