2020年2月16日日曜日

称名寺式土器の内外器壁デコボコ分析

縄文土器学習 347

加曽利貝塚博物館から許可をいただいて撮影・3Dモデル作成した称名寺式深鉢形土器(千葉市餅ヶ崎遺跡)の内外器壁デコボコ分析をしました。

1 分析の趣旨
器壁外面に深くかつ幅広に刻まれた沈線が器壁内面整形にどのような影響を与えているかという事実を知ろうという趣旨です。
具体的には次の記述を確かめようという趣旨です。
「沈線は何度もなぞられ、他の後期の土器に比べて幅が広く、かつ深いことが多い。そのため器壁の薄いものでは、沈線の裏の部分が盛り上がっていることがある。」(日本土器事典の称名寺式土器記述)2019.05.14記事「称名寺式土器 餅ヶ崎遺跡

2 3Dモデル切断断面による観察

称名寺式深鉢形土器(千葉市餅ヶ崎遺跡) 切断3Dモデル
撮影場所:加曽利貝塚博物館
撮影月日:2019.12.27
許可:加曽利貝塚博物館の許可により全周多視点撮影及び3Dモデル公表
3Dモデル写真測量ソフト 3DF Zephyr で生成 v4.523 processing 93 images

切断3Dモデルによる断面形を詳しく観察すると、口唇部と上部模様帯の境をなす2本の周回沈線に対応する器壁内面は凹部になっています。
一方上部模様帯と下部模様帯の境をなす2本の周回沈線に対応する器壁内面のデコボコは明瞭ではありませんが凸部であるように観察できます。

J字文(逆J字文)及び+文沈線は内面ではそれに対応するデコボコはほとんど観察できません。

3 GigaMesh Software Frameworkで作成した展開ソリッドモデルによる分析
GigaMesh Software Frameworkにより3Dモデルを展開したソリッドモデルを器壁内外面について作成し、その対応を観察しました。

GigaMesh Software Frameworkにより作成した器壁外面ソリッドモデル(左右反転)
Photoshopでデコボコを強調表示。

GigaMesh Software Frameworkにより作成した器壁内面ソリッドモデル
Photoshopでデコボコを強調表示。

上部周回2本沈線は内面では凹部周回に、下部周回2本沈線は内面では凸部周回に対応していることが観察できます。

上部周回2本沈線及び下部周回2本沈線の内面デコボコ対応

4 考察
切断3Dモデルとソリッドモデルによる分析から、この土器については次の事実を観察することができました。
ア 上部周回2本沈線は内面では凹部周回になっている。
イ 下部周回2本沈線は内面では凸部周回になっている。
ウ J字文(逆J字文)及び+文は内面デコボコとして表現されていない。
この観察事実から、この土器が次のように作成されたと考えます。
ア 上部周回2本沈線が道具で刻まれたとき、内面ではその部分が圧力により凸部になった。その後内面を平に整形するために手で周回してこすった。その際粘土が薄い部分は強い力のため逆に凹んだ。
イ 下部周回2本沈線が道具で刻まれたとき、内面のその部分は凸部になった。その後内面を手でこすって整形したが、手を深く伸ばして作業するため力の加わり方が弱く、上部のように逆に凹むほどのことは無かった。
ウ J字文(逆J字文)及び+文は、手で内面を周回してこする作業に対して沈線が直になっている部分が多く、凸部が適切に修正され平滑化した。

結論として次のように考えます。
これだけ深く広い沈線をつくると器壁が薄くなり、圧力で内面が凸部になる。
内面が各所で凸部になったのでその修正作業(平滑化作業)が必須となった。
修正作業では土器内面上部では作業しやすく、強い力で作業できるため薄い粘土が逆に凹んだ。
土器内面下部では作業しにくいため弱い力となり、薄い粘土が逆に凹むほどのことは無かった。

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