2024年8月31日土曜日

空間と方位の象徴的区分

 谷口康浩著「土偶と石棒 儀礼と社会ドメスティケーション」学習 17


Symbolic division of space and direction


Study 17 “DOGU & SEKIBOU: Rituals and the Domestication of Society in Prehistoric Jomon” by Yasuhiro Taniguchi


I learned about the segmented structure of the middle Jomon circular settlement described in “DOGU & SEKIBOU” by Yasuhiro Taniguchi. It has been pointed out that the spatial segmented structure is a visualization of the intra-social segmented structure based on blood-related descent groups. I am interested in whether there is a way to interpret intra-social segmentation from spatial segmentation.


谷口康浩著「土偶と石棒」で記述されている中期環状集落の分節構造について学習しました。空間分節構造は、血縁による出自集団による社会内部の分節構造の可視化と指摘されています。空間分節から社会内部分節を読み解く方法はあるのか、興味が深まります。

第1章 縄文時代の儀礼と社会

2 環状集落にみる空間シンボリズム

(2)空間と方位の象徴的区分

【抜粋】

「環状集落には住居群や墓群を空間的に区分する構造がある。これを「分節構造」と称する。中期の環状集落に顕著な特徴となっている。もっとも特徴的なのは集落全体を直径的に二分する二大群の構造であり、その内部をさらに区分する入れ子のような構造もみられる(図3)。環状集落は、複数の分節単位を一つの環に続―する環節的な構造をもつ(谷口2002)。このような分節構造は前期の環状集落にすでにみられるが、中期に特に著しい発達が認められる。」(谷口康浩著「土偶と石棒」から抜粋引用)


図3 (谷口康浩著「土偶と石棒」から引用)

・青森県三内丸山遺跡には二列に対向する列状基や住居群が特徴的にみられる。

・分節構造に共通する集落の直径的区分は、世界各地に類例が存在する。(北米インディアンの事例詳述→引用略)

「縄文時代の環状集落にみられる分節構造も、これらの民族例と同様に集団内部の区分を象徴的に表示している可能性が高い。」(谷口康浩著「土偶と石棒」から抜粋引用)

「環状集落の分節構造は、集落遺跡数の著しい増大が起こった中期の東日本地域で顕在化した。中期環状集落の墓群にみられる厳格な区分やその踏襲性の強さからみると、血縁に基づいて組織された出自集団の区分を表示している可能性が高く、出自によつて社会内部が分節化していた状況が読み取れる。環状集落にみられる方位・空間のシンボリズムは、出自原理によつて分節化した社会構造を可視化するものであつたと考えられる。」(谷口康浩著「土偶と石棒」から抜粋引用)

【考察】

・記述を要約すると「中期環状集落の空間分節構造は、血縁による出自集団による社会内部の分節構造の可視化である(と考えられる)。」ということのなり、とても明解であり、興味が深まります。

・日本の事例は空間分節が地図で示されるだけであり、社会内部の分節構造には触れられていません。空間分節と社会内部分節の対応関係は海外事例のみです。従って、空間分節と社会内部分節構造との関係はいまだ仮説状況であり、実証的に調査されたものは希薄であるようです。

・環状集落が分節的に見えることは一般的ですから、視角的に認識できる空間分節構造から社会内部分節構造が分かれれば縄文社会認識が飛躍的に進むに違いありません。空間分節構造から社会内部分節構造を知る方法はどのようなものなのでしようか、ぜひとも知りたくなります。

【空間分節構造と社会内部分節構造との関係例 大膳野南貝塚前期集落】

以前、大膳野南貝塚を学習した時に、空間分節構造と社会内部分節構造との関係例と思しき状況に遭遇していますので、メモしておきます。


大膳野南貝塚前期後葉竪穴住居址 主体土器形式分布

2017.04.09記事「大膳野南貝塚 前期後葉集落 石器出土数分布

異なる土器型式を使う2つの集団が同じ集落で空間的に棲み分けています。

【有吉北貝塚における簡単な予察作業】


有吉北貝塚の中期遺構分布(赤:竪穴住居、黒:土坑、青:貝層)


有吉北貝塚の中期遺構分布3Dモデル画像


有吉北貝塚の構造検討

2021.01.11記事「有吉北貝塚 中期集落の空間構造

有吉北貝塚は典型的な環状集落ですが、地形的制約で二分されているように観察できます。この二分分節に対応して、出土物に関する何らかの相違があるのものかどうか、簡単な予察作業を行いました。遺物に関して出土遺構(竪穴住居、土坑)の場所を確かめました。また、石器類は分布がありますので、その分布図を観察しました。

[簡単な予察作業の結果]

予察作業の結果は、遺物出土状況に空間二分節に対応するような相違は見つかりませんでした。ダメモトとは知りながら、なにかの情報が見つかるかもしれないという希薄な希望を前提とすれば、指標が空間二分節に対応しない様子はとても「頑固」「頑強」でした。

[感想]

地形制約で生まれた空間二分節に対応して、明瞭な生業の違いとか、明瞭な儀礼の違いとかは存在していないようだという感覚を持ちました。もっと微妙な作業が必要で、集団の違いをあぶり出すには別の指標が必要なようです。

「中期環状集落の空間分節構造は、血縁による出自集団による社会内部の分節構造の可視化である(と考えられる)。」という指摘は、いわば根本原理を指摘しているのです。一応は「と考えられる」としていますが、それは謙遜にすぎません。必ずや有吉北貝塚環状集落にも分節構造があり、それが社会内部分節構造を可視化したものであり、その社会内部分節構造は明らかになるのを「今か、今か」と待っていると考えます。

有吉北貝塚中期集落の空間分節とそれが対応する社会内部分節を明らかにする活動を展開したいと思います。なお、空間分節・社会内部分節は斜面貝層の使い方と密接に関連しているかもしれないと想定します。台地集落の空間分節と4つある斜面貝層が何らかの対応関係にあるのか。また北斜面貝層には2箇所の毛色の違う遺物密集域がありますが、それと台地集落空間分節とがなにか対応するのか、問題意識が深まります。


有吉北貝塚北斜面貝層土製・貝製・骨角歯牙製装飾品分布の比較

2024.08.16記事「有吉北貝塚北斜面貝層の骨角歯牙製装飾品分布と装飾品分布比較


2024年8月30日金曜日

有吉北貝塚北斜面貝層 骨分布とイノシシ顎骨分布

 Bone distribution and wild boar jawbone distribution at the northern slope shell layer of the Ariyoshi Kita shell mound


A distribution map of bones excavated from the northern slope shell layer of the Ariyoshi Kita shell mound was created. The data was compiled from the artifact register. There are three peaks of bones, two of which correspond to the peaks of wild boar jawbone distribution and seem to indicate the location of ritual activities. The remaining one does not correspond to the distribution of wild boar jawbone, so it seems to be a disposal site unrelated to ritual activities.


有吉北貝塚北斜面貝層から出土した骨分布図を作成しました。データは遺物台帳を集計したものです。骨のピークは3箇所あり、2箇所はイノシシ顎骨分布ピークと対応し、儀礼活動の場を示しているようです。残る1箇所はイノシシ顎骨分布と対応しないことから、儀礼活動と無関係の廃棄場所のようです。

1 有吉北貝塚北斜面貝層 骨分布

有吉北貝塚北斜面貝層 骨分布

データ:遺物台帳集計によるグリッド別骨出土件数(総計37089件)

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3Dモデルの画像


3Dモデルの動画

2 有吉北貝塚北斜面貝層の骨の動物別内訳


有吉北貝塚北斜面貝層 同定資料数と最小個体数


同定資料数100以上

遺物台帳集計による骨出土件数の動物別内訳イメージは種別同定資料数で把握することができると考えます。

なお、この表でイヌは埋葬されたものと考えられます。埋葬遺構として発掘したものも含まれます。

ネズミ類とモグラ類は貝層に生息していた自然生のものがメインであると考えられます。

イヌ、ネズミ類、モグラ類以外の種は食料をメインとする用途で集落に搬入され、最終的に北斜面貝層に投棄されたものと考えます。

3 骨分布とイノシシ顎骨分布の比較

イノシシ顎骨分布はイノシシ頭部を祭壇に飾るなどの活動を含む儀礼の場、イノシシ肉を含む御馳走を食べた場所の指標になるのではないかと作業仮説しています。死者をあの世に送る儀礼活動とイノシシ顎骨分布は関連していると作業仮説しています。この作業仮説による興味に基づいて、イノシシ顎骨分布と骨分布(全ての骨分布=動物を食べた残滓(骨)の全分布)との関連を見てみました。


骨分布とイノシシ顎骨分布


骨分布ピークとイノシシ顎骨分布ピークの関連図

骨が多数出土するピークは3箇所あります。このうち2箇所はイノシシ顎骨分布ピークとほぼ対応しています。ピークの位置が近似しています。この2箇所は儀礼活動の場を示していると仮説します。残る1箇所はイノシシ顎骨分布と全く対応していません。この場所は台地集落からみて、ガリー谷に突き出した半島状地形の影にあたる場所であることから、儀礼活動とは無関係であり、台地集落で生まれた食料残滓を投棄して廃棄した場所と考えることができそうです。


2024年8月29日木曜日

有吉北貝塚北斜面貝層 シカ顎骨分布

 Distribution of deer jawbones in the shell layer on the north slope of the Ariyoshi Kita shell mound


A distribution map of deer jawbones excavated from the shell layer on the north slope of the Ariyoshi Kita shell mound has been created. Compared to wild boar jawbones, the number of deer jawbones excavated is extremely small. Most are excavated near the head of the gully. The reason for the small number of deer jawbones is that meat is brought in but jawbones are not.


有吉北貝塚北斜面貝層から出土したシカ顎骨の分布図を作成しました。イノシシ顎骨と比べてシカ顎骨出土は極少数になっています。ガリー谷頭付近に出土が多くなっています。シカ顎骨出土が少ない理由は、肉は搬入されるけれども顎骨は搬入されないからのようです。

1 有吉北貝塚北斜面貝層 シカ顎骨分布

有吉北貝塚北斜面貝層 シカ顎骨分布

データ出典:発掘調査報告書

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3Dモデルの画像

2 シカ顎骨分布とイノシシ顎骨分布


シカ顎骨分布とイノシシ顎骨分布

シカとイノシシの顎骨は儀礼的に利用された可能性があるので注目していますが、シカ顎骨は極少数(5件)にとどまります。

3 シカ骨数とイノシシ骨数


北斜面貝層出土シカ骨数とイノシシ骨数(発掘調査報告書から作成)

シカの数量を1としたときのイノシシの数量をもとめると、同定資料数は3.1、顎骨資料数は19.8となり、食べられていたシカ肉の量とくらべて、顎骨の量は極少数になっています。この理由はイノシシは有吉北貝塚集落で自前で狩猟していたけれども、シカは群れをつくり広域移動する動物であるため広域集落共同で狩猟し、遠い現場で解体され、頭部等を除いた食肉部分だけ集落に搬入されたからだと考えられています。(西野雅人著「千葉県内の発掘成果からみた縄文時代のシカ資源利用」2023、日本鹿研究第14号など)


シカ骨 発掘調査報告書から引用


2024年8月28日水曜日

伝加曽利貝塚出土動物形土製品に関する感想

 Thoughts on animal-shaped clay products rumored to have been excavated from the Kasori shell mound


I have written down my thoughts on the animal-shaped clay products rumored to have been excavated from the Kasori shell mound. I think of the products as clay whistles. I imagine the animals as fantasy creatures that carry the souls of the dead to the afterlife. I think of them as tools used to play music in funeral rites.


伝加曽利貝塚出土動物形土製品に関する感想をメモしました。製品としては土笛と考えます。動物は死人の魂をあの世に運ぶ空想動物と想像します。葬送儀礼で音楽を奏でる道具と考えます。

1 トリ形動物土製品の例


伝加曽利貝塚出土動物形土製品

2024.08.27記事「伝加曽利貝塚出土動物形土製品 観察記録3Dモデル


各地遺跡のトリ形土製品

山田康弘・国立歴史民俗博物館編「縄文時代 その枠組み・文化・社会をどう捉えるか?」(2017、吉川弘文館)収録「8 縄文社会の複雑化と民族誌 高橋龍三郎」から引用

2021.10.06記事「縄文後晩期の鳥人間土偶


動物形土製品レプリカ(千歳市美々4遺跡)

2024.07.16記事「動物形土製品レプリカ(千歳市美々4遺跡)観察記録3Dモデル

トリ形動物土製品は稀に出土する土製品ですが、少なくとも関東から北海道まで分布しています。

形状はズングリムックリしていて、中が空洞で、表面に大きなまん丸の穴が1~3箇所空いています。

トリ形といっても嘴があるはずの頭部は全体に対して小さく、省略的な造形である印象を受けます。


伝加曽利貝塚出土動物形土製品の頭部

伝加曽利貝塚出土動物形土製品の頭部が、欠けているようには観察できません。観察できる出土物の頭部が完成品の頭部そのものである可能性を感じています。(目や嘴を認識できません。)あるいは一部欠けた跡が使用による磨耗で欠け跡が見えなくなったのでしょうか。

もしトリ形というならば、翼(手)は肝心かなめの部位になりますが、とても翼とは言えない小突起になっています。そして指が造形されています。伝加曽利貝塚出土動物形土製品は翼(手)が片側2つありますから、理解に苦しみます。

足があり、どれも引っ込んだ様子が表現されていて、その様子からトリが飛翔している様子を感じることができます。

2 トリ形動物土製品の例 その2


人間と動物の折衷的形態(ヒトと動物の共通の母)

山田康弘・国立歴史民俗博物館編「縄文時代 その枠組み・文化・社会をどう捉えるか?」(2017、吉川弘文館)収録「8 縄文社会の複雑化と民族誌 高橋龍三郎」から引用

2021.10.06記事「縄文後晩期の鳥人間土偶

トリ形動物土製品には乳房が造形されているので、半人半獣像とされるものが存在するようです。

現物あるいは詳しい写真や実測図をみて、できれば展示物の3Dモデルを作成して、確かに半人半獣像だという印象を自分自身で持ちたいものです。(今は資料を鵜呑みにするしかありません。)

3 トリ形動物土製品の機能に関する感想

全体の形状が中空でズングリしていることと大きく開いた丸い穴から、この土製品の本質的機能は土笛であると考えます。装飾を除くと土笛出土例と似ています。現物のレプリカをつくり、吹いてみれば、土笛であることを証明できると考えます。


土笛(伝加曽利貝塚出土動物形土製品)を吹いている想像図

片手で土笛を持ち、上の穴から息を吹き込み、下の穴を小指で押さえて音程を調節していたと考えます。


参考 土笛(縄文時代中期、箕輪町御射山遺跡)

(この例では吹く穴1つとスリットがあります。スリットを押さえて音程を調整していたと考えます。なおこの例はよく観察すると獣面が描かれています。)

2021.11.12記事「完形で出土した縄文中期土笛の観察

4 トリ形動物土製品の意味

4-1 造形

頭、胴体、手(羽)、足が観察できるので動物が造形されていることは間違いないところです。千歳市美々4遺跡出土物(レプリカ)を参考にするならば、頭はトリ(ガンカモ)で、足も水かきのあるトリで、足の様子から飛翔しています。しかし、羽のかわりに指のある短い手が付いています。このような動物は実在しません。従って、この動物はトリをモデルとした想像上の動物であると考えます。

中国新石器時代に想像上の動物(龍)が考古遺跡で貝殻絵画で出土しているので、原始時代に想像上の動物(実在しない動物)が人々の共通観念として存在していたことは否定できません。


貝殻モザイクの龍虎  仰韶文化(前5000~前3000年)後期の河南省西水坡四五号墓(和田晴吾著「古墳と埴輪」(岩波新書)から引用)

トリをモデルとしたこの想像上の動物は特定の名前を持ち、特定の神話の中で語られていたと想像します。半人半獣神話と関わるのかもしれません。

4-2 儀礼上の意義(想像)

トリをモデルとした想像上の動物が死者の魂をあの世に運ぶ神話があったと想像します。死者の魂が肉体から抜け出した後、この想像動物に運ばれて(導かれて)あの世に到達するという観念(神話)があったと想像します。


千歳市美々4遺跡出土動物形土製品と土偶を同時に観覧した時に描いた想像図

2024.07.16記事「動物形土製品レプリカ(千歳市美々4遺跡)観察記録3Dモデル

4-3 儀礼道具

神話を題材にした造形で土笛をつくり、葬送儀礼でその土笛で音楽を奏で、死者の魂をあの世に送ったのだと考えます。トリ形動物土製品は葬送儀礼道具(楽器)です。

5 伝加曽利貝塚出土動物形土製品に手(翼)が2つある意味

伝加曽利貝塚出土動物形土製品には手(翼)が片側2つあります。両側で4つありますから、解剖学的に非合理的です。この非合理は次のように考えます。

この土笛を持ちやすくするために手(翼)をわざと片側2つにしたのだと考えます。2つの手(翼)の間に親指と中指を入れると、とても持ちやすくなり、小指で下の孔を半分塞いだり離したりしてメロディーを奏でることがとても容易になります。

想像上の動物であるから、解剖学的不合理はあまり気にならないのだと思います。現代人がキューピッドや天馬に目くじらをたてないようなノリで、手(羽)を増やして、土笛を持ちやすく、演奏しやすくしたのだと思います。

6 さらなる情報収集

伝加曽利貝塚出土動物形土製品が唐突に加曽利貝塚博物館企画展「縄文時代の土偶の顔」に展示された意味(背景)を知りたくなります。それも展示は会期途中からです。いつもはこのような時は加曽利貝塚博物館にメールで情報を求めたりします。しかし、web情報で、2024年8月31日開催博物館連携講座「造形の考古学-土偶と埴輪-」で、「縄文時代の動物形土製品」(飯島 史尊(千葉市教育委員会))という講演があります。まずはこの講演を聞いて、情報収集に務めることにします。台風10号で中止にならなければよいのですが。


2024年8月27日火曜日

伝加曽利貝塚出土動物形土製品 観察記録3Dモデル

 3D model of observation records of animal-shaped clay products rumored to have been excavated from the Kasori Shell Mound


I created a 3D model of the observation records of the animal-shaped clay products rumored to have been excavated from the Kasori Shell Mound, which are exhibited at the Kasori Shell Mound Museum's special exhibition "Faces of Clay Figurines from the Jomon Period." It looks very similar to the animal-shaped clay products (Bibi 4 Site, Chitose City) for which I recently created a 3D model. I'm curious to know if I can say for sure that it's a bird.


加曽利貝塚博物館企画展「縄文時代の土偶の顔」に展示されている伝加曽利貝塚出土動物形土製品の観察記録3Dモデルを作成しました。最近3Dモデルを作成した動物形土製品(千歳市美々4遺跡)によく似ています。鳥と断言できるのか、興味が深まります。

1 伝加曽利貝塚出土動物形土製品 観察記録3Dモデル

伝加曽利貝塚出土動物形土製品 観察記録3Dモデル

「この例にみられる複数の沈線を組み合わせた渦巻き状の文様は、縄文時代晩期前葉の安行式土器に用いられるものと類似しています。」(展示説明引用)

撮影場所:加曽利貝塚博物館企画展「縄文時代の土偶の顔」

撮影月日:2024.08.27


展示の様子

ガラス面越し撮影

3DF Zephyr v7.531 processing 133 images


3Dモデルの画像


3Dモデルの動画

2 メモ

2-1 展示説明


展示説明図版


展示説明

2-2 感想

千歳市美々4遺跡の動物形土製品は水鳥の造形のように感じました。

2024.07.16記事「動物形土製品レプリカ(千歳市美々4遺跡)観察記録3Dモデル


動物形土製品レプリカ(千歳市美々4遺跡)

しかし、この土製品は羽の部分が2つの突起になっていて、その2つが1つの羽だと強弁することはあまりにも強引すぎます。この土製品がどのような動物を表現しているのか、その回答に関する思考が浮かび上がりましたので、次の記事で検討することにします。


2024年8月23日金曜日

有吉北貝塚北斜面貝層 イノシシ顎骨分布と他遺物分布との関係(メモ)

 The distribution of wild boar jawbones in the shell layer on the northern slope of the Ariyoshi Kita shell mound, and their relationship to the distribution of other remains (note)


The distribution of wild boar jawbones in the shell layer on the northern slope of the Ariyoshi Kita shell mound seems to be closely separated, interlocking with the distribution of scattered human bones near the head of the gully, and with shell ornaments in the lower reaches of the gully. I imagine this may reflect the space for ritual activities.


有吉北貝塚北斜面貝層のイノシシ顎骨分布は、ガリー谷頭部付近で散乱人骨分布と、ガリー下流部で貝製装飾品と「噛み合う」ように密着分離しているように感じられます。儀礼活動空間が反映しているかもしれないと想像します。

1 イノシシ顎骨分布と散乱人骨分布(ガリー谷頭部付近)


イノシシ顎骨分布と散乱人骨分布(ガリー谷頭部付近)

イノシシ顎骨出土が多いグリッド(2m×2m)は散乱人骨出土が少なく、逆にイノシシ顎骨出土が少ないグリッドは散乱人骨出土が多いような印象を受けます。

故人の埋葬をした場所の近くで埋葬儀礼活動を行い、その一環でイノシシを食したとすれば、埋葬場所と儀礼活動場所は区画されて隣接する可能性があるので、このような分布対応が生まれるかもしれません。

2 イノシシ顎骨分布と貝製装飾品(ガリー下流部付近)


イノシシ顎骨分布と貝製装飾品(ガリー下流部付近)


ガリー下流部から出土した貝製装飾品の例(男性リーダーが付けていたイモガイ製腰飾)千葉市立郷土博物館「千葉市出土考古資料優品展」2022.01.04撮影

イノシシ顎骨出土が多いグリッドは貝製装飾品が少なく、逆にイノシシ顎骨出土が多いグリッドは貝製装飾品が多いと言えます。「噛み合う」ように密着分離しているように観察できます。

故人の埋葬が別の場所で行われ、北斜面貝層ガリー下流部付近で祭壇を設けて埋葬儀礼活動が行われたと想定してみます。その場合、祭壇で故人の持ち物の貝製装飾品を埋納し、その祭壇前でイノシシを食する儀礼活動があったと考えてみます。そのように想定すると、祭壇位置とイノシシ食儀礼活動場所が区画隣接します。その様子が発掘におけるイノシシ顎骨グリッド分布と貝製装飾品分布に反映したのかもしれません。

3 今後の検討

グリッド(2m×2m)を使った分布では、大局観を得ることができますが、精細な分布分析はあまり意味をなしません。また現時点の情報はすべて2次元情報です。

今後遺物の精細な3D座標情報を取得して、つまり遺物の3D位置情報を原理的に㎜単位で取得して、遺物間関係を把握する予定です。


甕被葬の意義(メモ)

 The significance of burial in a jar (note)


I happened to come across a photo of the burial in a jar at the Ariyoshi Minami Kaizuka, and I couldn't stop thinking about it. So I thought long and hard about the significance of burial in a jar.

I hypothesized that the jar is a device that stops the exoskeleton of the body from becoming active after the soul of the deceased has passed on to the afterlife.


たまたま目にした有吉南貝塚甕被葬の写真から離れられなくなりました。そこでじっくりと甕被葬の意義を考えました。

故人の魂があの世に向かった後、脱殻の肉体が活動しないようにする装置が甕被であると仮説しました。

1 甕被葬人骨


甕被葬人骨 「千葉県の歴史 資料編 考古1(旧石器・縄文時代)」から引用

参考 2018.09.10記事「事例学習 有吉南貝塚

甕被葬の意義についての記述は、とても興味があるので、これまでにいろいろと資料・情報を渉猟したのですが、結局なにも見つけることはできませんでした。そのため、自分にとって「わからないこと」であり、世の中的にも「流布されている仮説はない」と考えていました。

2 千葉市史(第一巻、昭和49年)の仮説

webで検索すると千葉市史(デジタルアーカイブ、第一巻原始古代中世編、昭和49年)に次のような記述があります。

「埋葬は、そのこと自体が、死者あるいは死に対する一定の観念の現われであるが、遺体に対する種々の所作により、更にそれが明確となってくる。

 それは、埋葬に際して、遺体の頭部に甕をかぶせるとか、胸部に石を抱かせるというような所作が行われている(二―八八図左下)。

 前者は甕被り葬と呼ばれ、遺体の中でも特に頭部を意識していることがわかる。

 後者は、石抱き葬と呼ばれ、これは胸部を意識している。

 これらは、縄文時代の当時にあっても、すでに、頭部及び胸部(心臓)が、身体の中でもっとも重要であり、人間の「生」あるいは「死」というものに、もっとも深くかかわりをもっているということを意識してのことであると考えられる。

 そして、そこには、人間の生と死をつかさどる不思議な何ものかの存在=霊魂の存在ということを、すでに縄文時代人は考えていたということも考えられる。

 甕をかぶせ、石を抱かせることによって死者の霊魂をしずめ、死者の霊魂がその肉体から遊離して生者に災厄を及ぼすことを防ごうとしたと推定される。」(千葉市史から引用)

明解な結論「甕をかぶせ、石を抱かせることによって死者の霊魂をしずめ、死者の霊魂がその肉体から遊離して生者に災厄を及ぼすことを防ごうとしたと推定される。」が記述されています。

3 検討

千葉市史の結論では埋葬とは故人の霊魂と肉体が土壙や貝層中などに閉じ込められることになります。

縄文人の死生観はそうではなく、故人の霊魂はあの世に行き、肉体は埋葬され閉じ込められるということだと、自分は、考えます。

従って、自分は、千葉市史記述の矛盾を解消するストーリーとして次のように仮説します。

人が死ぬと、埋葬という儀礼を行うことにより、故人の霊魂はあの世に行き、豊かな生活を送る。残された肉体は埋葬され土中で(あるいは貝層中で)深い眠りにつく。ただし、残された肉体がなにかの弾みで動き出したり、活動したりする不慮の事故が発生することが考えられる。そのような事故が発生すると霊魂はあの世で生活できない。そこで、霊魂が離れた肉体の頭部に甕を被せて、万一頭が動き出す兆候があっても、動けないようにしたと考えます。抱石葬も同じ趣旨で、霊魂不在の肉体が活動できないようにしたのだと思います。

甕被葬や抱石葬の意義は肉体に霊魂が戻れないようにすることにあったと仮説します。


2024年8月22日木曜日

有吉北貝塚北斜面貝層 イノシシ顎骨分布

 Distribution of wild boar jawbones in the shell layer on the northern slope of the Ariyoshi Kita shell mound


A distribution map of wild boar jawbones excavated from the shell layer on the northern slope of the Ariyoshi Kita shell mound was created. There are two areas of high concentration, near the head of the gully and downstream of the gully, which may be related to the distribution of other remains. It is assumed that wild boars were preferred and eaten during ritual activities in the shell layer on the northern slope.


有吉北貝塚北斜面貝層から出土したイノシシ顎骨の分布図を作成しました。ガリー谷頭付近とガリー谷下流の2箇所に分布密集域があり、他の遺物分布と関連しそうです。北斜面貝層での儀礼活動でイノシシが好まれて食べられたと想定します。

1 有吉北貝塚北斜面貝層 イノシシ顎骨分布

有吉北貝塚北斜面貝層 イノシシ顎骨分布

データ出典:発掘調査報告書

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3Dモデルの画像


3Dモデルの動画

2 イノシシ顎骨出土状況


Ⅱ-35グリッド(発掘調査報告書から引用、カラー化)


Ⅰ-38グリッド(発掘調査報告書から引用、カラー化)


Ⅱ-53グリッド(発掘調査報告書から引用、カラー化)


Ⅱ-53グリッド(遺物分布図から引用)


Ⅱ-54グリッド(発掘調査報告書から引用、カラー化)


Ⅱ-54グリッド(遺物分布図から引用)

3 メモ

北斜面貝層から多数のイノシシ顎骨が出土していて、儀礼的活動の中でイノシシが好まれて食べられたことが想定されます。分布を見ると、ガリー谷頭部近くとガリー谷下流部の2箇所に分布密集域があり、散乱人骨密集域や装飾品密集域と分布上関連すること想定できますので、次の記事で分析します。


2024年8月21日水曜日

明治年間出土武人埴輪と昭和年間出土武人埴輪の比較対照

 Comparison of warrior haniwa excavated in the Meiji period and those excavated in the Showa period


I compared the photos of the warrior haniwa excavated from the Ningyozuka Tomb in Oyumino, Chiba City, excavated in the Meiji period with 3D models of the excavated items in the Showa period. I visually confirmed that the shapes are identical.


千葉市おゆみ野に存在した人形塚古墳から出土した武人埴輪について、明治年間出土物写真と昭和年間出土物3Dモデルを比較対照してみました。形状が瓜二つであることを目視確認しました。

1 人形塚古墳から明治年間に出土した武人埴輪

千葉市おゆみ野にかつて存在した人形塚古墳は明治年間に人形埴輪(男子腰部以下)が出土したため付けられた名前です。明治年間出土人形埴輪(男子腰部以下)は大正8年刊行「日本埴輪図集 上」に写真が掲載されています。現物は行方不明になっているようです。

国立国会図書館デジタルコレクションで検索したところ、「日本埴輪図集 上」は全頁画像でデジタル化され公開されていますので、画像を入手できました。


「日本埴輪図集 上」の「第53図 男子腰部以下 下総国千葉郡椎名村大字椎名崎」が掲載されているページ(右2葉)


「日本埴輪図集 上」の「第53図 男子腰部以下 下総国千葉郡椎名村大字椎名崎」拡大図


「日本埴輪図集 上」表紙

2 昭和年間に出土した武人埴輪

人形塚古墳は昭和61年から63年にかけて椎名崎古墳群B西側支群1号墳(人形塚古墳)として発掘され、発掘調査報告書が刊行されています。人形埴輪をはじめとする形象埴輪のほかに、150個体以上の円筒埴輪が出土しています。人物埴輪は少なくとも30体以上あったと推定されています。(発掘調査報告書(平成18年3月)による)

出土した武人埴輪を含む形象埴輪が、千葉市埋蔵文化財調査センターで開催された「千葉市出土考古資料優品展」(2022年3月)で展示されましたので、その際展示物前周回撮影により3Dモデルを作成しました。

形象埴輪5体(千葉市人形塚古墳) 観察記録3Dモデル

撮影場所:千葉市埋蔵文化財調査センター「千葉市出土考古資料優品展」

撮影月日:2022.03.07


展示の様子

ガラスショーケース越し撮影

3Dモデル写真測量ソフト 3DF Zephyr で生成 v6.010 processing 329 images


Sketchfab画面

3 明治年間出土物写真と昭和年間出土物3Dモデルの比較対照


千葉市おゆみ野人形塚古墳出土 武人埴輪の各部対照

千葉市おゆみ野人形塚古墳から出土した武人埴輪(髭の武人埴輪)について、明治年間出土物写真と昭和年間出土物3Dモデルを比較対照すると、形状は瓜二つであることを目視確認できました。

天鳥船信仰に基づき、人形塚古墳には被葬者を守る髭の武人埴輪が、本来は多数配置されていたようです。


骨角歯牙製の鏃・刃器状加工品・ヘラ状加工品・加工品の各分布

 Distribution of arrowheads, blade-like items, spatula-like items, and processed items made from bones, horns, and teeth


I created distribution maps of arrowheads, blade-like items, spatula-like items, and processed items made from bones, horns, and teeth excavated from the shell layer on the northern slope of the Ariyoshi Kita Shell Mound. These distribution maps will be used as material for a comprehensive distribution analysis of artifacts to be conducted in the future.


有吉北貝塚北斜面貝層から出土した骨角歯牙製の鏃、刃器状加工品、ヘラ状加工品、加工品の各分布図を作成しました。これらの分布図は今後行う遺物の総合的分布分析における素材とします。

1 有吉北貝塚北斜面貝層 骨角歯牙製鏃分布

有吉北貝塚北斜面貝層 骨角歯牙製鏃分布

データ出典:発掘調査報告書

3DF Zephyr v7.531でアップロード


3Dモデルの画像


骨角歯牙製鏃(発掘調査報告書から引用、印のあるものが北斜面貝層出土物)

2 有吉北貝塚北斜面貝層 骨角歯牙製刃器状加工品分布

有吉北貝塚北斜面貝層 骨角歯牙製刃器状加工品分布

データ出典:発掘調査報告書

3DF Zephyr v7.531でアップロード


3Dモデルの画像


骨角歯牙製刃器状加工品(発掘調査報告書から引用、印のあるものが北斜面貝層出土物)

3 有吉北貝塚北斜面貝層 骨角歯牙製ヘラ状加工品分布

有吉北貝塚北斜面貝層 骨角歯牙製ヘラ状加工品分布

データ出典:発掘調査報告書

3DF Zephyr v7.531でアップロード


3Dモデルの画像


骨角歯牙製ヘラ状加工品(発掘調査報告書から引用、印のあるものが北斜面貝層出土物)

4 有吉北貝塚北斜面貝層 骨角歯牙製加工品分布

有吉北貝塚北斜面貝層 骨角歯牙製加工品分布

データ出典:発掘調査報告書

3DF Zephyr v7.531でアップロード


3Dモデルの画像


骨角歯牙製加工品(発掘調査報告書から引用、印のあるものが北斜面貝層出土物)

5 各アイテムの分布及びメモ

この記事で紹介した骨角歯牙製4アイテムの分布特性は次の通りです。今後他の遺物分布と一緒に総合的分布分析を行う際の素材とします。

●骨角歯牙製鏃分布

分布の集中域はガリー谷谷頭下付近にあります。

釣針や刺突具と同じように儀礼的に壊されたと感じられる鏃が混じっています。

●骨角歯牙製刃器状加工品分布

分布の集中域はガリー谷下流にあります。

釣針や刺突具や鏃のように壊されたと感じる刃器状加工品はありません。狩猟用道具ではなく、単なる日常の生活道具だからでしょうか?

●骨角歯牙製ヘラ状加工品分布

分布はばらけていますが、ガリー谷下流に集中しています。

壊されていない品が目立ちます。狩猟用道具ではなく、日常の生活道具だからでしょうか?

●骨角歯牙製加工品分布

分布の集中域はガリー谷頭域にあります。